■伸びしろを感じさせる子の共通点
中学受験の指導に携わるようになって、40年以上が過ぎた。その間、受験者数が増減したり、入試問題の質が変わったりと、大なり小なりの変化はあったが、いつの時代でも変わらず、多くの親から必ず聞かれる質問がある。それは、「頭のいい子の家庭では、どんな子育てをしているか」といったものだ。
けれど、子育ては「これをやっておけばうまくいく」という単純な展開にはならないし、そもそも「これをやっておけば必ず勉強ができる子になる」という因果関係も存在しない。
しかし、長年、いろいろなタイプの子供たちを見てきて感じることは、頭のいい子、またはその伸びしろがあるな、と感じる子には、ある一つの共通点があるということ。それは、自分が気になったことや不思議に思ったことをそのままにしておかない傾向があることだ。ただ、これは子供自身では維持することが難しく、まわりにいる大人たちの働きかけ、とりわけ幼少期からの親のかかわりが非常に大きく影響しているように感じる。
■「なんで空は青いの?」と聞かれたら
子供は基本、好奇心が旺盛だ。言葉が話せるようになると、「あれは何?」「なんで?」「どうして?」と質問攻めにあった経験を持つ親は多いだろう。簡単なことなら答えられるが、例えば「なんで空は青いの?」と聞かれたらどう答えるべきか頭を抱える親もいるだろう。
試しにアマゾンのAI、アレクサに聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「光の色は、波長の違いによって決まります。
より正確にすると、このような説明になる。
「光の色は、波長の違いによって決まります。空のような青い色は、短い波長の光です。地球の大気中には、細かいチリや窒素や酸素の粒がたくさん浮かんでいます。短い波長の光は、このような粒にぶつかると、様々な方向に散らばります。結果として、私たちの目には空から青い光が多く入ってきます」(※アレクサの回答を筆者が一部修正したもの)
でも、これを聞いて「ふーん、そうなんだ」と聞き入れてしまう子は、その先の学びにつながりにくい。
■受験勉強が楽しくなる子
中学受験生の学び方を大きく分けると、2つのタイプがある。一つは塾の先生が教えてくれたことをただひたすら覚え、パターンで問題を解いていく子。そういう子は、ある時期までは良い成績が取れる。
一方、「なぜ?」を大事にする子は、「波長の短い光は散らばりやすい」と聞いたときに、「波長ってなに?」「なぜ、波長の短い光は散らばりやすく、波長の長い光は散らばりにくいの?」と、次々に疑問が湧いてくる。そういう子は、塾の授業を受けるときも、「へぇ~、宇宙って不思議だなぁ~。いつも見ている空には、そんなことが起きていたのかぁ~」「だったら、こっちの現象はなんなのだろう?」「同じなのかな?」「違うのかな?」と、興味深く感じたり、自問自答したりと、常に心と頭が動いている状態になる。
つまり、自分ごととして捉えながら学んでいるということだ。そういう子にとって、受験勉強は苦行ではなく、むしろ、新しい知識をどんどん吸収できる楽しい場になっている。
■「不思議に思ったこと」を肯定する
では、子供の「なぜ?」に対して、親はどう向き合うのがよいか。
結論を先に言ってしまうと、ここに正解はない。
「なんで空は青いの?」と聞かれたら、子供の年齢に合わせて教えてあげるのもいいし、「なんでだろうね?」と一緒に不思議がってみるのもいい。「面白いことに気づいたね!」と褒めてあげてもいいし、逆に「なんでそう思ったの?」と質問してみるのもいいだろう。「一緒に調べてみようか」と図鑑を開いてみるのもいいし、「お母さんも知りたかったんだよね。
忙しくてどうしても今答えられなかったら、「ちょっと待ってね、あとで一緒に考えてみようね」と一旦保留にしたってかまわない。大事なのは、子供が不思議に思ったことを肯定してあげることだ。
親は子供よりも物知りでなければいけない。そう思い込んでいる親は少なくない。そういう親にとって、この「なぜ空は青いの?」という問いは、なかなか手強い。確かに理科の授業でそう習ったような気がするが、実際はどういうことなのかよく分からないとい人も多いだろう。もしくは、ここで親らしいところを見せてやろうと、説明しすぎてしまう人もいる。特に父親にその傾向が見られる。だが、くり返し言うが、大事なのは正解を教えることではない。
