片山友希が主演を務め、MEGUMIが企画・プロデュース、木村太一が原案・監督を手がける映画『FUJIKO』。1970年代後半から80年代前半の静岡を舞台に、シングルマザーとして生きる富士子が、時代や社会の価値観に抗いながら、自らの人生を切り拓いていく姿を描いたヒューマンドラマだ。
INTERVIEW木村太一×ポパルダウド明×佐久麻瞬太郎×ハタヤテツヤ
話し合う場が生まれることが、アートの醍醐味だと思ってる
──今回の作品は、木村監督のお母様の人生をベースにしていると伺いました。木村太一:僕は小さい頃から、アメリカのメジャーな映画が好きだったんですよ。そういうものに近いトーンの映画をやりたいと思った時に、どんなストーリーがいいんだろうと考えて、自分の母親の話を思い出しました。結構、奇想天外な人生を送っていたので。2作目でこの題材をやることは、たとえこの先キャリアが終わったとしても、人間として意味のあることなのかなと。富士子は母親がモデルですが、それを主演の片山さんが一回取り込んで、富士子にしていった印象が強いです。そこはコラボレーション的な感覚もありました。エピソードの6~7割ぐらいは実話です。
画面の映像と一緒にセッションしているようだった
──その中で、音楽にはどのような役割を求めていたのでしょうか。木村:もともと、ちゃんと生音で録りたいという話をしていました。あの時代はバンド全盛期で、楽器の音が強い時代だったと思うんです。邦画だったら歌謡曲を使うことが多いのかもしれないですけど、うちの母はそういうものを通ってきた人ではなかった。むしろ洋楽ブームの中で、海外の音楽をかっこいいものとして聴いていた時代だったんです。当時は今ほど海外へのアクセスがなかったからこそ、日本が一生懸命に海外の音楽を取り込もうとしていた時代でもある。母も洋楽を聴いていたし、僕もそこから影響を受けています。富士子は自由を求める話なので、アメリカンドリーム的なものや、UKロックの自由さとリンクしていったんです。──実際に音楽制作を担ったみなさんは、木村監督からどのような話を聞いていたのでしょうか。
佐久麻:最初は僕と明のふたりでレコーディングに入る予定だったんです。平松くんもベースを弾く形でいろいろやろうかという段取りはあったんですけど、いざ入ってみたら、やっぱり鍵盤の音が欲しいなと思って。僕もずっと音楽をやっているから、「これは絶対に鍵盤があった方がいい」と直感的に思ったんですよ。それで、「誰かいる?」と聞かれて、「絶対てっちゃんしかいない」と。
──『AFTERGLOWS』にも関わっていたトーマス・ヤードリーが、今回も参加していますね。木村:彼は、僕のレイブ時代の友達です。とにかく天才なんですよ。めちゃくちゃなやつではあるんですけど(笑)、クリエイティブ一家で育っていて、妹もミュージシャンで、お父さんはMTV世代の編集マンで、賞をたくさん獲っているような人なんです。ヤードリー本人は無職なんですけど、音楽をめちゃくちゃ作るんですよ。大学時代から音楽を作っていて、とにかくかっこいい。でもビジネスがまったくわからない人で、こんなにすごいのに、なんで誰もリリースしないんだろうと思っていました。自分の音楽になるとこだわりすぎて、1曲に3年かかったりするような人なんです。──今回はどのあたりの音楽を担当しているんですか?木村:オープニングの曲はしっかり彼に作ってもらいました。あと、3~4曲ぐらい作ってもらっています。プロセスは人によって全然違っていて、それも面白かったですね。──映画の前半で富士子が夜、泣きながらお父さんのギターをもらって、それをポロンと弾く時のコード感がすごく印象的でした。
佐久麻:あれは、富士子の父役のうじきつよしさんが考えたコード進行ですね。うじきさんが「この雰囲気だったらこれじゃない?」と考えて、片山さんに弾いてもらったんだと思います。あのシーン、僕もすごく好きですね。──佐久麻さんが作曲していた曲は、その場で用意していたんですか。佐久麻:全部その場ですね。長さも、普通の曲のように小節数で決められないじゃないですか。映像が1分31秒なら、そこまでで収めてください、ということになる。だから「あと2回しですね」とか、「ここに1小節だけ足しましょう」とか、そんな感じでした。──曲によっては、映像を見ながらセッションしたものもあったのでしょうか。ポパルダウド:ありました。ギターだけになる曲とかは、ずっと映像を見ながら弾いていましたね。監督が「ちょっと違います」とか「これはこれです」と言いながら進めていく感じでした。たとえば光が差すところで、音的にも光が差すようにする。画面の映像と一緒にセッションしているような曲もありました。ハタヤ:あまり経験のない形だったからこそ、楽しくやれたところはありますね。ああでもない、こうでもないと言いながら、みんなで作っていく感じで。佐久麻:あと、スタジオのサウンドがめちゃくちゃよかったですよね。完成したものを観た時に、音がちゃんと狙った通りになっているなと感じました。
ポパルダウド:僕がその少し前にソロアルバムをここで録っていたんです。その流れもあって、今回も使わせてもらいました。佐久麻:エンジニアの方は、質感へのこだわりがすごくある人なんです。スタジオによっては、大物の機材にこだわっているところもありますけど、一緒に遊びながら作ってくれる方なので、その点でもすごくいい雰囲気でできました。
普段こういう映画を観ない人にとっても入口になるように
──完成した映画を観て、自分たちの音楽が映像や芝居と合わさった時、どのように感じましたか?
