政権が次々と交代してきたイタリアで、ジョルジャ・メローニ首相率いる政権が9月4日、戦後最長となった。なぜ4年近くも続いているのか。
イタリア在住コラムニストのヴィズマーラ恵子さんは「イタリア政治はドロドロのエンターテインメントで、メローニ首相の戦いぶりは映画よりよっぽど面白い。州知事から大暴言を浴びてもユーモアで切り返すタフさが、国民に愛される理由だ」という。ドイツ在住作家の川口マーン惠美さんとの共著から、その一部を紹介する――。(第1回)
※本稿は、川口マーン惠美、ヴィズマーラ恵子『誠実な日本人が信じるドイツ神話にイタリア幻想』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■日本では語られないメローニ首相の素顔
【ヴィズマーラ】メローニ首相とその政権の価値については拙著『イタリアからの警告』(WAC BUNKO)で詳しく書きましたが、ここではその実態について紹介します。
イタリアの政治は、日本だと「極右がどうの」って堅苦しく語られがちですけど、現地の実態はもうドロドロのエンターテインメントなんです(笑)。特にメローニ首相の戦いぶりなんて、映画よりよっぽど面白い! いくつか強烈なエピソードを紹介します。
まず、イタリアでは国のトップのプライベートも容赦なく晒されます。メローニ首相のパートナー(娘の父親)だったアンドレア・ジャンブルーノ氏は民放のTV司会者だったのですが、裏で女性出演者を卑猥(ひわい)な言葉で口説いていた会話を、なんと「音声さん」に拾われて「生放送」で流されてしまったのです。
これを知ったメローニ首相は、即座にSNSで「この人とは、終わらせます」とスピード破局を宣言しました。
さらに泥沼なのはその後です。この元パートナーが、なんと連立与党「同盟(レーガ)党」の有力議員アンドレア・クリッパ氏の「元交際相手」で、元女優のフェデリーカ・ビアンコさんと交際を始めたと報じられました。

■ローマ教皇を使って主張を正当化
メローニ首相が外交で忙しく飛び回っている時に娘を彼に預けたら、自分の娘がその「新しい女」と楽しそうにしている姿をパパラッチされてしまったのです。
これに激怒したんでしょうね、「私のお腹を痛めた娘を、あの女に面倒を見させるなんて冗談じゃない!」とばかりに、学校を休ませてまで娘を海外出張に連れ回すようになったのです。全部バラしてしまうメディアもすごいですけど、彼女の行動力も凄まじい。
フランスのマクロン大統領との関係は複雑です。実は、2023年5月の広島G7サミットで、G7首脳たちは「安全で合法的な中絶へのアクセス」を含む包括的な性と生殖に関する健康と権利(SRHR)への完全なコミットメントという文言を宣言書に記載して合意していました。
ところが、2024年6月にイタリアがG7議長国を務めたプーリア・サミットで、メローニ首相はその重要な合意内容のうち「中絶」に関する具体的な文言を削除してしまったのです。フランスのマクロン大統領とカナダのトルドー首相は「前年の合意を無視するのか」と強く抗議しました。
するとメローニ首相は、なんと、削除を正当化するために、サミット史上初めて「ローマ教皇」をゲストに呼んだのです。
ご承知の通り、カトリックは中絶に断固反対しています。だからこれは「教皇に直接語らせて全員を黙らせる」というメローニ首相の力技です。
晩餐会でメローニ首相がマクロン大統領を「ギッ」と睨みつけている写真が世界中に拡散されましたが、裏にはそんな大喧嘩があったわけです。
■イタリア国民が爆笑した「放送禁止用語」
フランスで暴動が起きた時も、メローニ首相がSNSで「追悼」を出すと、マクロン大統領が「右翼はポピュリズムを掲げて、すぐ他国の内政に口を出す」と皮肉るなど、とにかくお互い聞く耳を持たないレベルで嫌い合っています。

極めつけは、南イタリアの州知事とのバトルです。南部のナポリなどは、夏だけ働いて冬は失業保険で暮らすような、補助金依存の生活が定着していました。メローニ首相がこのバラ撒き(ベーシックインカム)を打ち切ったところ、怒ったカンパニア州の知事がローマの首相官邸に乗り込んでいったのですが門前払いを食らいます。
怒った知事は、腹いせにカメラの前でメローニ首相に向かって「お前が働け、この雌豚(ストロンツァ)が!」と大暴言を吐きました。TVなら「ピー音」が入るレベルの最悪の放送禁止用語です。実際、イタリアのメディアはピー音は入るもののこの大暴言の様子をすべて公開するのですからすごいです。
でも、メローニ首相は言われっ放しではすませませんでした。後日、治安悪化が問題になっていた南部の町へ政府視察に乗り込んだ際、出迎えたその州知事の顔をギロリと睨みつけながらこう挨拶したのです。
「私は『雌豚のメローニ』です。よろしく」
これにはイタリア国民も大爆笑ですよ! ニュースでもこの場面だけが何度も切り抜かれて放送されました。
海外メディアの的外れな批判なんてどこ吹く風、この圧倒的なタフさとユーモアがあるからこそ、彼女は国民から愛され、安定した長期政権を築けているのです。
■原爆ドームで涙したメローニ首相への猛批判
【川口】信じられない! ドイツでは最近、国民がSNSで政治家の悪口を書くと、民主主義防衛を掲げるNGOなどに通告され、侮辱罪や、ひどい時には国民扇動罪などで訴えられて有罪になるのですから。

