NYダウが最高値を更新しました。銘柄入れ替えというゲタ、株高を望む人々の期待、期待を増幅させるSNS、株価指数のインフラ化などの側面から考察します。

さらに、社会の「光」が株高を、「影」が金(ゴールド)高を促す構造をひもとき、日経平均10万円超が夢物語ではない可能性を探ります。


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コモディティアナリストの素朴な疑問

 図1は、1986年以降の米国の主要三株価指数と、代表的なコモディティ(国際商品)である原油、銅の価格推移です。


 2010年1月を100として指数化すると、足元でナスダック総合指数は1,000を大きく超え、S&P500種指数、ダウ工業株30種平均も大幅に上昇しています(2026年8月、最高値を更新)。一方、原油と銅は長い期間を経ても、株価指数ほど大きく上昇していません。


図1:米主要三株価指数および原油・銅価格の推移
NYダウ最高値更新が示す日経平均10万円超の可能性
出所:世界銀行、Investing.comのデータを基に筆者作成

 銅はしばしば「ドクター・カッパー(Dr. Copper)」と呼ばれます。電線、建物、自動車、機械など、幅広い用途で使われるため、その価格の変化が世界経済の状態を診断する医師のような役割を果たす、という意味です。


 原油も同様です。輸送を中心に、製造、発電、石油化学など、現代の経済活動のありとあらゆる場面に関わり、世界の隅々に行き渡っていることから、「経済の血液」であるといえます。銅と原油は、ともに世界の実体経済と深く結び付いているコモディティです。


 このように考えれば、コモディティアナリストとして素朴な疑問が湧きます。世界経済を診断する「ドクター・カッパー」と言われる銅と、世界経済を巡る「血液」である原油がこの程度の上昇にとどまっているにもかかわらず、なぜ株価指数は、何倍、何十倍という規模で上昇することができたのでしょうか。


 もちろん、株式とコモディティは性質が異なるため、単純に比較することはできません。株式には企業利益の成長があり、配当があり、技術革新があります。

一方、原油や銅には企業のような利益の成長はありません。


 しかし、それだけで、図1に見られる圧倒的な差を説明できるのでしょうか。この素朴な問いに答えを出すためには、過去の常識を覆す必要があると、コモディティアナリストである筆者は考えています。


 この考え方は、株価指数が過去の常識で説明しにくくなっている、ということを前提にしています。予断を持たずシンプルに、ゼロベースでこの問いに向きあうことで、思いがけない答えが出ていきます。


株価指数の「銘柄入れ替え」は「ゲタ」

 ここまで、原油や銅と株価指数の長期的な値動きには、大変に大きな差があることを確認しました。この差を生んだ要因の一つに「銘柄入れ替え」が挙げられると筆者は考えています。株価指数は、同じ企業で構成されていません。時代の変化に応じて構成銘柄が入れ替わります。


 図2は、NYダウを構成する30銘柄を、1975年、2000年、2025年と年別に、セクター別に分類した資料です。1975年は素材が11銘柄と突出し、情報技術、金融、ヘルスケアはゼロでした。


図2:NYダウのセクター別の構成銘柄数の変遷
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出所:各種情報源を基に筆者作成

 ですが、2025年になると、素材は1銘柄となり、情報技術は6銘柄、金融は5銘柄、ヘルスケアは4銘柄にまで増加しました。50年間で、NYダウの「中身」は大きく変わったのです。


 これは、米国経済の変化を反映した結果でもあります。かつて経済成長をけん引した素材や製造業に代わり、IT、金融、ヘルスケアなどの存在感が高まりました。そして株価指数も、その変化を取り込みながら姿を変えてきました。


 原油は原油、銅は銅です(だからこそ、コモディティ、国際的な汎用品と言われる)。しかし、1975年のNYダウと2025年のNYダウは、同じ「NYダウ」という名前でありながら、その構成は米国経済の変化を受けて大きく変化しました。


 その時代を代表する企業を組み入れ続ける(そうでない企業を外し続ける)ことで、同指数は経済成長への「期待」を維持しやすくなります。つまり、銘柄入れ替えは、上昇を享受しやすくするきっかけになり得るといえます。この仕組みは、株価指数が履く「ゲタ」だといえるでしょう。


金融業界「みんなで」株価指数を支える

 ここまで、主要株価指数には構成銘柄を入れ替える、時代の変化を取り込む「仕組み」があることを確認しました。しかし筆者は、株価指数の長期上昇を支えているのは、仕組みだけではないと考えています。


 人間の感情の動きがもたらす思惑(プラスの思惑は期待、マイナスの思惑は懸念)も大きく関わっていると考えられます。図3は、筆者が近年、金融業界の著名人たちから実際に聞いた言葉です。


