「カトパコ」ことカトリエル&パコ・アモロソ(CA7RIEL & Paco Amoroso)によるニューアルバム『FREE SPIRITS』の国内盤が本日6月24日にリリースされた。昨年のフジロックを席巻したアルゼンチンの異端デュオは、この最新作で何を提示したのか?

〈誰も新しいものなんて発明しちゃいない、すべてはもうやり尽くされている、ベイビー(Nadie inventa nada nuevo, todo ya está hecho, bebo)〉

ついに全貌が明らかになったカトパコの新章は、AIツールと膨大な音楽アーカイブに囲まれた2026年において、「真のオリジナリティなど存在しない」と白旗を振るような一節で幕を開ける。
しかし思い出そう。転機となった「Tiny Desk」の勢いそのままに発表された前作『PAPOTA』でも、彼らは〈Tiny Deskのせいでめちゃくちゃだ/歌もラップもまともにできないのに〉と歌っていた。自虐的でシニカルなユーモアはカトパコの真骨頂。つまり冒頭の一節は、「何もかもとことんやり尽くす」という逆説的なマニフェストに他ならない。

『FREE SPIRITS』はその名に偽りなく、これでもかと自由にジャンルを横断し、クレイジーで予測不能なスリルにいざなう。本人たちもi-dのインタビューでこう語っている。「(新作は)僕らの”マキシマリスト”バージョン。歌詞からプロデュースまで、好きなものを全部ぶち込んだ。エレクトロニックな側面もあれば、ラテンサウンドに寄った曲も、オーケストラの要素を持つ曲もある」(パコ)「ご馳走が目の前にあるのに、どうして1種類の味だけで満足できるのさ?」(カトリエル)

カトパコはこれまでも、リスナーを没入させるための世界観づくりにこだわってきた。前作『PAPOTA』では、音楽業界の搾取構造を”スポーツジム”の男らしさと紐づけて皮肉っていたが、今回の『FREE SPIRITS』で舞台となるのは、スティングが主宰するホリスティック・ヒーリング施設〈フリー・スピリッツ・センター〉だ。

彼らにとって2025年は飛躍の年となった。前作『PAPOTA』を携えてのワールドツアーは計95公演に及び、コーチェラやグラストンベリー、フジロックといった大型フェスで怒涛のステージを繰り広げ、ケンドリック・ラマー南米ツアーのオープニングアクトも務めた。
さらにその後、11月のラテン・グラミー賞でバッド・バニーと共に最多受賞を果たすと、新たなアルバム『TOP OF THE HILLS』を急ピッチで制作し、翌12月にリリースするとアナウンス。しかし、突然の成功とツアーの重圧、生き急ぐようなスケジュールによって消耗し切った彼らは、アルバムの発表を断念することに。燃え尽き症候群に陥った二人は、〈フリー・スピリッツ・センター〉で12ステップの複合治療プログラムに取り組んでいく。

『FREE SPIRITS』のショートフィルムで描き出されるのはヨガや瞑想、サウンドバス(温浴)に加えて、顔面に絵の具を血糊のように塗りたくってのアートセラピー、目隠し状態での心肺トレーニング及びビンタの応酬、亜酸化窒素の吸入による笑気療法、VR体験とドッグセラピーの奇妙な併用、強制的に笑顔を作るフェイスリフトといった、シュール極まりない施術の数々。ここには彼ら一流のアイロニーも含まれているのだろうが、その光景に切実な説得力が宿っているのは、カトパコが人生の”試練”と対峙してきたリアルな物語の裏付けがあるから。全12曲のリリックで、二人はサクセスストーリーの影にあった葛藤、満たされなさや孤独感を、あの手この手で赤裸々なまでにさらけ出している。

スティング、ジャック・ブラック、アンダーソン・パーク、フレッド・アゲインという大物ゲスト陣の参加に加えて、英語詞の割合が増えるなどグローバル市場にも目配せしつつ、『PAPOTA』やフジロックでもバンドメンバーとして貢献したエドゥアルド・ジャルディーナ(Dr)、ハビエル・ブリン(Key)、マクシ・サジェス(Perc)、フィリペ・ブランディ(Ba)も引き続き一部の楽曲に参加し、アーティストとしての軸は微塵もブレていない。アルバムの聴きどころを一曲ずつ掘り下げていこう。

『FREE SPIRITS』ショートフィルム

1. 「Nada Nuevo|ナダ・ヌエボ」

先述した冒頭の一節をマントラのごとく繰り返したあと、パコが〈タージ・マハル(インド)から直送だぜ!〉と歌いながら切り込み、ボリウッドを思わせる東洋的かつ演劇的なサウンドが、オーケストラの生演奏とともに加速していく。踊れるリズムについては、ラテンポップの女王シャキーラをほんのり意識したとのこと。

