日本郵船は2026年7月6日、東京湾内でクルーズとフランス料理を楽しめる新たなクルーズ船「AMANE(海音)」が2027年5月に就航すると発表しました。同船は日本郵船グループのクルーズクラブ東京が運航しているレストラン船「レディクリスタル」の後継船。
「レディクリスタル」は1990年5月に就航し、通常は天王洲アイルを拠点に東京港の周遊を行っています。クルーズクラブ東京はレストラン船とクラブハウスレストランを組み合わせたサービスを提供しており、どちらも36年間にわたって天王洲のシンボルとして愛されてきました。
「36年前、私は客船を担当していた」と曽我社長は振り返ります。1980年代半ば、日本郵船は宮岡公夫社長(当時)のもと、「氷川丸」の引退で途絶えた客船事業の復活に向けて動いていました。クルーズ需要の動向を見つつ海外市場向けと国内市場向けに加え、エクスペディション(探検)船など複数隻が建造されることになりましたが、その中の1隻が「レディクリスタル」となります。
「『レディクリスタル』はプロジェクト名では小梅ちゃんと呼ばれていた。当時、『松』『竹』『梅』『小梅』と4つの客船プロジェクトがあり、松が北米のマーケットに投入する大型客船『クリスタルハーモニー』で、のちに『飛鳥II』となった。竹がプロジェクトに私が関わっていた初代『飛鳥』。梅というのは、実は探検船『フロンティア・スピリット』というものを作ったことがあり、これで南極へ行ったりしていた」
日本郵船グループで最大のクルーズ船「飛鳥II」が5万444総トンなのに対して、「レディクリスタル」は346総トン。客室が設けられているデッキはメイン・デッキとプロムナード・デッキの2つのみというコンパクトな構成で、「小梅」という通称もうなずけます。
引退が迫る「レディクリスタル」に向けて「小梅ちゃんがすごく成長して36年間も頑張ってくれたことが嬉しいし、ずっと一緒にいれたことが嬉しい」と笑顔で話していました。
一方で、新造クルーズ船「AMANE」のデザインは、充実したクルーズ体験を提供すべく「レディクリスタル」と大きく変わりました。コンセプトは「庭園としての東京湾」。東京湾を庭に見立て、水上に浮かぶ邸宅のような船上空間を構想するとともに、船が本来持つ曲線を生かしたデザインが取り入れられました。
乗船時間も「レディクリスタル」はディナークルーズで2時間となっていますが、「AMANE」ではおよそ3時間かけて東京湾を巡るとしています。
「AMANE」の全長は約48m、全幅は約9.5mで、総トン数は約480トン。電動モーター推進システムを採用したハイブリッド型電気推進船で、日本郵船グループ初となる水素燃料電池システムを搭載します。建造ヤードは前畑造船(長崎県佐世保市)。内外装含めたトータルデザインはインテリアデザイナーでワンダーウォール代表の片山正通氏が手掛けました。
船内は1階にメインダイニングを配置するとともに、2階にはプライベートな時間を過ごしてもらえるよう3つの個室を用意。船内ではシェフが惚れ込んだ地域の名産品を使い、和の技法や味を織り交ぜて作る、日本でしか食べられないフレンチコースを提供します。
「メインダイニングの画期的なところは、ピラー(柱)がないところ。さまざまなイベントに対応できるよう、テーブルのレイアウトが入れるように考えている。
さらに片山氏は大きな目玉として2階に12人用の大きな個室を船首に設けたことをあげます。
「通常は風が強いため、プライベートルームは船尾の方に用意されている。しかし船に乗った時は、どうしても前を見たい。皆さんの理解を得て、操舵室の場所を移動させることで、船首に大きな円形のラウンドしたガラスの壁を持つ大きな個室を設けた」
個室にはそれぞれ専用のテラスが用意されており、船首個室のデッキからは海をより身近に感じながら、東京湾の景色を楽しむことができます。2階後方にはバーラウンジも用意されており、天気が良い日は全部の窓を開けて内と外が融合するような体験ができるようにしました。
最上階の3階に置かれたフライングデッキには、テーブルやカウンターだけでなく、ドリンクの提供を行うサービスカウンターも設置。お酒を片手に、自由にクルーズを満喫できるようにします。
「AMANE」のプロジェクトコンサルティングを行っているタイソンズアンドカンパニーの寺田心平社長は「この船は、東京湾を代表するフラッグシップ。小規模でデザイン性が高く上質で、人と人との距離が近いホスピタリティーのある、シティクルーズ体験を作ることを目指した」と述べています。
36年前の計画にあった「本当の位置づけ」曽我社長は「『レディクリスタル』の就航当時は、東京湾でのクルーズはレストランボートという位置付けに近く、その延長線上に『飛鳥』や『クリスタルハーモニー』がいた。そういう線の中にあったプロジェクトだったが、現実には線ではなく、それぞれがきっちりとした点であり、それが大きくなっていくような成長のしかたをしてきた」と話します。
現在、東京湾では「レディクリスタル」のほかに、シーライン東京の「シンフォニークラシカ」「シンフォニーモデルナ」やYクルーズの「マリーンルージュ」といったレストラン船が就航していますが、いずれも船齢30年超の大ベテラン。
曽我社長は「36年前からレストラン船事業に着手していて、その中で私たちが一番訴えたかったのは、海から見る景色を、どういうふうに価値を売って、皆さんにエンジョイしていただけるかという部分だ」と強調します。
「海から見る東京の景色はすごく良いものがあり、これはいまだに変わっていない。この事業をもっと進化させ、素晴らしいものを実際に感じ入っていただく。そのために、何に力を入れていかなければならないのか、どう自分たちが変わらなきゃいけないのか、それを考えて今回のプロジェクトに結びつけた」と述べ、レストラン船事業を今後も継続していく意欲を示しました。
既存の「レディクリスタル」は2026年11月末をもって引退。新造船「AMANE」は2027年3月末には竣工し、5月の就航に向けて船内の習熟を兼ねたさまざまなトレーニングを行います。

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