AIやリモートワークの普及によって、働く自由度、人生の選択肢は広がりました。
その一方で、効率を追い求めた先に、燃えつきや、思うような結果が出ない方向に転じることがあります。
タイパ・コスパ疲れが語られる中、挑戦する人が目標や理想に向かい、短期ではなく中長期的に走り続けるために、働く場所づくりは何ができるのでしょうか。
2026年5月20日、JR関内駅前の複合施設BASEGATE横浜関内タワー11階に、co-ba 横浜関内(コーバ ヨコハマカンナイ)がオープンしました。コンセプトは、“WORK OUT PARK!”。思い切り仕事に集中できると同時に、コンディションを整え、ワークエンゲージメントを高める場を目指しています。
仕事に没頭できること。
心身のコンディションを整えられること。
そして、偶然の出会いから、新しい活動が生まれること。
一見ばらばらに見える要素を、co-baはどのように一つの空間へ落とし込んだのか。開業に携わった3名の言葉から、これからのワークプレイスの可能性を探ります。
<話を聞いたのはこの3人>
奥澤 菜採 / 執行役員 co-ba カンパニー社長(以下、Natsumi)※写真中央
群馬県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。マンション総合管理会社に入社。
和田 早矢 / co-ba カンパニー マネージャー・co-ba 横浜関内 店舗責任者(以下、Saya)※写真右
高知県生まれ。新卒で入社した地元テレビ局でアナウンサーを経験後、2018年より株式会社ツクルバにコミュニティマネージャーとしてにジョイン。自社事業「co-ba」や東京都主催のスタートアップ支援事業「NEXs Tokyo」など複数拠点のコミュニティ立ち上げ・運営を担当。2023年11月のBa & Co Inc.設立時より現職。前職の経験を活かしフリーアナウンサーとしても活動中。
井垣 達彦 / studios カンパニー シニアマネージャー・リードデザイナー(以下、Igaki)
※写真左
兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学を卒業後、インテリア設計事務所にて主にオフィス設計及びインテリアのサイン計画業務に従事。2017年11月より株式会社ツクルバへ入社し、設計グループのメンバーとして、オフィス領域の設計及びデザインコンサルティング、プロジェクトマネジメントを担当。
横浜関内ならではの「あらゆるチャレンジを応援する場」とは
co-baは、2011年に渋谷からスタートしたシェアードワークプレイス。
東日本大震災をきっかけに、企業に勤めるだけではなく、いろんな人が交わって仕事が生まれていくような場をつくりたいという思いで立ち上がりました。
以来、co-baが大切にしてきたのは「あらゆるチャレンジを応援する」というコンセプト。単に働く場や席を貸すだけではなく、会員同士の人間関係やコラボレーションが生まれる場づくりを実践してきました。
— 今回、なぜ横浜関内にco-baをつくることになったのでしょうか。
Natsumi: BASEGATE横浜関内の都市開発の構想段階でオファーをいただいたことがきっかけです。歴史ある横浜市の旧市庁舎エリアを、保存・活用するプロジェクトとして、上階に入居しているテナントや大学と、co-baに集まる起業家やクリエイター、街の人たちが交わるイノベーションフロアにしたいという構想がありました。
横浜関内エリアは、首都圏でありながらローカルの魅力もあり、大企業の会社員から地域の中小企業、個人事業主、起業家、クリエイターまで、多様な人が交わる可能性がある場所。これまでco-baの直営拠点を展開してきた渋谷や恵比寿などの広域渋谷圏とは異なる土地とターゲットに向き合うことが、今回のチャレンジポイントでもありました。
意欲的に働く人ほど、自分に合う場所を求めている
コンセプトづくりの初期、横浜エリアで働く人たちを中心にヒアリングを重ねました。
そこで見えてきたのは、意欲的に働く人ほど、自分に合う場所を探し続けているということでした。会社員もフリーランスも、それぞれの課題を抱えながら、集中できる環境を求めている。そして、集中したいというニーズの裏側に、見落とされがちなもう一つの課題が浮かび上がってきました。
— コンセプトを考えるうえで、どんな人たちの声から、何が見えてきましたか。
Natsumi:まず、想像以上に意欲的に働かれている方がとても多い印象でした。例えば会社員の方は、本業を頑張りながらも、将来のために資格を取ったり、様々な活動を掛け持ちしたり。会社にとらわれない場所で働くことが定着する中、集中・没頭できる環境は意外と少ないという課題が見えてきました。
