タイトルの疑問符に込められたもの
スティーヴ・レイシーというミュージシャンを語る時、彼を修飾するフレーズはたくさんある。まだ高校生の時にシド(Syd)と出会い、ギタリストとしてジ・インターネットのメンバーになった。18歳の時に、ピュリッツァー賞を受賞したケンドリック・ラマーのアルバム『DAMN.』に収録された「PRIDE.」を共同プロデュースし、その際に使われたのはなんとiPhone 6とGarageBandのアプリだった。さらに24歳になった2022年には自身の曲「Bad Habit」が世界中でヴァイラル・ヒットとなり、ビルボード・チャートの首位を獲得、Spotifyにおいては17億回以上の再生回数を記録した──などなど。ソロ・アーティストとしては2019年の1stアルバム『Apollo XXI』を皮切りに、これまで3作をリリース。そして今回の『Oh yeah?』は4作目のオリジナル・アルバムとなる。
アルバムをリリースするたびに、スティーヴは若々しい音楽性に自身のプライベート・ストーリーも照らし合わせ、ポップスとオルタナティブ、そしてヒップホップやソウルの間を揺蕩いながらそのクリエイティビティを提示してきた。一筋縄ではいかない音楽家だ。そんな彼の最新作、『Oh yeah?』は、タイトルからして彼の皮肉っぷりが示されているように感じる。肯定的で享楽的なイエスという意味の「Oh Yeah!」ではなく、あくまで「Oh yeah?」と、疑問符が添えられたタイトル。ここで発せられる「オーイエー」からは、あっけらかんとした「いいね!」ではなく、「そうなの……?」と訝しがるスティーヴの表情が読み取れるようだ。アートワークには、表情を読み取りにくい伏し目がちな彼の姿がフィーチャーされている。
アルバムのオープニングを飾るのは、表題曲となる「oh yeah?」だ。「Bad Habit」にも参加していたシンガー、フーシェ(Fousheé)をコーラスに迎え、オルタナティブで開放感のある一曲。しかし、冒頭から歌われるのは〈人生はビッチ、それでもまた生きていく〉というどこか投げやりなフレーズ。かつてラッパーのナズは〈Lifes a bitch, and then you die(人生はクソ、そして最後は死ぬ)〉とラップしてストリートの非情っぷりを表現したが、ここでのスティーヴはのっけから〈クソみたいな人生でも生きていかねばならない〉と厭世的に口を開く。曲は〈ここから外に出たい、僕らは死ぬには若すぎる〉と続く。虚しさと希望が同居する、その曖昧な主張がこのアルバムのマニフェストとなり、我々リスナーはその扉をそっと開くことができるのだ。
「oh yeah?」は公開中の映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』字幕版エンドソングとしても話題に
Rolling Stone US版のカバーストーリーで、スティーヴ・レイシーは、レーベルでこのアルバムのデモ試聴会を行った時、みんなからは「悲しいアルバムだね」という反響を得た、と語っていた。そして、レーベルからは「もっと明るい曲を」と頼まれたが「”ファック”って思った」とも。「Oh yeah?」のみならず、アルバムを通して語られるスティーヴの言葉に耳を傾けると、うまくいかない恋愛のいざこざやフィットしづらい社会、押さえつけることが難しい悲しみといった感情にどっぷりと引き込まれそうになる。しかし、サウンドにおける絶妙なバランス感、そして、曲の中に挟み込まれるひと匙の希望的な歌詞が、絶望の淵のぎりぎりのところで我々を思いとどまらせてくれるのだ。
新作リリースに際して語られた別のRolling Stone誌インタビューでは、今作はこれまで以上に”書くこと”について考えたアルバムだとも語っていた。そのソングライティング作業を「忍耐強く、徹底的で、直接的で、かつユーモラス」だと表現し、「自分のための新しい言語を完全に設計している感覚」とも。
SZA、エリカ・バドゥらの声が物語を拡張
「doom」では、悪魔や終末といったフレーズを用いながら、自分はロクでもないヤツだ、と歌う。しかし、曲の最後では〈昔の俺は、本当に嫌なヤツだったけど、本当の俺はそうじゃない。早く、そんな自分を誰かに見せたい〉と、捻くれながらも明るい未来を滲ませる。「the feeling」や「lovesexdrugbomb」では激しい自己嫌悪と恋慕を燃え上がらせるも、恋人へのストレートな愛情を吐き出し、より良い二人の関係性について想いを巡らせる。その曖昧さがアルバムに奥行きをもたらしている。
今回の『Oh yeah?』において、ストーリーの語り部はスティーヴ・レイシー一人だけではない。アルバムからの2ndシングルとしてリリースされ、ジ・インターネットのマット・マーシャンズもプロデュースに携わった「is it cool?」にはSZAが参加している。インタビューで彼は「自分の悪循環を止めてくれるような女性のボーカルが必要だった」と語っている。その役割が、SZAに課せられたのだった。
そして、反響するスロウなボーカルがスピリチュアルさを演出する「pure colour」には、エリカ・バドゥが参加。ここでのスティーヴは自己喪失と倒錯した渇望を歌う。そこに登場するのが〈もっと軽くなりたい。自分の中には、自由に羽ばたける自分がいるとちゃんと分かってる〉と静かに歌うエリカだ。SZAと同様、スティーヴ本人とは逆とも言える視点から、ストーリーを導く語り部としての役割を果たしている。「lovesexdrugbomb」では、去り行く恋人とまたやり直したい、と歌うスティーヴと溶け合うように、セシル・ビリーヴが〈私たちの物語はずっと続いていく〉と、陶酔感を纏いながら歌う。ゲスト・アーティストをこれみよがしに並べることはなく、それぞれのアーティスト性と自身の楽曲を重ね合わせるようにして、物語を拡張しているのもまた、『Oh yeah?』の、そしてスティーヴならではのコラボレーションだ。
『Oh yeah?』は、派手なヒット・ソングを並べたアルバムではない。爆発的にヒットした「Bad Habit」以降、彼が実際に抱えたプレッシャーに対するスティーヴならではの葛藤、そしてリアルタイムに描かれた紆余曲折が示されたアルバムだ。
そんな『Oh yeah?』を携え、スティーヴ・レイシーは8月、約2年ぶりの単独来日公演を豊洲PITで開催し、その後はサマーソニックの東京・大阪両ステージにも出演する。本作で示される、いびつながらもリスナーに寄り添うような言葉たち、そしてスティーヴの等身大の息遣いがステージでどう再現され、どんな瞬間を共有できるのか、期待が高まるばかりだ。
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スティーヴ・レイシー
3rdアルバム『Oh Yeah?|オー・イェー?』
配信中
再生・購入:https://stevelacyjp.lnk.to/OhYeahalRS
国内盤:発売中
価格:税込3,080円 歌詞・対訳・解説付き
SUMMER SONIC EXTRA(単独公演)
2026年8月13日(木)東京・豊洲PIT
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET オールスタンディング¥12,000- (税込・ドリンク代別)
公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/steve-lacy-ssextra/
SUMMER SONIC 2026
2026年8月14日(金)・15日(土)・16日(日)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ
大阪会場:万博記念公園
※スティーヴ・レイシーは8月15日(土)東京会場、16日(日)大阪会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/
チケット購入:https://www.summersonic.com/tickets/tokyo/
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