ネット銀行やネット証券、ペーパーレス通帳の普及により、資産管理は大きく便利になりました。一方、通帳や郵便物が残りにくいため、被相続人の死後、口座が見つからずに相続人たちが苦労するケースも少なくありません。

そこで、証券の所在が分からずトラブルになった事例をもとに、デジタル遺産の相続対策を解説します。


3,000万円分の証券がない!…総額1億円の遺産を相続した3...の画像はこちら >>

財産目録にある3,000万円の証券が見つからない

 80代で亡くなった山田けいこさん(仮名)。彼女には子どもがおらず、兄の山田正一(仮名・80代)さんとめいの佐藤美紀さん(仮名・50代)、おいの田中健太さん(仮名・50代)らが相続人となりました。


 けいこさんの遺産は、約5,000万円の不動産に加えて、約2,000万円の預貯金、約3,000万円の証券など。遺産総額は約1億円です。


 けいこさんには生前、兄の正一さんが成年後見人として就いていました。正一さんが作成した財産目録には約3,000万円の証券が記載されていたため、相続開始後、美紀さんと健太さんが手元の資料を調べたところ、いくら探しても証券会社からの郵便物や取引報告書、口座履歴が見つかりませんでした。


 とはいえ、父の正一さんから得られる情報も限られていたため、美紀さんと健太さんは複数の証券会社に照会をかけたものの、けいこさん名義の口座は一向に見つかりません。


「証券はすでに処分されたのではないか」「一部の財産が隠されているのではないか」


 途方に暮れかけた美紀さんと健太さんは、手数料を払って証券保管振替機構、いわゆる「ほふり」への照会などを決心。その結果、ようやく証券口座が判明しました。


「なんだよこれ……」


 証券会社への問い合わせで口座が判明しなかった原因は、カナ氏名が本来の「けいこ」ではなく、「けえこ」と登録されていたことでした。この「わずかな読み方の違い」により、約3,000万円の財産が通常の調査では見つからない状態となっていたのです。


無対策の「見えない財産」が招くトラブル

 預金や株式、投資信託などは、紙の通帳や取引報告書がなくても相続の対象になります。しかし、相続人が金融機関や口座の存在を把握できなければ、遺産分割の対象に含めることも、実際に名義変更や払い戻しを進めることもできません。

法律上は相続される財産であっても、現実に発見できるかは別の問題です。


 従来は、通帳、証券会社からの郵便物、配当金の通知などから取引先を推測できました。ところが、ネット銀行やネット証券では、通知がメールやアプリ内だけで完結することも多く、本人の死亡後にスマートフォンやメールを確認できなければ、調査の手掛かりが残らないことも少なくありません。


 上場株式などについては、相続人が「ほふり」に登録済加入者情報の開示を請求し、口座の開設先を調べる方法があります。ただしこれは、ほふりが保有する情報を基に証券会社などを確認するための制度であって、預金や暗号資産を含む全ての財産や残高を、一括して把握できるものではありません。


 また、被相続人の氏名や住所、生年月日などの登録情報に誤りがあると、調査が難航する可能性もあります。


 とりわけ暗号資産は、利用している交換業者やウォレットの存在が分からなければ、相続人側から調査すること自体が困難です。秘密鍵や復元フレーズを失うと、法的には相続財産であっても、事実上移転できなくなることがあります。


家族に残すべきなのは暗証番号ではない

 デジタル遺産の見落としを防ぐため、まず作成しておきたいのが「金融資産の一覧表」です。銀行名、支店名、証券会社名、保険会社名、暗号資産交換業者名、利用しているメールアドレスなどを記載し、家族が相続開始後に照会できる状態にしておきます。


 なお、残高は日々変動するため、正確な金額まで書く必要はありません。重要なのは、どこに財産があるのかという入口を残すことです。


 一方、暗証番号やログインパスワード、暗号資産の秘密鍵などを一覧表にそのまま記載すると、生前の不正利用や紛失のリスクが生じるため注意しましょう。

財産の一覧と、パスワードの管理方法や遺言書、秘密鍵などは分けて保管し、一覧表には「重要情報をどこに保管しているか」だけを書く方法が安全です。


一覧表は「作って終わり」ではない

 一覧表を作ったあとに、口座の新設や解約、登録メールアドレスの変更などがあった場合、都度更新をしておきましょう。誕生日や年末など、年に一度見直す時期を決めておくのがおすすめです。


 相続人側も、通帳や郵便物だけで判断せず、確定申告書や預金の入出金履歴、スマートフォン、メール、成年後見人の財産目録などを確認し、必要に応じて金融機関やほふりへの照会を行うことが重要です。


遺産は「見つけてもらう」までがセット

 ネット銀行やネット証券は便利ですが、通帳や郵便物が残らなければ、本人の死亡後に家族が口座の存在を把握できないリスクをはらんでいます。今回の事例では、ほふりへの照会によって約3,000万円の証券を発見できましたが、全ての金融資産を確実に、一括して調べられる制度はありません。


 暗証番号やパスワードを家族に教える必要まではないですが、利用している金融機関や取引所の名称、重要資料の保管場所は、家族が分かる形で残しておきましょう。


※本稿の事例は実際の事件をもとにしていますが、守秘義務およびプライバシー保護のため、登場人物は全て仮名とし、人物関係、年齢、財産額その他の事情を一部変更しています。


(山村 暢彦)

編集部おすすめ