※本稿は、阿部恵『一目置かれるリーダーの戦略的話し方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「話していないときの態度」が印象を左右
情報番組や討論番組では、出演者が話しているときに、うっかりボーッとしたり、手元のタブレットを操作したりして、まるで発言を聞いていないコメンテーターがカメラに映し出されることがあります。
そんなときに限って、出演者全員が映るフルショットとなり、慌てて姿勢を正す様子も映し出される……。
テレビ番組に出演すると、多くの人は「自分が話す場面」に意識を集中させますが、実際には、話していない時間も見られているということに、どれだけの人が気づいているでしょうか。
特に情報番組では、発言者の横に小さな画面で別の出演者の表情を映す「ワイプ」が使われます。こうした映像の演出によって、視聴者は「発言内容」だけでなく、その人の「聞く姿勢」まで自然と目にすることになります。
こう考えると、人は言葉だけで相手を判断しているわけではないことがわかります。表情、視線、姿勢といった非言語の情報から、その人の人柄などを読み取っている。
だからこそ、「話していないときの態度」が、その人の印象を大きく左右するのです。
■テレビの世界の「聞き上手」のリアクション
テレビの世界でリアクション上手として知られるのが、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏です。コメンテーターとして番組に出演しているとき、橋下氏は相手の発言の最中でも表情がよく動きます。
驚いた表情を見せたり、苦笑したり、深くうなずいたり。こうしたリアクションがあるため、カメラに抜かれたときでも、議論に参加している様子が自然に伝わります。
視聴者から見ても、「積極的に話を聞いている」という印象が残るのです。
ベテランコメンテーターの橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員)も、聞き手としての安定感が際立つタイプです。橋本氏は、派手なリアクションはありませんが、ほかの出演者が話している間も、発言者にしっかり視線を向け、うなずきながら話を聞いています。
この落ち着いた姿勢が、「聞き上手」「誠実」という印象につながり、長年にわたって視聴者から信頼される理由のひとつになっています。
逆に、冒頭でお伝えしたように、別の出演者が話している間に、無表情のまま座っていたり、視線を下に落として資料やタブレットばかり見ていたりすると、視聴者にはこう映ります。
「この人、話を聞いていないのではないか」と。
■世阿弥の「離見の見」を意識
能の理論を確立した世阿弥は、『花鏡』の中で「3つの目」について書いています。
ひとつめは「我見」。自分自身の視点。
2つめは「離見」。
3つめが「離見の見」。自分を客観的に俯瞰して見る、第三者の目線。
テレビなどのメディア出演時は、この「離見の見」が重要になります。自分が話していない時間でも、視聴者からつねに見られている。その意識を持つだけで、態度は変わるはずです。ポイントは、実にシンプルです。
・発言者に視線を向ける
・話に合わせてうなずく
・口角を上げて、柔らかい表情を保つ
これだけで、視聴者からは「この人は話を聞いている」「議論に参加している」との印象になります。メディア対応では、話しているときだけでなく、話していないときの姿まで見られていることを、どうぞお忘れなく。
■報道陣をも虜にした大谷翔平の神コメント
会見やインタビューでは、必ずしも答えやすい質問ばかりではありません。時には、厳しい言葉や、反応に困る話題を向けられることもあります。
こうした場面で、その人の器がはっきり表れます。
この点で、トップアスリートのメディア対応力、受け答えには大いに学ぶべきものがあります。
その代表格が、メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手です。
2025年10月、ブルージェイズとのワールドシリーズで敵地トロントに乗り込んだ際、スタジアムでは観客から「We don’t need you.(お前なんて必要ない)」というチャント(スポーツの試合で観客が発するかけ声や応援歌)が起こりました。
大谷選手の獲得に名乗りを上げながら、最終局面でドジャースに敗れた恨みも込めた、手厳しい歓迎ですね。
後日、この出来事について感想を求められた大谷選手は、相手を批判することも、不快感を示すこともありませんでした。
「家庭では、トロントで言われたようなチャントを言われないようにしたいなと思っています」
こう語り、笑いを誘ったのです。
敵地の挑発というネガティブな話題を、ユーモアを交えた「家庭の話」へと転換する。その場の空気は一気に和らぎ、報道陣の間にも笑いが広がりました。
否定せず、怒らず、場を明るくする方向に変えてしまう。ここに大谷選手の見事な「ポジティブ変換力」があります。
■「りくりゅう」木原選手の秀逸な返答
もうひとつ、参考になるのが、フィギュアスケートの「りくりゅう」こと三浦璃来&木原龍一ペアの木原選手です。
2026年2月、東京都内の日本記者クラブで行われた会見では、ミラノ・コルティナ五輪で金メダルを獲得した、りくりゅうペアに多くの関心が集まりました。
五輪のショートプログラムでは、りくりゅうペアにとって痛恨のミスとなるリフトの場面がありました。その場面について、後日記者から「オリンピックには魔物がいると感じたか。もし魔物がいるとすればひと言お願いします」と、なんとも答えにくい質問が飛びました。
しかし、木原選手はこれに対し、慌てる様子もなく冷静に振り返ります。
「魔物を感じたというより、オリンピックという舞台で自分たちが少し動きすぎていた」「普段より動きが速いタイミングになり、そこからリフトの軌道と回転のスピードがずれてしまった」と、技術的な理由をわかりやすく説明したのです。
さらに、こう続けました。
「魔物の正体は、調子がよすぎたことだったのかもしれません。魔物に声をかけるなら『今じゃなくていいでしょ』ですね」
そういって苦笑し、会場の笑いを誘いました。
答えにくい場面を、悔しさや言い訳に終始するのではなく、冷静な説明とユーモアで和らげる。その姿勢は、聞く側すべてに温かい印象を残しました。
■一目置かれるリーダーに必要なポジティブ変換力
大谷選手、木原選手の受け答えには、いくつかの共通点があります。
第一に、どんな言葉を向けられても、まずは受け止めること。相手の発言を否定するところから入らない姿勢です。
第二に、感情的にならないこと。どんな状況でも落ち着いて対応。
第三に、話を前向きな方向へ導くことです。ネガティブな話題を引きずらず、ポジティブに変換する。
この姿勢は、ビジネスの場でも極めて重要です。
経営者やリーダーが記者会見や説明の場に立てば、厳しい言葉を向けられることもあります。そのとき、相手を否定したり、防御的な態度を見せたりすれば、場の空気だけでなく、印象まで悪くなります。
ここで、相手の言葉を受け止め、冷静に応じ、前向きな方向へと話を導くことができれば、一気に信頼を高めることができます。
何を話すかだけでなく、どんな言葉も前向きに変換して返す。
これが、一目置かれるリーダーに必要なポジティブ変換力なのです。
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阿部 恵(あべ・めぐみ)
スピーチコンサルタント
元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。
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(スピーチコンサルタント 阿部 恵)

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