肝臓の健康維持に常飲するべき飲料は何か。肝臓外科医の尾形哲さんは「私自身、長時間の手術後の疲れた体によかれと思い500mlを一気に飲み干していた飲料があるが、それこそが、肥満・脂肪肝の最大の原因になっていた」という――。

※本稿は、尾形哲『ダイエットも健康も 肝臓こそすべて』(新星出版社)の一部を再編集したものです。
■WHOが呼びかけた加糖飲料への課税
世界でも肥満、糖尿病対策のために、砂糖水=加糖飲料を減らす動きが進んでいます。
2016年10月、WHO(世界保健機関)は、糖分を多く含む飲料に課税するように加盟国に呼びかけました。
課税により商品の価格を引き上げれば、消費量を抑えることができ、肥満や糖尿病、虫歯の患者を減らすのに効果があると訴えたのです。
報告書によると、税金で飲料価格を2割引き上げれば、消費量は2割以上減るという研究成果が紹介されています。
実際、アメリカのカリフォルニア州バークレー市、ペンシルバニア州フィラデルフィア市、フランス、イギリスで、この通称「ソーダ税」は導入されています。
■砂糖の量で赤ラベルがつく国も
アジアでもタイで2017年に、フィリピンでも2018年に清涼飲料水に課税を始めています。
シンガポールでは、糖含有量などに応じたNutri-Grade表示制度が導入され、糖分などが多いD評価の飲料については広告が禁止されています。
砂糖含有量が100ml中5g以上でオレンジ色、10g以上で赤色のラベルを表示、さらに赤ラベルはテレビCMなどの広告が規制されることになります。
したがって、ポカリスエット以上の砂糖含有量でオレンジラベル、コカ・コーラ以上で赤ラベルということになります。
2021年の東京オリンピックでは、赤ラベルにあたる飲料のテレビCMが毎日流れていましたが、健康に悪影響のある飲料のCMを法律で禁止している国があることを知っておいてください。
ラベル表示が日本で施行されたら、コンビニの飲料コーナーは、オレンジ色と赤色に染まることでしょう。

■疲れたカラダによかれと思って飲んでいる飲料
人気テレビドラマ「ドクターX」に登場する大門未知子医師は、難手術を終えた後、ガムシロップを飲み干す習慣があります。
ガムシロップはかつて砂糖水が結晶化しないようにアラビアガムと一緒に砂糖水を煮て製造されていましたが、現在ではほとんど果糖ブドウ糖液糖が使われています。ドラマとはいえ、医師でありながら肝障害を与える液体を飲んでいるのです。
実は、私も同じような習慣を持っておりました。長時間手術を終えた後に、必ず果汁100%のオレンジジュース500mlを一気に飲み干していたのです。
疲れたカラダによかれと思って飲んでいた飲料で、肝臓をいじめていたことになります。
スマート外来では「水分はお茶か水だけでとっています」と自己申告される方にも、加糖飲料を一つひとつ丁寧に、飲んでいないかどうかを確認しています。
患者さまはカラダによいと信じて、エナジードリンク、乳酸菌飲料、100%果物・野菜ジュースなどの加糖飲料を常飲しています。
そのため、肥満・脂肪肝の最大の原因となっているという認識がない方がほとんどなのです。
■テレビ番組でボツになりかけた解説
健康を扱ったテレビ番組や雑誌の健康特集でも、加糖飲料の弊害については、ほとんど取り上げられることがありません。
以前、ローカルテレビ局の健康番組に出演した際、加糖飲料の弊害を話そうとしたところ、番組製作者側からストップがかかったことがあります。
その健康番組は、専門医が自分の専門分野の疾患について、毎日5分程度の解説を5日間行うという内容で、私は脂肪肝についての講義を担当させていただきました。

製作者の依頼で出演前にあらかじめ講義に用いるすべてのスライドとその解説原稿を作成し、番組担当者に送りました。
そのうち、「脂肪肝の最大の原因は加糖飲料である」ということを解説する回のスライドと原稿が、まるまるボツになって返ってきたのです。
担当ディレクターから「スポンサーへの説明を要する可能性があるので、別の内容に差し替えてほしい」とのメールが届きました。
私は「加糖飲料をやめること」が脂肪肝を改善させる最重要のメッセージだという自分の考えを説明し、「差し替えることはできません。この内容をお伝えできないのであれば、出演も辞退させてください」とメールしました。
幸い製作者の方の理解を得ることができ、ボツになることなく番組で解説することができました。そのときの一度ボツになりかけたスライドが図表3です。
メディアは健康になるための情報を求める視聴者、購読者を対象としていても、スポンサーの利益を優先させることがあります。
スポンサーが自社の商品の売り上げに悪影響がある可能性のある情報を、あえてカットするのは当然の行為ですし、製作者がスポンサーの意向にこたえることは、仕方のないことかもしれません。
本書が健康によいものをおすすめすること以上に、健康に害があるものについての情報を強調しているのは理由があります。
自分のチカラで伝えられていない情報に気づくことは、伝えられている情報の間違いを見つけることより、はるかに難しいことだからです。
■ジュースのほうが肝臓への悪影響が大きい
オレンジをむいて食べることや、野菜を調理して食べることと、オレンジジュース、野菜ジュースを飲むことには、肝臓への影響に違いがあるのでしょうか?
体の中に入ってしまえば同じと考えてしまいそうですが、実は液体でとった場合のほうが、肝臓への悪影響が大きくなることがわかっています。

