5月の中国経済の主要統計は、消費や投資を中心に低迷しています。不動産不況がさらに悪化し、貿易だけが好調という現状は、成長モデルのゆがみを露呈しているように見受けられます。

そんな中、世界が注目する米国とイランの戦闘終結に向けた合意、そしてサッカーのW杯は中国経済の好転に向けた起爆剤になるのでしょうか。


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低迷続く中国経済:米・イラン戦闘終結とW杯は起爆剤になるか?
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5月の中国経済指標発表。消費はマイナスに転落。投資も軒並み低迷

 中国国家統計局が6月16日、5月の主要経済統計を発表しました。以下、3月、4月の数字と比較しつつ、記載します。


  3月 4月 5月 工業生産 5.7% 4.1% 4.5% 小売売上 1.7% 0.2% ▲0.6% 固定資産投資 1.7%(1-3月) ▲1.6%(1-4月) ▲4.1%(1-5月) 不動産開発投資 ▲11.2%(1-3月) ▲13.7%(1-4月) ▲16.2%(1-5月) 不動産を除いた固定資産投資 4.8%(1-3月) 1.3%(1-4月) ▲1.2%(1-5月) 貿易(輸出/輸入) 9.2%
(2.5%/27.8%) 14.2%
(9.8%/20.6%) 16.9%
(13.8%/21.5%) 失業率(調査ベース、農村部除く) 5.4% 5.2% 5.1% 若年層失業率(在校生除く) 16.9% 16.3%   消費者物価指数(CPI) 1.0% 1.2% 1.2% 生産者物価指数(PPI) 0.5% 2.8% 3.9% 中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同期(月)比。▲はマイナス

 工業生産は前年同月比4.5%増と、4月の4.1%増から加速しています。一方で、個人消費動向を示す小売売上は0.6%減で、2022年12月以来、約3年半ぶりの減少に転じました。5月は労働節長期休暇がありましたが、国民の休日は消費の促進には思うように反映されなかったといえるでしょう。


 投資も引き続きマイナスで、伸び率はさらに鈍化している現状が顕著に見て取れます。不動産開発投資は再び「急降下」という様相を呈しています。


 唯一踏ん張りを見せているように見受けられるのが貿易です。ハイレベル協議や首脳会談などを経て、米中間の「貿易戦争」がいったん落ち着きを見せているのが背景にあると思われます。


 ただ、中国の成長戦略が輸出主導型からの脱却を掲げ、国内需要を喚起していく方針を掲げている状況下における「貿易頼み」の現状は、経済情勢と運営が中国政府の思惑通りに進んでいないことを示しているといえます。


 中国政府が公式に認めている「需要不足×供給過剰」という構造的問題に解消の予兆は見られません。不動産不況も重なり、景気には引き続き内需と貿易、政府の思惑と市場の動向といったファクター間の不均衡感を醸しだしていくでしょう。


 失業率は5.1%と若干の低下を示していますが、これから夏にかけて約1,270万人の大学生が卒業し、労働市場に流れ込んできます。若年層を中心に、失業率が上昇する可能性は高いといえます。就業状況は物価と並んで、治安の悪化、ひいては政治の不安定化につながり得る要素であり、中国独自の政治経済体制という観点から注視していく必要があります。


 来月、4-6月期の国内総生産(GDP)実質成長率が発表されます。1-3月期は前年同期比5.0%増でしたが、今期は鈍化が見込まれます。中国政府が今年の成長率目標として掲げた4.5~5.0%の区間内に収まるかどうかが一つの焦点になるとみています。


米国とイランの戦闘終結を巡る覚書合意の影響

 その物価ですが、5月、CPIの上昇率は1.2%で前月から横ばい、PPIは3.9%で前月の2.8%から顕著に上昇しています。近年中国経済にとっての不安要素となってきたデフレスパイラルからの脱却というよりは、イラン情勢の影響を受けた原油高などが反映されていると考えられます。


