洋楽/邦楽の垣根を超え、グローバル・ポップの祭典として各国のアップカミングなスターが出演した今年のサマーソニック。JENNIE(BLACKPINK)やLE SSERAFIMをはじめとしたK-POPアーティストはもちろんのこと、BINIやSB19といったフィリピンからのP-POPのアクトなど自国で強固なファンベースを築いた面々がラインナップに名を連ねていた。
その象徴となるのが東京・DAY 2でのメキシコ勢の躍進だ。

コロンビアのスーパースターであるフェイドのキュレーションによってタイニーやボンバ・エステレオが出演した昨年度の流れを汲む形で、今年も東京・DAY 2のBEACH STAGEにはラテン・ミュージックの現在地を示すようなアクトが集結。名実ともにメキシコ音楽シーンのトップに君臨するカリン・レオンのキュレーションにより、デ・ラ・ロサ三兄弟の縦横無尽なパフォーマンスと感性によって「オルタナ・ラテン」の急先鋒として注目を集めるラテン・マフィア、そして昨年のラテン・グラミーにて最優秀新人賞を獲得したパロマ・モーフィーが来日を果たした。

レゲトンを中心としたダンス・ミュージックの文脈を重視した昨年度とは一線を画す形で、コリード(Corrido)に代表されるリージョナル・メキシカーノ(Regional Mexicano)のような大衆歌謡の文化が咲き誇ったメキシコ勢のステージ。最前列にはソンブレロを被り、メキシコ国旗を掲げてシンガロングする観客の姿もあった。「ラテン=レゲトン」という単純な図式に収まらない、よりローカルな視座に根差したキュレーションがサマーソニックで展開されたと言えるだろう。

ラテン・ポップの外側から現れた異色のスター、ウンベ

そんなメキシコ勢の中でも異彩を放ち、グローバル・スターの椅子に狙いを定めるシンガーがいる。夜の訪れと共にBEACH STAGEがラテン・ミュージックに染まる少し前、夕方のPACIFIC STAGEに彼は出演していた。現在25歳のSSW、ウンベ(HUMBE)だ。

メキシコ第二の都市であるモンテレイ出身のウンベルト・ロドリゲス・テラッサスによるソロ・プロジェクト=ウンベ。音楽一家で育った彼は、メキシコのポップ・ミュージックというよりも、むしろアメリカのR&Bやネオソウルに没頭した。最大のインスピレーションとなったのはビヨンセであり、フランク・オーシャンやシザ、さらにダニエル・シーザーやマイリー・サイラスといったアーティストを高校時代に聴き漁ったのだという。


その経験は2020年のヒットシングル「Confieso」で結実する。無垢ながらも芯のある歌声は瞬く間にメキシコ国内で話題になり、その翌年にはラテン・グラミーにて最優秀新人賞にノミネート。実の兄とベッドルームで完成させたというデビュー作『Entropía』で彼はパンデミック以降のメキシコ音楽シーンで本格的に台頭した。

「傷つきやすさ」というオルタナティブ

ウンベの特徴として挙げられるのがヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)の肯定だ。これまでにも、ウンベはしばしばメキシコの大衆歌謡におけるマチズモ(男性優位性)について言及し、そのようなカルチャーに自分の居場所はないと語っている。彼がむしろ親近感を抱いているのは、先述したフランク・オーシャンやマイリー・サイラスといったアーティストたちだ。実際に昨年のメット・ガラのアフターパーティーでマイリー・サイラスと遭遇したウンベは、その感動を「まさか『ハンナ・モンタナ』と肩を並べることになるなんて、全く想像してなかった!」とWonderlandでのインタビューで表現していた。

その感性を反映してか、ウンベの楽曲はどこかソフトな響きを伴っている。例えば日本の金継ぎ文化から着想を得たその名も「KINTSUGI」は、デンボー(レゲトンで主に使用されるリズムパターン)を基にごくミニマムなボーカルが乗るナンバー。〈君が触れるものは黄金になる〉とロマンチックなラブソングを歌いながらも、後半では〈金継ぎで僕の傷を癒やして〉とまさにヴァルネラビリティに向き合っている。また自身最大のヒットソングであり、メキシコの国民行事である死者の日(ディア・デ・ムエルトス)の新たなテーマソングとして親しまれているというバラード「fantasmas」では〈大きな夢から僕は目覚めたくない/そして現実は少しずつ僕を裏切っていく〉とメランコリックな心情を吐露する。

赤裸々な姿勢がメキシコの音楽シーンにおいてはオルタナティブな存在として相対化され、ティーンを中心に高い注目を集める中、ウンベは2024年発表の『ARMAGEDÓN』より長年所属していたソニー・ミュージック・ラテンを離れ、インディペンデントとして活動することを明らかにした。
同時期に注目を集めていたラテン・マフィアとのコラボ・シングル「Patadas de Ahogado」やメキシコシティでの大規模公演など、トップ・アーティストとしての階段を上り始めたタイミングで、彼は自身の作家性をより追求する道を選択した。

