※本稿は、川岸宏司『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■マジックナンバー「3」の法則
会議で「この件、ポイントが5つほどありまして」と切り出した瞬間、聞き手の目が泳ぎ始める。あの空気、経験ありませんか?
5つ目を話している頃には、1つ目の内容はもう消えている。真面目に全部伝えようとした結果、何1つ残らない。
私も昔、「注意点は7つ」と言っていましたし、油断すると今でも言いかけます。
そして、当然のように気づきます。
7つ伝えて3つしか残らないなら、最初から3つに絞って正確に届けたほうがいい。
ここで気づいたのは、「3」という数字の異常な居心地のよさです。
この本(『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』)を振り返ってみてください。具体の階段は3段。映像チェックは3つの質問。
偶然ではありません。意図的にやっています。
2だと足りない。「大事なことが2つ」と聞くと、「もう1つないの?」と物足りなく感じる。起承転。序破急。過去・現在・未来。3つあれば流れが生まれます。
2つでは平面だったものが、3つ目が加わった瞬間に立体になっていくのです。
■報告・提案・自己紹介で使える3つの型
「3つにまとめろ」と言われても、何をどう3つにすればいいかわからない……。
そんな人のために、私が仕事で使い回している3つの型を紹介します。
①問題解決型:現状・原因・対策 上司への報告で最も使えます。
「今こうなっていて、原因はこれで、こう対処します」
この3つが揃った報告を聞いて、不安になる上司はいません。
逆に、現状だけダラダラ説明して「で、どうするの?」と聞き返された経験があるなら、この型が抜けているということです。
②説得型:結論・理由・例 プレゼンや提案の基本形。
「私はこう考えます。理由はこうです。たとえばこんな事例があります」
結論を先に置き、理由で支え、具体例で映像を見せる。
前項(『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』)までに学んだ「具体の階段」を降りる流れと、実は同じ構造です。
③ストーリー型:過去・現在・未来 自己紹介やビジョンの共有で効きます。
「以前はこうだった。今はこう変わった。
時間軸で3つに切るだけで、話に物語が生まれます。
人は羅列を忘れますが、物語は覚えています。
■考える前に「3つあります」と宣言する
ここで1つ、実践的なトレーニングを紹介します。
何かを聞かれたら、考える前に「3つあります」と先に宣言する。
最初は苦しいです。2つはすぐ出ても、3つ目がなかなか出ません。
でもこの「3つ目を絞り出す苦しさ」こそが思考の筋トレです。
私はこれを「3の宣言」と呼んでいて、新しく入ったメンバーに必ずやらせています。「今週の成果は?」には「3つあります」、「プロジェクトのリスクは?」にも「3つあります」、「おすすめの店は?」でも「3つあります」と返す。
日常会話から始められるし、1週間も続ければ3で考える癖がつく。癖がついた頃には、会議での発言もメールの構成も、自然と3に収まるようになります。
余談ですが、先に宣言して、もし思いつかなかったときは、「……3つ目は忘れました」と言いましょう。
最後に、1つだけ。3にまとめることに抵抗がある人がいます。
「本当は5つあるのに、3つに絞ったら大事なことが抜ける」と。
気持ちはわかります。
でも、5つ全部ぶつけて1つも残らないのと、3つに絞って3つとも記憶に残るのとでは、どちらが伝わったと言えますか?