すなわち、果糖は、急速に摂取すると直接肝臓を傷つけ、ゆっくり摂取すると小腸細胞の作用によりブドウ糖に変換されることが判明したのです。
この新知見は2018年、プリンストン大学の研究チームから報告されました。研究チームは、食べた糖が、体の中でどのように代謝されていくかを精密に調べるために、炭素13の安定同位体で標識したブドウ糖や果糖をマウスに摂取させる実験を行ったのです。
この実験により果糖は摂取する量が少ないと、小腸細胞内の酵素で処理されてブドウ糖と有機酸に変換されること、また、摂取する量が多いと、小腸での処理能力には限界があるため、ブドウ糖や有機酸に変換しきれずあふれ出して、果糖として直接肝臓に向かうことが判明しました。
これまで摂取された果糖は、小腸から吸収されて、ほぼ100%肝臓に向かい、肝臓だけで代謝されると考えられていました。今回の実験で、この通説が間違いであることが証明されたのです。
果糖をブドウ糖や有機酸に変換しているのは、小腸の細胞内にあるケトヘキソキナーゼという酵素であることも明らかになりました。
実際にこの酵素をノックアウトしたマウス(遺伝子操作によりこの酵素を分泌できなくなったマウスのこと)は、果糖がそのまま門脈経由で肝臓に行くことがわかりました。
■果糖による直接的な肝障害を防ぐ対策
つまり、小腸細胞には果糖が直接肝臓にいくのを防ぐ役割があることが判明したのです。この論文を読むといくつかの疑問が湧いてきます。
まず、ヒトではどのくらいの量の果糖が、小腸で処理できるのかということです。
処理できる許容量を知ることができれば、果糖による直接的な肝障害や肝臓の脂肪化を予防することができそうです。

もう1つは、果糖をより肝毒性の少ないブドウ糖に変換する酵素の活性を上げる、あるいは内服薬によって酵素の量を増やすことはできるのかということです。
砂糖たっぷりのスイーツを食べてしまった後に、小腸の果糖代謝機能を上げる薬があればいいと思いませんか?
この文章を書いている2022年6月の時点では、ヒトを対象にした研究で、上記のいずれの質問に対する答えもまだ出ておりません。
しかし、マウスによる研究結果であっても、果糖による直接的な肝障害を防ぐ対策が見えてきました。
■もう、加糖飲料は怖くて飲めない
果糖を最も急速に小腸に送り込む方法は、多量の砂糖あるいは果糖ブドウ糖液糖を水に溶かして飲むことです。
市販のオレンジジュースや野菜ジュースは、製造の過程で糖の吸収を遅らせる作用のある不溶性食物繊維がほとんどすべて取り除かれています。
ゆえに砂糖水として一気に小腸に向かい、ブドウ糖に変換されずにあふれた果糖が肝障害を起こすのです。
一方、グラス1杯の果汁分のオレンジを食べるにはジュースを飲むよりも、時間がかかります。
さらに果汁は不溶性食物繊維の粒の中に閉じ込められているため、小腸で吸収されるには時間がかかるのです。ゆっくり摂取されると果糖はブドウ糖に変換され、肝臓への直接的なダメージは軽減されます。
一度に小腸に到達する砂糖、果糖ブドウ糖液糖が多いほど肝臓が脂肪化し、肝障害が起こるのです。もう、加糖飲料は怖くて飲めませんよね。
本項をまとめましょう。

1 肝臓を脂肪化させているのは、過剰な「糖質」である

2 糖質の中でも、砂糖と果糖ブドウ糖液糖が特に脂肪化を促進し、肝障害を与えている

3 砂糖、果糖ブドウ糖液糖の成分の中でも、果糖が特に肝臓に毒である

4 加糖飲料を飲むことが、最も肝臓に悪影響を及ぼす
ご理解いただけたでしょうか? 脂肪肝を改善するには、肝臓にダメージを与える食材をやめることが最優先です。
たとえば肺炎の治療中に、咳をしながらタバコを吸い続ける方がいたら、あなたはどのようなアドバイスをしますか。
「タバコをやめないと、肺炎は治らないよ」ですよね。
同様に脂肪肝を治したいのに、砂糖や果糖ブドウ糖液糖入り食材を毎日多量にとっている方にはどう声をかけますか?
「加糖飲料をやめないと、脂肪肝は治らないよ」
肝臓専門医なら間違いなく、こう答えるはずです。

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尾形 哲(おがた・さとし)

肝臓外科医

長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』『専門医が教える肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(いずれもKADOKAWA)などがある。
 尾形哲監修「脂肪肝改善 無料公式LINE

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(肝臓外科医 尾形 哲)
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