相手の年齢に応じて、伝え方はどのように変えたらよいか。スピーチコンサルタントの阿部恵さんは「話す内容の本質は同じでも、聞き手が違えば、事例やエピソードも変えなければ言葉は届かない。
例えば、『変化の時代に、学び続ける力が人生を支える』というテーマで講演をする場合、相手が60歳以降の女性なら『これからの人生を快適に過ごすための知恵』として伝え、Z世代向けにはアプリやゲームなどアップデートが必要なデジタルツールを提示するといい」という――。
※本稿は、阿部恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■各界の専門家が講演会前に必ず把握すること
「あれ? この話、いつもならウケるのに、今日はなんか反応が悪いな……」
人前で話をする機会が多い人なら、こんな違和感を覚えた経験があるでしょう。
同じテーマでも、聞き手が代われば、話題や伝え方を変えなければなりません。
相手の立場や関心に合わせて、同じメッセージをどう届けるのか。リーダーの力量が問われる場面です。
国会議員の秘書時代、度々、各界の専門家を招いて講演会を企画・運営する機会がありました。その際、相手方から必ずと言っていいほど聞かれた質問があります。
「話を聞かれるのは、どういう方ですか?」
年齢層はどうか。経営者なのか、企業の管理職か、それとも若手議員が多いのか。男女の比率はどうか、業界は限定されているのか、それとも幅広いのか?
彼らは、話す前に必ず「聞き手」を把握しようとしていました。それによって、同じ専門分野の話であっても、どの視点で話したらよいのか、どういう言葉を選んだらよいのかなどが変わってくるからです。
話すテーマは同じでも、相手に合わせて切り口を変える、ということですね。
■聞き手に合わせて視点とたとえを変える
あるビジネスリーダーが「変化の時代に、学び続ける力が人生を支える」というテーマで講演を頼まれたとしましょう。話す内容の本質は同じでも、聞き手が違えば、事例やエピソードも変えなければ言葉は届きません。
たとえば、60代以降のシニア女性が多い場ではどうでしょうか。この世代に、ビジネストレンドやマーケティングの話をしても、なかなかピンとこないかもしれません。ここでは、「生活実感や人生経験に寄り添う内容」のほうが共感されるでしょう。
具体的にどんな話になるか、私ならこんなふうに始めます。
「体と同じで、頭や心も使わないと少しずつ衰えてしまいますよね。

でも、毎日少し散歩をすると足腰が元気になっていくように、新しいことを少し知るだけで、脳もちゃんと若返るんです」
このように、学びを「勉強とか努力」ではなく、「これからの人生を快適に過ごすための知恵」として伝えることで、60代以降の女性たちも、「自分の話」として受け取りやすくなるはずです。
■Z世代に「正解の押し付け」は拒否される
これがビジネスパーソン向けなら、また別のストーリーを用意する必要があります。
たとえば、仕事における成果と再現性、そして、リスクについて話してみるのはどうでしょうか。たとえば、こんな感じです。

「変化の早い時代では、学ばないこと自体が最大のリスクになります。

コロナ前に正解だったやり方が、コロナ後には通用しなくなりました。

そんな場面を多くの人が経験しているはずです。

過去の実績があるが故に、変化に気づきにくくなることもあるでしょう」
ここからAIの話に展開してもよいかもしれません。学びを単なる自己啓発ではなく、「あなたのキャリアを守る戦略」として示すことで、聞き手の集中力は一気に高まるのではないでしょうか。
さらに、Z世代向けに話すならどうでしょうか。
私も今、大学でまさにZ世代に教えていますが、正解を押しつけるような話をすると、ほぼ確実に拒否されます。
Z世代が好む「共感と選択肢」を提示してみましょう。
「アプリやゲームは、アップデートしないと使いづらくなりますよね。

これは人も同じです。

学ぶって、『選ぶことができる自分』でいるために必要なんです。

選択肢が多ければ多いほど、仮に環境が変わったとしても対応しやすくなります」
■学びを「自由度を上げるツール」として提示
いかがでしょうか?
昭和世代には「努力や根性論」が刺さりますが、Z世代にそれは通用しません。

彼らには、学びを「自由度を上げるツール」として提示することで、耳に届きやすくなるわけです。
話のテーマはどれも同じです。変えているのは「視点」と「たとえ」だけ。
相手の関心に合わせて、同じメッセージを、表現を変えて伝える。
これが、聞き手に合わせて、話の内容を変えるということです。
■専門用語、英語だらけの説明は意味不明
「聞き手に合わせて視点やたとえを変えよう」とお伝えしましたが、変えるのはそれだけではありません。相手の心をつかみたいなら「言葉づかい」も変える必要があります。
以前、中小企業の経営者の方々と話をしていたときに、こんな声を聞きました。
「IT企業の営業がセールスに来たけど、英語だらけの説明で意味不明だった」
「よさそうなサービスかもしれないけど、専門用語ばっかりで何を言っているかわからないから、あれじゃ導入できないよね」
専門用語は、どの業界にも存在します。
他業界の人と話す際に大切なのは、「自分が正しく話せているか」ではなく、「相手が理解できるかたちに、用語を変換できているか」という視点です。
たとえば、
・損益通算(赤字と黒字を相殺して、税金を軽くする仕組み)【税理士】

・監査意見(決算書が正しく作られているかを示す専門家の判断)【公認会計士】

・36協定(会社が社員に残業や休日出勤をさせるために必要な約束)【社会保険労務士】
これらの専門用語は、法律・会計・労務などの分野で国家資格を持つ専門職の方にとっては日常的に使っている言葉です。
しかし、一般の人にとってはほとんど未知の言語と言っていいでしょう。

上の( )内に記したように、わかりやすい言葉で言い換えるか、意味を補足する必要があります。ちなみに「36」は「さんじゅうろく」ではなく、「さぶろく」と読みます。これも、業界が変わればまったくわからない読み方ですよね。
■相手の理解レベルに合わせて言葉を選ぶ
ジャーナリストの池上彰さんは、わかりやすい説明とは、「難しい言葉をわかりやすく噛み砕くこと」であると言っています(『相手に「伝わる」話し方』池上彰、講談社〈現代新書〉より)。
池上さんの説明が多くの人に支持されるのは、専門用語に頼らず、相手の理解レベルに合わせて言葉を選んでいるから。本質を深く理解しているからこそなせる業です。
これは、一目置かれるリーダーも同じです。
専門知識をそのまま披露するのではなく、「この人には、どんな言葉なら届くのか」「どんなたとえなら、イメージできるのか」を考え抜いた上で話します。
専門用語は、一般用語へ。必要ならば、補足や身近なエピソードを添えるとなおよいでしょう。
これは、説明を簡単にするということではありません。相手を理解し、相手の立場に立って話すという、リーダーに求められる基本姿勢なのです。


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阿部 恵(あべ・めぐみ)

スピーチコンサルタント

元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。

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(スピーチコンサルタント 阿部 恵)
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