高校サッカー部の選手を集めて、フットサルをプレーしてもらう――。日本サッカー協会(JFA)が2026年から始めた「クロス交流キャラバン」が、思わぬ成果を生んでいる。

各地域でサッカーとフットサルの選手が交流するなかから才能を発掘し、8月25日に発表されたU-18フットサル日本代表候補には、この活動から6選手が選出された。なぜJFAは、あえてサッカーの選手をフットサルの世界へ呼び込むのか。

(文・撮影=河合拓)

高校サッカー部員を集めてフットサル?

マイナースポーツにとって、いつの時代も競技の普及、若い選手の発掘は、大きな課題となる。日本サッカー協会(JFA)は2026年から、フットサルの普及や才能の発掘を目的に新たな試みとして「クロス交流キャラバン」を開始した。これは全国6カ所で、U-18年代の有力なフットサル専門チームとJリーグ下部組織や高校サッカー部を集め、前半に総当たり戦8分間1本勝負でフットサルの交流戦をした後、出場した選手から20人を選抜。後半は選抜選手たちに、JFA公認指導者による約70分のフットサルのトレーニングを行う取り組みだ。

8月7日には立川ドームで、関東のクロス交流キャラバンが行われた。ここにはホームチームの立川アスレティックFC U-18、第13回全日本U-18フットサル選手権大会にも出場したペスカドーラ町田U-18、そして國學院久我山高校、駒澤大学高校、成立学園高校、実践学園高校のサッカー部の選手が参加した。

このプロジェクトを主に進めているのが、元フットサル日本代表選手でもあった佐藤亮だ。2018年に現役を引退してからは、帝京長岡高校サッカー部やFリーグ・シュライカー大阪のコーチを経て、2020年から大阪成蹊大学フットサル部の監督に就任。大学フットサル選手権で3連覇の偉業を成し遂げて、2025年からフットサル日本代表のコーチングスタッフ入りをしている。

なぜ強豪高校サッカー部員を集めてフットサル交流戦? 新たな育成策から日本代表候補6人が生まれた理由

「高校までサッカー」の選手に才能が眠っている

今回の取り組みがどのような経緯で始まったのか。

2019年までJFAは、「タレントキャラバン」という活動を行っていた。これは将来のフットサル日本代表選手を育成・強化することを目的にした活動で、全国各地でフットサルに取り組んでいるチームにナショナルコーチングスタッフが指導しに行き、選手の育成、新たな才能の発掘、指導者の養成にもつなげるものだった。

この活動が2019年で終わり、新たに育成ダイレクターに就任した佐藤らが地域での競技環境整備の必要性を感じ、育成事業の復活を掲げて検討を重ね、発案されたのが「クロス交流キャラバン」だった。

現在、JFAのサッカーの登録選手数は、U-15年代で21万6612人、U-18年代で14万8967人というデータがある。一方、フットサルの登録選手数はU-15が1933人、U-18が2593人しかいない。佐藤は「現在登録されている約4500人のフットサル登録選手を継続的に増やす努力はもちろん必要ですが、フットボールという大きな枠組みで見た時には現時点で既に約37万人の選手がいるという事実があります。自分たちからそのポテンシャルを閉ざして考える意味はないと思いました」と、サッカー登録選手にもフットサルという競技があることに気づいてもらうきっかけをつくることに活路を見いだした。

もちろんサッカーとフットサルは、似ているものの競技の特性は違う。それでも、帝京長岡高を卒業し、順天堂大学時代に本格的にフットサルを始めて日本代表まで上り詰めたキャリアを持ち、大学の指導者も務めてきた佐藤には確信があった。

「過去に自分が指導してきたなかで、高校までサッカーをしてきた選手のなかに多くのタレントがいるというものを実際に目にしてきました。もちろん、そういった選手たちはまず競技レベルのフットサルに適応する必要はあるのですが、実際にはそこまで時間を要さない印象があります。フットサルをより多くの選手にプレーしてもらう機会をつくりたいという考えがあり、今回の活動をすることになりました」

佐藤が着目したのはJFAがアンケートを実施して集計していた「Fリーグのパスウェイ調査」のデータだった。これはFリーグでプレーする選手やフットサルのA代表に選ばれる選手が、どの地域から輩出されているかをあぶり出すものだ。その実績のある地域から優先的に「クロス交流キャラバン」を実施する地域に決め、関東、北信越、東海、関西、北海道の5地域が選ばれ、最も多くの選手を輩出している関東では3月と8月に2回の活動を行うこととなった。

開催地域を決めたあとには、各地域のフットサル連盟やサッカー協会内でフットサルの技術部門を担当している方に打診し、日程や会場確保を依頼した。並行して参加チームを集めるために、まずはそれぞれの地域にあるFリーグクラブの下部組織を中心としたフットサルの専門チームに声をかけた。そして今回の活動で肝となるサッカーチームの募集には、地域やJFAのなかで連携を図り、過去にフットサルの大会に出場しているチームや、フットサル活動に興味を持ってもらえそうなチームをJFAのサッカーコーチに推薦してもらい決定していった。

圧倒的な存在感を示したヴィッセル神戸U-18

フットサルのルールでは、プレーイングタイム20分ハーフで行われるが、「クロス交流キャラバン」は時間が限られている。集まったチームの総当たり戦を行うため、ランニングタイム8分という短い時間で試合をまわした。これは、すべてのサッカー部を複数のFリーグクラブと戦わせて、競技フットサルに触れてもらうことに加え、フットサルチームにも普段は対戦しない多様な選手たちとプレーすることで様々な経験を積んでほしいという狙いがあったからだ。

