誰も住まなくなった実家はどう扱ったらいいのか。ファイナンシャル・プランナーの坂本綾子氏は「どんなに古くても、実家は立派な資産。
『住む』『貸す』『売る』のいずれかで活用するとよい。リアルな活用例を3つ紹介するので、参考にしてほしい」という――。
※本稿は、坂本綾子『お金のプロが実体験をもとに導く 実家じまいの最適解』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■自宅から近い実家に移り住んだ例
実例1:相続後に実家に住む(東京都、戸建て、Sさん65歳)
子育てと仕事を両立するため、両親に子どもの面倒を見てもらいながら、長年実家の近くに暮らしてきたSさん。
「実家は自宅から徒歩15分くらいのところにあります。父が先に亡くなり、自分の老後について考え始めた時期に母が亡くなり、私が実家を相続することにしました」
相続人はSさんと弟さんのふたり。弟さんは海外に住んでいるため、Sさんが代償分割(相続人のひとりが実家を相続し、他の相続人の受け取り分が少なくなり不平等になる際に、実家を相続した人が自分の資産から他の相続人に代償金を払う方法)で実家を相続し、自分の金融資産から弟さんにお金(代償金)を払いました。
母親と同居はしていなかったので小規模宅地等の特例(実家の土地の評価額が80%減額される制度。330㎡までが対象、亡くなる直前まで親と生計を一にしている等の条件がある)は使えず、相続税も納めました。
Sさん自身も持ち家に住んでいます。実家をどうするか考えた結果、自宅の方を売って実家に移り住むことにしました。
■実家を建て替え、終の住処に
「自宅は30年ほど前に中古で買った戸建てです。
だいぶ傷んできたので、ちょうど買い替えたいと思っていたところ、実家を相続することになりました。実際に相続するまではその方法は考えていなかったのですが、買い替えるのなら実家に住めばいいじゃないかと思ったんです。
自宅と実家は最寄り駅が同じで、駅に近いのは実家の方。土地の広さは倍以上あり、三方が道路に面していて道路付けもいい。実家の方が土地としての条件がよいことが決断の理由です。ただし、建物は築50年以上と古いので、解体して、建て直すことにしました」
建築費は夫の退職金や貯蓄から出して現金一括払い。バリアフリーで断熱等級6にするなど老後の生活がしやすい設計。また、敷地の一部を駐車場にして、その収入を老後の生活費の足しにする計画です。
「これまで貯めてきたお金を建築費に使うことに少し不安もあります。でも、引っ越しが終わったら自宅を売って、老後の生活資金に充てる予定です。新しい家で暮らすのは今後20年ほどになりそうですが、築20年程度の家ならそれなりの値段で売ったり貸したりできると思うので、将来、介護施設に入る資金にもできるかなと」
自分のこれからの暮らしについても考えた上での選択でした。
■実家跡地に行ったら建っていたもの
実例2:親が生前に売る(東京都、戸建て、Oさん60歳)
東京の郊外、私鉄沿線の駅から徒歩数分の場所にあったOさんの実家。
両親がふたりで暮らしていましたが、父親は病気がちで入退院を繰り返し、自宅での生活が難しくなったため老人ホームに入ることになりました。
母親をひとりで実家に残すことに不安を感じた家族で話し合った結果、Oさんの自宅に母親を呼び寄せて同居することになりました。子どもはそれぞれ家を持っているので、父親の判断で実家は売ることにしたのです。
Oさんには兄と弟がいますが、実家からいちばん近い場所に住んでいたOさんが、体調が悪い父親の代理人として実家の売却に関する様々な手続きを代行しました。
仕事で知り合った不動産会社に実家の売却について相談し、建売住宅の業者を紹介してもらったそうです。その結果はOさんの予想を上回るものでした。
「実家の土地は広いけれど形が正方形ではなく、一辺がかなり長い長方形で間口が狭く使い勝手が悪いとずっと思っていました。建物は築50年を超えていましたから、あまり高くは売れないだろうとも。ところが、想定よりも高く建売住宅の業者が買ってくれたのです。
売ってしばらくたってから、実家のあった土地に行ってみて驚きました。もともと私の実家の1軒の土地だったのに、新築の家が4軒も建てられていたのです。この土地をうまく分割するなんて、素人には考え付かないアイデアでした」
■マイホーム特例を使って節税
父親名義の居住用財産だったので、3000万円特別控除(通称・マイホーム特例。
親が生きているうちに自宅を売った場合、売却益から3000万円を差し引ける制度)を使うことで売却益はなくなり、所得税・住民税はかかりませんでした。その後、母親も亡くなり、相続財産がすべて金融資産になっていたことで遺産分割はスムーズに進みました。
「いちばん大変だったのは、家財道具の片付けです。更地にして引き渡すことになっていて、片付けが終わったのは解体工事が始まる日の朝。最後のゴミをゴミ集積所に出し終えてホッとしました」
自宅と実家はそれほど離れていなかったので、片付け業者には頼まずに、自分で何度も通って自治体の収集規定でゴミとして出せるものはゴミに、家具などは粗大ゴミとして出したそうです。
「両親はモノを捨てられないタイプで、何十年分もの書類や様々な道具が山のようにありました。両親の荷物を片付けながら、生前整理の大事さをかみしめ、自分はちゃんと片付けておこうと思いました」
■相続後に売却し、兄弟で換価分割した例
実例3:相続後に売却(福島県、戸建て、Yさん62歳)
両親が1968年(昭和43年)に買った建売住宅の実家を相続し、兄弟3人で「換価分割」(相続人のひとりが代表として不動産を相続し、売却して得たお金を相続人で分ける方法)したYさん。
「実家は鉄道の駅からは遠く、子どもの頃は不便だったけれど、近くにバイパス道路が通ってからはロードサイド店がたくさんできて便利になりました。徒歩圏内にスーパー、ドラッグストア、病院、学校、飲食店などがあり、暮らしやすい場所です。だから、多分売れるだろうと。
兄弟3人とも持ち家で実家から離れた場所にバラバラに暮らしているので換価分割にしました。といっても、相続の手続きをするまで換価分割という言葉を知りませんでしたが」
先に父親が亡くなり、その後、母親が介護施設に入ったことで、父親と母親の共有名義だった実家はしばらく空き家になっていたそうです。
父親の相続のときは、金融資産は名義を書き換えて相続人で分割しましたが、実家については何もしていませんでした。
当時は相続登記が義務ではなかったし、そもそもYさんには名義変更の認識もなかったそうです。そのため、母親が亡くなったとき、実感したのは知識不足だったと言います。
両親ともに亡くなった後、実家をどうするか、相続の手続きはどうするか、税金はどうなるのか……。
実家の売却は母親が懇意にしていた不動産会社に相談し、不動産会社から司法書士や片付け業者を紹介してもらいました。相続と税金については税務署のアドバイスが役に立ったと言います。換価分割とその方法も税務署に教えてもらいました。
■予想通り早期に買い手が見つかる
「実家を売って3分の1ずつ分けることはすぐに決まりました。悩んだのは遺産分割協議書の書き方です。換価分割のために、私が長男なので代表者として実家を相続し、経費を支払った残りを3人で分けるという文案を話し合ってまとめました」
ラインのビデオ通話を使って兄弟3人で相談し、わからないことは税務署に聞きながら進めました。
予想通り、買い手はすぐに見つかり複数の人から打診がありました。建物付きでそのまま買いたい人もいましたが、旧耐震基準であちこち増改築していて、震災で壁にヒビも入っているので安全面を考慮し、取り壊して建て直す人に売却しました。

