大阪の大手チェーンも倒産!出版不況を受けて進む書店のM&A

大阪の老舗書店を運営していた会社が、市場から退場することになった。東京商工リサーチ(TSR)によると、大阪府豊中市などで「田村書店」を展開していたTSH(旧 田村書店)が8月4日、大阪地裁から特別清算開始決定を受けた。

負債総額は2023年5月期時点で14億5907万円にのぼる。1948年創業で、かつては北摂地域を代表する書店チェーンだったが、出版市場の縮小を受けて不採算店舗の撤退を重ね、主要店舗を他社に譲渡した末に、清算を余儀なくされた。

ピーク時45億円超から特別清算へ

田村書店は1948年創業。千里ニュータウンなど大阪府北摂地域を中心に店舗網を広げ、2002年5月期には売上高45億7902万円を計上した。ところが、読書文化の後退や雑誌販売の減少などを背景に業績が悪化。2015年5月期には不採算4店舗を閉鎖するなど、大幅な赤字に転落した。その後も店舗撤退などの合理化を進めたが、2023年5月期には6356万円の赤字となり、債務超過が拡大した。

2024年11月には、千里中央店など主要8店舗をオー・エンターテイメント(大阪市中央区)に事業譲渡。現在、オー・エンターテイメントは「田村書店」の屋号を引き継いでおり、同社公式サイトには大阪府6店舗、兵庫県2店舗の計8店舗が掲載されている。つまり、今回の特別清算は「書店が突然なくなった」というより、店舗事業を先に別会社へ譲渡し、残った会社を清算するという事業再生型のM&Aの最終局面と見ることができる。

本が売れない!雑誌市場は半分以下に

田村書店の苦境は、決して1社だけの問題ではない。出版科学研究所によると、紙の出版市場は2000年に書籍9706億円、雑誌1兆4261億円の計2兆3966億円だった。これが2015年には書籍7419億円、雑誌7801億円の計1兆5220億円まで縮小した。2000年から2015年の15年間で、出版市場は約36%減少したことになる。

その後も縮小は止まらない。同研究所は、書籍について2010年代に少子高齢化やインターネットの影響が顕在化し、コロナ禍の2020~2021年には一時的に販売が上向いたものの、2022年以降は再び減少が続いていると分析している。

とりわけ深刻なのが雑誌だ。2025年の雑誌発行部数は9億4254万冊。2016年の22億4658万冊から約58%も減少した。2025年の雑誌販売金額も3708億円にとどまり、28年連続の減少となった。

書籍も安泰ではない。新刊の推定発行部数は2000年代半ばの約4億冊規模から縮小し、2025年には2億2323万冊となった。書店の減少は、こうした市場縮小とほぼ軌を一にする。

日本出版インフラセンター(JPO)の書店マスタ管理センターによると、書店数は2003年度の2万880店から減少を続け、2025年度には9993店と初めて1万店を割り込んだ。最盛期の1998年度には2万4237店あったため、ピークからは1万4000店超が消えたことになる。

書店側からすれば、売上高が縮小する一方で、家賃、人件費、電気代、キャッシュレス決済手数料などの固定費や変動費は簡単には減らせない。

TSHも不採算店舗の閉鎖を進めてきたが、最終的には事業そのものを他社に譲渡することになった。

生き残りをかけた「書店M&A」が進む

こうした市場環境の中で目立つのが、書店会社や店舗網を丸ごと取り込むM&Aだ。その代表例が、大日本印刷(DNP)による書店大手の相次ぐ子会社化である。DNPは2008年、丸善の第三者割当増資を引き受け、出資比率を51.28%に引き上げて子会社化。翌2009年にはジュンク堂書店の株式51%を取得した。

2010年には、文教堂グループホールディングスを連結子会社化。同年にDNP傘下の丸善と図書館流通センターが経営統合してCHIグループを設立するなど、グループ再編も進めた。

DNPは書店を単なる小売事業としてではなく、出版、教育、図書館、電子出版などを含む出版流通プラットフォームの一部として取り込もうとしている。

出版取次大手の日本出版販売(日販)も書店再編を進めた。2015年11月に あゆみBooksを子会社化し、2018年には日販グループのリブロ、万田商事、あゆみBooksの3社を経営統合。3社が運営するLIBRO、よむよむ、パルコブックセンター、オリオン書房、あゆみBOOKSの合計89店の書店を集約した。

同業のトーハンも書店網の取り込みを進め、これまでに明屋書店やブックファースト、文真堂書店、あおい書店、岩瀬書店など地域書店をグループに取り込んできた。

書店業界では、紀伊國屋書店が「台風の目」だ。

2019年にTSUTAYAが旭屋書店と東京旭屋書店を子会社化したが、2024年12月には紀伊國屋書店がTSUTAYAから両社の全株式を取得して子会社化した。さらに2025年6月には、京王電鉄傘下だった京王書籍販売(啓文堂書店)の全株式を取得。これらにより、旭屋書店11店舗、啓文堂書店20店舗が紀伊國屋書店グループに加わった。

こうした流れをみると、書店M&Aには二つの大きなパターンがある。一つは、印刷や取次、大手書店などが書店網を取り込む「業界内・周辺産業による再編型」。もう一つが、今回の田村書店のように、経営が行き詰まった会社から店舗網だけを別企業が引き継ぐ「事業承継・事業譲渡型」だ。

大阪の大手チェーンも倒産!出版不況を受けて進む書店のM&A
(M&A Online作成)
(M&A Online作成)

電子化できないリアル商品・サービスで生き残る

こうした環境下では、書店M&Aの姿も従来とは変わってくる。

第一は、店舗や地域単位の事業譲渡の増加だ。書店会社そのものを買収すると、過剰債務や不採算店舗まで引き受けることになる。一方、事業譲渡では、契約によって対象を選別し、優良店舗や従業員、顧客基盤、商圏、屋号などを引き継ぎ、過剰債務や不採算店舗を切り離すことも可能だ。田村書店の主要8店舗がオー・エンターテイメントに移ったのは、その典型例といえる。

第二は、書店以外の事業を持つ複合型企業による書店事業の取得だ。

オー・エンターテイメントは書店だけでなく、商業施設や文具・雑貨、スポーツ、映画館、教育など幅広い事業を手がける。書店単体で利益を出すのではなく、これらの販売やサービスを組み合わせた複合店舗で収益性を高めるモデルだ。

第三は、大手書店・取次による地域チェーンの集約である。書店数が1万店を割る一方、地域には駅前や商業施設内など、立地の良い店舗が残っている。こうした店舗を大手が取得し、仕入れや物流、IT、ポイント、EC(電子商取引)、販促イベントなどを共通化すれば、単独経営よりも効率を高められる。

ただし、M&Aだけでは「本が売れない」という問題を解決することはできない。これからの書店に必要なのは、単純に本を並べて販売する「本屋」から、書籍以外の物販やイベント、教育、地域コミュニティーなどを組み合わせた、電子化できないリアルなコンテンツの販売拠点への転換だろう。

出版市場の縮小が続く以上、すべての書店が生き残ることは難しい。だからこそ、今後のM&Aでは「どの書店を買うか」以上に、「どの店舗を残し、何と組み合わせれば、その地域で書店として存続できるか」が重要になる。

田村書店を運営していたTSHの特別清算は、地域書店が会社として存続することの難しさを示す一方、店舗事業そのものはM&Aによって引き継がれるという、現在の書店再編を象徴する出来事ともいえそうだ。

文:糸永正行編集委員

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