老後の不安を減らすにはどうすればいいか。精神科医の和田秀樹氏は「不安を抱えやすい人は、起こる可能性の低いことまで考えがちだ。
それよりも、起こる可能性が極めて高いことに対して具体的な対策を立てるほうが建設的。その意味で、85歳以上に起こる異常については知っておいたほうがよい」という――。
※本稿は、和田秀樹『落ち込まない 考えすぎない気持ちの整理術』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。
■通り魔殺人に遭う確率は驚くほど低い
「笑っている人間を叩く人はいない」ともいわれますが、100%そうかといえば、そうともいえません。
例えば、「通り魔」事件の犯人が「幸せそうな人を見ると無性に腹が立った。むしゃくしゃした」と語るのを聞いたことがあるでしょうか。
それを聞いて「笑っていると、恨まれるんじゃないか?」「通り魔に襲われないか?」と不安に思ったなら、そんな心配を振り払うには、確率で考えてみることです。
人が通り魔事件の被害に遭う確率がどの程度のものなのかを見てみましょう。警察庁が発表している「通り魔殺人事件の認知・検挙事件数」のデータによれば、2014年から2023年の認知件数の推移は以下の通りです。
2014年……8件

2015年……9件

2016年……4件

2017年……5件

2018年……7件

2019年……3件

2020年……9件

2021年……6件

2022年……4件

2023年……9件
過去10年の平均件数は、約6.4件。これは、1人の人が1年の間に遭遇する可能性は、0.00000005%程度。もし仮に100年生きたとして、一生の間に遭遇する確率は0.00005%にすぎません。

そんな気の遠くなるほどの低い確率で遭遇する出来事を不安に思うのは、意味がありません。しかし、普段ならそう思っても、通り魔事件のニュースを聞くと「自分だって被害者になる可能性も十分にあるのだ」と不安になります。
■低いリスクばかり気にしていないか
これに限らず、起きる確率の低いリスクを必要以上に恐れ、不安になってしまうことがあるものです。
今になって思えば、コロナ禍でもそのようなことが起こりました。欧米諸国に比べて、日本では感染率も死亡率も格段に低かったのに、感染を恐れる人の割合は逆に高く、不安から外出を極端に控えるようになりました。
その結果、うつ病の発症者やそれによる自殺者、ロコモティブシンドロームやサルコペニアという寝たきりや要介護につながる状態になる高齢者が増加しました。さらには、病院での受診を控えたばかりに、持病が悪化したり、がんなどの重篤な疾患が見逃されたりするケースも少なくありませんでした。
しかし、コロナに感染する確率は、インフルエンザに感染する確率より低かったのです。また、重症化しやすいといっても、それは通常は、高齢者や持病のある人の場合でした。
このように、必要以上に恐れられるリスクがある一方で、起こる確率の高い、あるいは常に考慮に入れておくべき重大なリスクに対しては、意外に無関心だったりないがしろにされたりする傾向も見られます。
■認知症は病気というより「老化現象」
確率的に高いリスクに対しては、どう向き合えばよいのでしょうか。
まず、有効なリスク回避策や予防策があるなら、とりあえずその策を講じるとリスクも不安も低減されます。

簡単にリスク回避できることばかりではありません。日常生活で多いのは「それなりの努力がいるけれど、まったく回避できないわけではない」リスクです。
高齢化が進み、健康志向もずいぶん高まりました。「○○にならない体を作る」とか「○○の予防にはこれが効く」といった情報があふれています。
中でも多いのが「がん」と「認知症」です。それもそうでしょう。高齢になるほどかかりやすくなる「がん」は、人生100年時代の今、統計上では2人に1人がかかる計算です。認知症は、85歳以上の有病率が40%を超えるといわれています。
私はかつて高齢者専門の総合病院に勤務していたことがあります。その当時、年間100例ほどの解剖が行われていました。その解剖例から、85歳以上になると例外なく、脳にアルツハイマー型の神経の変性が生じていることがわかりました。つまり、認知症は病気というよりは、誰にでも現れる老化現象です。

