エリカ・バドゥが「過去」から提示した「未来」
ヘッドライナーのエリカ・バドゥと言えば、その素晴らしさ、かっこよさ、偉大さは枚挙にいとまがないが、彼女の音楽を語るうえではサンプリングやカバー、引用のセンスという魅力も欠かせない。新たなサウンドで時代を切り開いただけでなく、過去の音楽の魅力を最大限にプレゼンテーションしてきた人でもある。
例えば、デビュー作のライブ盤からすごい。マイルス・デイヴィス「So What」の引用から始まり、メリー・ジェーン・ガールズ「All Night Long」、ヒートウェイヴ「Boogie Nights」、トム・ブラウン「Funkin for Jamaica」を挟み、ロイ・エアーズ「Searching」、ルーファス&チャカ・カーン「Stay」へ、といった感じで、様々な曲を引用/カバーしながらライブを進めていく。ジャズ、ソウル、ファンク、ディスコを横断しながら物語を紡いでいくのが彼女のスタイルだった。
エリカ・バドゥのキャリアを振り返ると、彼女の生み出した楽曲の数々は、過去の偉大なソウル/ジャズの名曲と結びついている。『Baduizm』に収録された「Otherside of the Game」ではリロイ・ハトソンの「Lucky Fellow」をサンプリング。続く『Mama's Gun』の「Didn't Cha Know」では、タリカ・ブルーの「Dreamflower」を引用している。また、2003年の3作目『Worldwide Underground』にはドナルド・バードの「Think Twice」、2008年の4作目『New Amerykah Part One』にはロイ・エアーズがプロデュースしたランプ(Ramp)「The American Promise」のカバーをそれぞれ収録。そして2010年の5作目『New Amerykah Part Two』では、シルヴィア・ストリプリンの「You Can't Turn Me Away」をサンプリングした「Window Seat」が収められている。
エリカ・バドゥの楽曲とサンプル元をまとめたプレイリスト
ア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウル、ナズやギャング・スター、EPMDやピート・ロック&CLスムースといったヒップホップ黄金期のレジェンドたちは、サンプリングによって原曲の価値を引き上げるだけでなく、そのイメージをも拡張してきた。
エリカに心酔し、彼女にオマージュを捧げたアルバム『On & On』を2023年に発表したホセ・ジェイムズは、リリース当時こんなことを語っている。
《エリカ・バドゥはサンプリングに対する耳がとにかくいいよね。彼女はJ・ディラとスタジオでハングアウトしながら、そこでいろんな曲からサンプリングしていってトラックが出来ていったみたいだよね。「Didnt Cha Know」ではタリカ・ブルー「Dreamflower」をサンプリングしているんだけど、ちょっとしたサンプリングがものすごい曲になっている。彼女はプロデューサー的な感覚で音楽を作っていける人で、なんならバンドが要らないくらい。J・ディラやマッドリブ、カリーム・リギンスみたいに何万枚のレコードを持っていて、そのアーカイブのデータベースが頭の中にあって、そこからリサーチして音楽を作っている人たちとエリカはコラボしているんだけど、エリカ自身も彼らと同じような耳を持ったアーティストだと僕は思う
そしてエリカは、過去の曲のサンプリングによって生み出された完全に新しい音楽のうえに、新しいものを書いてきた。彼女はとんでもないソングライティングの技術をもっているんだ。彼女はビートのうえにスポークンワードとしてのラップを乗せるんじゃなくて、サンプリングされたフレーズのキーを考慮し、そこにあるハーモニーの構造を考えたうえでメロディを書くことができる。50年前に書かれた曲のフレーズのキーに合わせて新たなメロディを加え、それによって全く新しいものを生み出すってこと。僕はエリカの功績はそういうところにあると思ってる》
だから僕は、世界中でレコードを買う人が増えている今、エリカ・バドゥがこういった視点で聴かれるといいなと思っている。そうした入り口から、彼女の音楽は新しい音楽の世界を見せてくれるはずだ。
ラインナップを結びつけるJ・ディラの系譜
エリカ・バドゥがソウルやジャズの名曲を現代へと接続してきたアーティストだとすれば、ヒップホップの側から同じような役割を果たしてきたのがファーサイドだ。
