デビューアルバム『COME CLOSER』を携え、日本初ライブとなったフジロックでは、トムの強烈なダンスビートとオーロラの幻想的な歌声が融合。音源を遥かに上回る没入感で、熱狂の渦を巻き起こした。あの夜、苗場で何が起きていたのか。TOMORAのライブが圧巻だった理由を振り返ってみたい。
1.トムとオーロラの化学反応、「三位一体」のステージ
TOMORAの物語は、2016年のグラストンベリー・フェスティバルから始まった。オーロラのパフォーマンスを初めて観たトムは、その歌に圧倒され、「何か一緒にやりたい」と本人へメールを送ったという。その後、オーロラはケミカル・ブラザーズのアルバム『No Geography』(2019年)に収録された3曲へシンガー/共作者として参加。その後トムは、オーロラの『What Happened To The Heart?』(2024年)にプロデューサーとして貢献し、お互いの制作を通じて絆を深めた。
ケミカル・ブラザーズの『For That Beautiful Feeling』ツアーを終え、創作面での充電を必要としていたトムが、「いま世界でいちばん一緒に音楽を作りたい人」として思い浮かべたのがオーロラだった。締め切りも完成形も決めず、ただ同じスタジオで音を鳴らし、互いの反応を確かめていく。そうして生まれた曲たちは、やがてオーロラが「ひとつの旅を描いているように思えた」と語るほど、不思議なまとまりを帯びていった。
さらに、ライブにおける重要人物がアマリー・ホルト・クライヴ(Amalie Holt Kleive)。ベルゲンのグリーグ・アカデミーでジャズ・ボーカルを学んだシンガーソングライター/プロデューサーで、2022年頃からオーロラのライブバンドに参加。TOMORAではバックボーカルにとどまらず、パーカッションや振付も担い、オーロラの分身、もしくは共犯者のように踊りながらステージを縦横に動き回る。
フジロックのライブでは、メガホンやドラムを使った演出や、アマリーがオーロラを抱えて運ぶ場面など、演劇的ともいえるアプローチも大きな話題を集めた。ライブの演出を手がけるのは、長年ケミカル・ブラザーズの映像世界を構築し、オーロラのツアーにも携わってきたアダム・スミス。さらに、英国のフィジカル・シアター集団「Gecko」を率いるアミット・ラハヴが振付を担当している。TOMORAのショー全体は三部構成となっており、ひとつひとつの動作に意味を持たせた「音楽劇」として設計されているのが大きな特徴だ。そして、特筆すべきは三位一体のコンビネーション。3人それぞれの個性が有機的にシンクロすることで、TOMORAならではのマジカルが生まれている。
Photo by Masanori Naruse
2. 熱狂をもたらす「2つのアンセム」
フジロックのライブで幕開けを告げたのは、TOMORAのデビュー・シングル「RING THE ALARM」。宇宙信号のようなデジタル音、身体を揺さぶるキックドラム、そしてオーロラの切迫した歌声。
この曲はトムが持っていたラフなアイデアを土台とし、ふたりの直感から発展していった。彼が「この曲から警報ベルが聞こえる」とオーロラに伝えると、彼女は戸外へ飛び出し、世界に「私と踊ってちょうだい!」と呼びかけながら踊るうちに、メロディが生まれたという。さらにオーロラによれば、「アクティビズムにもつながるし、『このままでいいの?』と問いかける」意味も込められている。
もうひとつのアンセムが「SOMEWHERE ELSE」だ。浮遊感のあるオーロラのボーカルと、重心の低いビート、陶酔感を誘うシンセが重なり、やがて一気に視界が開けるような祝祭感へとつながっていく。なかでも際立っているのがキャッチーなメロディ。トムは、オーロラが最初に歌った瞬間から、その旋律が頭を離れなかったと振り返っている。
フジロックでは中盤に披露され、鳥のさえずりとスキャットを経てイントロが聞こえ始めると、「待ってました」とばかりに大歓声が上がった。ライブでは反復するビートがより強調され、次第に解放的なトランスへと変貌していく。そこへオーロラの天まで伸びていくような歌声が重なり、会場の高揚感をさらに押し上げる。