歌詞の面では、パコが出だしに叫ぶパンチライン〈Lady Gaga es Argentina〉(レディー・ガガはアルゼンチン人なんだ)がリリース当初から話題に。以前からSNS上では、ガガとパコの同一人物説がミーム化しており、パコもそれに便乗する形で、グラミー授賞式でガガと一緒に映り込んだ動画をアップするなどしている
そんなファンとの身内ネタが、「もはや真のオリジナリティなど存在しない(のか?)」という楽曲のテーマとシンクロ。ブリッジ部分でも、オートチューンの加工音声で〈ニューヨークじゃ間違えられるけど、俺はレディー・ガガじゃない〉と歌われる。

ただし歌詞の深層にあるのは、アイデアが枯渇し、創造性を失うことへの恐怖。巨大な名声がもたらすプレッシャーと、それに伴う混乱が産み落とした一曲でもある。

2. 「Goo Goo Ga Ga (Jack Black)|グー・グー・ガー・ガー(ジャック・ブラック)」

続いては俳優ジャック・ブラックを迎えて、〈赤ちゃんになりたい〉と歌う楽曲(タイトルは「バブバブ」の意)。カトリエルは昨年、筆者とのインタビューで「ジャック・ブラックの話し方や演技が大好き」と語っていたものだが、その思い入れは筋金入りで、右手の甲に映画『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』に登場する「運命のピック」のタトゥーを彫っているほど。憧れのスターが”幼児退行を促す脳低温療法”という設定のMVに出演したうえに、ぐうの音も出ないほど赤ちゃんになりきってくれたのは感無量だろう。曲中で「カモン、ベイベー!」「カトパコー!」と陽気に叫ぶのもチャーミングだ。

音楽面ではボサノヴァを基調としつつ、幼児の無垢さをキッチュなサウンドで表現。パコの甘いハスキーボイスが抜群に効いている。〈君の赤ちゃんになりたい/君との赤ちゃんがほしい〉と歌うサビは奔放なカトパコらしいが、リリック全体では〈俺の黄金時代はもう過ぎ去った〉〈コラーゲンは失われ、白髪を見つけちまった〉といったフレーズが並ぶとおり、「若さを失うことへの恐怖」が逃避願望の根底にある。

3. 「No Me Sirve Más|ノ・メ・シルべ・マス」

お蔵入りとなった『TOP OF THE HILLS』の先行シングルとして、『PAPOTA』期の終焉を告げた昨年11月リリースの「GIMME MORE」が、「これじゃ満足できない」という意味のスペイン語に改題。
〈100万持ってるけど、200万欲しい〉というラインが象徴するように、野心のインフレとそれに伴う慢性的な虚無感が、アップテンポなトランスに乗せて歌われる。今作のツアーでパーティーアンセムとなるのは間違いないだろう。

4.「Ay Ay Ay (Anderson .Paak)|アイ・アイ・アイ(アンダーソン・パーク)」

これまた筆者とのインタビューで、カトリエルが「何でもできるし、スタイリッシュで、スウィング感もある」と絶賛していたアンダーソン・パークの参加曲。彼は歌だけでなくドラムも担当しており、前曲から間髪おかず叩き込むイントロのプレイは特に素晴らしい。メレンゲのリズムと軽快なギターで小気味よく疾走し、後半はパークお得意の曇りがかったサイケファンクに突入。アウトロの火を噴くようなギターソロはカトリエルが弾いている。

トーク番組「OLGA」での対話によると、パークはこの曲でラテンポップらしさにこだわり、スペイン語特有の「R」の響きを堪能できるようリクエストしたそう。パコもそれに応え、いつも以上に巻き舌を強調している。〈人生最高の夜〉に溺れるエッチな歌詞と対照的に、リリックビデオでは全裸の美女に囲まれながら禁欲に徹し、サウナで汗を流す治療プログラム(?)を3人で実践。一緒に仲良く氷風呂でととのっている。

5. 「Vida Loca|ビダ・ロカ」

タイトルは「クレイジーな人生」を意味し、名声と引き換えに私生活の愛を失ったことへの後悔を、哀愁漂うサンバのリズムに乗せて歌う。〈昨日は空を飛んでいたのに、今日は真っ逆さまに落ちている/今の気分はアヴィーチーさ。
有名になるってのはなんて最悪なんだ/二人で描いた夢だったのに、今それを生きているのは俺一人だけ/これが人生の代償なんだ〉という歌詞がほろ苦い。アヴィーチーは言うまでもなく、成功と引き換えに人生のバランス感覚を見失い、若くして命を絶った天才DJである。

