築40年を超える団地(120戸)の理事長経験者である筆者が、自身の団地の老朽化、高齢化、単身世帯化をぼやく本連載。今回のテーマは「大規模修繕」(※)です。

振り返れば、前回の大規模修繕(2回目)が行われたのは、かれこれ15年も前のこと。

「次の工事まで己の命があるか……」弱気になる第一世代の住人たちを気遣いつつも、団地の第二世代にあたる私が「大規模修繕」に向けた“最初の第一歩”=「補修委員会」の人集めに奔走した顛末(てんまつ)をご紹介します。

※「大規模修繕」とは、一定の周期で修繕することが望ましい計画修繕などのうち、工事内容や費用が多大で、長期間を要し、工事範囲がマンション全体に及ぶ複合的な工事のこと。

団地の大規模修繕、高齢化で「委員立候補ゼロ」の危機! “管理会社に丸投げ”に潜む罠、絶望の理事長を救った救世主とは?【ポンコツ理事長奮闘記9】

団地の専有部分は各住人が、共用部分は管理組合が修繕を担います。ところが専有・共用問わず、理事長に直接苦情をぶつける住人が多いことがストレスでした(イラスト/てぶくろ星人)

ポンコツ理事長、魂の叫び「工事はモーたくさん!」

老朽化した共用部分の改修に加え、管理会社の“やらかし”の後始末に追われる日々……例年にはない4つの工事を終えたころ、私の自宅ポストに1通の投書が入りました。そこには、こう書かれていたのです。

「給排水設備の更新には長期的な視点が必要です。下水の新管設置も大規模修繕の一部と考え、費用を修繕積立金から拠出してはいかがでしょうか?」
私の心の声
「おっしゃることはもっともなのだけど……同じ住人なのに、私にばっかりヘビーな工事を背負わせるの、ズルくない? もうこれ以上の工事、無理だって~(涙)」

無記名の投書は、基本的に既読スルーと決めていた私。今回の投書にあった「大規模修繕」の5文字も、当時は「そんな大それたことは立派な誰かが考えること」と受け流してしまいました。まさかポンコツな私が、住人からの投書にあった「大規模修繕」の諮問機関である補修委員会を立ち上げる当事者になろうとは、これっぽっちも思っていなかったのです。

【大規模への道①】無料の罠? 管理会社の甘い誘いと、ベテラン理事の猛反撃

築42年(2023年当時)を数える当団地は二度の大規模修繕工事の経験があり、前回の実施は2008年。工事の10年後には施工会社による事後点検(劣化診断)が行われていました。

ところがその後、管理会社への一部委託を開始。委託後2年目に総会へ上梓された【管理会社主導方式(大規模修繕の進め方の一つ。

管理会社に丸投げできて楽な分、費用がかかる)】議案が異例の「賛成ゼロで否決」に。その後、劣化診断のレポートは管理会社の手に渡り、大規模修繕の話はフリーズしていました。

●団地の老朽化が進み、修繕が単年度で終わらない。そろそろ大規模修繕が必要
●理事会は単年度で、しかも理事長がポンコツ。何年もかかる工事への対応が難しい
●管理会社にとって大規模修繕は大儲けのチャンス

こうした状況の下、管理会社のフロントマンS君から「管理会社で劣化診断ができる」という提案が出されました。

私「おいくら万円で?」
S君「無料です」

溺れる者は藁をもつかむ。「無料」というワードに秒でつられた私に対して、ベテラン理事のFさんは渋い顔。それもそのはず。劣化診断は大きな資金が動く大規模修繕につながる非常に重要なフックとなり得ることをFさんは理解していたからです。

そんなこととは露知らず、S君は「無料の劣化診断後ですが、大規模修繕に向けた事前調査・検討から本工事の施工管理まで、一括してうちの会社に発注(管理会社主導方式)していただければ、理事の皆さんにお手間を取らせません」と畳み掛けてきます。

そこでFさんが「もし頼んだらいくらくらいかかるんや?」と切り込むと、
S君の口から飛び出たのは「ざっと見積もって1000万円でしょうか」という驚愕(きょうがく)の数字。もちろんこの1000万円に本工事の費用は含まれていません。