図3:金融業界の重鎮たちが述べた言葉(実話)
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出所:実体験を基に筆者作成

「株式市場では戦争は終わった」「株価は半年から1年先の思惑を織り込んで動く」「アナリストは芸能人でなければならない」「お客様が読みたいと思うレポートを書こう」「みんなでやっているのだから、弱気は言うな」「株価指数が下がったらみんな困るでしょう?」。

いずれも、それぞれの立場や文脈の中で発せられた言葉です。


 筆者は、これらを批判的に紹介したいわけではありません。むしろ、株価指数が金融業界だけでなく、社会全体にとって大変に重要な存在であることを示す、重要な言葉だと感じています。


 株価が上昇すれば、投資家の資産が増え、企業の資金調達環境が改善し、年金などの運用環境にも追い風になります。逆に大幅に下落すれば、多くの人が困ります。「株価指数には上昇してほしい」という思いを持つ人が多くなるのは、ある意味で自然なことです。


 これらの言葉は、株価指数の動向(個別株ではない)がいかに「期待」と「懸念」の影響を受けているのかを、示唆する言葉だともいえます。


 こうした状況の中、2010年ごろから、思惑(期待・懸念)を増幅させる装置が、世界的に急速に普及しました。SNSです。図4は、SNSが社会を経由して経済に与え得る影響を整理した資料です。


図4:SNSがもたらす社会・経済への影響(一例)
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出所:各種資料を基に筆者作成

 SNSでは怒りや不満が瞬時に共有され、「待てない」「複雑な説明より分かりやすい説明を好む」「見たいものだけを見る」「感覚を優先する」といった行動が目立ちやすくなります。


 もちろん、SNSには情報共有を容易にし、これまで届かなかった声を社会に届けるという大きな利点があります。

一方で、その即時性は社会に「早く結果を出してほしい」という圧力を強めています。


 この変化は経済政策と無関係ではありません。物価が上昇すれば、給付、減税、補助金を求める声が大変に強くなります。景気が悪化すれば、今すぐの景気対策を求めます。格差への不満が高まれば、再分配を求めます。株価が不安定化すれば、金融・財政政策による対応への期待が膨張します。


 時間をかけた構造改革よりも、短期間で効果を実感しやすく、政策が支持を得やすい環境が形成されているといえます。政治家も逆に「待ったなし」と述べています。


 金融業界が意図的に株価を押し上げている、と述べているのではありません。金融機関、企業、投資家、政府、そして有権者は、それぞれ異なる目的で行動しています。それでも結果として、「できるだけ株価指数は上昇してほしい」という方向で思惑が一致しやすいといえます。


 銅や原油では、このようなことはありません。

価格が下落しても、社会「全体」が「銅価格を上げよう」「原油価格を最高値に戻そう」と考えることはありません。大まかに言えば社会の半分は、銅や原油の需要家、消費者だからです。


 先述の「銘柄入れ替え」という「ゲタ」の仕組みに、こうしたに人間の思惑(期待・懸念)が重なっていることが、銅や原油では考えられない株価指数の上昇を実現している一因であると、筆者は考えています。


 そしてSNSが社会のあり方を大きく変え始めた2010年ごろ以降、この思惑の影響はさらに強まったといえます。


インフラ・信仰の対象としての株価指数

 ここまで、主要株価指数の長期視点の上昇について、「銘柄入れ替え」という仕組みと、「思惑(期待・懸念)」という人間の感情(SNSが増幅)という、二つの側面から考えてきました。


 図5は、コモディティアナリストである筆者が考える、米国の主要株価指数の長期上昇の背景を整理した資料です。経済成長や企業業績の拡大という本来の要因に加え、いくつかの株価指数特有の事情があります。


図5:コモディティアナリストが考える米主要株価指数の長期上昇の背景
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出所:筆者作成

 まず、「銘柄入れ替え」です。このことは、当該株価指数を基準とする投資信託や上場投資信託(ETF)の運用に直接的に影響を与えます。もちろん、年金の運用や個人の資産形成に大きな影響を与えます。


 その意味では、株価指数は、多くの人の将来の生活と結び付いたインフラ(社会基盤)であり、銘柄入れ替えはインフラを整備・増強する作業だともいえます。


 インフラが大きく毀損(きそん)することを望む人はほとんどいません。株価が急落すれば、投資家だけでなく、企業、金融機関、年金などにも影響が及びます。

景気悪化を伴えば、政府や中央銀行に対策を求める声も強まります。結果として、金融緩和、財政支出、減税などが行われ、景気だけでなく株式市場を下支えすることがあります。