 企業の経営や収益、国民生活にとっての負担という意味でも、足元の物価上昇は単純にプラスに捉えることはできないでしょう。


 そんな中、イラン情勢に動きがありました。


 6月15日(現地時間)、トランプ米大統領はイランとの戦争終結に向けた合意は双方が署名済みであるとし、主要7カ国(G7)首脳会議が開催されるフランス東部エビアンに到着後、記者団に対し「合意は全て署名済みだ。ご存じの通り、海峡は既に一部開放されている」と語りました。


 19日にスイスのビュルゲンシュトックで開催される見通しの署名式には、バンス副大統領が出席すると述べました。合意は、事実上封鎖状態にあるホルムズ海峡を再開し、かつ停戦を60日間延長する内容となっているようです。


 日本の政府やマーケットはこの最新動向に反応しました。


 同日、茂木敏充外務大臣は談話を発表し「6月15日、米国およびイラン双方が、戦闘終結などに関する覚書に合意した旨発表しました。わが国として、今回の覚書合意を、事態の収束に向けた大きな一歩として歓迎します」とコメントしました。6月16日、日経平均株価は一時7万円台に乗せましたが、米国とイランの戦闘終結に向けた覚書合意が一つの要因になったといえるでしょう。


 中国政府も覚書合意について前向きな見方を示しています。中国外交部の林剣(リン・ケン)報道官は6月15日の定例記者会見で次のようにコメントしています。


「中国は米国とイランが第一段階の覚書内容を巡り合意に達したことを歓迎する。パキスタンが行ったあっせんの努力を称賛する」


 一方、株式市場の反応はイマイチのようです。6月15~16日(現地時間)にかけて、上海総合指数は4,000~4,100ポイントの間を行き来している様相で、目立った上昇は見受けられません。香港ハンセン指数も同期間、6月15日(月)の始値約2万5,000ポイントだったのが、16日(火)の終値は約2万4,400ポイントとむしろ下落しました。


 今後、イラン情勢の動向が中国の実体経済や株式市場にどう影響していくのか、景気回復に向けて追い風となるのかどうか、注目していきたいと思います。


サッカーW杯は景気回復の起爆剤となるか?

 さて、足元、世界を見渡せば、前述したイラン情勢や米企業のスペースX、アンソロピックなどの動向に注目が集まっていますが、ちまたで盛り上がりを見せているのが4年に1度のFIFAワールドカップ2026でしょう。日本も先日行われた初戦、強豪オランダに終始リードされながらも追いつき、粘りの戦いでドロー。貴重な勝ち点1を得ました。


 中国でサッカーのW杯はどのような捉えられ方をされているのでしょうか。私は北京在住中、2006年のドイツW杯、2010年の南アフリカW杯を現地から観戦しましたが、その時感じたのは、中国人民のサッカー、特にW杯への熱量は非常に高いというものです。


 実際、中国(男子)がW杯に出場したのは2002年の日韓共同開催時の1回切りです。当時、優勝したブラジル、3位に入ったトルコと同じ組・グループCで、3戦全敗(他はコスタリカ)、勝ち点ゼロで試合を終えています。


 一方、私が中国で現地の人々とW杯サッカーを巡ってコミュニケーションしてきた感触に基づいて言えば、自国が出場していようがいまいが、中国人民はW杯の試合を見るのが大好きです。各人は往々にして応援するチームがいて(ドイツやアルゼンチンが多い印象)、同じW杯ファンの仲間らと集まって、集団的に試合を観戦する傾向があります。


 また、私の知り合いにもいますが、一企業のトップがW杯好きである場合、その期間は会社を休みにして、みんなで観戦を楽しむこと、そして仮にトップが応援するチームが優勝した場合、従業員にボーナスを与えるといった光景も見られます。当然、(その善しあしはさておき)、友人・知人同士で優勝や順位予想をし、金を賭けるという慣行も私がいたころは横行していました。


 実際、W杯開催期間中のこれらの現象が、中国の景気、特にスポーツバーなどの飲食業や個人消費にどこまで寄与するのかは定かではありませんし、おそらくは限定的、あるいは統計や数字には表れにくいのでしょう。


 ただ、私が感じた中国人民のW杯への熱量はすさまじかっただけに、それらが景気動向にどう影響していくのかに関しては、ウオッチしていきたいなと考える今日この頃です。


(加藤 嘉一)

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