3. ケミカル・ブラザーズのファンも唸らせるダンスビート
TOMORAのライブには、トムとオーロラが共有してきた歴史も組み込まれている。フジロックでは、ふたりの共作によるケミカル・ブラザーズの「The Universe Sent Me」と「Eve Of Destruction」も披露。なかでも強烈だったのが、「SOMEWHERE ELSE」から畳みかけるようにつながった後者だ。
この曲は、日本の特撮映画を思わせる映像も見どころ。オーロラ自身も、SF的なロボット風コスチュームで映像内に登場する。アダム・スミスが共同監督を務め、もともとケミカル・ブラザーズのライブ用ビジュアルとして制作した映像だけに、ビートと映像、ストロボのシンクロは抜群だ。フジロックでも、トムの強烈なビートと映像、オーロラとアマリーの寸劇が重なり合い、視覚と聴覚の両面から観客を沸かせていた。
フジロックではTOMORAのステージ後、トムが深夜の苗場食堂でDJセットを敢行。「Hey Boy Hey Girl」などケミカルの楽曲を惜しみなく投下し、往年のファンだけでなく若い世代も熱狂させた。近年は90~2000年代のダンス・ミュージック再評価が進むなか、ケミカルにも再び注目が集まっている。2015年の「Go」がNetflix映画『エイペックス・プレデター』への使用をきっかけに、バイラルヒットとなったのも記憶に新しい。
実際、TOMORAで鳴らされるトムのビートは、ケミカルの過去を懐かしむためのものではなく、その先を更新する現在進行形のサウンドとして響いてくる。身体を揺らさずにはいられないキックの推進力、ここぞという瞬間にフロアの熱量を引き上げるDJ的な感性。ケミカルで長年培ってきたダンス・ミュージックの身体性が、TOMORAという新たなフォーマットで更新されている。
「Eve Of Destruction」パフォーマンス中の写真(Photo by Masanori Naruse)
4. オーロラの声と身体が生む、演劇的な没入感
トムはRolling Stone Japanのインタビューで、オーロラの歌唱について「即興的に歌っていながら、音程やタイミングが完璧」と絶賛している。自由奔放な直感と、精密なテクニック。その両方を兼ね備えていることが、TOMORAならではの独特なバランスを生んでいる。そんなオーロラの魅力は「透明感」「神秘的」といった言葉だけでは捉えきれない。
高揚感に満ちたダンス・トラックのさなか、ふいに儀式のような崇高な時間が訪れる。アルバムのタイトル曲「COME CLOSER」では、低くうなるシンセの上で、オーロラが〈もっと近くに来て〉と呼びかける。その言葉に込められているのは、分断や恐怖によって人と人との距離が広がる時代に、それでも互いをひとりの人間として見つめようとする願い。祈りのようなロングトーンはどこまでも伸びていき、切実なメッセージを真摯に訴えかける。
フジロックではそこから、まだ音源化されていない新曲「WHAT DO WE GOT」も披露された。
さらに、背後のスクリーンには、リアルタイムのカメラ映像に加工を施したビジュアルが映し出される。アダム・スミスによると、単に演者の姿を映すのではなく、音楽と同じように映像にもエフェクトや変形を加え、その場で別の表情へと変えていくことを意識しているという。そこに抽象的な映像も重なり、ステージ上の現実とスクリーンの世界が絶えず交錯する。視覚的な刺激も圧倒的で、ライブという枠を超えた総合芸術のような凄みがある。
7月27日(月)放送『DayDay.』で「COME CLOSER」を世界初テレビ生披露
5. 「IN A MINUTE」──ピンク色の猫と10分超のトリップ
TOMORAのライブでもっともクレイジーだったのが、ラストを飾る「IN A MINUTE」。アルバムのクロージング曲として発表されたのち、ライブを重ねるなかで徐々に長尺化。少し前には、10分超に拡張されたパフォーマンス映像「LIVE FROM THE STUDIO VERSION」も公開された。
