クレジット決済代行会社「全東信」が、負債約1151億円を抱えて破産した。飲食店がカード決済で得るはずだった売上が入金されないケースも生じており、連鎖倒産への不安が業界に広がっている。

来店客はカードで支払いを済ませた。店も料理や酒を提供した。にもかかわらず、その売上が店に入ってこない――。飲食店からすれば、これほど理不尽な話はない。

未入金分は取り戻せるのか。全東信や経営陣に責任を問うことはできるのか。破産した会社を相手に、飲食店は泣き寝入りするしかないのか。アディーレ法律事務所の大垣優希弁護士に聞いた。

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全東信破産で何が起きているのか

全東信は、飲食店向けにクレジット決済代行サービスを展開していた企業だ。飲食店が導入すれば、来店客はクレジットカードで支払いができる。カード会社から全東信に入金された売上金を、全東信が各店舗に送金する仕組みだった。

飲食店にとって、クレジット決済はもはや欠かせない。現金を持たない客も増え、単価の高い店ほどカード利用の比率も高くなる。
一方で、カード会社との契約や入金管理は煩雑で、入金までのタイムラグもある。そのため、決済を一本化し、早期入金も期待できる決済代行会社は、多くの店にとって便利な存在だった。

ところが、その全東信が破産したことで、カード会社からの入金は済んでいるにもかかわらず、全東信から飲食店への送金が止まっているケースが生じている。客側の支払いは終わっているのに、店側の売上としては宙に浮いたままになっているのだ。

「料金が高いお客さんほどカード払いが多いんです。確認している被害額は7月5日までで約300万円。仕入れ先への支払いやスタッフの給料もあるので、正直、かなり厳しいです」(48歳・焼肉店経営)

飲食店にとっては、単なる「取引先の倒産」では済まない。数日分、数週間分のカード売上が入ってこなければ、仕入れ代、人件費、家賃の支払いに直結する。特に、カード決済比率が高い店舗ほど打撃は深刻だ。

「うちは会計の半分以上がカード決済です。数週間分が止まるだけで数百万円単位の穴になる。しかも次の決済会社にすぐ切り替えられるわけでもなく、営業を続けながら資金繰りだけ悪化していくのが怖いです。
『たいへんだろうから』と現金で遊びに来てくれる常連さんがいるのがせめてもの救いです」(45歳・ガールズバー経営)

未入金の売上金は取り戻せるのか

では、全東信から入金されていない売上金は、飲食店に戻ってくるのか。

大垣弁護士は破産手続上の扱いをこう説明する。

「飲食店が持つ未入金の売上金に関する請求権は、原則として破産手続における一般の破産債権として扱われることになります。破産財団の財産を換価した上で、債権額に応じて配当が行われますが、負債総額が約1151億円という規模を考えると、実際にどれだけの配当が受けられるかは不透明です」

つまり、飲食店は破産債権者として届出を行い、破産手続に参加することになる。ただし、全額が戻ってくる保証はない。むしろ、負債規模の大きさを考えれば、回収は厳しいと見るべきだろう。

「もし飲食店が全東信に対して、自身の売上金を分別管理するよう求めていた場合や、契約上そのような義務が定められていた場合には、当該資金を取り戻せる余地が生じることもあります。ただし、実際に分別管理がなされていたかどうかは個別の事実関係によるため、まずは契約書や取引の実態を確認することが重要です」

要するに、店側の売上金が全東信の財産と混ざらず、別に管理される契約や実態があったのかどうかが分かれ目になる。

「全東信に損害賠償」はできるのか

客は払ったのに店には1円も入らない…負債1151億円「全東信」の破産で、経営陣への責任追及は問えるか
全東信ホームページ
未入金の売上が戻ってこない場合、飲食店は全東信に対して損害賠償を求めることはできるのか。

大垣弁護士によれば、契約違反や不法行為を理由に損害賠償請求を主張すること自体は考えられる。ただし、全東信はすでに破産手続に入っている。仮に損害賠償請求権が認められても、実際には破産債権として扱われ、配当を待つことになる可能性が高い。

つまり、「請求できるか」と「実際に回収できるか」は別問題というわけだ。

飲食店側からすれば納得しがたいが、破産手続では、限られた財産を債権者の間で公平に分配することが原則になる。
そのため、個別の店舗が「うちの売上を先に返してほしい」と主張しても、法的に優先権が認められなければ、他の債権者と同じ立場で配当を待つことになる。

会社に請求しても回収が難しいとなれば、次に気になるのは「経営陣個人の責任を問えないのか」という点だ。

「会社の取締役は、会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っています。著しく不合理な経営判断や、財務状況が悪化しているにもかかわらず事業を継続して損害を拡大させたような場合には、取締役個人に対する損害賠償請求が認められる可能性があります」

