ターゲットを丸裸にして犯罪グループに売り渡す! トクリュウを...の画像はこちら >>

5月に強盗殺人事件があった栃木県上三川町の住宅前。実行役として16歳の高校生が逮捕されたことが衝撃を呼んだ

空き巣や強盗のターゲットに関する情報を整理・統合し、犯罪組織に売りさばく「案件屋」。

ただの情報屋ではなく、犯罪の計画まで立案する彼らは、いったい何者なのか? 関係者らへの取材で、複数の犯罪グループを支える案件屋の危険な実態が浮かび上がった。

* * *

【「案件潰れるだろ、行け」】

今年7月、3人の男らがそれぞれ別の空き巣や強盗に関与したとして次々と逮捕された。

ひとつ目は昨年12月に東京都立川市の住宅から現金約930万円と計約493万円相当の物品が盗まれた事件、次に昨年11月、茨城県筑西市の事務所兼倉庫から4万円相当の物品が盗まれた事件。そして今年3月、東京都江東区の住宅兼事務所に侵入した男らが、住人の夫婦から金品を奪おうとした強盗未遂事件だ。

各事件では窃盗や住居侵入などの容疑でほかに複数人が逮捕されているが、この3人の男はある共通した役割で事件に関わっていた。その役割が「案件屋」だ。

捜査情報に詳しい全国紙社会部記者はこう説明する。

「主に空き巣や強盗などの標的となる人物や場所の詳細情報を集め、それを『トクリュウ』(匿名・流動型犯罪グループ)などに提供して対価を得るのが案件屋です。

具体的には、『この家には2000万円のタンス預金がある』『実行役は5人必要』といったように、情報を基にした犯罪の計画=『案件』を〝商品〟にしているとみられます。

5月に栃木県で起きた闇バイトが実行役の強盗殺人事件をはじめ、案件屋が関わったとみられる事案はここ1、2年で繰り返し発生しています。その中で、立川市の件は案件屋が逮捕された初めてのケースとされています。

案件屋の男は被害者の自宅の間取りを手書きした上、現金の保管場所などの詳細な情報も指示役に提供しており、犯行後、報酬として現金約400万円を受け取っていたことが明らかになっている。

また犯行前には指示役に対し『成功したらもっと高額な案件も紹介する』『案件潰れるだろ、行け』といった、実行を促すメッセージを送っていたようです」

ターゲットを丸裸にして犯罪グループに売り渡す! トクリュウを支える闇の情報ブローカー「案件屋」の実像
案件屋は空き巣や強盗のための計画を複数の指示役に売り込み、成功したグループから報酬を受け取っているとみられる。一般的なトクリュウの事件での首謀者の役割を、案件屋が代わりに担っている形だ

案件屋は空き巣や強盗のための計画を複数の指示役に売り込み、成功したグループから報酬を受け取っているとみられる。一般的なトクリュウの事件での首謀者の役割を、案件屋が代わりに担っている形だ

トクリュウによる詐欺や強盗において、SNSなどで闇バイトを募り、末端の実行役などとして参加させる「犯罪の分業化」は長らく指摘されてきたが、犯罪の核心部であるターゲット情報の〝外注〟は新しい潮流と言えそうだ。

そんな新しい裏稼業「案件屋」が生まれた背景について、組織犯罪に詳しい社会学者の廣末 登氏が解説する。

「トクリュウによる従来の空き巣や強盗では、首謀者がターゲットの選定から犯行計画の立案までを行なって指示役に伝え、指示役はSNSなどでリクルートした末端に犯行を担わせました。そうすることで、首謀者は逮捕されるリスクを負わずに犯罪収益を手にすることができたのです。

しかし、匿名性が高いといわれてきたテレグラムやシグナルなどの通信アプリに対する警察の解析技術が向上したことで、芋づる式に首謀者まで逮捕されることが多くなってきた。

そこで、ターゲットに関する情報を『案件』として複数の犯罪グループに提供し、自身は犯行にはタッチせず、成果報酬を受け取るというスキームが生まれました。

これまで逮捕された案件屋はリスク管理がずさんだっただけで、摘発を免れている者は多数いるものと思われます」

ターゲットを丸裸にして犯罪グループに売り渡す! トクリュウを支える闇の情報ブローカー「案件屋」の実像
犯罪組織が用いることが多い通信アプリのシグナルとテレグラム。しかし警察の解析技術の向上で、これらを使っていれば逃げきれる局面ではなくなった

犯罪組織が用いることが多い通信アプリのシグナルとテレグラム。しかし警察の解析技術の向上で、これらを使っていれば逃げきれる局面ではなくなった

【「カモリスト」を案件屋が活用】

ここで気になるのが、案件屋らはどのようにターゲットの情報を収集しているのかという点である。

「『カモ』の個人情報を買い取る業者がいる」

そう証言するのは、2年前にとある悪質商法に関わり略式起訴を受けた30代の男性。

「私がかつて加担していたのは、水回り修理やエアコン修理で相場よりも高い金額を請求する、いわゆる『ぼったくり』。それと並行してやっていたのが、情報の販売です。

老人だけで住んでいて、ぼったくり価格でも気前よく払ってくれる世帯の情報を、1件2万円でまとめて買い取ってくれる〝業者〟がいました。仕事柄、修理や見積もりのために家の中に入るので、間取りがわかるんですよ。それに相手との雑談から、家族構成や在宅時間も割り出せる。