そうして2025年に発表した全22曲の大作『DUEÑO DEL CIELO』は、ジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールといった2010年代のインディー・シーンを象徴するSSWからの影響をラテン・ポップに昇華させた傑作となり、メキシコを代表する本格派シンガーへと成長を遂げた。

サマーソニックで示した圧倒的なスケール

今回のサマーソニックでの来日公演は、その『DUEÑO DEL CIELO』ツアーの一環であり、ウンベにとって初となるアジアでのステージとなった。PACIFIC STAGEには雲のオブジェが置かれ、白い宇宙服を纏ったバンドメンバーと共に静謐なムードを演出している。

「傷つきやすさ」を肯定するメキシコの逸材HUMBE、サマーソニックで示した「ラテン・オルタナティブ」の新しい可能性


実際にステージを目の当たりにして驚いたのは、その圧倒的なスケール感だ。まず何よりも、ウンベというポップスターの存在感が舞台の上で際立っている。例えば日本に藤井 風が、アルゼンチンにトレノがいるように、20代にして各国のシーンを代表するキャラクターにまで成長したアクトがいる。ウンベも間違いなくその一人だ。ラグジュアリーな雰囲気に満ちた黒いセットアップを纏い、深くハットを被って歌う様には風格が漂っている。メキシコからのダンサーを引き連れてハラベ・タパティオ(ハットを使って魅せるメキシコの伝統舞踊)からインスパイアされた激しい踊りを披露すると、即座にフロアから歓声が上がる。

Humbe凄すぎる、サマソニではありえないサブベースが鳴ってるし泣けるほど伊達男
藤井風の今のステージの完成系にも近いポップスター像、Jamns Blakeフォロワーなのも頷ける完璧なサウンドデザイン https://t.co/EUvk8L21hS pic.twitter.com/OGmdXRimiD— しろみけさん / 風間一慶 (@nemnem0141) August 15, 2026筆者が撮影したウンベのステージ

そのスケール感に拍車をかけたのがこの上なくリッチなサウンドだ。例えばデビュー作『Entropía』からのナンバーとして披露された「EL POETA」はミニマムなビートを軸にしたオルタナティブ・R&Bとして、PACIFIC STAGEを覆い尽くすほどの重低音でジャックする。
音数もBPMも控えめなのだが、ライブ用にアップデートした音響設計によりヘヴィに響く。ウンベ自身がアーティストとしてジェイムス・ブレイクをフェイバリットに挙げるのも納得の迫力だ。

「傷つきやすさ」を肯定するメキシコの逸材HUMBE、サマーソニックで示した「ラテン・オルタナティブ」の新しい可能性


日本で披露するにふさわしい「KINTSUGI」や飛行機から望む雲上の景色をVJで映し出した「VETIVER Y AMARETTO」など、「ショーケース」や「顔見せ」といった類の言葉で括るにはあまりにも規格外なステージを展開していくウンベ。ハイライトとなった「VEGAS」では〈ラスベガスでお金を失うみたいに/僕はすべてを失うだろう〉と自嘲しながらも、ソン由来の豊かなリズムを取り入れた先鋭的なラテン・トラップで会場を揺さぶった。

ラストの「fantasmas」で、サングラスもジャケットも脱いだ彼は、メキシコ国旗を身体に巻きつけ、真っ白なステージで高らかに歌い上げた。マリアッチ(メキシコの伝統音楽を演奏する楽団)によるしとやかな伴奏が響く。メキシコの次世代を担うライブ・アクトとして確かな実力を誇りつつも、ヴァルネラビリティを引き受けて自らの道を進み続ける表現者の姿がそこにはあった。終演後には万雷の拍手がウンベを迎える。現行のメキシコ音楽シーンの躍進を紹介した今年のサマーソニックにおける、シンボリックなシーンの一つであった。ウンベの提示するオルタナティブなラテン・ミュージックが2026年の日本において鳴り響いた意義は大きい。

「傷つきやすさ」を肯定するメキシコの逸材HUMBE、サマーソニックで示した「ラテン・オルタナティブ」の新しい可能性


「傷つきやすさ」を肯定するメキシコの逸材HUMBE、サマーソニックで示した「ラテン・オルタナティブ」の新しい可能性


Photographs by: Krista Garza (@treslineas.png / @kristagarzaa) PR: C13 Agency (@c13agency)

HUMBE
Instagram:https://www.instagram.com/humbe/
HP:https://www.humbe.co/
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