会社が倒産したからといって、経営者が常に個人責任を負うわけではない。事業にはリスクがあり、経営判断が結果的に失敗しただけで、ただちに役員個人の責任が認められるわけではない。

しかし、財務状況が著しく悪化していることを知りながら営業を続けた、資金繰りが破綻しているのに新たな加盟店から売上金を受け取り続けた、不正な会計処理や資産水増しがあったーーといった事情が認められれば、話は変わってくる。

大垣弁護士は、第三者に対する責任規定にも触れる。

「役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合には、第三者――ここでは飲食店――も取締役個人に対して損害賠償を請求できます」

また、不正な資金流用や詐欺的な行為があった場合には、刑事責任の問題にも発展し得るという。

「民事上の責任追及も刑事告訴も、具体的な証拠と事実関係の整理が不可欠です。まずは専門家に相談し、手元にある契約書・入金履歴・取引記録を整理することが第一歩です」

カード会社や金融機関の責任は問えるのか

全東信だけでなく、「カード会社や金融機関には責任はないのか」と感じるかもしれない。

カード決済の仕組みでは、カード会社、決済代行会社、加盟店が複雑に関係している。店側から見れば、客がカードで支払いを済ませた時点で売上は発生している。にもかかわらず、途中に入った決済代行会社の破産によって入金が止まるのであれば、カード会社にも何らかの責任を問えないのか、という疑問が生じる。


大垣弁護士はこの点について、基本的には全東信との契約関係の問題になるとしたうえで、個別の契約内容やカード会社の関与の程度によっては検討の余地があると説明する。

「全東信を通じてカード決済を導入していた場合、原則として飲食店と全東信との契約関係が中心になります。カード会社や金融機関に直接責任を問えるかどうかは、飲食店との間に直接の契約関係があるか、カード会社側がどこまで加盟店管理や入金スキームに関与していたかなど、個別事情によって変わります」

つまり、カード会社や金融機関に対する責任追及は、全東信への請求に比べてハードルが高い。ただし、契約書や決済スキーム次第では、まったく可能性がないとも言い切れない。

政府支援は「補償」ではない

全東信の破産を受け、政府は中小企業向けの相談窓口設置やセーフティネット保証の適用に向けた対応を進めている。

ただし、ここで注意したいのは、政府支援は未入金売上を補償する制度ではないという点だ。あくまで資金繰りを支えるための融資や保証であり、失われた売上金がそのまま返ってくるわけではない。

売上が入らない。だが、仕入れ代、人件費、家賃は待ってくれない。だからこそ、飲食店にとっては、破産手続による回収を待つだけでなく、目先の資金繰り対策を急ぐ必要がある。

大垣弁護士は、被害を最小化するためにとりうる対応として、以下の点を挙げる。

・全東信に対する破産債権の届出を、期限内に確実に行う
・手元の契約書・入金履歴・通帳記録などの証拠を早期に保全する
・売上未入金の影響で資金繰りが逼迫する場合は、金融機関や公的支援制度への相談を検討する
・経営陣への責任追及を含む法的手段については、弁護士に早めに相談する

「破産手続は時間がかかります。その間も事業を継続しなければならない飲食店にとって、今できることを一つひとつ確認していくことが重要です」

「泣き寝入り」で終わらせないために

全東信の破産は、飲食店にとって「客は払ったのに、店には入らない」という理不尽な事態を生み出している。


未入金売上の回収は、破産手続への参加と契約実態の確認が出発点となる。全額回収の見通しは不透明だが、債権届出をしなければ配当を受ける機会も失われる。

また、報道されている資産水増しや不正加盟店問題などの実態次第では、経営陣個人への責任追及が問題になる可能性もある。

いずれにしても重要なのは、契約書、入金予定表、決済明細、通帳記録、全東信とのやり取りなどを早期に保全することだ。破産手続は長期化する可能性がある。だからこそ、飲食店側は「そのうち連絡が来るだろう」と待つのではなく、自ら被害額を整理し、相談先につなげる必要がある。

カード決済が当たり前になった時代に、決済代行会社の破産は、多くの飲食店にとって想定外のリスクだった。今回の問題は、キャッシュレス社会の裏側にある脆さを浮き彫りにしている。

客は払ったのに店には1円も入らない…負債1151億円「全東信」の破産で、経営陣への責任追及は問えるか
大垣優希
大垣優希弁護士(第一東京弁護士会所属)
アディーレ法律事務所。夫婦問題や遺産相続、債務整理など、多様な一般民事分野に関心を持つ。法律分野に留まらず、日本化粧品検定1級の資格も保有するなど、専門性のさらなる深化にも意欲的で、身近な悩みに根拠をもって寄り添う解説を志す

<取材・文/日刊SPA!取材班>
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