【ウィルグループ】領域特化と戦略M&Aで高成長、成長を支える国内・海外M&A戦略

事業領域を絞ったM&Aを活用して成長を遂げる企業がある。人材サービスのウィルグループ<6089> だ。

国内では建設・医療・福祉領域、海外では主にアジア・オセアニア圏の航空やIT領域などの特定の業界に注力し、一大グループへと発展した。創業から同社の歩みとM&A戦略をたどる。

「領域特化」と「現場密着」で独自のポジションを確立

2000年、ウィルグループの前身であるセントメディア(現 ウィルオブ・ワーク)は、食品工場を中心に現場請負を展開していたビッグエイドを吸収合併し、ファクトリー分野へ参入した。既存のテレマーケティング事業、業務請負業とのシナジーを図り、現場の運用力を高める狙いがあった。

背景には、1999年の労働者派遣法改正により、人材派遣の対象業務が原則自由化したことがある。セントメディアは、この制度改革の波と、バブル崩壊後に高まった企業の人件費削減ニーズを的確に捉え、成長の足がかりを築いていった。

自由化の波に乗って派遣事業者の数が激増し、業界全体が「大量マッチング」と「価格競合」のレッドオーシャンへと突入。そうした中、ファクトリーアウトソーシング事業で足場を固めたセントメディアは、2002年に家電量販店や携帯ショップ向けのセールス・コールセンターアウトソーシング事業へと領域を広げていく。

同社が他の派遣事業者と一線を画していたのは、製造、セールス、コールセンターといったAIによる代替や自動化がされにくい「エッセンシャル領域」へと特化した点だ。

加えて、単に人を送り出す登録型派遣にとどまらず、自社社員が現場に常駐してスタッフの指導から運用まで引き受けるスタイルを構築。他社が価格競争とスタッフの離職に悩まされる中、この現場密着型アプローチによって高い定着率を実現した。

これらで独自のポジションを確立し、後の総合人材グループへと飛躍していく強みとなった。

ウィルグループのM&A戦略① 国内Working事業

ウィルグループが東証に上場した2014年3月期の国内Working事業は売り上げにあたる外部収益224億3500万円、セグメント利益9億4000万円。これが2026年3月期には外部収益882億6200万円、セグメント利益35億7900万円まで成長した。

【ウィルグループ】領域特化と戦略M&Aで高成長、成長を支える国内・海外M&A戦略
国内Working事業の業績推移

着実に売り上げを伸ばせたのは、M&Aが絡む。2010年代からの国内M&Aの戦略を見ると、2015年にIT業界に特化したマーケティングを手がけるクリエイティブバンクを子会社化した。そのノウハウを取り込むことで、ウィルグループの人材派遣と融合させた販売促進の提案力強化を図った。

2018年には施工管理技士などの建設系技術者に特化した人材サービスを提供するC4を子会社化し、建築分野のアウトソーシングに参入。単なる領域拡大にとどまらず、未経験者を自社の正社員として採用・育成して派遣する「正社員派遣(無期雇用派遣)モデル」を築く契機となった。従来の有期派遣に比べ、正社員派遣は定着率と利益率を引き上げた。

さらに2025年には、医療・福祉・建設領域等に強みを持つHR CAREERを子会社化。今後も需要拡大が見込まれる領域において、従来の派遣事業に加えて人材紹介事業の規模拡大と競争力強化を狙っている。

いずれの事例も、ウィルグループが市場のニーズに即した事業領域の多角化と高付加価値化を着実に進めてきた戦略的意図が伺える。

ウィルグループのM&A戦略② 海外Working事業

次に海外M&A戦略に目を向けてみよう。

ウィルグループの海外展開における司令塔であり、M&A戦略の中核を担うのは、シンガポールに設立した海外事業統括会社WILL GROUP Asia Pacific Pte. Ltd.(以下WAP)だ。

もともと同社は2011年にグッドジョブ・クリエーションズ(シンガポール)を子会社化して東南アジア市場へ初参入を果たしていた。ここをベースに海外展開を本格化させるべく、統括拠点としてシンガポールにWAPを2014年に設立。

同年、IT・専門職領域に強みを持つサイエンテック・コンサルティング(シンガポール)を子会社化し、アジアにおける紹介・派遣機能の強化に乗り出した。

続いて2016年には、参入障壁の高い航空業界向け人材派遣を手掛けるオリエンタル・アビエーションなど3社(シンガポール)を獲得するとともに、アジア・リクルートHDを子会社化してマレーシア主要都市における人材紹介・派遣ネットワークを拡大した。

2019年にはチャップマン・コンサルティング・グループ (シンガポール)を子会社化、グローバル企業向けの人材紹介・コンサル基盤を獲得し、ユー・アンド・ユー HD(オーストラリア)を子会社化して豪州でのハイクラス人材のスカウト、IT・公的機関向けサービスを網羅的に強化した。

こうしたM&A戦略の成果は、数字にも表れている。2014年3月期の海外事業は売り上げにあたる外部収益1億7200万円、セグメント利益△1700万円だったのに対し、2026年3月期は外部収益585億100万円、セグメント利益24億2700万円の伸びを見せた。

【ウィルグループ】領域特化と戦略M&Aで高成長、成長を支える国内・海外M&A戦略
海外Working事業の業績推移

中期経営計画が描く成長ロードマップ

国内外ともに戦略的なM&Aを推進力として成長してきたウィルグループ。2029年3月期に向けた新中期経営計画では、営業利益47億円(2026年3月期比CAGR 16.1%)をベースラインとして掲げる。さらに、アップサイドとして営業利益55億円の水準を目指すほか、ROE 15%以上の達成を目指す。

目標達成に向け、同社は国内・海外でそれぞれ明確な重点戦略を打ち出している。

国内Working事業では、「正社員派遣/請負」「外国人雇用支援」「人材紹介」の3領域に注力する。一般派遣に比べて粗利と定着率が高いこれらの領域拡大を通じて国内Working事業の売上総利益を250億円以上とし、同ビジネスが占める構成比を75%以上(2026年3月期は47.8%)にまで高める方針だ。この事業基盤拡大のため、3年間で100億円のM&A投資枠を設定している。

海外Working事業では、オーストラリアやシンガポールなどの既存展開国において、幅広い顧客基盤を活かした高粗利な人材需要の開拓や、デジタル・AI分野などの高付加価値領域へとシフト。2029年3月期までにセグメント利益24億円規模の安定的な創出を目指す。海外M&Aについても、手許現預金の範囲内という財務規律を維持し、堅実に進める。

【ウィルグループ】領域特化と戦略M&Aで高成長、成長を支える国内・海外M&A戦略
M&Aが生み出すビジネス革新
編集部おすすめ