「骨太の方針2026」を受け、ドル円は急騰、約40年ぶりとなる水準まで円安が進む「骨太ショック」が起こりました。片山財務相は「骨太の方針」の修正とGPIFの見直しを発言し161円台前半まで円高が進行しました。

中東情勢の不透明感も高まる中、今後の相場シナリオを考察します。


「骨太ショック」で約40年ぶりの円安、片山財務大臣の“火消し...の画像はこちら >>

片山財務相発言で円高進行。GPIFのポートフォリオ見直しも今後の相場材料に?

 先週10日の片山さつき財務相の発言でドル円は162円台から161円台前半へ円が急騰しました。


 6月30日に発表された経済財政運営と改革の基本方針(「骨太の方針2026」)の原案を受けて、積極財政による財政悪化懸念や日本銀行の利上げけん制懸念から、ドル円は1986年以来の162.84円(筆者推計)まで円安が進み、新発10年物国債利回りは一時1996年以来の2.90%台まで上昇しました。この「骨太ショック」により、政府は動きました。


 片山財務相の発言は以下の内容です。


  • 「骨太の方針」の原案について修正する方向で与党が調整していることを明らかにし、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられるべきだと強調した。
  • 「金利のある世界」になっていることや、株式市場も非常に堅調に動いていることから、家計や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする年金基金が日本の金融資産に更なる投資をする方向で後押しする方策を追求したいと考えている。
  •  これらの発言によって、ドル円は161円台前半まで、円高が進み、新発10年物国債利回りは2.70%近辺まで低下しました。


     片山財務相の発言は、約39年半ぶりの円安と約30年ぶりの長期金利の上昇を沈静化するためだけの発言という見方もありますが、日銀の独立性については、当初14日といわれていた閣議決定が21日に延長された「骨太の方針」で、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」とする日本銀行法第3条について、脚注で引用する方向で調整に入ったもようです。


     21日に閣議決定が予定されている「骨太の方針」の修正内容に注目です。


     一方、GPIFの話は、今後、何回も相場の材料になるかもしれません。

    GPIFのポートフォリオ変更に関わる報道には海外投資家も注目しています。GPIFの運用資産293兆円は巨額であるため、GPIFの動きを市場は常に注目しています。293兆円の1%(約3兆円)が動くだけで影響は大きいことが予想されます。


     また、GPIFのポートフォリオ(資産配分)の変更は、他の公的年金資産が追随する可能性があります。さらに生保など本邦機関投資家の運用資産比率の変更にも影響を与えることも予想されます。


     GPIFの基本ポートフォリオは、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券の4資産に25%ずつ均等に配分されています(2026年3月末:国内株式〈23.81%〉、国内債券〈26.91%〉、外国株式〈24.80%〉、外国債券〈24.48%〉)。


     片山財務相の発言は、外国の金融資産を減らして国内の株や債券の金融資産への投資を増やすことを検討するということです。つまり、外貨売り・円買いが発生することになるため円高に動いたということになります。そして日本の国債への投資を増やすと国債が買われ、金利が低下するということになります。


     市場では、10日の片山財務相の発言でこの連想が働き、円高、長期金利の低下となりました。ただ、資産配分の見直しは5年に1度であり、次は2030年に見直しとのことです。


     市場がもう一つ連想したのは、2014年に当時首相だった安倍晋三氏が資産配分の見直しの前倒しを支持し、12%だった国内株式の比率を25%に引き上げ、日本株の大幅上昇につながったことです。


     ただ、現在の体制は、外部有識者を含む経営委員会による合議制となっているため、基本ポートフォリオの策定や変更は経営委員会の議決が必要となっています。首相の鶴の一声で変わるという体制にはなっていません。2026年3月の経営委員会では「見直しの検討は必要ない」と判断したばかりのようです。


     経営委員会による基本ポートフォリオの変更はハードルが高そうですが、現状の基準で許容されている範囲内で資産配分比率を変更することができます。例えば、国内債や国内株式の比率は25%の±6%の乖離(かいり)が認められています。最大31%まで国内債や株式に投資することができます。


     2026年3月末の資産配分比率で試算すると、国内株式の許容比率は7.19%(31%-23.81%)となり、国内債券の許容比率は4.09%(31%-26.91%)となります。合わせて11.28%となり、約33兆円の国内金融資産への変更となります。今年4月の介入金額3回分の大きさです。一度に出ることはないと思われますが、留意しておくとよい数字です。


     14日、片山財務相、上野賢一郎厚生労働相はともに閣議後の会見で、GPIFのポートフォリオの見直し検討の必要性に言及しました。片山財務相は、「円資産は有利になっていく」と述べましたが、ただ、両大臣ともスケジュールなどの具体策には踏み込みませんでした。


     しかし、今後も政権からの発信には注目していく必要がありそうです。やはり、麻生太郎氏の一言(※)は大きかったのではないでしょうか。


    ※7月2日、麻生副総裁が自民党の派閥会合で「およそ40年ぶりの円安水準である為替の動向も気になる」と発言


    中東情勢の「場外乱闘」で原油価格低下。当面は円安に抑制的か

     片山財務相発言後、ホルムズ海峡を巡って米国とイランの攻撃応酬が続いたことから、中東情勢の不透明感が高まり、有事のドル買いによってドルは上昇し、週明けドル円は162円台の円安となりました。


     ただ、原油はウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)で70ドル台であり、原油価格を見ている限りは、米国とイランの交戦はまだ場外乱闘の域を出ていないのではないかと思わせる原油価格です。


     場外乱闘は何回か続くかもしれませんが、リング上では和平協議が再開し、協議は続く可能性は残るだろうと期待していました。


     しかし、イランがホルムズ海峡の再封鎖を宣言し、13日にはトランプ大統領が「ホルムズ海峡封鎖を復活させる」とした上で「船舶が通航する場合、積まれている貨物の20%相当を通航料として徴収する」との考えを示したため、中東情勢の不透明感が高まりました。


     このトランプ大統領の20%徴収発言を受けて、原油は一時80ドルを超えました。14日には、20%の通航料は事実上撤廃されましたが、まだ70ドル台後半の水準です。このままホルムズ海峡の封鎖が続き、米国とイランの攻撃の応酬が続き、原油が100ドルに向かうような再上昇を見せるのかどうか注視したいと思います。


     原油が100ドルに向かうような動きを見せない限り、有事のドル買いも限定的な動きとなるかもしれません。


     14日に発表された米6月消費者物価指数(CPI)は前月比マイナス0.4%となり、前年比も+3.5%と予想(+3.8%)を下回り、前月(+4.2%)からも大きく低下しました。


     CPIを受けてドル円は161円台半ばの円高となりましたが、ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が議会証言で「インフレの高止まりを容認しない」と発言したため、円安に戻りました。6月CPIは原油価格の低下を受けて予想以上に下がりましたが、足元の原油価格は中東情勢の不透明感が高まる中で上昇の動きを見せ始めています。


     原油が一段高となれば、FRBの利上げ期待が高まりますが、原油が上がり切らなければ、利上げ時期も後倒しになる可能性があります。


     高市政権の積極財政による財政悪化懸念と介入警戒感、中東情勢を巡る原油価格と利上げ観測によってドル円は動いてきました。現状では中東情勢の不透明感が高まっているためドル高優位となっていますが、和平協議が進めば、優位度は下がることが予想されます。ここにGPIFの円高材料が加わったことによって、当面は円安が抑制的な動きになりそうです。


    (ハッサク)

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