■食品や天然成分が安心とは限らない
「薬は副作用が怖いけど、サプリメントは食品だから安全」「健康食品は、天然成分だから体にやさしいはずだ」……そんなふうに考えて、日頃からサプリメントや健康食品を積極的に利用している人は少なくないでしょう。
ところが、医学的には「食品だから安全」「天然成分だから体にやさしい」とは言えません。たしかにサプリメントや健康食品は多くの場合、目立った害を起こしませんが、害を起こすこともあるのです。
私は内科医であり、肝臓を専門としてきたため、健康食品が原因と考えられる「薬剤性肝障害」を診療する機会が少なくありませんでした。薬や健康食品に含まれる成分そのものや、肝臓で代謝されてできた物質が肝細胞を傷つけたり、体質によっては免疫反応が関係して肝障害を起こしたりします。そのため、同じ量の同じ健康食品を摂取しても、肝障害を起こす人と起こさない人がいます。
軽い薬剤性肝障害は自覚症状がまったくなく、健康診断などの血液検査で「AST」や「ALT」などの肝機能異常を指摘されて初めてわかることもあります。症状が出る場合は、だるさ、食欲不振、吐き気などがみられ、重くなると皮膚や白目が黄色くなる黄疸(おうだん)といった症状が現れます。まれではありますが、重症化して肝不全に至ることもあります。
■肝障害の報告が多いサプリメントの名前
「食品なのに薬剤?」と思われるかもしれません。
内科医は、こうした肝障害を診るとき、必ず患者さんが普段飲んでいる薬などについて尋ねます。ただ、患者さん側は、処方薬や市販薬については話しても、健康食品やサプリメントについては医師に話さないことがほとんどです。医師が具体的に「健康食品やサプリメントを摂取していますか?」と尋ねて初めて「○○のサプリと、△△を煎じたお茶を毎日飲んでいます」と話されることはめずらしくありません。これが診断の「落とし穴」になります。
サプリメントや健康食品のほかに肝障害を説明できる原因が何も見当たらず、それらの摂取をいったん中止しただけで肝機能が改善すれば、「健康食品による肝障害だった」と考えられます。
このように健康食品による肝障害の多くは、摂取を中止することで自然に回復します。しかし、まれに急性肝不全へ進行し、肝移植が必要になったり、死亡したりした症例も報告されています。重症化する患者さんの多くは、もともと肝硬変やがんなど基礎疾患を抱えています。
■「効果」だけがある健康食品はない
肝障害以外にも、健康食品やサプリメントには医薬品と同様に、腎障害をはじめとするさまざまな臓器障害のリスクがあることが報告されています。また、アレルギー反応が起こることもあり、じんましんなどの軽い症状にとどまらず、まれに呼吸困難やショックといった重篤な症状に至ることもあるのです。
もちろん、持病のある人では、健康な人なら問題にならない成分が思わぬ害をもたらすことも。たとえば、腎機能が低下した人がカリウムを多く含む青汁を大量に摂取し、重い高カリウム血症を起こして救急搬送された症例が報告されています。他の薬の作用を強めたり弱めたりする「相互作用」による悪影響が生じることもあります。
そもそも、体に何らかの作用を及ぼすことを期待して摂取する以上、「効果はあるが、副作用はまったくない」と考えるのは無理があるでしょう。作用があるものには、望ましくない作用が生じる可能性もあります。これは医薬品だけでなく、健康食品やサプリメントについても同じです。
■治療の妨げになるという多大なリスク
さらに健康食品やサプリメントには、病気治療の妨げになる恐れもあります。
以前、肺がんの患者さんが新しい分子標的薬による治療を開始したところ、白血球数が減少しました。
白血球減少の原因は、分子標的薬かもしれませんし、健康食品かもしれません。両者の相互作用や、まったく別の原因がある可能性も否定できません。そこで患者さんと相談し、分子標的薬と健康食品の両方をいったん中止しました。すると、白血球数が回復したのです。その後、治療に必要な分子標的薬だけを再開したところ、以降は白血球の減少を認めませんでした。
