一見、他愛もない会話に思えるが、その二人は大金で結ばれた“歪な関係”だった。
民事裁判の訴訟記録に残されていた“LINEのやりとり”
この刑事裁判で、佐藤さんは高野被告に多額の借金を抱えており、両者間で“裁判沙汰”になっていたことが明らかになっている。筆者はこの貸金返還請求の民事裁判の訴訟記録を閲覧。刑事裁判でも朗読された、金銭を無心する“生々しいLINE”が証拠提出されていた——。2023年8月1日、高野被告は原告となって、被告の佐藤さんに対して、未払いの貸金の返還を求めて宇都宮地裁栃木支部(大野健太郎裁判官)に提訴していた。
高野被告側が提出した訴状には、貸金返還請求に踏み切った経緯が記載されていた。
「被告は、(略)原告に対して、財布を忘れた、生活費が足りない、家出していてアパートを借りる費用がない、体調が悪く働けないなどとして、すぐに返済する旨述べて金銭の借用を申し入れてきた」
訴状によると、貸付は13回にわたって、合計254万4800円にのぼる。一度、佐藤さんは高野被告の要求に応じて3万円を返済したが、その後音信不通になってしまった——。
初対面から約1か月で始まった終わりなき借金のやり取り
高野被告側は貸金の存在を明らかにするため、甲15号証と甲16号証を提出。その書証は、今回の刑事裁判でも法廷で読み上げられた、両者間の歪な関係を露わにした“生々しいLINE”だった。民事裁判には、LINEアプリのスクリーンショットが書面化されており、4日間ほどで全38ページ。少なくとも500回も送受信されていた。佐藤さんは、高野被告と初対面を果たしてから1か月ほどが経過したころのことだ。
【甲15号証 2022年9月8日午後7時頃】
<申し訳ないんだけどさ、昨日日雇いバイト行った先に財布忘れちゃってまじ手持ちない状態だからちょいお金貸してほしいんよね。
=略=
<数万いける?明日も取りに行けるのかくじつじゃないよ(涙を一つ出す顔文字)>
=略=
<4万でいいかな>(高野被告)
<お願いします(涙を一つ出す顔文字)>(佐藤さん)
連絡があった20分後、高野被告は佐藤さんの銀行口座宛てに4万円を送金した。
「携帯が止まる」「シャンパン代」次々と届く金銭無心の理由
さらに、同月16日には、光熱水費や家賃などを理由に高野被告は27万4800円を送金。翌17日にも、10万円を佐藤さん宛に以下の理由から貸し付けている。
<私のキャバグループの一番偉い人の誕生日で10万のシャンパンを開けさせられた>(佐藤さん・以下同)
<怖くて逆らえなかった>
13日間で111万円を送金
「高額のお酒の代金を支払うことになった」、「姉の彼氏が売り掛けを残して消えた」、「姉が中絶するための費用」、「姉の売り掛け金の支払いを請求された。払えなければデリヘルさせられる」——。その真偽は不明だが、様々な理由をこじつけては高野被告に貸付を依頼。13日間で111万円もの大金を送金させている。高野被告の貯金も底をついたのか。ぱったりと佐藤さんからの金銭を無心する連絡は途絶えた。しかし、1か月ほど経つと次なる手に出た。
【甲16号証 2022年11月5日午前10時頃】
<あいりのなまえでおかねかりたいの>(佐藤さん)
<うん?>(高野被告)
<いや、あいり保証人?てかなんかして借りて貰えないかなて>(佐藤さん)
<俺が借りてあいりが保証人てこと?>(高野被告)
「癌になってるじゃん」病気を訴え借金を重ねようとしたやり取り
<一括でやり直したいから50以上は絶対借りたいの>(佐藤さん)
<やり直すって?>(高野被告)
<家とか契約して、しんどい状況からやりなおしたい>(佐藤さん・以下同)
<具合も治らなくて吐血とかしちゃってるから>
=略=
<ずっと咳止まらんくて、のどになんかある感じ、けっこうつらいんよね>
=佐藤さんが写真を送信=
<こゆ感じ>
<癌になってるじゃん>(高野被告)
虚偽申告まで提案…消費者金融から95万円を借りさせた経緯
高野被告は消費者金融のサイトなどを確認したのだろう。当時、無職だった高野被告は、世帯収入などの項目が記入できず、借金するのは「無理っぽい」と返信している。<世帯収入でもいけるし、在籍確認とかないから適当に打ってもいけそーやけど。>(佐藤さん・以下同)
=略=
<割とガチでおねがいしてるんだよねん、>
<うん、わかってるよ>(高野被告)
=略=
<前してたとことか正社員とかてきとーにうてもいえるらしあ>(佐藤さん)
=略=
<レイクにも申し込んでみた>(高野被告・以下同)
<明日にならないとレイクは分からないけどね>
<すげー王道ばっか笑笑笑笑>(佐藤さん)
高野被告は結局、2日にわけて消費者金融から借入した内の計95万円を佐藤さんに送金した——。
勝訴しても回収不能…差し押さえ口座の残高はわずか161円
この民事裁判は2023年12月、高野被告側の請求額をすべて認める勝訴判決が言い渡され、翌月に確定して幕を閉じている。その判決をもとに、高野被告側は司法手続きに則った“債権回収”に動いたが、事件までほとんど叶わなかった——。
今回の刑事裁判で明らかになった事実だが、高野被告側は強制執行を申立て、佐藤さんの預金口座を差し押さえた。しかし残高は、わずか「161円」だった。
「プラチナプラス(配信サイトの投げ銭の最上位クラス)なのにおかしい。月収は100万円ほどあるはずだが……」。そう考えた高野被告側は勝訴判決をもとに、佐藤さんの財産を開示する手続きを裁判所に申し立てた。
これまでの民事裁判に、一切出頭することも代理人もいなく、所在すら不明だった佐藤さん。この手続きの準備を進める中で、東京都の多摩地区に現住していることが判明。2025年1月31日に、東京地裁立川支部で実施された財産開示手続きでは、佐藤さんが出頭している。
「配信の報酬の7割は所属事務所に入る。3割は事務所からの借金の返済で、数万円しか手元に残らない」
結局、高野被告側が弁護費用を立て替えてまでして得た勝訴判決は、“白紙”に過ぎなかった……。
「信じたかった」被告人質問で明かされた歪な恋愛感情の結末
結局、高野被告は佐藤さんから貸金の返済を受けることがないまま、その2か月後に事件を起こすに至ってしまった。高野被告は今回の刑事裁判の被告人質問で、弁護側は「佐藤さんが借金を受ける際に言っていた理由を信じていたのか」と問うと、数秒考え込むとおもむろに振り返った。「まあ……、ちょっと疑う気持ちもあったんですけど……、まあ、信じたかったというか……、好意があったので信じたかったという感じでした……」(高野被告の被告人質問より)
恋は盲目——。とはいえ、高野被告は大金だけで創り上げられた関係性に気づけなかったのか。被告人質問ではそんな順当な問いにも、未だ答えが導き出せていないような供述だった。
文/学生傍聴人
【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。
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