睡眠の質を上げるには何をするといいか。医療職インテリアコーディネーターで上級睡眠健康指導士の田口里奈さんは「質のいい睡眠を得るためには、環境を整えることが重要だ。
都心部では、近くを走る車の音、電車の音などの環境音に『慣れてしまった』と感じていても、睡眠時に『騒音』となっている可能性がある」という――。
※本稿は、田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■もっとも寝やすい寝室の温度
近年、気候変動の影響により、季節の二極化が進んでいます。夏と冬の期間が長くなり、春や秋といった過ごしやすい時期が短くなっている傾向です。
数年前までは就寝中の冷暖房をつけずに過ごせていたという方でも、ここ数年は夜間の冷暖房の稼働が欠かせない状況になっているのではないでしょうか。
睡眠に最適な温度の目安として、厚生労働省「健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット」では、寝具と体の間の温度である寝床内温度は33度±1度が適切とされています(※1)。これは皮膚の表面温度と同じぐらいの温度です。
三洋電機株式会社が行った研究では、寝床内温度を32度±2度の範囲に保つことで、深睡眠の割合が増加することが報告されています(※2)。真夏や真冬にこの温度を保つには、冷暖房の使用が不可欠です。
夏の熱帯夜には冷房を一晩中つけたまま眠ることが一般的になってきましたが、冬場の暖房管理にも同じくらいの注意が必要です。
WHO(世界保健機関)が推奨する寝室の室温は18度以上ですが、日本の冬の寝室平均気温は12.8度であることを報告した調査があります(※3)。
「冬の夜は寒くて当たり前」と寒さ対策を疎かにしながら夜を過ごしてしまうと、質の高い眠りは得られにくいといえます。
私たち日本人は、環境に対して我慢しがちなのかもしれません。

※1 厚生労働省. 快眠のためのテクニック -よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係 (2026年5月12日閲覧)

※2 Okada S, Suzuki S, Fukui T, Fujiwara Y, Matsuura H, Yasuda M, Makikawa M, Iida T. Basic study for optimal control of in-bed temperature during sleep. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2005:4083–4086.

※3 Umishio W, Ikaga T, Fujino Y, Ando S, Kubo T, Nakajima Y, Hoshi T, Suzuki M, Kario K,Yoshimura T, Yoshino H, Murakami S. Disparities of indoor temperature in winter: a crosssectional analysis of the Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Indoor Air.2020;30(6):1317–1328.
■「温度」に加えて「音の環境」も大切
また、温度だけでなく湿度の管理も重要です。
睡眠に最適な湿度は、40~60%前後とされています(※4)。日本の家は特に、梅雨時期や雨の日、あるいは冬の結露などにより、湿度が高くなりやすい傾向があります。
夏の寝苦しさは温度のせいと思っている方が多いかもしれませんが、高湿度の環境も睡眠へ大いに影響しています。湿度対策も同様に大切です。
さらに、高い湿度環境は、寝苦しさを感じるだけでなく、ダニやカビが繁殖しやすい状態ともいえます。これらはハウスダストアレルギーの原因となり、くしゃみ・鼻水・皮膚のかゆみといった症状を引き起こす可能性もあります。アレルギーを発症すると、睡眠の質も低下してしまうでしょう。
そして、睡眠においては「音の環境」も大切です。
最近では、音楽や動画を流しながら寝落ちする習慣のある方も増えているかもしれません。ベッドでも気軽に楽しめる娯楽が増えたため、音が流れている状態で就寝する方は少なくないようです。

しかし、起きているときは「心地よい音」でも、就寝中には「騒音」になりえます。
■実は毎日の睡眠に悪影響を及ぼしている音
さらに都心部では、近くを走る車の音、電車の音などの環境音も睡眠時に「騒音」となっている可能性があります。WHOが推奨する寝室での音の大きさは30デシベル以下です(※5)。30デシベルとは、深夜の郊外、鉛筆での執筆音と同程度の静けさです。
毎晩のように耳元で流れっぱなしの音楽や、慣れたと感じているいつもの交通音は、目安の30デシベルを超えているかもしれません。
そしてもう1つ注意したいのが、就寝中の一時的な突発音です。突発音の場合は45デシベル以下がWHOによる目安です。
家族が眠っているときのドアの開け閉め音や、壁の照明スイッチを切り替える「カチッ」という音も、製品や操作法によっては45デシベルを超える可能性もあるので注意が必要です。
温度、湿度、音に対しては「慣れてしまった」と感じていても、実は毎日の睡眠に悪影響を及ぼしている可能性が高いです。それはつまり、環境を整えることで、あなたの睡眠の質がさらに上がる可能性もあるということです。

※4 Caddick ZA, Gregory K, Arsintescu L, Flynn-Evans EE. A review of the environmental parameters necessary for an optimal sleep environment. Build Environ. 2018 Mar;132:11-20.16

※5 World Health Organization. Guidelines for Community Noise. Geneva: World Health Organization; 1999. Chapter 4: Guideline Values.
■日本人の寒さを我慢する傾向が裏目に
質のいい睡眠を得るために最適な温度と湿度について、もう少し見ていきましょう。
広島大学が行った研究では、寝室で「寒い」と感じることが、睡眠の質を悪化させる要因であることがわかっています(※6)。