■身につけておきたい「学びの姿勢」
正解を教えれば、「へぇ~、そうなんだ」と、そのときは子供のモヤモヤが晴れるかもしれない。しかしそれでは、「なぜそうなのか」という因果関係を自分なりに納得して理解できたとまではいえない。
子供の「なぜ?」に対する応え方に正解はないが、子供の好奇心を伸ばしていきたいと考えるのなら、次の「なぜ?」を引き出すようなかかわり方を勧める。「面白いことに気づいたね」「ということは、○○もそうなのかな? それとも違うのかな」など、親が思ったこと、疑問に思ったことをそのまま子供に返せばいい。
そうやって、親子で知らないことを疑問に思ったり、新しく知ったことを面白がったりする。これこそが、生涯身につけておきたい「学びの姿勢」だ。
■「なぜ?」を大切にしてきた子は人生を楽しめる
昨今、インターネットによる情報過多な中、良い情報をキャッチしては、わが子のために良かれと、幼いときからあれこれ習い事や体験教室に通わせる家庭が増えている。子供の視野を広げるという面では有効に働くこともあるが、人は忙しい状態が続くと、心に余裕がなくなり、目の前にあるタスクをこなすだけになりがちだ。
すると、本来であれば、子供から自然に湧いてくる「あれはなに?」「なんで?」「どうして?」といった興味や疑問が生まれにくくなる。また、親自身も忙しいと、子供の「なぜ?」に向き合えなくなってしまう。それどころか、「そんなこと今聞かないの!」と邪険に扱い、「それよりも早く○○しなさい!」と、子供を急かす言葉が多くなる。これは勉強でも同じだ。中学受験においても同様で、目の前のタスクに追われるだけの勉強になっている子は、本当に多い。
■もっと深い「なぜ」がある
一方、幼い頃はよく「なぜ?」と聞いてきたのに、10歳くらいになってくると、口にする機会が減ってくることもある。これは、人に聞かなくても自分で理解できたり、自分で調べたりすることができるようになったという成長の証でもある。だが、ここでさらに「もっと深いなぜがある」ということを大人が教えてあげると、「学びに向かう姿勢」がよりしっかり育まれていく。
昨今の中学入試は、単に知識の量や処理能力を測る問題は減少し、今持っている知識と自分自身の経験を照らし合わせながら、自分の手と頭を使って考えを巡らせ、答えを探していくという思考力を求める問題へと変わってきている。こうした問題を解くときに必要となってくるのが、「なぜそうなのか」因果関係を説明できる力だ。そして、この因果関係を知る最初の一歩が、「なぜ?」という自ら湧き上がった疑問や不思議なのだ。
■大人になってからもイキイキ過ごせる
「学びに向かう姿勢」が育つと、教科の勉強だけでなく、人生のあらゆる場面でも生かされていく。まわりの大人たちを見ていると、いくつになっても毎日イキイキとした表情で過ごしている人と、なんだかつまらなそうに日々を過ごしている人がいる。両者の違いの一つは、世の中で起きていることや自然現象などに対し、自分事として捉えながら日々を過ごしているかどうかだ。
私たちが暮らす世界には、いろいろな「人」「もの」「こと」が溢れている。そして、そこにそれぞれ「なぜそうなっているのか」の理由や原因、背景がある。そこに意識が向いている人は、新しい「人」「もの」「こと」に出会うたびに、「へぇ~、そうなんだぁ~」「なるほど、そういう背景があったんだな」「だったら、どうしたらいいのだろう」と、常に自分の心の中で驚いたり、感動したり、考えたり、疑問に思ったりしている。
「なぜ空は青いの?」の素朴な疑問の先には、大きな世界が広がっているのだ。
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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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