取り壊しは買い手にしてもらうことになり、取り壊し費用を値引いた価格で売却。振り込まれた売却代金から経費を差し引いた金額を3等分して、ふたりの弟の口座に振り込みました。
■売ろうと思えば売れる場所なのに
その後の確定申告は各自で行い、Yさんはイータックスを使いました。
「数年前から、医療費控除をイータックスで申請していたので慣れていることもありイータックスを選択しました。
購入時の契約書は見つからなかったのですが、分譲時のパンフレットが残っていて、土地がいくら、建物がいくらと一戸ごとに記載されていたので買値はこれを入力。建物の減価償却は自動的に計算される仕組みで、申告はスムーズに終わりました」
相続税はかかりませんでしたが、売却益に対しては約20%の所得税・住民税が発生しました。Yさんが実家じまいを行った当時は今の「空き家の3000万円特例」のように、買い手が取り壊す形では特例が受けられなかったためです(2024年1月からはルールが緩和され、買い手による取り壊しも対象に)。
「同じ時期に分譲された近隣の住宅にチラホラ空き家を見かけます。売ろうと思えば売れる場所なのに、そのままにしておくのはもったいないなと思いますね」

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坂本 綾子(さかもと・あやこ)

ファイナンシャルプランナー

1988年よりマネー誌、女性誌にて家計管理や資産運用の取材記事を執筆。1000人以上に取材。99年ファイナンシャルプランナー資格取得。2010年ファイナンシャルプランナー坂本綾子事務所設立。
20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書に、ベストセラーとなった『節約・貯蓄・投資の前に 今さら聞けないお金の超基本』(朝日新聞出版)、『まだ間に合う! 50歳からのお金の基本』(エムディエヌコーポレーション)などがある。

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(ファイナンシャルプランナー 坂本 綾子)
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