快適と感じる温度・湿度には個人差はありますが、室温17~28度、湿度40~60%が最適とされる研究報告があります(※4)。
また、寝床内(布団の内側)の理想的な温度は先述したとおり33度前後、そして理想の湿度は50%±5%とされています(※1)。
この温湿度環境が、睡眠中の体への負担が少なく、質のいい睡眠につながるとされています。夏も冬も、冷暖房や加湿除湿機をうまく活用し、理想の温度湿度環境を保つことが大切です。
世界保健機関(WHO)が推奨する居住内の気温は18度以上(※3)ですが、東京工業大学(現・東京科学大学)が行った研究では、日本の住宅の冬の平均気温は、居間:約16.8度、脱衣所:約13.0度、寝室:約12.8度という結果でした(※3)。
日本人は寒さに対して我慢強い(我慢する)傾向があるかもしれませんが、それがかえって日中の快適さや睡眠の質を低下させてしまっている可能性があります。
近年は、外の暑さや寒さの影響を受けにくく、室温を一定に保ちやすい「断熱住宅」が注目されています。断熱住宅へよく取り入れられるのが、高性能な窓ガラスや、窓サッシです。
窓ガラスは壁よりも外気温の影響を受けやすい素材のため、熱の出入りが大きい場所です。たとえば大きな窓のある部屋や、窓の数の多い部屋は、夏には暑く、冬には寒くなりやすい傾向といえます。
■断熱材のような働きをするカーテン
新築やリフォームであれば、断熱性の高い窓ガラス(複層ガラスや真空ガラスなど)や、熱を通しにくい樹脂サッシなどの導入が可能ですが、建て替え予定のない場合や、賃貸では「カーテンによる工夫」での対策がおすすめです。
①遮熱・断熱機能つきカーテン
特殊な裏地や加工によって、夏は外からの熱気を反射し、冬は室内の暖気を逃がしにくくなります。
レースカーテンでも遮熱・断熱機能つきの生地があるので、日中でもレースカーテンで対策が可能です。
②ひだの大きいカーテン
ひだ(ドレープ)が大きいカーテンは、カーテンに空気層を生み出し、これが断熱材のような働きをします。
ひだの形状は主に「フラット(ひだなし)」「1.5倍ひだ」「2倍ひだ」があります。「1.5倍ひだ」は窓幅に対して1.5倍の生地を、「2倍ひだ」は2倍の生地を使用したカーテンのため、2倍ひだのほうがボリュームがあります。
そのため、断熱性を重視する場合は、フラットより1.5倍ひだ、1.5倍ひだより2倍ひだのほうが、効果が高くなります。
ただし、フラットはすっきりとした形状なので、断熱性は重視せずカーテンの柄を見せたい場合はこちらがおすすめです。
また、ドレープカーテン以外にも「空気の層」が存在するのが「ハニカムスクリーン」です。
ハニカムスクリーンは、主に六角形の立体的な空洞構造によって空気の層を形成するスクリーンの1つで、この空気層が断熱材のような働きをします。
同じハニカムスクリーンでも、六角形のセルのサイズや、セルの数がシングルかダブルかによっても断熱の程度は異なってきます。より高い断熱効果を期待する場合は、大きめのセルサイズで、ダブルセル構造の製品を選ぶのがおすすめです。

※6 Chimed-Ochir O, Ando S, Murakami S, Kubo T, Ishimaru T, Fujino Y, Ikaga T. Perception of feeling cold in the bedroom and sleep quality. Nagoya J Med Sci. 2021;83(4):705–714.
■断熱性に加え遮光性も上がるカーテンの工夫
③床近くまでの長さのカーテン
特に冬場は冷気が下へと移動するため、丈の短いカーテンでは下から冷気が侵入しやすくなります。
腰高窓であっても、カーテン丈は床上1~2cm程度にすることで、下部からの冷気の流入はある程度抑えられるでしょう。


基本的には床上1~2cm程度の長さがおすすめですが、インテリアテイストによっては、床付スタイルもおすすめです。これは「ブレイクスタイルカーテン」と呼ばれ、エレガントでゴージャスな雰囲気のインテリアと特に相性のいいスタイルです。
④カーテンボックスの設置
カーテン上部からの空気の出入りを防ぐには、カーテンレールの上を覆う「カーテンボックス」の取りつけがおすすめです。断熱性に加え、遮光性も上がるでしょう。
ただし、カーテンボックスは壁面や天井に取りつけることになるため、基本的には賃貸での取りつけは不可能です。持ち家の新築時やリフォーム時に、カーテンレールの位置に応じて、設置を検討しましょう。
「慣れてしまった」と見過ごしがちな寝室の環境ですが、少しの工夫で大きく改善することができます。まずはできる対策から取り入れて、理想の睡眠空間をつくってみてはいかがでしょうか。

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田口 里奈(たぐち・りな)

医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士

2012年薬学部卒業後、薬剤師として薬局に勤務。10店舗以上での経験を通じ、幅広い年代の患者と向き合う中で、多くの人が睡眠に悩みを抱えている現状を知る。2016年、町田ひろ子アカデミー インテリアコーディネーターコースに入学。インテリアコーディネーター資格を取得し、卒業後は医療職と並行してインテリアコーディネーターとしてのキャリアをスタートさせる。
医療とインテリアの両分野で仕事を続ける中で、睡眠が「空間」にも大きく影響されることに着目。2021年、上級睡眠健康指導士資格を取得。現在は、エビデンスに基づく睡眠・健康知識をインテリアに落とし込んだコーディネートを中心500件以上提案。ウェブメディアを中心に、記事の執筆も多数行っている。

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(医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士 田口 里奈)
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