仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。
今回取り上げるのはマーカス・デュ・ソートイ著、大野和基聞き手・訳『世界のエリートが学んでいる数学的思考法』(SB新書)――。
■イントロダクション
数学に苦手意識を抱くビジネスパーソンは少なくない。小中学生へのアンケートでも苦手科目のトップに算数・数学が入ることが多い。
一方で、OECDによる国際学力調査PISA(2022年)では全参加国・地域中、日本の数学的リテラシーは5位と高い水準にある。もっと数学に親しめるようにならないものだろうか。
本書では、イギリスのオックスフォード大学で教鞭をとる数学の教授が、数式や計算を用いずに数学的に物事を考える「数学的思考」のプロセスを解説。選挙や宝くじ、ダイエットなど日常生活に身近なエピソードを取り上げ、数学的思考を活用することで最適な判断ができるようになったり、リターンが最大化あるいはリスクが最小化したりする例を伝えている。
なおダイジェストでは「統計」「微積分」の箇所を取り上げた。
著者のマーカス・デュ・ソートイ氏はオックスフォード大学数学研究所教授。「科学啓蒙のためのシモニー教授職」を務める。英国王立協会フェロー。聞き手・訳者の大野和基氏はコーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、現地でジャーナリストの道に進む。
アメリカの最新事情に精通している。
第1章 【統計】選挙速報はなぜ、開票率0%でも「当確」を出せるのか

第2章 【ゲーム理論】ネットオークションで欲しいものを必ずゲットする方法

第3章 【確率論】宝くじで億万長者になる方法

第4章 【リスク分析】投資家は、金融投資のリスクをどのように評価しているのか

第5章 【論理的推論】接待や会食に適した店をどう選ぶか

第6章 【微積分】ダイエットで、適切な摂取カロリー量をどう計算するか

第7章 【最適化】旅行のルートをどうやって最短にするか

■人生に役立つ「本物の数学」
数学という学問は不確実性に満ち溢れています。数千年にわたる研究にもかかわらず、未だに多くの謎に包まれていますし、必ずしも問いに対する答えが存在する学問ではありません。そして、私たちが生活するこの社会においても経済や国際情勢などの先行きが不安定化し、将来を見通すことが難しくなっています。
こうした現代にこそ、数学を使って考える力が求められています。不確実性に向きあってきた数学的なツールの力を借りることで、皆さんが現代社会を生き抜くための力を身につけることができます。私がオックスフォードで教えている「考える」ための数学には正解が存在しないため、どのように考えたかという過程が最も重要になります。このような数学こそが、皆さんの人生に役立つ本物の数学なのです。
「考える」ための数学を身につけることで、皆さんにとってどのようなメリットがあるのでしょうか? 一つは、常に最適な選択ができるようになることです。大きな決断を迫られている場面で、それによって得られるリターンが最大となり、かつ、リスクが最小となるような、最も適切な判断を下すための力が身につきます。なんとなくの判断に従って大失敗することがなくなるでしょう。
■世論調査は、なぜ結果を予測できるか
イギリスも日本もそうですが、まともな民主主義国家であれば、地方選挙や国政選挙が定期的に行われます。
その際のニュースなどでは、まだ開票が十分に進んでいないにもかかわらず、各候補者の当選や落選が報じられます。どうしてそんなことが可能なのでしょうか。
人々がどのように投票するかを選挙前に知りたい場合、一つの方法は、すべての有権者に質問することです。もちろん、人々が必ずしも真実を語るわけではないという事実は、世論調査を行うにあたって考慮しなければならない要素の一つです。そして、すでに皆さんがお気づきの通り、それはあまりにも非効率的です。これは選挙当日に行われる出口調査であっても同じことです。
そこで登場するのが統計学です。統計学を理解するうえで重要なポイントの一つは、「ある推論を行うために、どれだけのデータを集める必要があるか」を把握することです。どれほどの量のデータをサンプルとして採取するかは、多くの場合、誤差の許容度、つまり間違いを犯す許容度に左右されます。
データの統計分析を行う際は、(*基準となる誤差の許容度は)サンプルとして選ばれたいくつかのデータが示す値が、そのサンプルの元となっている母集団全体の真の値から5%以内の誤差に収まっているというものです。つまり、この基準内では、20回の世論調査を行ったうちの1回は間違った結果となり、(*正しい19回は)最大で5%の誤差が生じることになります。
■小規模なサンプルから予測ができる
読者の皆さんの中には「20回のうち1回という基準では、あまりにも間違いが多すぎる」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、科学的有意性(偶然に起こったのではなく、統計学的に意味がある)という点で、この基準が広く採用されています。
さて、子どもの頃の私には、とてもお気に入りのCMがありました。そのCMでは、10匹の猫のうち8匹がある特定のキャットフードを好むとされていました。しかし、イギリスに生息する約700万匹の猫の中で10匹というのは極めて少ない数です。では、具体的に何匹の猫の好みを知れば、「10匹の猫のうち8匹が特定のキャットフードを好む」と言えるのでしょうか。
実は、約700万匹の猫の個体群を母集団として、そのうえで約250匹の猫に尋ねれば十分であることが(*統計学の計算式によって)判明します。これは驚くほど小さい数字だと、私は思います。
ですから、選挙前に「これは1000人を対象とした世論調査です」と書いてあるのを見かけて、「でも、私は人口5000万人の国に住んでいるのに、それで一体どのような示唆が得られるの?」と思うかもしれません。しかし、これこそが数学が秘める底力なのです。一見すると小規模なサンプルから、これから実際に起こることについての正確な予測を行うことができます。
■車の「特定の瞬間の速度」を知るには
何かが線形に変化している場合、私たちの直感が理解を助けてくれるかもしれません。しかし、扱う対象が非線形的に変化している場合には、それを理解することが格段に難しくなります。

