※本稿は、鏡リュウジ『占い師の正体 人はなぜ占いに惹かれるのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■マンション購入は「即決」
ところで……。
「鏡さんは、ご自身のことを占ったりされるんですか?」
「占いによって、なにか決めたりするんですか?」
今まで何度、そう聞かれたことか。
これまで述べてきたように、今、ちょっと行き詰まっているかな、などと思うと、今の星の位置をちょっと見てみたりはします。また、振り返って「そうか、あのときはこういう星だったから」と納得したりもします。でもなにか大きな決断をする際、占いに頼ることはまずありません。
マンションを買うと決めたときも即決でした。僕の“正体”を知った不動産業者から「契約や引っ越しの日取りはどうされますか? いい日付を選んだりされるんでしょうか?」と聞かれても、「あ、そういうの忘れてました。なるはやでお願いします」なんてお返事して。
僕の答えがちょっと意外だったようで、「そういうもんですかね」といわれたので、「きっと、えぇようになるようになってるから」と答えました。
■晩ご飯をタロットカードで決めることはある
ただ、どうでもいいような小さなことは、遊び感覚で、タロットカードで決めたりします。たとえば……。
「今日の晩ご飯、魚にしようかな、肉にしようかな」とか、「今日はチェーン店の安い定食にしようかな、それともちょっぴり高いランチにしようかな」とか。ガクッとずっこけて、椅子から落ちそうになる読者の様子が見えるような気がしますが。
「占い師って、どんな日常を送ってるんですか?」
これも、よく聞かれることです。「みなさんと同じような、ごく普通の日常を送っていますよ」とお答えするしかないのですが――。
ただ、僕の場合、他の人と違うのは本の量でしょうか。
住んでいるマンションの部屋は、とにかく本だらけ。仕事柄、本は欠かせないし、いまだに電子書籍は苦手なので、どんどん本が増殖してしまいます。なかには英国で入手した400年前の占星術書など、ちょっとしたお宝もあります。
■本に埋もれて暮らしている
僕は、ホロスコープでは月が牡羊座に入っています。月が牡羊座にある人は、思い立ったらすぐ動きたい、おとなしく見えても意外とせっかちで熱しやすいといわれています。実際僕は、落ち着いてなにかをすることがまったくできず、部屋の片隅で本を読んでいるうちに、そこに出てきたことを他の本で調べるため、あちらでもこちらでも本が出しっぱなし。
ときどき古本屋さんに来ていただいて、車に載せられるだけの本を引き取ってもらい、その直後はちょっとすっきりしたかなと思うのですが(というより、床に積んである本のエリアが単に減っただけ)、すぐにまた増殖して、元通りに。
たまにホテルのカフェで打ち合わせをする際に、レセプションで「チェックインはこちらです」などといわれてしまうことも。なにしろ重いボストンバッグを持っているので、宿泊客と間違われるのでしょう。
もっとも、占いを稼業にしている人が、みんな僕みたいに本に埋もれているわけではないと思います。もっとすっきりした、お洒落な部屋で暮らしている人はいくらでもいるでしょう。
まあ、そんなわけで、どうということもない日常を過ごしている次第です。
占い師だから、日々占いでいろいろ決めているとか、日々瞑想しているとか、部屋には水晶玉とかあやしげな儀式道具がいっぱい、と期待? されている方がおられたら落胆させてしまいそうですが。
■2種類の「当たり方」
本書をここまでお読みいただいた方ならお気づきかと思いますが、僕は決して占いの「ビリーバー(信奉者)」ではありません。占いは必ずしも当たるわけではない――これは僕にとって、あまりに自明のことです。
他方で矛盾するようですが、もちろん占いは「当たる」のです。そしてその「当たり方」には2種類あるように思います。
ひとつは、バカバカしい当たり方。別の言い方をすれば、ベタな当たり方をするときがあります。
たとえば、ルノルマンカードという、日本ではまだあまり紹介されていないカードがあります。これは非常にシンプルな象徴から成っていて、花束とか、十字架とか、星とか、ハートとか、手紙とか、そういう具体的なイメージばかりで構成されている。その中に「ネズミ」と「蛇」というカードがあります。どちらもあまりよい意味ではなく、ネズミは損失や消耗、蛇は敵意とか隠れたトラブルの象徴です。
あるとき、何度やってもその「ネズミ」と「蛇」が続けて出ることがあって、正直、「イヤだな」と思っていました。また誰かにイヤなことを言われるのかなと、対人関係のトラブルを想像してしまったのです。
ところが実際に起きたのは、まったく別のことでした。洗面台の下のシンクに水漏れが起きて、立て続けに今度は洗濯機も水漏れを起こしたのです。そのときは、「ああ、こういうのって続くよな」と、いわゆる故障のサイクルみたいなものとして受け止めていたのですが、修理費もそれなりにかかるので、けっこう気が重くて……。
