人気チェーン店「ココイチ」を運営する壱番屋がハウス食品グループ本社の連結子会社となったのは2015年のこと。だが、ハウスがその株式の売却を検討するとの報道があり、話題を呼んでいる。
経営コンサルタントの小宮一慶さんは「もし、ココイチの新パートナーにファンドがつけば、カレー以外の多角化がさらに進む」という――。
■壱番屋は新たなチャレンジへ
ハウス食品グループ本社(以下、ハウス)が子会社であるCoCo壱番屋(以下、ココイチ)を運営する壱番屋の株式の売却を検討するとの報道(日本経済新聞)が8月末にありました。
その報道があった日の壱番屋とハウスの株価の値動きは興味深いものでした。壱番屋の株価が前日比150円アップ(15.9%)でストップ高の1091円となり、ハウスも7%高の4000円をつけました。
ハウス株の上昇に背景にあったのは、壱番屋株の売却益の計上や資本効率化への期待が主な理由でしたが、切り離される側の壱番屋がストップ高となったのはなぜか。
■壱番屋の財務内容と現状
両社の財務内容をチェックしてみましょう。壱番屋は良い内容です。2026年2月期の決算では、株主が注目するROE(自己資本利益率)の数値が比較的高く8.0%でした。
一方、ハウスは2.5%とかなり低い状態。そういった状況で、壱番屋の株式を売却すると、その売却益は入るものの、よほど良い再投資先がない限りは、ハウスはさらにROEは低くなります。
それでもハウスが壱番屋の売却を検討するのは、親子上場に対する投資家の批判とともに、ココイチの成長懸念がある、と報じられています。これまでハウスは壱番屋を通して海外戦略を推し進めようとしましたが、苦戦しています。
とくに中国では、厳しい状況が続いています。同国での壱番屋の売上高は前期比でマイナス5.8%です。
壱番屋は、国内でも値上げにより客離れが激しいと言われています。私が顧問を務める企業が愛知県一宮市にあり、そこにあるココイチ店を定期的に利用します。そこで、単価の上昇や、客数の減少を肌で感じていました。実際、決算短信では、客数は前期で3.5%の減少です。
しかし実は、客単価は4.2%上がっており、壱番屋の売上高は前期比7.4%増加の655億円となっています。営業利益は前期比4.3%減の47億円です。売上高営業利益率(本業でどれだけ効率よく稼げているかを示す指標)は前期より落ちていますが、ある程度うまく経営していると言えます。
損益計算書の中身を見ると、今説明したように営業利益は前期比マイナスですが、これも、原材料費などの売上原価が上がっているのではなく、販管費とくに人件費の増加が主な原因です。その点では、来店客数が減り、客単価が上がるという戦略は、人手不足に対応したものと判断でき、理にかなっていると言えます。
その戦略は重大な経営判断になりますが、客数が減れば、対応する人も少なくて済みます。
高級ホテルが比較的高い客単価を維持して、客数を減らしても採算を確保できているのと構図は似ています。
■壱番屋の今後の戦略と展開予測
今後、日本経済はインフレが続くと予想され、食品や外食価格も上がり、さらに消費税減税で「税が下がらない」外食であるココイチに逆風が吹くのは必至の情勢です。そんな中、壱番屋はどうかじ取りしていくのでしょうか。
想定できるのは、ファンドなどの新たなパートナーとともに、新たな事業展開の模索です。具体的には、脱カレーの多角化の動きです。
壱番屋は、ジンギスカンやもつ鍋、ラーメン、夜パフェ・スイーツといった店をすでに買収済みです。2026年2月期での店舗数を見て見ると、壱番屋が運営しているココイチが1205店舗(うち直営店118店舗)、パスタ・デ・ココが28店舗、その他が2店舗です。全体では2店舗の増加と、頭打ち感が出ています。
一方、前出のカレー以外の傘下の飲食店では、大黒屋(ジンギスカン)が11店舗、麺屋たけ井(つけ麺・ラーメン)が14店舗、前田屋(もつ鍋)が9店舗、ラーメン小僧が7店舗、パフェテリア パル(夜パフェ)などが9店舗となっています。
現状、まだ店舗数は少ないですが、これらの市場は開拓余地があり、今後、採算性が十分見込めます。ファンドなどの協力で資金力がさらに強化されれば、全体の業績も伸びると考えられます。訪日外国人の増加で日本食に慣れた外国人も多く、ラーメンなどが海外でも大人気になっていることから海外展開も考えられます。

■大型フライヤーで「揚げ物専門店」の可能性も
さらに、私が注目するのはココイチ内の厨房にある機器・大型フライヤーです。食材を「揚げる」という調理ノウハウと設備マニュアルは、外食業界の中でもココイチFCが最も得意とも言われており、店内での揚げ物の拡充のみならず、「揚げ物専門店」をつくる可能性もあります。こちらも、ジンギスカンやもつ鍋の店と同様に、夜時間のアルコールとの相性がよく売上に貢献するかもしれません。
カレーパンなどのベーカリー業態を本格化することも考えられます。壱番屋は2022年12月に名古屋駅地下街にカレーパン専門店「SPICE UP! COCOICHI BAKERY(ココイチベーカリー)」1号店を開業しました。2026年3月には、全国のココイチ店舗への「ポークカレーパン」一斉導入も行っています。
先ほども述べたように、食料品に対する消費税の引き下げで、外食には逆風が吹くことが予想されますが、カレーのテイクアウトだけでなく、よりテイクアウトしやすいパンの事業もビジネスチャンスと言えるでしょう。
■ファンドが出資したらどうなるか
私は、都内のプライベート・エクイティ(PE)・ファンドで20年以上前から非常勤取締役兼パートナーを務めています。一般的にPEファンドは、株式の過半数を取得するなどして経営権を取得後に経営をリードしていき、通常は3~7年ほど買収した企業を保有します。
ファンドが投資すると、コスト削減のために人を極端に減らす、経費を厳しく切り詰めるなどして、既存の従業員が離れていくといった懸念を抱く人もいるでしょうが、実際はそうではありません。
ファンドの目的は、投資先にこれまで以上の業績を出してもらうこと。もちろん、余剰な人員やムダな経費は削減しますが、これはファンドでなくてもやることです。

パフォーマンスをこれまで以上に高めてもらうためには、必要な部署にはこれまで以上の人材を投入することも少なくありません。それも有能な人たちをヘッドハントしてでも人材の増強をします。また、資金の投入が必要な場合も多いので、見込みのある部門には、多額の資金を投入することで設備投資なども行います。伸ばせる事業を思いっきり伸ばすほうが、当然ファンドのリターンも大きいからです。
短期的な業績に焦点を当てるファンドもありますが、それでは中長期的な成長は望めず、結果、ファンドの売り手(次の買収先)も二の足を踏みかねません。そういう点では、長期的に魅力的な企業を作るほうが、当然、ファンドとしては高い値段で売却ができ、働く人も幸せです。良いファンドはそれを目指しているのです。
壱番屋がハウスの子会社から離れた場合でも、食材提供などで今後も一定の協力関係は維持するのではないかと見られていますが、そうしたファンドの傘下に入ることで新たなチャレンジをして大きく飛躍し、消費者を大いに驚かせるかもしれなせん。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)

小宮コンサルタンツ会長CEO

京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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