純粋に管理会社の取り分となるお金が、通常の管理委託費とは別に最低でも1000万円必要、という話でした。

「S君の会社に委託すると、なんでもかんでも相場の倍以上やん。みんなが楽になるなら頼みたいのに、そんなに高かったら頼みたくても頼まれへん」とうらめしそうな私。

Fさんも「アハハ……無理や。修繕積立金にそんな余裕あらへん」と乾いた笑い……。
「劣化診断したからといって、大規模修繕の工事を任せる、とは決まってへん、ってことでええんやな。工事をどこに発注するか、それは管理組合で決めさせてもらうで」と念押しして、管理会社による劣化診断の件は可決されました。

大規模修繕【3つの方式別】住人の手間と費用負担の相関図

団地の大規模修繕、高齢化で「委員立候補ゼロ」の危機! “管理会社に丸投げ”に潜む罠、絶望の理事長を救った救世主とは?【ポンコツ理事長奮闘記9】

責任施工方式は業者選びから住人が主導。設計監理方式は専門家を間に入れる分、楽。管理会社主導方式なら丸投げできて超楽、と説明を受けました(イラスト/てぶくろ星人)

【大規模への道②】議事録で仲間集め?地道な根回しとベテラン理事の覚悟

その後、管理会社による劣化診断が行われましたが、分厚いレポートには塗料の種類など、事実誤認が散見され、「とても大規模修繕工事を任せられるレベルにない」というレッテルを貼られてしまいました。

また資金の問題も深刻でした。「大規模修繕を管理会社任せにするほど資金に余裕はない」とFさんは言います。ならば自主管理から管理委託に移行した今も、「設計監理方式」か「責任施工方式」か、どちらにしても私たちは住人主体で大規模修繕を進めなければなりません。

「管理委託して、みんなすっかり油断しているのに……」と危ぶむ私に、Fさんは「大規模修繕は、1年で顔ぶれが変わってしまう理事会の手には負えない。

今年度の仕事は、理事会の諮問機関にあたる補修委員会を立ち上げることや」と教えてくれます。その手には「補修委員会規約」と「補修委員募集シート」が。「前回の資料が集会所に残ってたで」と、Fさんはにやり。

大規模修繕は住人みんなでコツコツ積み立ててきた修繕積立金を投じる、スケールの大きな工事です。その事前調査や検討を担う補修委員会の立ち上げも、「理事長が一人で勝手に決めてよいことではなく、最終的な結論は総会で問うことが定められている」とFさんによるレクチャーが続きました。

●数年前の二の舞いで大規模修繕の話がフリーズしないように
●住人全員の機運を高め、合意形成するために

慎重なFさんは焼きそば落下事件でも活躍した「議事録の回覧」から始めてみようと、説いたのでした。

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補修委員会に入るとなると、任期は2~3年。理事会は単年度で交代しますから、委員長ともなれば足掛け3人の理事長と対峙(たいじ)することになります(イラスト/てぶくろ星人)

いよいよ始まった議事録の回覧。最初の月は、管理会社による劣化診断の結果を報告しつつ、Fさんが発掘した「補修委員募集シート」(自薦用)も添えて回覧しました。次の月は他薦の欄も追加した用紙を回覧。2カ月たっても一人の応募もなく、Fさんはすっかり弱気に。

しかし、10月になると見えない大きな力が味方してくれました。

それは隣接する旧棟の大規模修繕が着工したこと。みるみるうちに黒い足場で覆われていく旧棟の姿はインパクト大。ここへ来てようやく、「管理会社が建て替えてくれるんじゃないの?」なんて、のんきに構えていたわが棟の住人の間でも「そろそろウチも大規模修繕を……」という問題意識が高まりだしたのです。

やがて旧棟の工事が始まると、Fさんが考案し、私がエクセルでまとめた「前回工事から今年度までの資金の動き」シートでとどめを刺しました。ここへ来て、相変わらず立候補はゼロでしたが、「表を見て何が問題か、よく分かった」という好意的な反応が返ってきだしました。これには心が折れかかっていたFさんも上機嫌です。