この曲のビジュアルを象徴する存在が、鮮やかなピンク色の猫だ。アダム・スミスがショーのために集めた膨大なイメージの中から、トムとオーロラが直感的に選んだもので、ピンクとシアンはTOMORA全体を貫くシグネチャーカラーにもなっている。
フジロック終盤に「IN A MINUTE」が始まると、反復するビートと明滅する光、オーロラの声が延々と循環し、どんどん時間感覚が揺さぶられていく。ユーモラスな猫のビジュアルも、反復のなかで次第に不穏さを帯び、WHITE STAGE一帯を奇妙なトランス状態へといざなった。爆音のビートに心も身体も揺さぶられ、オーロラとアマリーは不適な笑みを浮かべながら踊り、観客は両手を掲げてウェイブをつくる。そして曲が終わると、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
当日の映像をあらためて確認したところ、フジロックでの「IN A MINUTE」は15分近くまで拡張されていた。あの異様なまでの多幸感は、間違いなく生でしか味わえない。
6. トムとオーロラの記憶が交差する東京ガーデンシアター
再来日公演の舞台となる東京ガーデンシアターは、TOMORAのふたり(双方のファン)にとって馴染みのある会場だ。2024年2月には、ケミカル・ブラザーズが同会場で3日間にわたる来日公演を開催。翌年2月にはオーロラもここで単独公演を行い、新しい学校のリーダーズのサプライズ出演も話題を呼んだ。
フジロックでは音響面が実に素晴らしかったが、東京ガーデンシアターも負けていない。8000人近くを収容する大型会場ながら、ステージから客席までの最大距離は約54メートルに抑えられており、常設のラインアレイ・スピーカーやサブウーファーに加え、バルコニー下まで音を届けるシステムを備えている。身体に響く低音と繊細なハーモニー、その両方をしっかり味わううえで、都内近郊では理想的なベニューと言えるだろう。
TOMORAのライブは、アリーナとスタンド指定席で異なる楽しみ方ができそうだ。まずスタンディングなら、トムの強烈なビートを全身で浴びながら、フロアの熱気を存分に体感できる。一方で、ここまで触れてきたように、TOMORAのショーは振付や映像演出も大きな見どころ。ステージ全体を俯瞰することで見えてくる仕掛けも多い。踊り倒すもよし、演出の細部までじっくり堪能するもよし。どちらを選んでも最高の体験になるはずだ。
さらに、TOMORAのライブは、ステージを重ねるごとにセットリストを組み替えるなど、今も進化を続けている。トムとオーロラは親日家として知られ、フジロックでの来日中にはラーメンを楽しみ、細野晴臣との対面も実現。「あなたたちはそのままで完璧」に象徴されるオーロラの日本語MCも、来日を重ねるたびに磨きがかかっている。
そう考えると次の来日に向けて、新たな構成や演出のアップデート、さらなる未発表曲、日本のファンへのサプライズが用意されても不思議ではない。フジロックで見逃してしまった人はもちろん、あの熱狂をもう一度味わいたい人にとっても、東京ガーデンシアター公演は絶好の機会になるはずだ。
TOMORA 2026 LIVE IN TOKYO
2026年10月1日(木)東京ガーデンシアター
開場18:00/開演19:00
チケット料金:
アリーナ・スタンディング:17,000円
S指定席:17,000円
A指定席:15,000円
公演詳細:https://smash-jpn.com/tomora2026/
TOMORA FUJI ROCK FESTIVAL26 セットリスト
https://umj.lnk.to/TOMORA_FRF26
TOMORA
『COME CLOSER』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/TOMORA_CC_AL


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