本紙が参加したUSSEC主催の米国ツアーで8月4日に開催された「ソイフードセミナー」(一部既報)では、ミネソタ大学のセス・ネイヴ博士が大豆の育種について講演した。その中で、「今後も Non-GMO の大豆の新しい品種が供給される」と強調した。
ネイブ博士はまず、「最も根本的な質問として、今後も米国から高品質の新しい Non-GMOの大豆品種が供給され続けるのかと懸念を持つ人は多いと思う。農家はGMOの大豆を大規模に導入しており、非常に重要な技術となっている。Non-GMO の大豆は市場全体に占める割合が小さいため、研究開発への投資や農家からの需要が減り、最終的には市場から押し出されるのではないかと考えがちだ」と説明した。その上で、「私の答えは、最終的には今後も供給される」と強調した。最も重要なこととして、「遺伝子組み換えを加える前の基礎となる優れた大豆遺伝資源の開発を継続することだ。新しい全ての品種の背景となるNon-GMO の遺伝的基盤を維持する必要がある」と説明した。
「皆さんの関心は、主にIPハンドリングされた食品用大豆市場にあると思う。それと並行して、米国企業や公的な育種家は一般用途や飼料市場向けのNon-GMO の大豆の開発を続けている。これは業界全体にとって重要だ。
続いて、公的機関と米農務省の取り組みを説明した。米農務省には大学の研究者や公的育種家とほぼ並行して活動する研究者がいて、業界全体を支える基礎的な公的研究が数多く行われているという。米国の複数の州には広範で優れた育種プログラムがあり、中西部北部の少なくとも 10州には優れた大豆育種プログラムがあるという。これらのプログラムが飼料用品種や遺伝資源を大豆品種開発システム全体へ提供している。地域ごとの課題に対応する公的育種プログラムでは、それぞれの州の栽培管理上の課題を優先している。地域ごとの問題に焦点を当てた研究が多く行われることで、全体としてより良い遺伝資源の蓄積につながるとした。
〈大豆には遺伝的なボトルネック、課題もあるがゲノム編集を使って新しい形質導入も〉
また、「新しい遺伝資源や改良形質を開発する遺伝子研究者は、育種の流れ全体にとって非常に重要だ」とも述べた。
育種家が植物を交配する際には、基本的にすでに存在する遺伝子の新しい組み合わせを探している。だが、同じ形質や対立遺伝子を何度も組み合わせていると、同じような結果が繰り返し出てくる。これは、新しい形質、新しい単収の可能性、新しい耐病性や耐ストレス性を持つ品種を開発する上での課題だという。「大豆には遺伝的なボトルネックがあり、現在の大豆育種は、東アジアから導入されたおよそ 18の大豆品種と在来系統に依存しているため、遺伝的な幅が狭くなっている」と話した。トウモロコシのような他の作物では、異なる遺伝資源を交雑させ、多様な組み合わせを作ることができるが、大豆では利用できる遺伝資源が比較的限られているという。
「遺伝子研究者は新しい遺伝子を探している。従来型の突然変異誘発や自然に起こる過程を利用して、大豆に新しい遺伝的変異を作り出すこともできる。今後議論になる可能性があり、課題もあるが、CRISPR などのゲノム編集を使って新しい形質を導入することも重要だ。遺伝子研究者は、新しい世代の大豆育種家を支え、Non-GMO の大豆開発を助ける重要な存在だと考えている」と見解を述べた。
〈公的育種家が25年に454品種を試験、GMO販売の大手企業も Non-GMO の育種必要〉
多くの育種家は、企業がライセンスを取得し、公的な種子供給に利用できるように、品種情報を公開しているという。北部統一大豆品種試験についても説明した。公的な大豆育種家は品種を米農務省の統一品種試験に提出する。25年には454品種が試験された。これらはほぼすべてNon-GMO 品種だ。試験は中西部の43地点で行われた。米国の10州と、カナダの3州から、17の公的品種開発プログラムが参加した。
民間部門の育種についても触れた。食品用大豆輸出業者の一部は自社で品種開発プログラムを持っており、小規模な従来型育種会社から大企業まで Non-GMO の大豆育種系統を維持しているという。
将来ゲノム編集技術を利用する企業も、最適な遺伝的基盤を維持したいと考えているという。「高品質で高価値の大豆を開発する際に、過去の遺伝子組み換え形質が残っていない基盤を使う必要がある。Non-GMO の大豆はさまざまな規制への対応も容易で、Non-GMO の遺伝的背景を維持することが重要だ」と話した。
〈高付加価値大豆品種データベース実演、モバイル端末でも使いやすくなるように改良〉