■「高齢になれば、がんにかかる」とする理由
これだけの高確率でがんや認知症になる以上、「自分だけは例外」と断言はできません。皆、頭のどこかで「なったら嫌だな」「なったらどうしよう」と思っています。だからこそ「認知症にならないためには」「がんにならないためには」といった本が売れ、情報があふれるわけです。
しかし、長年、予防法を実践しても、がんになる人はいますし、認知症も個人差はあれど、高齢になれば誰もが通る道です。回避策や予防法の有効性が科学的に証明されても、100%回避できることを保証するものではありません。
そうなると「どんなに気をつけていても、高齢になれば、がんにかかって当然。認知症になるほうが自然」と考えたほうがよいのです。
結局、どんなリスクもゼロにすることはできません。そのリスクが高確率で起こることなら、それを「そんなもんだ」と受け入れざるを得ないのです。それを受け入れない限りは、悩み続けるしかなくなるからです。
将来的には「がんにかかる」「認知症になる」ことを前提にして、その先のことを考えるほうが建設的であり得策です。
まず「高齢になったら、がんになるのが普通。
認知症になるのが自然」と割り切る。これが不安解消に向かうための最初のステップです。
そして次のステップは、「その先のことを考える」。つまり、がんや認知症になったら、どんなことが起き得るのか、それに対してどのような備えをしておけばよいかを考えるのです。
■リスクの対処法を考える
リスク回避と同時に、大切なのは「実際起こったらどうなるのか」を考え、さらに「起こったとき、どんな対応をするのか」まで考えることです。そして今、できることがあれば、あらかじめ準備するのです。
不安に思うことを「何がなんでも阻止しよう」とするのではなく、現実にそうなる可能性を受け入れること。そのうえで、現実になったときに起こり得る結果を想定し、その結果に対してとるべき行動を建設的に考えること。これが大事なのです。
例えば、認知症については、どんなことが自分の身に起こるのか。今現在わかっている認知症のさまざまな症状を把握することです。
症状の出方には個人差があるので、症状ごとの対応策を一つひとつ考えておくのは難しいことがわかります。
そして、どんな症状でも進行すれば、誰かに日常の世話をしてもらわなければならなくなる可能性があることもわかります。
そのときに、誰に世話をしてもらえそうか。子供がいるのなら、相談しておく。そして子供の世話になれそうになければ、介護施設に入居することを考えます。
■具体的な対応策を考えるほど不安が減る
入居する施設の目星をつけたり、費用はどのくらいか、介護保険の適用が受けられる範囲や足りない費用はどう捻出するのかなどを調べたりして、大まかに計画すれば、いざというときに自分も周りも戸惑うことなく、冷静にスムーズに対処できます。
在宅での介護を希望するなら、介護保険でどんなサービスが受けられるのかを検討したり、将来、AIつきのロボットがどこまで進歩するのかを予測したりするのもいいでしょう。ロボットが住み込みのお手伝いさんの仕事ができるなら、子どもに頼る必要もなくなるのです。
こうして考えると、漠然とした不安が具体的な不安になり、対処を考えることで、その不安は軽くなります。
リスクに対して、ただ不安に思っても、その気持ちは増幅するだけです。何かを不安に思ったなら、現状考えられる範囲で「それが現実化したときにどうするか」をセットに考えます。そうすることで、不安や恐怖に支配されずに、建設的に考えられるのです。
■備えに完璧を求めない
リスクマネジメントの本質は「備えあれば憂いなし」です。
それは完璧な備えである必要はありません。状況が変われば、臨機応変な対応が必要になります。ですから備えに完璧も、「これなら絶対大丈夫」もないのです。
例えば、がんに対する不安、心配について考えてみましょう。まず、がんになるのは自然なことと割り切る。そして、備えの一環として「早期発見のために検診を受けるようにしよう」と考えたとします。
こうして考えると、漠然とした不安が具体的な不安になり、対処を考えることで、その不安は軽くなります。
リスクに対して、ただ不安に思っても、その気持ちは増幅するだけです。何かを不安に思ったなら、現状考えられる範囲で「それが現実化したときにどうするか」をセットに考えます。そうすることで、不安や恐怖に支配されずに、建設的に考えられるのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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