■「笑えてしまう感じ」が占いの意義
でもあとになって、ふと気づいたのです。
ただ、こういう当たり方は、まったく予言としては役に立ちません。事前にそれを防げるわけでもないし、「そう来たか」という感じで、あとからわかるだけ。ほとんど大喜利みたいな当たり方をしてくる。
でも、だからといって無意味かというと、そうでもなくて、実際に起きているちょっとした災難や、やや悲劇的な出来事を、どこかで少し笑えるものに変えてくれる。そんな役割はある気がします。
実はその「笑えてしまう感じ」こそが、占いの意義なのではないかと思うわけです。なにかトラブルが起きると、人はどうしてもそれを重く受け止めてしまうし、自分の問題として抱え込んでしまう。
出来事そのものは変わらないけれど、それを眺める位置が変わる。占いとは、そうやって物事を少し引いて見て「笑える」ようにするための営みだといえるでしょう。
■より「深遠な当たり方」
そしてもうひとつは、より深遠な当たり方です。より無意識的・象徴的な当たり方といってもよいかもしれません。
ここ最近でとくに印象に残っているのは、臨床心理学者の東畑開人さんとの対談のときに出たカードです。今をときめく心理学者の東畑さんと対談するという素晴らしい機会を得て、彼と一緒にカードを引きました。ちなみにこの対談は『昼間のスターゲイザー 占いと心理学の対話』(集英社、2026年)という本になっています。
その際、一番インパクトのある位置に「教皇」のカードが出ました。教皇は宗教的、あるいは思想的な指導者や権威者を表します。よき導き手でもあるけれど、カードを見るとその膝元に屈している位の低い聖職者もいる。
■象徴を与えられることで解釈が広がる
同時に、それは彼自身のこれからの役割も示しているように感じられました。これからはある種の権威的な立場を彼自身が引き受けていかなければならない、ということです。教えの継承と、自立、そしてまたこれから出てくるさらに若い層との複雑な力学の展開。それは今彼が抱えているものでもあり、これからも抱え続けていくテーマでもあるように思えました。
さらにいえば、もっと文字通りの意味も重なっていました。当時、東畑さんが所属している学会でちょうど選挙が行われていた時期で、しかもその時期は、映画『教皇選挙』が話題にもなっていた。だから彼の中で、そのカードは彼をとりまいている政治(選挙)の話でもあるという感覚が強くあったようです。
こうした複数のレイヤーが、象徴的に、一枚のカードの中に同時に表れてくる。そのこと自体がとても印象的でした。
このように占いというのは、象徴が与えられることで読みが立ち上がっていく側面があります。ちょっとしたきっかけやヒントがあることで、そこから解釈が自然に広がっていくのです。東畑さんとの対談は、表向きはその内容をぼかしたものではありましたが、水面下ではそのカードの象徴する現実が、彼との間である程度共有されていたように感じます。
■自分の中のモヤモヤをはっきりさせていく
そうやって、占いの場では、ひとつの象徴にいくつもの意味が折り重なっていく。自分の中でバラバラに存在していたものが、「占い師」という他者を通じて外に出されることで結びついていきます。先の例でいえば、自分はその象徴(教皇)のもとにいる存在だと思っていたのに、やがて自分自身がその象徴(教皇)的立場を担う側になる、といったように、別々だと思っていた事象が、実はつながっていたと気づく。
だから占いとは、当たる/当たらないといったピンポイントの問題ではなく、自分の中の曖昧なものやモヤモヤしているものを、はっきりさせていくプロセスだといえるのです。
ただし、東畑さんの例はあくまで対談のなかでのデモンストレーションだったので、深いところまで突っ込んで話してはいません。ここにあげた解釈は、かなりの部分、僕の中のイメージです。もしさらに深くお話ししていたら、きっとここには書けないようなよりプライベートなことも心に浮かんでくることになったのではないかと思っています。
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鏡 リュウジ(かがみ・りゅうじ)
占星術研究家、翻訳家
1968(昭和43)年、京都府生まれ。魚座。国際基督教大学大学院修士課程修了。占星術研究家・翻訳家。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事、東京アストロロジー・スクール代表講師。主な著訳書に『占星術の文化誌』(原書房)、『タロットの秘密』(講談社)、ヒルマン『魂のコード』(朝日新聞出版)ほか。占星術への心理学的アプローチを日本に紹介して、従来の占星術のイメージを大きく塗り替えた。
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(占星術研究家、翻訳家 鏡 リュウジ)

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