 もちろん、政策当局の目的は株価そのものを上昇させることではありません。しかし、経済を支える政策と株価を支える力が、結果として同じ方向を向くことがあるのです。インフラの整備・増強は社会的な命題であることが、意識されているためだといえます。


 筆者は、すでに株価指数の長期上昇も社会的な命題になっていると考えています。以前に話題になったトランプ口座など、子どもの口座で金融商品を保有する施策は、株価指数がインフラという側面を持ちつつあることを、よりどころとしているといえそうです。


 筆者はここに、もう一つ「信仰」という言葉を加えたいと思います。少し刺激的な表現ですが、宗教的な意味ではありません。


 長期投資の世界では、「経済は長期的に成長する」「優良企業は利益を増やす」「株価指数は短期的に下落しても、長期的には上昇する」という考え方が広く共有されています。そして、実際に米国の主要株価指数が長期上昇してきたことで、この考えに対する信頼はさらに強まっています。


 つまり、「上昇してきたから、これからも上昇すると考える人が増える。そう考える人が増えるから、長期視点で資金が流入する」という循環が存在し、今後もそれが続くと強く考えられているのです(信仰に似ている)。


 こう考えると、主要株価指数には、「銘柄入れ替え」というゲタ、「みんなで信じて支える」という社会的な思惑が重なっているように見えます。


 これは米国の株価指数の影響を強く受ける、日本を代表する株価指数である日経平均株価も無関係ではありません。日本でも資産形成を促す政策、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の普及、企業統治改革などを通じ、家計と株式市場の距離は大いに縮まっています。


 企業利益や名目経済が成長することを大前提としつつ、米国で起きたような株価指数の「インフラ化」が日本でも進むのであれば、日経平均10万円という水準も、長期的には全くあり得ない数字とは言い切れません。そのころには、米国の主要な株価指数は、大きく水準を切り上げているでしょう。


長期の株高・金(ゴールド)高は継続か

 ここまで、主要株価指数の長期上昇について、「銘柄入れ替え」という仕組み、株高を望む人々の思惑、株価指数のインフラ化という視点から考えてきました。こうした力は今後も株価を支える可能性があります。


 その上で、コモディティアナリストとしては、その反対側にも目を向ける必要があると考えています。株価を支える期待の塊である「光」が強くなるほど、金(ゴールド)価格を支える懸念の塊である「影」が濃くなる可能性があるためです。


 図6は、長期視点の金(ゴールド)市場を取り巻く環境です。金融緩和や財政支出などによって経済を支える動きは株価指数にとって「光」です。その一方で、それを受けて発生する、通貨供給量や財政赤字の増加、長期視点のインフレなどは、超長期視点で金(ゴールド)相場を支える「非伝統的な有事」になり得ます。


図6:長期視点の金(ゴールド)市場を取り巻く環境
NYダウ最高値更新が示す日経平均10万円超の可能性
出所:筆者作成

 また、SNSの普及によって多様な意見が可視化される一方、分断、自国優先、感情の噴出、短期的な成果を求める風潮なども強まっています。これらの「非伝統的な有事」が増幅する「影」は、特定の国や通貨の信用に依存しない金(ゴールド)を保有する理由を強めるきっかけになり得ます。


 図7は、この「光と影」が市場に表れている可能性を示唆しています。1980~1999年ごろのS&P500と金(ゴールド)の相関係数はマイナス0.60でした。株高・金(ゴールド)安、株安・金(ゴールド)高という、教科書的な逆相関が比較的鮮明だった時代です。


 ですが、2010年ごろ以降、両者の相関係数は0.82程度になりました。株と金(ゴールド)が、ともに長期視点で上昇する時代に突入しているのです。


 筆者は、現代社会が増幅する「期待」(SNSでさらに膨張)という光が株価を押し上げ、非伝統的有事が増幅する「懸念」という影が金(ゴールド)価格を押し上げていると考えています。この構造が続くのであれば、「株か金(ゴールド)か」という二者択一ではなく、「株も金(ゴールド)も」上昇する環境が長期化する可能性があります。


図7:S&P500、金(ゴールド)の価格推移
NYダウ最高値更新が示す日経平均10万円超の可能性
出所:ブルームバーグのデータを基に筆者作成

 そして日本でも、企業業績の拡大だけでなく、指数の銘柄組み換え、資産形成のさらなる普及、株価指数のインフラ化、景気悪化を回避しようとする政策(国・自治体)と思惑(国民)が重なれば、株価指数の長期上昇は続き得るでしょう。


 日経平均10万円超は決して夢物語ではなく、社会構造の変化から考えることができる長期シナリオの一つだと、筆者は考えています。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入


投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)


中期:関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:商品先物

国内商品先物
海外商品先物


短期:CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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