「人の役に立つ、というのはうれしいことやなぁ」
そうつぶやいたFさんは、しばし沈黙したあと、私にこう言いました。
「……あんた、理事長として、一緒に人集めしてくれるか?」

重篤な持病がありながら、補修委員会の委員長を自分が務めようと――。このとき、Fさんは静かに心に決めていたのでした。

【大規模への道③】お宅訪問で大苦戦。諦めかけた私たちを救った驚きの立候補

ここからは立候補を待つのをやめて、理事会から各宅へ直接働きかけてゆくことに。事前の連絡なしにピンポンを鳴らすFさんスタイルで頭を下げて回ると、健康上の不安から参加をためらっていたベテラン住人が渋々、承諾してくれました。

ただし、「委員長でないなら」の条件付きです。また過去2回の経験から、「大規模の委員を各階段(※)から1名ずつ出すように」とアドバイスがありました。

こうして階段(※)ごとのキーマンの狙い撃ちが始まりました。理事会でベテラン理事には自分でアタックするように指示。アマチュア理事の階段はFさんと私でフォローします。

※階段:エレベータのない私たちの団地は同じ階を横方向に行き来することができない構造です。1つの階段を共用する10世帯(1~5階の両側)をまとめてひとつの班のようにし縦方向で情報共有や意見調整を行っています。

しかし、ここでも「高齢化」「単身世帯化」の課題が重くのしかかるのでした。

「長年お世話になった団地のために」と引き受けてくれる人はごくわずか。「妻を亡くして一人暮らしだから」「3年もの任期を全うできるか、自信がない」……続々と返ってくるネガティブワードに、私は「耳の遠いFさん一人に全部を背負わせるわけにはいかない。いざとなったら若手の理事勢を連れて参戦か?」と腹をくくるようになっていました。

数カ月かけて10軒以上のお宅を回りましたが、「全階段から委員を出す」という目標は高く、なかなか達成できそうにありません。

そうこうするうちに、交渉相手から「次回の階段理事をスキップできる特典は今回も有効か?」という問い合わせが入るようになりました。

「大規模修繕工事の補修委員会に名を連ねれば次回の階段理事を1回スキップできる」というのは当団地独自のローカルルールです。「居住歴の浅い人は、そのことを知らないかも?」と気づいた私は次の理事会で改めてローカルルールの適用を宣言しました。

すると、なんということでしょう。

それまでどちらかと言えば控えめだった理事たちが、「それなら不動産会社勤務の息子を出します」という声を皮切りに、「階段に声を掛けられる人がいないから……僕が出ます」「母からも勧められたので私が出ます!」と、次々に手を挙げてくれたのです。まさに灯台下暗しでした。

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適任者がすぐそばにいたなんて……Iさんに成人した息子さんがいること、Gさんが定年退職を迎えたこと、どちらもこのときまで知りませんでした(イラスト/てぶくろ星人)

「みんな……ありがとう!!!」

Fさんに続き、立候補してくれた3名が加わり、合計4人が理事会から補修委員会へスライドすることが決定。階段ごとにくどき落とした7名も足せば、全12階段中11本から候補者が出ることになります。

「よっしゃ、これで総会へ上梓する議案書がつくれるな。発起人は理事長がええ。あんたの名前で出すけど、文面は俺に任せとき」とFさんも満足そう。こうして、より複眼的になった補修委員会立ち上げの目途が立ちました。

え?「言い出しっぺのお前も補修委員会に入るはずだっただろう?」ですって?

いえいえ。私の階段からも補修委員会の候補を手配済。「各階段から1名ずつ」ですから、2名出る必要はないわけです。何より、同じ人間が理事長任期の1年間に加え、補修委員として3年も団地の大きな決断に関り続けることはためらわれました。

「え~康子ちゃん、個人でそんな大きいプロジェクトを手掛けるチャンスなんて、めったにないよ、面白そう!」と無邪気な姪っ子の意見に聞く耳を持たなかったのもまた、私がポンコツだからゆえ。

大規模修繕をFさんに託した私は、工事とはまた違った面から団地に恩返しすることになるのですが、それはまたいつか別の機会に。

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