もちろん、この経過だけでは、健康食品が原因だと断定することはできません。しかし、がんへの有効性が証明されていない健康食品を、副作用の危険を冒してまで続ける理由は乏しいと私は考えます。もしもこのときに健康食品の存在に気づけず、白血球減少を分子標的薬のせいにしていたら、どうなっていたでしょう。有効な治療薬を「副作用で使えない」と判断し、薬の減量や中止を余儀なくされ、その間にがんが進行していた恐れがあります。
■製造過程に問題があった「紅麹サプリ」
また、サプリメントによる健康被害は、成分そのものだけでなく、製造過程に問題があって起こることもあるので注意が必要です。
この事実を社会に強く印象づけたのが、2024年に発覚した小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害でした。紅麹サプリメントを摂取した人に腎障害が相次ぎ、死亡例も報告され、大きな社会問題となりました。
その後の調査によると、紅麹サプリメントの製造工程で青カビが混入し、この青カビがコメ由来の培地を栄養源として産生した「プベルル酸」という物質が原料を汚染していたことが明らかになりました。現在では、プベルル酸が健康被害の主要な原因と考えられています。紅麹そのものが問題だったのではなく、製造管理上の偶発的な事故によって、想定外の有害物質が混入したことが本質だったのです。
小林製薬のような国内大手メーカーで、製造工程に由来する大規模な健康被害が起きることは、そう頻繁にあるとは思いません。しかし、海外から個人輸入したダイエット用・強壮用の健康食品から、表示されていない医薬品成分が検出され、健康被害につながった事例はたびたび報告されています。
■医薬品にも副作用はあるけれど
もしかしたら「薬にも副作用があるのに」と思われるかもしれません。それは、その通りです。実際、肝障害や腎障害を起こす頻度や重症度は、健康食品より医薬品のほうが大きい場合もあります。それでも医師が必要に応じて医薬品を処方し、健康食品には慎重な姿勢をとるのは、利益とリスクの両方がどこまで分かっているかが大きく違うからです。
医薬品は、臨床試験で有効性と安全性を評価したうえで承認されます。
一方、健康食品の多くは、臨床試験で有効性が確かめられているわけではありません。そもそも、効果があるかどうかもわからないのです。そして、副作用の頻度や他の薬との相互作用についても十分な情報がありません。
つまり、医薬品は「この程度の利益が期待でき、その代わりにこの程度のリスクがある」と見積もったうえで使用できます。一方、健康食品では、利益もリスクも十分に分からないまま摂取していることが少なくないのです。効果が証明された医薬品に副作用があることと、効果がはっきりしない健康食品に未知の副作用があることは、同じ土俵で比べるべきではありません。
■サプリメントとどう付き合うべきか
だからといって、すべてのサプリメントを否定するつもりはありません。例えば、妊活中の女性に葉酸、厳格な菜食を続けていて貧血のリスクがある人にビタミンB12、日光を浴びる機会が少ない人にビタミンDなど、一部の人に特定の栄養素を補うことがすすめられる場合もあります。ただし、こうした推奨は「誰の健康にもよいから」ではなく、対象者や目的、摂取量について医学的な根拠があって初めて成り立つものです。
一方、「なんとなく健康によさそうだから」「天然だから安全そうだから」という理由で、サプリメントを漫然と飲み続けることはおすすめできません。
サプリメントを利用するなら、まず商品名や成分を把握し、いくつもの製品を同時に始めないことが大切です。
肝臓や腎臓は、症状が出にくいまま静かに傷んでいく臓器です。だからこそ、体調の変化に気づいたら早めに医療者に伝えることが、何より確実な自衛策になります。サプリメントとの付き合い方を見直す一歩は、まず「自分は何を、どれだけ飲んでいるか」を書き出してみることから始まるのかもしれません。
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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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(内科医 名取 宏)

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