ネイブ博士が紹介した「Specialty U.S. SoyDatabase(高付加価値大豆品種データベース)」(https://soydatabase.ussec.org/)の検索の実演は、USSECのウィル・マクネア食品・油脂ディレクターが行った。同データベースは、米国の農家、業界、種子会社が協力して開発したツールだ。輸出業者が必要とする品種を正確に探せるよう、関連情報を提供することを目的としている。2020年にスタートして以来、毎年、米国の食品用大豆品種のサンプルを数百点集め更新してきた。米国で供給可能な数十から数百種類の食品用大豆品種について調べることができる。利用者が必要なものを正確に探せるよう、電子商取引サイトを参考に検索機能を作ったという。複数年のデータを見ることができ、現在は26年のデータを収集している。
条件を指定した品種検索、例えば、たん白質含有率42%、大粒、へその色が白の品種といった条件を入力すると、数十から数百あった品種をある程度まで絞り込むことができる。一つの品種を選ぶと、大豆の写真、栽培されている成熟期区分、想定用途、へその色、粒径、成分特性などが表示される。豆腐と豆乳の推定歩留まりなども確認できる。「現在、モバイル端末でも使いやすくなるように改良を進めている」とアピールした。
質疑では、ゲノム編集で開発された作物は遺伝子組み換えになるかという質問がなされた。ネイブ博士は、「根本的な問題となるのは、各国の規制機関がどのように定義するかによる。
新しい遺伝資源や品種の開発期間についても質問があった。ネイブ博士は、従来の方法では、育種家が交配を行ってから新品種を開発するまで8~10年かかる。ただし、冬季育種ほ場などを利用し、1年間に複数回の世代更新を行えば期間を短縮できる。また、マーカーシステムなど比較的新しい技術が育種家を支援しており、育種効率を高めているという。「技術と投資の程度によって、8~10年かかる場合もあれば、4~5年に短縮できる場合もある」と説明した。
〈サプライヤーのパネルディスカッション、各州の生育状況を説明、地理的な多様性重要〉
続いて、サプライヤーによるパネルディスカッションが行われた。登壇したのは Pence Ag(インディアナ州)、SB&B(ノースダコタ州)、Jim TraubTrading(イリノイ州)、AgPartners(カンザス州)、Montague(バージニア州)、Grain Millers(ミネソタ州)の6社の代表者で、司会はマクネアディレクターが務めた。登壇者はそれぞれ自己紹介を行った。「ミネソタ州セントポールから来た。特殊穀物輸出事業を担当している」(Grain Millers)、「ネブラスカ州とアイオワ州で食用大豆を契約栽培している」(Jim Traub Trading)、「ノースダコタ州、サウスダコタ州、ミネソタ州、ウィスコンシン州で契約栽培を行っている」(SB&B)、バージニア州を拠点とする食品用大豆サプライヤーで、メリーランド州、バージニア州、ノースカロライナ州で、納豆、豆腐、みそなどの用途向け大豆を契約栽培している」(Montague)「インディアナ州のサプライヤーで、Non-GMOの食品用大豆加工業者で、豆腐用と豆乳用の生産を中心としている」(Pence Ag)、「主にカンザス州とミズーリ州で生産している。施設はカンザスシティーから北へ約40分の場所にある」(Ag Partners)。
マクネアディレクターは、米国の幅広いエリアからサプライヤーが集まっていることに触れ、「この地理的な多様性は、高付加価値のIPハンドリングされた食品用大豆の供給を確保する上でも重要だ」と述べた。
〈AIの影響、大規模な関連施設の土地利用、農薬散布や意思決定の支援ツールにも 〉
農業経済状況について話を振ると、「現在の最大の問題はインプットコストだ。種子、農薬、肥料など、あらゆるモノの価格が上がっている。さらに、金利負担がある。農業は非常に多額の資本を必要とする事業だ。融資の金利だけでも大幅に高くなっている。IPハンドリングされた大豆は農家が収穫物を長期間保管し、年間を通じて納入する場合がある。農家は納入するまで代金を受け取れない。その間も金利負担が積み上がる。ディーゼル燃料費や輸送費も上がっている。現在の農家にとって、値上がりしていない費用はほとんどない」と課題を挙げた。
AIが大豆産業に与える影響についても意見交換された。「AIそのものよりも、土地利用の面で影響を見ている。インディアナ州の私たちの生産地域の少し南の方で大規模なAI関連の施設が建設されている。約1万Aの農地が利用されることになる」と話した。
別の登壇者からは、「数週間前、ある生産者を訪問した。その農家は、ほ場への農薬散布にドローンを使っていた。さらにAIセンサー付きのカメラを搭載しており、場所ごとに作物の状態を確認していた。非常に印象的な技術だった」と紹介された。
このほか、「意思決定を支援するツールとして、できる限りAIを取り入れようとしている。私自身は Claude や ChatGPT を使って簡単なプログラムを作っており、現場担当者がトラックの受け入れをより効率化する、出荷をより速く行う、出荷や作業の時期を計画するためのツールを作ろうとしている」と述べた。「AI機能を持つ色彩選別機を購入した」という声も。