Saya: 少し具体的にお話しすると、フリーランスも含め、リモートワークの方は基本的に自宅を仕事場にしていますが、集中できないときはカフェを利用することも多いようです。とはいえ、カフェは賑やかすぎて没頭しづらい。ちょうどいい環境がなく、一緒に頑張る仲間も近くにいないので、モチベーションが保てない、そんな声がありました。
Natsumi: 全体的に、試行錯誤している印象を受けました。リモートワークになったり出社回帰したり、AIの急速な発展も重なり、個人の理想と時代の流れを常にチューニングし続けている姿が見て取れました。
— そこからどんな視点が生まれたのでしょうか。
Saya: ヒアリングから見えてきた「集中したい」というニーズに対して、地続きで大事だと感じているのが、心身のコンディションを整えながら働くということでした。実は私自身、過去にコミュニティマネージャーとして、挑戦したい気持ちはあるけれど無理をしすぎて心身が追いつかなくなってしまった会員の方の姿を目の当たりにした原体験があります。
そこから中長期的に走り続けるには、まずは「自分自身の状態を整える余白の時間が不可欠である」と考えるようになりました。
特にコワーキングスペースという働く場が「コンディションを整えること」に立ち返れる環境であれば、本当の意味でチャレンジを持続的に応援できるのではないか、と。特に自分自身のリズムが取りづらかったり、モチベーションが保ちづらかったり、そういった状況が課題となっている今の時代だからこそ、その要素がとても大切だと感じました。
Natsumi:集中したいニーズは表面化しているけれど、コンディションを整えたい部分は表れづらい。2つが両立できる場所が作れるといいよね、とチームで話し合いました。集中と余白。没頭と回復。それらをなめらかに行き来できる場所として、“WORK OUT PARK!”というコンセプトが生まれました。
なぜ、“WORK OUT PARK! ”か?
— コンセプト“WORK OUT PARK!”には、どんな意味を込めたのでしょうか。
Natsumi: 「WORK OUT」は身体的なイメージが強い言葉ですが、ビジネスシーンでも「うまくいく」という使い方もします。またコンディションをよくする、本質を見抜くという深層的な意味も持っています。
「PARK」は、co-ba 横浜関内が有する約1,000平米の広々とした空間と、眼下に臨む横浜スタジアム周辺の景色とつながる開放的なスペースのイメージを表現しています。様々な人が自分のリズムでリラックスしたり、活動的に過ごしたりする「公園」のような環境をつくりたいという意味がこめられています。
そしてコアバリューに据えたのは、ワークエンゲージメントを高める要素と言われている「没頭」「活力」「熱意」。ただ仕事をするのではなく、仕事への前向きなエネルギーが自然と高まる状態をつくること。それが、co-ba 横浜関内の目指す場であるということに、着地しました。
コワーキングに、軽運動スペースは必要か
コンセプトを空間に落とし込む過程では、多くの議論を重ねました。中でも議論が白熱したのが、軽運動スペースの設置について。「コワーキングスペースにジムは必要か」その問いを突き詰めた先に、この場所ならではの答えがありました。— コンセプトを空間に落とし込むうえで、苦労したことはありましたか。
Saya:特に象徴的だったのが、軽運動スペースの扱いでした。本当にコワーキングスペースに必要なのか? 身体を動かしたいなら、ジムに行けば良いのではないか? そんな意見も出る中、自分たちが届けたい価値は何かという問いに立ち返りました。
つくりたいのは、仕事の合間に少し身体を動かし、こわばった頭や心をほぐし、また集中へ戻っていくための場所。
体を動かしてリフレッシュできる場所がコワーキングスペースに存在すること自体が、自分の心身の状態に目を向けられるきっかけになる。その目線が揃ったことで、軽運動スペースは「筋肉を鍛えるためのジム」ではなく「コンディションを整える場所」として位置づけることができました。
整いすぎず、心地いい。co-baらしい空気をどうつくるか
空間設計において大きなチャレンジとなったのは、これまでのco-baとは異なる環境でした。複合施設内の整ったオフィス区画の中で、いかにco-baらしい「余白」を表現するか。半仕上げの思想と、公園をモチーフにしたデザインがその答えでした。— 空間設計で妥協しなかった点、こだわった点を教えてください。
Natsumi:これまでのco-baは、雑居ビルや路面に近い場所が多く、ラフな空気をつくりやすい物件が多かったのですが、今回の横浜関内は新築の洗練されたオフィスビル。整ったビルの中で、いかにco-baらしい硬すぎない居心地のよさを表現するかが問われました。そこで取り入れたのが、co-baが初期から大切にしてきた「半仕上げ」の思想でした。
