なぜ日本では、GoogleやAppleのような勢いある企業が生まれないのか。投資家の藤野英人さんは「原因は起業家の能力不足ではない。
日本のスタートアップが小粒のまま育たない原因は投資制度にある」という――。
※本稿は、藤野英人『「日経平均10万円」時代に備えろ』(日経ビジネス人文庫)の一部を再編集したものです。
■「時価総額100億円」足切りに違和感
期待の若手起業家が次々に現れているとはいえ、日本のスタートアップを取り囲む環境に目を向けると、実は課題が山積しています。東証が進めているグロース市場改革では、上場5年経過後に時価総額100億円未満の企業は市場から退場させるという制度が検討されています。
市場の質を高めるという問題意識自体はわかりますが、私はこの制度に対して強い違和感を持っています。それは、この制度をつくろうとしている人たちに、「会社をつくる」ことへの想像力やリスペクトが足りないからです。
自分で会社をゼロからつくったことがなく、年商1億円をつくることがどれだけ大変かという現実を知らない人たちが、「時価総額が低い会社はだめだ」「未熟な会社は退場させろ」と簡単に言ってしまうのはあまりに乱暴ではないかと思います。私は自分で会社をゼロから立ち上げた経験があるので、会社をつくることの素晴らしさも大変さも、身にしみてわかっているつもりです。
■レベルが低いのは「審査・投資する側」
だからこそ思うのですが、制度をつくる側には、まず挑戦する人へのリスペクトが必要です。しかし現実には、この改革の影響もあって証券会社の引受審査はどんどん厳しくなり、「上場はもう少し待ったほうがいい」と主幹事に言われるスタートアップが急増しています。
このような状況が続けば、上場企業数は減り、エンジェル投資家も投資しにくくなります。特に、お金も実績もまだ十分でない人たちに資金が流れなくなってしまうことを私は強く懸念しています。

今起きているのは、かなりおかしな話です。政府はスタートアップを何倍にも増やすと言っているのです。それならなぜ、東証の審査官の数を何倍にも増やしたり、引受証券会社の人員を増やしたりしようとしないのでしょうか。審査・監査・投資する側の人数も体制も変えずに、スタートアップの数だけ増やそうというのは、どう考えても矛盾しています。
グロース市場改革については、「サバンナの象を増やすためには、小さな動物を減らす必要がある」と言う人もいます。しかし、コヨーテやネズミを駆除しても象は増えません。むしろ裾野を広げて、上場企業数をもっと増やし、質の悪い会社があれば退場させればいいでしょう。
中には「日本はスタートアップのレベルが低い」という声もありますが、私が見る限り、日本の起業家は年々、確実にレベルアップしています。レベルが低いままなのは、審査や投資をする側です。
■企業の成長を妨げている「真犯人」
起業家ばかりに責任を押し付けるのではなく、投資家サイドが頑張らなければならないと思うのです。
そもそも日本でGAFAMに対抗するような規模のスタートアップがなかなか現れず、最初は順調に伸びていた会社も上場が見えてくるとなぜか小粒になってしまうケースが多かったのには、明確な理由があります。日本の学校教育が悪いのでも、日本の起業家のレベルが低いのでもありません。
問題は、投資制度にあるのです。
スタートアップがIPO(新規株式公開)に至るまでには、シード、アーリー、レイターの3つのステージがあります。シードやアーリーでは、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)の支援で会社はぐっと大きくなっていきます。
ところが日本では、IPO前のレイターステージになると、急に投資家がいなくなってガス欠になることが多いのです。なぜなら、投資家がIPOを出口にして株を売ってしまうからです。これが日本のスタートアップの成長を妨げている最大のボトルネックであり、“死の谷”と呼ばれます。
■上場自体が「スーパー無理ゲー」な日本
本来ならレイターステージは、上場も近く、人材も揃い、ここから一段と大きく伸びる非常に大事な時期です。実際、アメリカでは未上場から上場後まで一貫して投資する投資家が多くいます。ところが日本では、未上場と上場の世界が完全に分断されていて、レイターステージになると資金調達が急に難しくなってしまいます。
日本のスタートアップが小粒になってしまうのは、まさにここが原因なのです。しかも日本の場合、私も上場したからわかるのですが、とにかく上場が「スーパー無理ゲー」なのです。というのも、上場が近づくと2年くらい前から「新規事業はやるな」と言われるのです。

「新規事業を始めると、上場審査の過程でちゃんとモニタリングできない。だから今は余計なことをするな」という理屈で、本来なら一番伸び盛りの時期に、新しい仕込みができない状態になってしまうわけです。そうやってようやく上場したグロース市場は、あまり冴えません。
昨今は「時価総額100億円問題」もあって、グロース市場はますますお金が集まりにくくなっています。「喉がカラカラの状態でようやく上場まで走り切って、そこにオアシスがあると思ったら、実際には砂漠だった」という世界なのです。
■ベンチャーへのリスペクトが足りてない
私は、日本のスタートアップ投資の根本的な問題は、未上場と上場の世界が分断されていることにあると思っています。未上場のときは、投資してくれるベンチャーキャピタルもある意味ではスタートアップの仲間であり、「一緒に会社を大きくしよう」と頑張ってくれます。
IPOを目指し、監査法人や証券会社ともスクラムを組み、「みんなで頑張ろう」と熱く盛り上がる雰囲気がありますし、スタートアップの祭典のようなイベントも多く、とにかく熱量がある世界です。
ところが、いざ上場承認を得て、機関投資家を訪問して成長戦略を説明する「ロードショー」がスタートすると、起業家はそのギャップに驚くことになります。目の前に現れるファンドマネージャーやアナリストたちは一様に冷たく、根掘り葉掘り質問される状態は、まるで解剖学者に「そこに寝て中身を見せろ」とでも言われているような気分になるものです。
そこには、起業家へのリスペクトもあまりありません。熱量のある祭りの世界から、一気に絶対零度の世界へ放り込まれるようなものといっていいでしょう。
この分断には制度的な背景もあります。ベンチャーキャピタルの世界は経済産業省の色が強く、上場後は金融庁のルールが前面に出てきます。そして、経産省と金融庁では、カルチャーも価値観もかなり違います。
上場株のファンドマネージャーやアナリストは、未上場の世界を「決算数字もなく、よくわからない野蛮な世界」と見ているふしがあります。一方、ベンチャーキャピタリストは、上場株の世界を「ルールが多く、規制されすぎた退屈な世界」と見ています。両者は、ほとんど交わらないのです。

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藤野 英人(ふじの・ひでと)

レオス・キャピタルワークス ファウンダー、HEVN STAGE代表取締役会長、FLOWフッシーの会主宰

1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年に独立しレオス・キャピタルワークスを創業。投資信託「ひふみ」シリーズを立ち上げ、幅広い個人投資家に支持されるファンドへと成長させた。2026年に同社代表取締役を退任。同年、アニメーション作品の企画・制作やコンテンツIPの企画開発等を手掛けるHEVN STAGEを創業。
教育にも注力しており、東京理科大学上席特任教授、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授、東京科学大学客員教授も務める。著書に『>投資家みたいに生きろ[増補版]』(日経ビジネス人文庫)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)などがある。

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(レオス・キャピタルワークス ファウンダー、HEVN STAGE代表取締役会長、FLOWフッシーの会主宰 藤野 英人)
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