効率性と持続可能性を高めるために農家が行っている取り組みとして、「米国農家は土地の良い管理者でありたいと考えている。そうしなければ、次の世代が将来農業を続けることが難しくなるからだ。例えば、カバークロップなどを利用して、土壌がほ場から流出しないようにする。また、肥料が河川へ流れず、ほ場にとどまるようにする」と説明した。
カバークロップについては、「われわれはチェサピーク湾の流域で農業をしている。チェサピーク湾は米国最大の河口域で、水の入れ替わりが速くないため、流域に入る物質を管理することが非常に重要だ。カバークロップは一年を通じて土壌の上に何らかの植物が育っている状態を作ることだが、販売用作物の場合もあれば、土壌を覆うためだけの作物の場合もある。土壌中の有機物を増やす、雑草管理を助ける、水分管理を助けるといった効果がある」と説明した。
〈トラック運転手の不足が大きく影響、ノースダコタ州では無人トラックがうまく機能〉
足元の物流状況について、「現在はコンテナの入手可能性と費用の両方が、少し安定してきている。過去にはもっと悪い状況もあった。現在は転換点を越えつつあり、コンテナの確保や船積みでの遅延が減ってきている。イランをめぐる紛争が始まった際、多くの輸送運賃が大幅に上昇した。一部は少し下がり始めている。情勢が落ち着けば、今後さらに下がると期待している」と話した。
他の登壇者は、「インディアナ州中央で、シンシナティ、インディアナポリス、シカゴという3つの異なる内陸コンテナ拠点の運賃と空き状況を比較できる独特の位置にある。今後、夏が進むにつれて運賃が少しずつ下がることを期待している。この夏は、これらの拠点でコンテナの供給状況は良好だった」と話した。
また、「カンザスシティは米国大陸内でも有数の内陸コンテナ拠点だ。コンテナの確保は概ね問題ない。ただし、本来は毎週あるはずの船会社のサービスが時折一便抜けるようなことがある。全体としては現在も対応できている」といった意見が聞かれた。
トラックのドライバー不足が大きく影響しているという声も挙がった。「海上運賃とコンテナ供給についてはある意味、通常の状態に落ち着きつつあるが、心配しているのは国内輸送だ。自動運転トラックが実用化されるのが待ち遠しいほど、トラックドライバーを見つけることが難しくなっている」と話した。
自動運転トラックの事例も紹介された。ノースダコタ州ファーゴから南へ約45分の場所にある甜菜の大規模な組合では、1人の運転手で2台分を運ぶフォロートラック(follow trucks)を約2年間実証しており、非常にうまく機能しているという。1台目のトラックに運転手が乗り、その後ろをもう1台のトラックが追従することで、1人の運転手で2台分の作物を運ぶことができるという。普及を速めるうえで最大の障害となっているのは州ごとの規制だという。例えば川を隔てて隣接するミネソタ州では無人トラックを認めていない。フォロートラックは認めているが、後続車にも運転手が座っていなければならないといい、「州ごとの規制を整えていく必要がある」と訴えた。
今後5年でマーケットに大きな変化を与えることについて、「米国では今後5~10年の間に、農地の所有や利用をめぐって非常に大きな変化が起きる。農地の約65~70%が、農家自身の所有ではなく、借りて耕作されている。その農家が引退すれば、土地所有者は別の農家に土地を貸さなければならない。米国の農家の平均年齢は 60歳を超えている。そのため今後、多くの農家が引退することになる。若い世代が農業を引き継ぐ場合には複数の農地を引き受けることになり、多くの農場がさらに大規模化すると思う。サプライヤーにとっては、米国で大規模農場が増えていく中で、それらの経営体と協力することが非常に重要になる」と展望を語った。別の登壇者は、「データセンター、太陽光発電施設、その他の施設が農地に建設されることがある。多くの場合、それらを農地に建てることを決めるのは農家ではない。土地所有者が決めている。こうした施設の事業者が提示する金額は非常に高い場合がある。土地を引き継ぐ次の世代が、以前の世代ほど農業との強い結び付きを持っていない場合、このような土地利用転換がさらに増える可能性がある。サプライヤーとしての私たちの仕事は、皆さんへの供給を確保することだ。常に農家と仕事をし、この変化に対応できるよう農家を支援していく」と力を込めた。
終了後、フードチームは食品用大豆品種を栽培している Jeff O’Conner 農場へ、本紙はコモディティチームとして、GMOの大豆を栽培している Ryan Frieders 農場を視察した。
〈大豆油糧日報2026年8月25日付〉









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