新たな試みのなか、予想外のことも起きた。フットサルを専門でプレーしている選手たちは、フットサルシューズを履いてくる。しかし、普段サッカーをプレーしている選手のなかには、ランニングシューズ、なかには体育館履きで参加する選手もいた。得てして、そういう選手がうまかったりするから面白い。彼らが専門のシューズを履けば、より良いプレーができるようになるはずだ。

ここまでの活動で、大きな収穫があったと感じられたと佐藤が振り返ったのが、関西での活動だ。関西での活動に参加していたヴィッセル神戸U-18のパフォーマンスは圧倒的であり、「ポテンシャルの高さに驚かされた」と佐藤は振り返る。

神戸U-18の背景には、過去にバーモントカップに出場したことのある選手が参加してくれたことや、当日指揮を執った宇野勇気コーチもこのキャラバンに向けてフットサルの映像を見て、前日に練習を行い、準備をしてきてもらったことがあったという。

また、この関西での活動に限らず、「クロス交流キャラバン」の会場には開催地域の各都道府県のサッカー技術委員会の方や育成ダイレクターの方が視察に訪れた。彼らに「フットサルの活動や指導、選手の適応力に興味関心を示してもらえたことも、大きな成果だったと思います」と、佐藤は言う。

フットサルを経験することがサッカーにも生きる

この活動に参加したサッカーチームの選手たちは、フットサルを経験することがサッカーに生きると感じられたと口々に言う。関東でのクロス交流キャラバンで初めてフットサルの指導を受けた駒澤大学高のGK隄光太朗は、「あまり自信がなかったのですが、(トレーニングメンバーに)選ばれてうれしかったです。練習でもフットサルの練習で苦戦することもありましたが、そこも修正できて良い経験になりました。すごく刺激を受けたので、この経験をサッカーにも生かしていきたいと思います。僕はサッカーをやっていきたいと思いますが、他の選手も今日1日でうまくなったと思うので、フットサルの大会などにも出られたらいいなと思います」と、この日の感想を語った。

今回の活動で、Fリーグのクラブからも関心を持たれたフットサル初体験の実践学園高校の後藤琉生も「本当に頭を使うなと思いました。サッカーよりもテンポが早かったので(頭の)回転を早くしないといけないなと。攻守の切り替えとかも、そこで数的不利を簡単に作られてしまうので、そこはサッカーとの違いを一番感じました」と小さいピッチで難しかったことを語り、「今回教わったピヴォに当てて裏に抜ける動き、裏に抜けてどんどん連携していくというのは、サッカーでも生かせると思ったので、生かしていきたいと思います」と、今後のフットボール人生に生かしたいと話している。

成立学園の五十嵐和也監督は、参加していた選手たちが楽しんでいたと言い、「サッカーにも通じるものがありますし、成長にもつながるきっかけになったと思います。こういう経験は絶対にマイナスにはなりませんし、プラスに変えていければなと。

今日は8分でしたが、本当に強度が高いですし、自由交代とはいえ、これを20分間やり続けたら相当な強度だと思います。小さい頃からサッカーやフットサルを始めて、こういう18歳くらいの子たちが底上げをしていくと感じています。そのなかでフットサルに関わる子が増えることは、サッカー界の底上げにもなると思います」と、フットサルがサッカーの可能性を広げると言及する。

PK戦の末にペスカドーラ町田U-18を破って優勝した國學院久我山高校の横田智雄監督も「うちの子たちは、ミニゲームが大好きですし、サッカー部の練習もグラウンドの反面でやっているような状況なので、そのミニゲーム感覚で楽しくできたことが良かったと思います」と言い、「以前はフットサルの大会にも出たのですが、受験勉強をする子も多いのでここ数年は出ていませんでした。これを機に『フットサルもやれるんだったら、やってあげるよ』と声をかけてあげようかなと思います」と、今後のフットサルの公式戦への参加も考えていると明かした。

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6人がU-18日本代表候補に。「クロス交流キャラバン」が目指す未来

選手たちが刺激を受けていると同時に、才能ある選手の発掘もできている。だが、佐藤は「もちろん、タレント発掘の点で手応えもありますが、それ以上に地域でのフットサルの普及、参加してもらった選手や指導者に、すごくフットサルに興味を持ってもらえたことが良かったです」と、1年目で見えた成果を語る。また、「クロス交流キャラバン」での交流をもとに定期的に練習試合を行うFリーグクラブとサッカーチームも出てきており、「この活動を起点に地域でリーグ戦などサッカーチームも含めた交流が始まり、競技者層が拡大され、競技環境が整っていく未来につなげていきたい。その先にナショナルトレセンや世代別代表活動の拡大に取り組んでいきたい」と、今後の展望を語っている。

8月25日に発表されたU-18フットサル日本代表候補のトレーニングキャンプには、北海道地域から遠藤煌心(北照高)、東海地域から峯大那(三重高)、湯浅直大(翔凜高)、関西地域から迫田翔嵩(神戸ハーバーフットボールクラブU-18)、北信越地域から高畠瑛太(ヴィンセドール白山U-18/フットサルクラブ)と中澤遥馬(帝京長岡高)と各地域の「クロス交流キャラバン」で見いだされた6選手が選出されている。昨季限りで森岡薫や吉川智貴といった国内のスタープレーヤーが現役を引退し、スター不足が叫ばれるフットサル界にとって、この「クロス交流キャラバン」は裾野を広げていく大きな希望につながる活動となる。

<了>

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