気が進まない誘いや頼まれごとは、どう断ればいいのか。ANAの元CAで研修講師の三上ナナエさんは「断るときにクッション言葉を使い自分の気持ちを先に伝えると、『再交渉の入り口』として聞こえやすくなってしまう。
控えめな人が断るには、断る順番を意識するといい」という――。
※本稿は、三上ナナエ『控えめでも存在感のある人がしていること』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■控えめな人がうまく断れない理由
仕事でもプライベートでも、何か頼まれたり、お誘いを受けたり、そんな場面があると思います。何も問題がなければいいのですが、何か理由があって受けられないとき、どのように伝えたらいいのか迷うことがあるかもしれません。
「断る」ことに苦手意識を持つのは、相手との関係や場の空気をとても大切にしている証拠です。ただ、過剰に苦手意識を持つのは禁物です。
「ここで断ったら、嫌な人だと思われないだろうか」

「期待させてしまったのに、申し訳ない」

「本当は無理だけど、断るほどの理由じゃない気がする」
そんなふうに頭の中で何度もシミュレーションを重ねているうちに、気づけば「はい」と言ってしまう。そしてあとから、疲れやモヤモヤだけが残る……。
そのような状況になるのは避けたいところです。
私自身も、断ることにずっと苦手意識を持っていました。
その場では自分なりに理由を整理し、
「今の状況では難しい」

「無理をすると中途半端になって、かえって迷惑をかける」
そうやって自分の中で折り合いをつけて断ったつもりでも、あとから必ずモヤモヤが残るのです。
「やっぱり引き受けたほうがよかったのかな」

「もう少し頑張れたんじゃないかな」

「嫌われちゃったかな……」
断った瞬間より、その後のほうがしんどい。

これは、控えめな人にとって、とても典型的な感覚ではないかと思います。不思議なのは、引き受けた場合のしんどさは事前に想像できるのに、断ったあとの心の揺れは、いつも想定外に大きいことです。
■「断ったら人間関係が壊れる」は大間違い
このモヤモヤは、判断を間違えたサインではありません。
相手の立場や気持ちまで想像できてしまう、控えめな人ならではの思考のパターンが原因です。
断ったあとに、気持ちが揺れることは前提で、その揺れを長引かせない「考え方」と「言葉」を持つこと。それだけで、断ることはずいぶんラクになります。
また、断るときに、つい過剰に謝ってしまう癖も見直してみましょう。
「断る」ことは、決して悪いことをしているわけではありません。ですから、過剰に謝りすぎないことが大切です。「できないこと」を、正直に相手に伝えているだけ。「ごめんなさい」「すみません」「申し訳ありません」を重ねすぎると、かえって「悪いことをしている」風に見えてしまうので注意が必要です。
本稿では、控えめな人が大切にしているものを壊さずに、それでも自分を守るための「断り方」の選択肢を、ひとつずつ増やしていきます。

断ることは、関係を切ることや裏切ることではありません。
ただその事柄に対して、答えを出すだけのこと。
「断り方」がしっかりしていれば、断ってもその相手との関係はちゃんと続きます。まずは、その誤解をほどくところからはじめていきましょう。
■「本当はやりたいのですが」が生む誤解
控えめな人ほど、断るときに自分の気持ちを先に伝えようとします。
「本当はやりたい気持ちはあるんですが……」

「できれば協力したいのですが……」
これはビジネスマナーとしてもよく使われるクッション言葉であり、礼儀正しい表現です。言葉そのものに問題があるわけではありません。
問題が起こりやすいのは、控えめな人がこの言い回しを使うときです。相手の反応を気にしすぎたり、断ったあとの空気を想像しすぎたとき。それを気にするあまり、表情が弱々しくなったり、声が小さくなったり、語尾がすぼんでしまうことがあります。
それが、言葉以上に「迷っている」「申し訳なさでいっぱい」という印象として前に出てしまうのです。
それを見た相手はこう受け取ります。

「断っているけど、本当はやりたいのかも」

「もう一押しすれば可能性はあるかも」

「条件を変えれば引き受けてもらえるかな」
つまりこの前置きが「再交渉の入り口」として聞こえやすくなってしまうのです。結果として、
・引き止められる

・再提案が来る

・「じゃあここだけお願い」と依頼される
と話が続いてしまい、さらに断るエネルギーを使うことになります。
言葉と裏腹にそう見えてしまうのなら、伝え方にもう少し工夫が必要です。
■「判断」の後に「気持ち」を添える
控えめな人が断る際には、「①判断」→「②気持ち」。実はこの順番が合うのです。
①判断
「検討しましたが、今回は引き受けることができません」
②気持ち
「声をかけていただき嬉しく思っています」