【ヴィズマーラ】2023年5月の広島G7の時、日本ではメローニ首相が原爆ドームで涙を流したとか、すごく好感をもって報じられていましたよね。でも、イタリア国内では真逆で、ボロクソに叩かれていたのです。
実はあの時、イタリアのボローニャで大洪水が起きて、街中が水没して死者も出るような大惨事になっていました。それなのにメローニ首相が日本でピンクのアルマーニを着て、岸田首相とニコニコ笑って楽しそうにしている写真が出回ったものだから、国民がブチギレたのです。
「早く帰ってこい! お前が握るべきなのはゼレンスキーの手じゃない、泥かき用のスコップだ!」など、X(旧Twitter)で猛批判されたのです。
それで彼女、予定を急遽切り上げて帰国したのですけれど、ここから政敵とのバチバチの戦いが始まります。というのも、ボローニャという都市は、もうガッチガチの共産党、左派の牙城だからです。
■被害が甚大なのに支援を拒んだ左派の言い分
メローニ首相は帰国後すぐに泥水の中にズボッと足を突っ込んで視察して回り、「すぐに補助金を出します!」と政府からの支援を約束しました。
ところが、現地の左派のセンター長たちは、こともあろうに「ここは左派の街だから、右派のお前たちの党からのお金じゃなくて、左派の議員をつけて(通して)金を出せ!」と猛反対したのです。街中が泥だらけで大変な大惨事の真っ只中で、「右の議員だ、左の議員だ」なんてごたごた言ってる場合ではないのに。
本当に左派は頭が硬くて、臨機応変な対応ができない。国がお金を出して助けてやると言っているのに、まずは「こんだけ被害が出てるのに日本でニコニコ笑っていやがって!」とメローニ批判から入る。
日本では感動的な首相像として報じられていた裏で、イタリアではこんなドロドロの政争と、文字通り「泥かき」を巡るすさまじい戦いが繰り広げられていたのです。
【川口】私もそのことはよく覚えています。メローニ首相の権力が今ほど固まっていない時期のことだったので、これがメローニ政権の命取りになるのではないかと本気で心配しました。ドイツメディアは、なぜかそれについては一切何も言いませんでしたが。
■「悪者役」としてメローニに尽くす副首相
【ヴィズマーラ】意外かもしれませんが、イタリアのメローニ首相自身は、他国の政党への批判や過激な発言をほとんど口にしません。では誰がその役割を担っているかというと、連立を組む「同盟」の党首、マッテオ・サルヴィーニ副首相です。
EU周辺で「極右だ!」と騒がれるような過激なアピールが必要になると、メローニ首相はまるで「じゃあサルヴィーニさん、出番ですよ」と言わんばかりに彼を前面に送り出す。するとサルヴィーニ副首相が期待通りに登場し、「フランスのルペン(国民連合)頑張れ!」などと堂々と言ってのけるのです。
本来、国のトップ層にある者としては控えるべき発言ですが、彼はあえて「過激派」だったり「悪役」のポジションを自ら買って出ています。
アメリカ大統領選の際には、トランプ氏の顔がプリントされたTシャツを着て登場したり、執務室に「トランプ支持」のTシャツを飾ったりするなど、その支持ぶりを隠そうともしません。メローニ首相はそれを横目で見ながら、「まあまあ、彼は(別の政党である)『同盟』の人ですから……」と、どこ吹く風。
しかし実は、サルヴィーニ副首相が自ら一歩踏み込み、批判を一身に浴びる「悪者役」をすべて引き受けてくれている。
この連立政権内における見事な「アメとムチ」の役割分担があるからこそ、国際社会の批判をうまくかわしながら、強固な政権を維持できているのです。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)

作家

日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科卒業。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。2026年には、第46回エネルギーフォーラム賞にて『原子力はいる? いらない? 原発大国フランスと脱原発ドイツ』(ワニブックス、山口昌子との共著)が優秀賞を受賞。

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ヴィズマーラ 恵子(ヴィズマーラ・けいこ)

翻訳者・コラムニスト

福岡県出身。日本茶舗「MATCHA STORE」代表取締役。中学校の美術科教師を経て2000年にイタリアへ渡り、フィレンツェ留学後ミラノに移住。ミラノ郊外にて抹茶ストアと日本茶舗とスーパーカー並行輸出コンサル会社を経営する。在イタリア邦人の視点で現地から生の声を綴る。
文化放送「おはよう寺ちゃん」コメンテーター。著書に『イタリアからの警告』(ワック)。

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(作家 川口 マーン 惠美、翻訳者・コラムニスト ヴィズマーラ 恵子)
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