そのときは、ほかのぼったくり業者に活用されるのだろうと思っていたのですが、しばらくして私が情報を売った家に空き巣が入ったと聞き、ヤバいと思って手を引きました。ですのでそれ以上は知りませんが、私が業者に渡した情報を案件屋が利用した可能性もあるのではないでしょうか」

一方、前出の社会部記者は、特殊詐欺業界で蓄積された情報が利用されている可能性を指摘する。

「未遂・既遂を含め、特殊詐欺グループがターゲットから聞き出した資産の状況や家族構成、在宅時間帯などをまとめ、『カモリスト』としてほかのグループに提供していることはこれまでにも知られています。

そうしたリストを叩き台に案件屋が独自の調査などで情報をブラッシュアップし、空き巣や強盗を企てるトクリュウに提供している可能性もある。事実、空き巣などの被害者の中には、その直前に特殊詐欺の未遂被害に遭っていたケースも少なくありません」

ターゲットを丸裸にして犯罪グループに売り渡す! トクリュウを支える闇の情報ブローカー「案件屋」の実像
トクリュウの強盗、窃盗対策のため、腕時計店を訪問指導する岡山県警の警官ら。年々増える被害に対策が急がれている

トクリュウの強盗、窃盗対策のため、腕時計店を訪問指導する岡山県警の警官ら。年々増える被害に対策が急がれている

警察庁の調査によれば昨年、詐欺グループなどが家族構成や資産の有無を探るためにかけた「予兆電話」の把握件数は、全国で約33万件に上っている。こうして集められた情報の中には、詐欺グループの手元を離れ、案件屋に行き着くものもあるだろう。

ただ、ターゲットの個人情報を案件屋に媒介しているのは裏社会の人間だけではなさそうだ。

「キャバクラで金持ち自慢したら空き巣に入られたという話は珍しくありません。

中には、高級車のセールスマンや高級百貨店の外商販売員などから情報が漏れたと疑われる事案もあります」(廣末氏)

さらには、被害者の親族から案件屋に情報がもたらされていた可能性もあるという。

「昨年以降、首都圏で起きた複数の強盗、空き巣事件には、被害者の親族に反社から金を借りて首が回らなくなっていた債務者がいたという共通点がある。借金のカタに親族の情報を取られ、それが案件屋を通して実行犯の手に渡った可能性については、一部の捜査員も視野に入れて捜査に当たっているようです」(社会部記者)

【バラバラの情報がAIで統合され......】

また、過去に流出した複数の個人情報が統合されて犯罪に利用される可能性を指摘するのは、営業電話やDM送付に利用される個人情報を販売する「名簿業」の男性だ。

「われわれが扱う名簿はこれまで、『住所』『資産状況』『家族構成』など項目別になっており、特定の住所に住む人の情報が統合された名簿というのはあまりなかった。

しかし、今はAIを使って複数の名簿をスクリーニングして、異なる情報が同じメールアドレスにひもづけられていれば、各項目が統合された名簿を新たに作成することができるようになった。そうして情報精度が上がった名簿が、案件屋に利用されている可能性は高いです」

まさにあの手この手で情報を獲得する案件屋だが、彼らを経由して犯罪のターゲットにされることには特有の恐ろしさもある。前出の廣末氏はこう語る。

「案件屋は報酬を獲得する確率を高めるため、同じターゲットの情報を複数の犯罪グループに提供していることが多いです。そのため同じ人が複数回、タタキ(強盗)の被害に遭うというケースも少なくありません。

組織犯罪の担い手としてヤクザが幅を利かせていた時代なら、〝出がらし〟の情報を売ることは相手のメンツを潰しかねないのでご法度でした。案件屋は、相手がトクリュウだからこそ成り立つスキームだと言えるでしょう」

ターゲットを丸裸にして犯罪グループに売り渡す! トクリュウを支える闇の情報ブローカー「案件屋」の実像
強盗予備の疑いで押収されたバールやスマホなどの物品。闇バイトの実行役はSNSなどで集められ、その中には未成年者もいる

強盗予備の疑いで押収されたバールやスマホなどの物品。闇バイトの実行役はSNSなどで集められ、その中には未成年者もいる

複数の報道によれば、5月24日の未明、東京都小金井市の住宅周辺にいた不審な2人組を警戒中の警察官が職務質問。

ドライバーを隠し持っていたことから、強盗予備の疑いで現行犯逮捕した。警察官が警戒中だった理由は、この住宅で5月頭から複数回の住居侵入事案が発生していたためだ。

〝飛んで火に入る晩春の強盗〟というべきだろうか。案件屋を頼るグループは、犯罪組織としては稚拙である場合が多いという。

「今は組織犯罪で持続的に収益を上げようとするなら、リスクの高い空き巣や強盗よりも『ニセ警察詐欺』や『ロマンス詐欺』のほうがリスクとリターンのバランスが良い。

しかし、このような特殊詐欺は『かけ子』や『受け子』のリクルートや管理、電話番号や銀行口座などの道具の調達が必須で、参入障壁が高い。今、案件屋から情報を買ってタタキをやるのは、そこに参入できない稚拙な組織でしょう。首謀者不在の〝にわかトクリュウ〟とも言えます」

稚拙さゆえに犯行が凶暴となることは、実行役が16歳の高校生だった栃木の闇バイト強盗殺人事件を見てもわかるとおりだ。しかも複数のグループから繰り返し狙われるとなると、たまったものではない。

案件屋経由の犯罪に巻き込まれないためには、多額の金品を家に置かないことはもちろん、個人情報の徹底管理が基本となりそうだ。

取材・文/奥窪優木 写真/共同通信社

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