Igaki:つくり込みすぎず、余白を残す。完成されすぎていないからこそ、使う人の活動や関係性が入り込む余白が生まれます。公園の看板を思わせるサイン、立ち幅跳びや垂直跳びなど、運動要素を取り入れたグラフィックと屋外家具を想起させるカラーリング。受付カウンター上には、公園の東屋をイメージしたやぐらを設けました。
— “WORK OUT PARK!”を空間として表現するうえで、どんなことを考えましたか。
Igaki:チームでいろんなパークの概念について話しました。原っぱみたいなパークもあれば、林の中を抜けていくようなパークもある。それぞれを空間に落とし込むとどうなっていくか。
今回のキーカラーは緑と赤で、サインから家具まで、トータルにカラーリングを意識した空間になっています。空間としての一体感を保ちながら、多様な雰囲気のエリアや使い心地の異なる家具をチョイスしているので、モードを変えて働く感覚を体験してほしいです。co-ba 横浜関内では、あるべき働き方を押しつけるのではなく、その日の状態や目的に合わせて居場所を選べる「気持ちの余白」を空間で表現しています。
会議室は世界的な照明メーカーのYAMAGIWA社とコラボレーションし、リラックスした雰囲気で商談ができたり、議論が白熱したりなど、成果へのコミットを照明と空間から後押ししています。上層階の企業の方々にも利用いただける場所として、こだわりの会議室を5つ揃えました。
偶然の出会いを、設計する
co-baらしさは、空間だけではありません。そこで起きる人と人との関係性が、場の価値をつくっていきます。コミュニティマネージャーが日々会員のニーズを拾い上げ、信頼をベースにつながりを生み出す仕組みが、偶然の出会いを必然へと変えていきます。— 空間以外のco-baらしさって、どんなところにありますか?
Natsumi: 直営店のひとつで2019年開業のco-ba ebisuのコミュニティでは、バグみたいな出会い(偶然ちょっと話したところから何かが始まること)がよく起きます。飲食できる場所や、コミュニティマネージャーがいる場所で、気軽に話しかけてもよさそうな空気。そうした環境の中で、予期しないつながりが生まれます。
— 自然なつながりは、どのように生まれているのでしょうか。
Saya: コミュニティマネージャー・スタッフが会員のニーズを毎日共有し合い、それをイベントやマッチングなどの形で実現に向けてサポートしていきます。信頼できるコミュニティマネージャーを介した紹介だから安心してつながれるところが大きいです。
co-ba 横浜関内はオープンから間もないですが、すでに“WORK OUT PARK!”のコンセプトに共感したコラボレーションの相談も複数寄せられています。軽運動スペースを活用したヨガのプログラムや、心身のコンディションを整えることを目的とした講座など、場の可能性が少しずつ広がり始めています。
個人の望みと、企業の成長が対立しない社会へ
co-ba 横浜関内が見据えているのは、会社員・サテライト利用者・地域企業・起業家・クリエイターなど、様々な人たちが所属の枠を超えてつながる環境です。これからこの場所を、3人はどんな場に育てていきたいと考えているのでしょうか。— co-ba 横浜関内を、どんな場所に育てていきたいですか。
Saya:「集中」と「余白」が共存する新しいワークプレイスを目指したいと思っています。集中するためには、心身を整える「余白」が必要。チャレンジをしている人たちが、ここに来れば自然とそのバランスが叶い、自分らしく中長期的に走り続けられる。そんな場所に育てていきたいです。
Igaki:その日の状態や目的に合わせて、自分なりの居場所を選んでもらえたら嬉しいです。モードを変えながら働く感覚を、今までコワーキングスペースなどを利用してこなかった方にも体験してほしいです。
Natsumi:所属の枠を超えたつながりや、そこから事業や活動が生まれる環境をつくっていきたいです。私たちは「意志を持って生きる人を応援する」という、個人にフォーカスしたコンセプトを掲げています。個人の望みが叶っていくことが、所属している会社にもいい影響を与える。私たちがつくっていく環境を通して、個人の望みと企業の成長が対立しない社会につなげていけたらと思っています。
集中と余白が循環する場所。
一人で頑張りすぎず、でも自分の仕事に深く向き合える場所。
身体を動かし、会話をし、また机に戻る。
その小さなリズムが、働く意欲を少しずつ変えていく。
“WORK OUT PARK!”は、ここに集う人たちの挑戦や偶然の出会いによって、これから育っていく公園のようなワークプレイス。
働く場所で、意欲は変わる。
co-ba 横浜関内は、そんな実験を、横浜関内の街で始めていきます。