5を3にする作業は、情報を捨てることではなく、相手の脳の代わりに、自分の脳で整理することだと思います。
5つの情報を3つの箱に入れ直す行為そのものが、思考を深め、言葉を研ぎ澄ませます。自分が汗をかく分だけ、相手の脳は楽になります。
これからの会話で「3つあります」と、まず宣言してみてください。
■「偉人の名言」を武器に変える方法
悪い意味で、忘れられない経営者の講演があります。
とても話がうまい人で、聞いていて退屈しない。
ただ1つ、どうしても気になった点がありました。
それは、やたらと偉人の名言が出てくるのに、話し手自身の言葉がどこにもないこと。
ドラッカー、松下幸之助、スティーブ・ジョブズ。引用のオンパレードなのに、肝心の「で、あなたはどう思うの?」が最後まで出てきませんでした。
思い返しても、聞き終わったあとに残ったのは、名言集のダイジェストを聞かされたような虚しさだけ。
一方で、引用が抜群にうまい人もいます。私の尊敬する先輩経営者がまさにそうで、自分の主張をバシッと言ったあとに「松下幸之助も同じことを言ってるんだけど」とさりげなく添える。
聞いた側は、その人の意見に権威の裏付けが乗って「やっぱりそうか」と腹落ちします。引用が主役ではなく、脇役として機能しているわけです。
この2人の違いを見て、引用には明確な「効く使い方」と「効かない使い方」があると確信したと同時に、伝える文脈における引用の強さは、誰もが知っておくべき知識だと実感しました。
まず誤解を解いておきます。
他人の言葉を引用するのは、自分に自信がないからではありません。
私の解釈はむしろ逆です。
本を100冊読んで、その場にぴったりの一節を引っ張り出せるのは、知識ではなく「知性」です。ただし、引用だけでは温度がゼロなのは間違いありません。
自分の体温が乗って初めて、借りた言葉が自分の武器に変わります。
■同じ「任せろ」でもここまで温度が違う
ここで、3つのステップで、引用を「自分の武器」に変える手順をご紹介します。
ステップ1:自分の主張を先に置く
引用から入らない。まず「自分はこう思う」を明確にする。
主張が先、引用はあと。この順番を守るだけで「引用しっぱなし」の印象が消えます。
ステップ2:引用で裏付ける
自分の主張を補強する言葉を選ぶ。
コツは、相手が知っている人の言葉を借りること。ビジネスの場面で文学者の名言を出してもピンとこないように、畑違いの権威は権威として機能しません。
ステップ3:自分の体験で着地する
最後に、自分の経験に引き戻す。
「あの言葉を聞いてから、私は○○を変えた」「実際にやってみたら、こう変わった」と落とし込む。この着地があるだけで、引用が借り物から自分の血肉になります。
たとえば会議で「部下に仕事を任せるべきだ」と伝えたいとき。
ストレートに言うと、「皆さん、部下にもっと仕事を任せましょう」。正論です。
でも「ふーん、そうだね」で終わる。なので、3ステップに乗せてみます。
「私は、マネジメントの8割は『任せる勇気』だと思っています。経営学者のドラッカーが『人の強みを生かすことが組織の目的である』と説いていますが、私も同様に、絶対に無理だと思い込んでいた領域で、任せてみたら3倍の速度で仕上がった経験があります。恐怖はありますが、もっと『任せる、活かす』を意識してみませんか?」
同じ「任せろ」です。でも、温度がまるで違いますよね。
■引用が越えてはいけない「3本の線」
ちなみに、引用には越えてはいけない3本の線があります。いわば諸刃の剣です。
このラインを超えると、「サムい・他責・思考停止」の三重悪評価に陥ります。
1本目は、量。
1つの話に引用が2回以上出てくると、聞き手の印象は「博学だな」から「自分の意見がないな」に反転します。引用は1つの話にせいぜい1回。
もう1つ入れたくなったら、自分の言葉に翻訳し直してください。
2本目は、文脈。
相手の世界に存在しない権威を持ち出しても、「なんでその人が出てくるの?」で止まります。営業の相手には営業畑の人の言葉を。エンジニアの相手にはエンジニアが尊敬する人の言葉を。権威は「自分基準」ではなく「相手基準」で選んでください。
3本目は、思考停止。
「偉い人が言っていたから正しい」は、引用ではなく丸投げです。権威は入口であって、結論ではないし、名言で話を閉じる人は、結局他人の脳で考えていることになる。
冒頭で見た「名言オンパレード」の講演者が、まさにこれでした。
借りた言葉はきちんと返して、最後は自分の声で閉じる。
引用の極意は、主役を譲らないことです。
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川岸 宏司(かわぎし・こうじ)
DIL 共同創業者
読書と言語化が大好きな経営者。学歴なし・月収14万円から1冊の自己啓発書との出会いをきっかけに、本でビジネススキルを学ぶ。現在は、DILを含む複数の会社を経営し、各種SNS顧問・デザイン・書籍プロデュースの業務を担う。2020年開始のXでは読書術・言語化術を発信し、5年で10万フォロワーを突破。著書に『1%読書術』(KADOKAWA)、『耳を鍛えて4倍速読』(ダイヤモンド社)がある。
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(DIL 共同創業者 川岸 宏司)

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