パコはこの曲を書き上げた際「ものすごく悲しい気分だった」と述懐しており、本人たちのパーソナルな実体験も大いに反映されているのだろうが、同時にこの曲が残すやるせない余韻は、リスナーが自身の記憶を重ねてしまう普遍性も備えている。カトパコ史上最も切ない曲となったのは疑いようもなく、本作の非シングル曲では一際人気が高い(個人的にもベストトラック)。

6. 「Muero|ムエロ」

フィーチャリング表記はないが、12曲目「Lo Quiero Ya !」と同じく盟友フレッド・アゲインのプロデュース曲。セルジオ・メンデスやジルベルト・ジルといった70年代ブラジル音楽のエッセンスを、クールなディープハウスに昇華している。早々にクラブバンガーとなったフレッドとの「Beto's Horns」や先述の「No Me Sirve Más」も含めて、エレクトロニックミュージックはカトパコにとって大きな伸びしろであり、ライブでの打ち出し方にも期待したい。

曲調そのものは陽気だが、タイトルに冠した「死」がパラノイアのようにつきまとう。〈立ち止まらなければ俺は死ぬ〉と言い方を変えながらリフレインする歌詞からも、極限状態でオーバーヒートしていた時期の切迫感がうかがえるだろう。

7. 「Hasta Jesús Tuvo Un Mal Día (Sting)|アスタ・ヘスス・トゥーボ・ウン・マル・ディア(スティング)」

スティングとのコラボで生まれた、ポリス的かつスタジアム・ロック的な快作。〈きみの中の悪魔を追い出してしまえ、フリー・スピリッツ!〉とカトリエルが唸るくだりもあり、アルバムの中軸を担う楽曲だ。詳しくは筆者による前回の解説記事を参照。


8. 「Ha Ha|ハ・ハ」

躁鬱がもたらすアップダウンを、パニック発作のような音像で具現化した一曲。出だしはチルでラグジュアリーな雰囲気を漂わせているが、〈昨日は危うく死にかけた、でも今日は気分がいい〉とカトリエルが吐き出すリリックは、のっぴきならない不穏さに満ちている。

曲はそこから突如ドロップし、アルゼンチンの伝説的ポップ歌手パリート・オルテガ(Palito Ortega)による60年代のヒット曲「La Felicidad(幸せ)」を皮肉たっぷりにサンプリングしつつ、ダークかつノイジーなレイヴサウンドに急展開。「最高にハイだ」と連呼するパコの声とともに、狂乱のダンスパーティーに突き進む。

9.「Soy Increíble|ソイ・インクレイブレ」

スティングとの共演曲でもAORの片鱗を見せていたが、ここでもカトリエルの念頭にあったというTOTOなど80年代ロックの要素を取り入れつつ、自身のソロ作でも追求してきたマイケル・ジャクソンやプリンス譲りのファンクネスと融合させている。

眩いサウンドが放つ光沢は、虚栄心の表れでもあるようだ。〈スーパーセクシーすぎて会場を爆発させちゃった〉と豪語する一方、ホテルで待っているのは底なしの孤独感。「俺は最高」という不遜なタイトルとは裏腹に、〈見捨てられるのが怖い〉と本音を漏らし、承認欲求との狭間で震えてしまう”脆さ”を露わにしている。

10. 「Himno Del Mediocre|イムノ・デル・メディオクレ」

スペインの国民的歌手フリオ・イグレシアスによる1977年のヒットソング「Soy un truhán, soy un señor」を下敷きにしたと思しき楽曲。カトパコはみずからを〈半分天才、半分マヌケ〉〈パスを出すわけでも、ゴールを決めるわけでもない/最高の控え選手だが、決して勝者にはなれない〉と自嘲する。

タイトルはずばり「凡人賛歌」。ラウンジ感に満ちたMOR(中庸なポップス)調のサウンドに乗せて、〈明日できることを、なぜ今日やる必要がある?〉と、世の教訓を逆手に取った美学を説く。
もちろんそこには、ポップスターとして生き急いだ日々の焦燥感が、ひねりを効かせて反映されている。

11. 「Todo Ray|トド・ライ」

ブラスと粘っこいギター、オルガンやカウベルを交えて熱気を高めていく、グルーヴィー極まりない王道のファンクロック。前身バンドのアストール(Astor)時代からファンクを追求してきた彼らだけに、まさしく「好きなものをぶちこんだ」一曲で、ライブでもハイライトになりそうだ。ゴスペル仕込みのパワフルなドラムを叩いているのはデイヴィッド・チヴァートン(David Chiverton)。ローリン・ヒルのツアーメンバーを務め、現在はネオソウルの女王ジル・スコットに重用されている名手だ。