佐久麻:これだけ音楽をフィーチャーしてくれている映画なんだ、ということに感動しました。映画館で観た時に、セリフより音楽は小さくなりがちだと思うんですけど、この映画では音がちゃんと前に出てくる場面がたくさんあった。やってよかったなと思いました。音の生々しさが伝わってくるし、それが片山さんの芝居や富士子の感情とリンクして、笑えたり、悲しくなったり、ちゃんと心情の変化と音楽がつながっているように感じました。ポパルダウド:僕も、自分の弾いている音を映画館で聴くのは初めての体験だったので、すごく嬉しかったです。音楽が映画を引っ張っていくように見えるシーンもありました。あと、かなり前の段階から何度か映像を見ていたので、微調整で印象が変わっていくのも面白かったです。1秒、2秒切るだけで、ラストの見え方や音楽とのリンクが全然変わる。映画って面白いなと改めて思いました。木村:僕は日本映画を観て育ってきたわけではないので、なんで日本映画ってこんなに音楽が少ないんだろうと思うんです。日本人だって、音楽がある映画が嫌いなわけじゃないじゃないですか。『パルプ・フィクション』も好きだし、『ベイビー・ドライバー』も好きだし、『スター・ウォーズ』だって、よく見るとほとんどずっと音楽が流れている。だから、自分としては普通のことをやっただけなんです。でも邦画でそれをやる人が少ないから、いい違和感として受け取られているのかなと思います。僕にとって、音楽はそれぐらい大事なんです。最初の映画を作った時に、「ミュージックビデオの監督だから」と言われたことがあって。だったら映画の中でミュージックビデオをやってやろう、くらいに振り切った。そういうロック的な反骨心は、自分の作風の中にあった気がします。──この映画を通じて、観客にどんなことを受け取ってもらいたいですか?木村:まず、女性を応援する映画であることは大前提です。ただ、実は作っている時に意識していたのは男性なんです。富士子は当時、“シングルマザー”という社会的に少数派の立場に置かれていた人物なので、そうしたマイノリティー性を描いた話であり、マジョリティに理解してもらえない話でもある。だからこそ、マジョリティ側にも届くものにしなければいけないと思っていました。女性が置かれている状況の大変さを理解していない男性がいたとして、その人たちが『FUJIKO』を観て「この映画、面白いな」と思ってくれたら、少し社会が変わるかもしれない。だから音楽をかっこよくしたり、アニメーションを入れたり、普段こういう映画を観ない人にとっても入口になるような要素は意識していました。もうひとつは、富士子という人物には、明確な大きな目標があるわけではないということです。もちろん子育てという目標はあります。でも、ボクシングのチャンピオンになるとか、地球を救うとか、そういうわかりやすい目的がある主人公ではない。漠然と自由をつかみたいと思っている人なんです。──そこが、ある意味ではとても現実的ですよね。
木村:そうですね。僕は12歳でイギリスに行って、10歳ぐらいから映画監督になりたいと思っていたので、最初から目標があった人間なんです。だから、夢がない人の感覚がわからなかった。でも母と話した時に、「普通の人は、それを探すのが人生なんだ」と言われたんです。何かをやりたいということは、そんなに早く見つかるものではない。目の前にあることを一生懸命コツコツ頑張っていくことで、道が開けるんだと。それは素晴らしい考えだと思いました。富士子も、目の前で起きることにとにかく一生懸命向き合っていく。そうやって生きた結果、最後に自分で選択する権利を手にする。だから、何か無駄なことをやっているんじゃないかと思っている人がいたら、この映画を観て、そんなことはない、全部つながっているんだと感じてもらえたら嬉しいです。
Interview&Text:Takanori Kuroda
Photo:Hinata Ishihara
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