「お力になれず恐縮ですが、ご相談くださりありがたいです」
判断が先に来ると、声も姿勢も安定します。
最初に明確な判断を伝えることは、相手の期待を無駄に引き延ばさないという、控えめな人にとっての「誠実さ」の形と言えます。
先に結論を述べることで、あなたの意思は「交渉の余地」ではなく「確定した事実」として相手に届きやすくなるのです。そして、その後に添える感謝の言葉こそが、本来の温かい気遣いとして純粋に響くのです。
つい最初に口にしたくなる「クッション言葉」や「気持ち」は、判断のあとに伝えるよう自分に言い聞かせてみましょう。
それだけでも、行き違いのなくなる「断り方」になるでしょう。
最初は勇気がいるかもしれませんが、一度この順番を試してみてください。
無用な押し問答が減り、あなた自身も「正しく伝えられた」という安堵感に変わっていくはずですよ。
■「また誘ってください」は言うべきか
たとえば、誘いなどを断る場面、次のようなことが無意識に浮かびます。相手をがっかりさせたくない。
冷たい人だと思われたくない。
できれば場の空気を壊さずに終えたい。
その気持ちから、ついこんな言葉を添えてしまいます。
「また誘ってください」

「行きたい気持ちはあるのですが、その日はたまたま予定があって」
本当はあまり興味がない誘いでも、完全に否定するのは心苦しい。
その優しさゆえの一言です。
これらの表現は、決して間違いではありません。
むしろ、相手を思いやる気持ちがにじむ丁寧な言葉です。
ただ、控えめな弱々しい雰囲気で使ってしまうと、意図しない形で伝わってしまうことがあります。
「今回は都合が合わなかっただけなんだな」

「また次も声をかけよう」
相手が悪いわけではありません。
言葉どおり、素直に理解しているだけです。
■「気持ち」と「判断」を切り分ける
その結果、日程を変えて再び誘われたり、別の機会の話が出てきたりします。
そのたびに、また説明を考え、また気を遣う……。この繰り返しに疲れていきます。この負担を減らすために大切なのは、強くなることでも、冷たくなることでもなく、必要なのは「気持ち」と「判断」を切り分けることです。
気持ち:「誘ってもらえたことは嬉しい」

判断:「でも、参加はしない」
この2つは同時に存在していいものです。ただ曖昧にしないこと。
伝えるときには「判断」の部分を大事にします。
自分のスタンスを添えて、伝えてみるといいでしょう。
「こういった場は得意ではないので、普段参加していないんです」

「○○の集まりは少し緊張してしまうので、遠慮しますね」
これは相手を否定する言葉ではありません。自分の選択を伝えているだけ。
断ったあと、「あの言い方で大丈夫だったかな」「冷たく聞こえたかな」と心が揺れることもあるでしょう。
でも、相手の感情や受け取り方は、相手のものです。
あなたは誠実に伝えた事実まで、その先を引き受ける必要はありません。
控えめな人に必要なのは、優しさを減らすことではありません。
その優しさを、相手だけでなく自分にも向けること。
余計な一言を手放すことは、関係を断つためではなく、自分をすり減らさないための選択です。
自分の境界線を守る言葉を持つことは、控えめな人にとって、大切なコミュニケーションの力なのです。

----------

三上 ナナエ(みかみ・ななえ)

元CA・人材教育講師

新卒でOA機器販売会社に入社し、販売戦略の仕事に携わる。その後、ANAに客室乗務員として入社。チーフパーサー、グループリーダー、OJTインストラクター、客室部門方針策定メンバーを経験。ANA退社後は、研修講師として活動。著書に『仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『マンガでわかる!仕事も人間関係もうまくいく「気遣い」のキホン』『気遣いできる人は知っている! 会話のキホン』(以上すばる舎)、『ビジネストラブル脱出フレーズ80』(学研プラス)、『仕事の成果って、「報・連・相」で決まるんです。』(大和出版)などがある。

----------

(元CA・人材教育講師 三上 ナナエ)
編集部おすすめ