1990年代、ATCQやデ・ラ・ソウルのようなサンプリングの楽しさを提示してくれたグループに夢中だったリスナーなら、誰もがファーサイドにもハマっていたはずだ。彼らの代表曲「Passin' Me By」におけるクインシー・ジョーンズ「Summer in the City」の使い方は、それを最もわかりやすく聴かせてくれる。ヒップホップを聴いたら、その元ネタが欲しくなってレコード屋に行きたくなる。そんな楽しさが詰まったアメリカ西海岸屈指のグループがファーサイドだ。
ファーサイドといえば、サンプリング・ソースの意外なセレクトも大きな魅力だ。初期を支えたJ・スウィフトや、のちに頭角を現すプロデューサーのJ・ディラ(当時はジェイ・ディー)らによるトラックメイクは、とにかく発想が自由で楽しい。「Passin' Me By」と並ぶ彼らの代表曲が「Runnin'」。ここでサンプリングされているのは、サックス奏者スタン・ゲッツとギタリストのルイス・ボンファによるジャズ・ボサノヴァの名曲「Saudade Vem Correndo」。ヒップホップとボサノヴァの組み合わせは当時としてはかなり珍しく、その瑞々しい感性は今聴いても新鮮だ。
ファーサイドのサンプリングはとにかく気が利いていて、ヴィブラフォンの音色が心地よい「Groupie Therapy」や「Bullshit」、さらにはピアニストのヴィンス・ガラルディが、スヌーピーでおなじみのアニメ『ピーナッツ』に提供した「Fly Me To The Moon」をサンプリングした「Splattitorium」など、ひたすら元ネタとの聴き比べをしたくなるようなグッド・サンプルばかりだ。
今回のラインナップをもうひとつの視点から結び付けている存在がJ・ディラだ。
そんな二組とともにSOUL CAMPに出演するのがノレッジだ。アンダーソン・パークとのデュオNxWorriesや、ケンドリック・ラマー、ジョーイ・バッドアスらの楽曲のプロデュースで知られる彼は、まさにJ・ディラの系譜を受け継ぐアーティストであり、現代におけるサンプリングの美しさを提示する名プロデューサーだ。
NxWorries「Suede」でのギル・スコット・ヘロン「The Bottle」の使い方はまさにその好例だろう。しかもノレッジは、J・ディラがエリカ・バドゥ「Didnt Cha Know」でサンプリングしたタリカ・ブルーの「Dreamflower」を使って実験的なトラック「Takira」を作るなど、様々な意味でJ・ディラの音楽をリスペクトしている。しかも、今年4月には日本への正式移住も発表。彼ほど今回のラインナップにふさわしい存在は他にいないだろう。
ノレッジがロサンゼルスから東京へと渡る人生の旅路に密着した短編映画《HEAR EVERYTHING》
そんなSOUL CAMPに、日本から最強の7inchヴァイナルDJ、DJ KOCO aka SHIMOKITAも名を連ねる。レコードでDJをすることの魅力や、ヒップホップとソウル、ファンクの関係をここまで目でも耳でも楽しませてくれるDJは、世界中を探しても彼しかいない。どんなプレイを見せてくれるのかも楽しみだし、上述してきた文脈を踏まえれば、彼もまたこのフェスにふさわしいDJと言えるだろう。
今回のSOUL CAMPは、例年になく一貫性のある企画だと感じる。レコード文化への関心が高まり、海外から逆輸入されたリスニングバー/レコードバーもひとつのムーブメントになっている今の日本にとって、これ以上ないほど相応しいラインナップが揃ったと言えるだろう。90年代からヒップホップを聴き、サンプリング・ソースやレアグルーヴ、フリーソウルを掘ってきた大人たちも、そして今、まさに日々ディグっている若いレコード好きにも、今年のSOUL CAMPを楽しんでもらえたらと思う。
「SOUL CAMP 2026」
2026年7月4日(土)東京・SGCホール有明
OPEN / START 14:00
出演:Erykah Badu / The Pharcyde / Knxwledge
DJ KOCO aka SHIMOKITA
DJ YANATAKE / MC YOU-KID
チケット:
スタンディング 17,000円(税込)※整理番号付
座席指定 25,000円(税込)
※中学生以下は入場無料(スタンディングエリアは後方のみ)
購入:https://eplus.jp/soulcamp/
公式サイト:http://soul-camp.jp
An Intimate Night with Erykah Badu
2026年7月1日(水)ビルボードライブ横浜
2026年7月6日(月)ビルボードライブ東京
2026年7月8日(水)ビルボードライブ大阪
[1st] 17:30 START / [2nd] 20:30 START
*全公演ソールドアウト
ビルボードライブ公式HP:https://www.billboard-live.com/


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