非線形的な変化の典型的な例は、自動車の速度の変化に関するものです。移動距離と所要時間をグラフにする(*移動距離を縦軸に、所要時間を横軸にとる)と、移動中のある時点での速度はどれくらいになるでしょうか。
移動距離が時間の単純な倍数である場合、つまり線形関数を示す場合にはグラフは直線になり、速度は単にグラフの傾きと一致します。しかし、道を走る車が加速していく様子を想像するとどうでしょうか。時間ごとに走行する距離が長くなるため、距離と時間を示すグラフはもはや直線ではなく、上向きのカーブを描きます。
でも、運転中のある時点での速度をどうやって確認すればいいのでしょうか。速度は距離を時間で割ったものなので、3秒目から4秒目までの距離を測って、どれくらい進んだかを確認することができます。しかし、これは実際には平均速度に過ぎません。その1秒間に進んだ距離だけを見ても、それはその1秒間の平均速度に過ぎず、特定の瞬間の速度を示しているとは言えません。そこで、改めて0.1秒間の平均速度を計算してみますが、それでも平均速度であることには変わりありません。
■微積分が役立つ場面
したがって、常に変化する速度を正確に得るためには、最終的にはゼロの時間を取り、その時点での移動距離もゼロにする必要があります。一見するとばかげているようではありますが、微積分が役立つ瞬間でもあります。
微積分(*ここでは微分)は、特定の時点での速度を計算する方法を私たちに教えてくれるのです。すなわち、グラフ上の任意の点における曲線の勾配、傾きが理解できるようになるのです。
かの有名なニュートンとライプニッツは、時間の幅をどんどん狭めていくと、速度は徐々に特定の値に収束していくことを理解していました。そこで、彼らは、手間のかかる計算の代わりに、特定の時間における速度を算出できるツール(*として微分)を考案しました。このように、本質的には、微積分を理解することで非線形に変化するものを自由自在に扱えるようになります。
■ダイエットに微分方程式が使える
例えばダイエットでは、日々の摂取カロリーと運動などによる消費カロリーの観点から、体重の変化率を把握する必要があります。体重の変化率は車の走行距離の変化率に似ているため、微分方程式を当てはめることができます。
運動が体重の変化率に与える影響をモデル化することも考えられます。毎日一定の歩数を歩くと、最初の数歩は全く影響がないかもしれませんが、歩数が増えるにつれて、体はより激しいカロリー消費を強いられるようになります。最初の100歩よりも終盤の100歩の方が、より多くのカロリーが消費されるようになります。これは非線形な状況です。
つまり、微積分は摂取カロリーや消費カロリー、運動量といった変数のバランスを取り、体重減少などの結果を最大化または最小化する方法であるということです。
微積分が得意とするのは、何かが最適な値に達する点を理解することであり、そこから逸脱して余計なことをするとリターンが減少することを教えてくれます。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
著者は、17世紀末に科学が飛躍したのはニュートンやライプニッツら数学者による微積分というツールの発見があったからだとし、そのインパクトは現代のAIに比すると語っている。今日私たちが当たり前に使用するAIはもちろん、インターネット技術も基盤には数学のたゆまぬ研究と革新が横たわっている。現在、数学の高度な知識を持つ人材が求められている状況があるが、学問としての由来や発展の経緯を知ることも、数学を身近に感じたり、理解していくために大切なのではないだろうか。

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