「万事快調」というタイトルどおりアッパーな曲調だが、歌詞では(ツアー生活の弊害で)不眠症に陥り、〈アルコール依存症と認めないために泥酔する〉ドツボにはまった日々が綴られている。ボロボロになっても「俺たちはOK」と虚勢を張る二人の独白。当時の心境を思うと胸が詰まる。

デイヴィッド・チヴァートンがドラムを担当した、ジル・スコットの「Tiny Desk Concert」

12. 「Lo Quiero Ya ! (Fred again..)|ロ・キエル・ヤ!(フレッド・アゲイン)」

フレッド・アゲインをフィーチャーし、アルバムリリースの前夜にようやく最終ミックスが届いたという楽曲。ブルガリア民謡を彷彿とさせる神秘的なチャントに始まり、ドリル以降の鋭利なラップ、バイレファンキ風の硬質なベースサウンドが交差していく。リリックビデオでも提示されている、密教めいたムードが不思議と心地よい。

ワールドカップのVIP席、真っ赤なフェラーリ、ベッド付きのプライベートジェット、銀行口座や豪華な別荘……「あれもほしい、あの”ブルンブルン”(車)が欲しい、今すぐほしい(Lo Quiero Ya)」と欲望をむき出しにした歌詞は、先述した3曲目「No Me Sirve Más」の延長線上にあるものだ。物語は安易な着地を拒み、暴力的なまでのエネルギーを撒き散らしたまま幕を閉じる。カオスなアルバムに相応しいフィナーレだ。

カトパコは現在、この『FREE SPIRITS』を携えた大規模なワールドツアーの真っ只中。アルバムのコンセプトを反映した新たな衣装や演出、彼らの真骨頂である爆発的なパフォーマンスは、すでに各地で熱狂の渦を巻き起こしている。5月14日に地元アルゼンチンで行われたツアー初日のライブ動画が何本もアップされており、さらなる進化を遂げた二人の勇姿とバンドのアンサンブルは、見る者を否応なしに興奮させるはずだ。

そして10月、彼らにとって初のジャパンツアーがいよいよ実現する。「相思相愛の国」となった日本で、2人はどんなステージを披露するのか。来たる公演を100%楽しみつくすためにも、『FREE SPIRITS』を今から聴き込んでおきたい。濃密な情報量ゆえ、耳を傾けるたびに新たな発見が待ち受けているし、スペイン語がわからなくても口ずさみやすいフレーズが随所に散りばめられている。もちろん、国内盤に封入される歌詞対訳を読み込めば、カトパコの心情や世界観がより一層理解できるはずだ。

それでは最後に、筆者が4月に東京で実施した最新インタビューから、日本のファンに向けたメッセージを抜粋してお届けしよう。

 *

パコ:(日本のファンと)ありとあらゆる関係を築いていきたいですね。何度でも言いますが、日本は世界で一番大好きな場所ですから。フジロックのステージに立った日は、僕らにとって大いなる祝福でした。大勢の人たちが待ってくれていたのを目にしたときの驚き、一気に湧き上がった感情の爆発……大袈裟ではなく、人生最高のショウの一つだったと思っています。日本とはただただ最高の関係でいたいし、僕たちは日本が大好きだから、これからも来られるチャンスがあれば何度だって、何度でも足を運びますよ。

カト:単なるファンという関係を超えて、”amigo(友達)”を探しに来ているような感覚ですね。故郷から遠く離れた日本に来るたび、たくさんの友達を作って、文化を教えてもらったり、この美しい惑星の素晴らしい景色を教えてもらいたい。そんなふうに思っています。

※6月25日発売「Rolling Stone Japan vol.35」にカトパコ最新撮り下ろしインタビューを掲載。購入はこちら


カトパコ新作『FREE SPIRITS』全曲解説 「好きなものを全部詰め込んだ」カオスで赤裸々な到達点【CA7RIEL & Paco Amoroso】

カトリエル&パコ・アモロソ
『FREE SPIRITS|フリー・スピリッツ』
国内盤アルバム:発売中
対訳/ライナー付き
購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/freespiritsALjpRS
配信:https://ca7rielpaco.lnk.to/freespiritsjpRS

CA7RIEL & Paco Amoroso: Free Spirits World Tour
2026年10月21日(水)大阪・なんばHatch
2026年10月22日(木)東京・豊洲PIT
公演詳細:https://www.livenationhip.co.jp/all-events/ca7riel-and-paco-amoroso-tickets-ae1554639

King Gnuのドラム・勢喜遊とベース・新井和輝がゲスト参加、「THE FIRST TAKE」パフォーマンスもチェック

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