「あの音」の路面電車はいつまで現役か?

 夏目漱石の小説「坊ちゃん」の舞台として知られる松山市では、2026年で製造から75年となる路面電車(軌道線)の伊予鉄道市内電車が現役です。同社が走らせている中で最も古い車両で、トップナンバーのモハ50形51号。

1951年12月にナニワ工機(現・アルナ車両)で製造され、市内電車で最初に導入されたボギー車です。

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 伊予鉄はいずれも車体をオレンジ一色で塗った車両が走る市内線で、旧型車両を新造の超低床車両に順次置き換えてきました。角張った車体のモハ2100形が2002年に登場したのに続き、先頭部が流線形の新型車両モハ5000形が2017年にデビューしました。よって、モハ50形51号も先行きを楽観視できません。

 この車両の持ち味が、車軸と台車枠にモーターを吊り掛けた旧型電車の構造「吊り掛け駆動」方式が発する重厚な走行音です。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、床下から響く「グオーン」という走行音を特に満喫できる区間で乗車しました。

最古参車はかなり“派手”になっている

 モハ50形で現在残っているのはいずれも伊予鉄の自社発注車で、前期型と後期型で外観が異なります。現在残っている車両では50番台が丸みを帯びた先頭部の前期型、60番台と70番台は先頭部が切り立った後期型です。

 ともに3枚窓ですが、前期型は同じ大きさの窓が並んでいるのに対し、後期型は運転台の正面にある真ん中の窓が大きく、両脇が縦長の2段窓です。

 他に吊り掛け駆動方式の車両には、かつて京都市電2000形だったモハ2000形があります。定員はモハ50形、モハ2000形ともに80人で、それぞれ車いすやベビーカーでも乗降しやすい超低床車のモハ5000形(60人)、2002年登場のモハ2100形(47人)を上回ります。

 最古参のモハ50形51号は2022年4月16日以降、愛媛県の名産品などをPRする「ご当地電車」の第1弾「みかん電車」として運行されています。

愛媛県が主要産地となっているミカンを発信するショールームの役割を果たしており、床に木の板を敷き詰めたレトロな車内にぶら下がったつり革をミカンの模型で装飾しています。車内のポスターでは、南香と天草の交配品種「紅まどんな」、伊予かん、ポンカンなどを紹介しています。ご当地電車は他に砥部焼電車、お遍路電車などがあり、愛媛県の“走る広告塔”として活躍しています。

松山市駅から「最古参電車」に乗ってみた

 2024年9月に高架化されたJR四国予讃線松山駅の東口から徒歩約3分の場所に、伊予鉄市内電車のJR松山駅前停留場があります。愛媛県道19号松山港線の真ん中に島のようにプラットホームがそびえており、傍らを自動車が通過していきます。

 市内電車は松山市中心部を結ぶ環状線を中心に、途中の南堀端(愛媛県美術館前)停留場で松山市駅、および本町六丁目へ、上一万で道後温泉にそれぞれ分岐しています。筆者は一番電車の松山市駅発・JR松山駅前経由の松山市駅行きに乗車することにしました。

 目当てのモハ50形51号が滑り込んできたため、真ん中の扉からステップを上がって乗り込みました。降りるときは運転士がいる前ドアを使い、運賃は後払いです。大人の運賃は現金が一律250円、「ICOCA(イコカ)」や「Suica(スイカ)」などのIC乗車券が20円割引の一律230円です。

 車内は壁沿いに青色のモケットのロングシートが延びており、壁面の木材のシックな茶色と相まって落ち着いた雰囲気です。

「吊り掛け」がうなりを上げる区間に突入!

 吊り掛け駆動方式ならではの重厚な音を響かせながら出発したモハ50形51号は、県道19号の併用軌道を進行。

すると右へ曲がり、宮田町停留場に着きました。伊予鉄道高浜線と接続する次の古町(こまち)では、到着前に同じ線路幅の1067mm(狭軌)である高浜線の線路を平面で渡ります。

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伊予鉄道市内電車のJR松山駅前に停車中のモハ50形の後期型(大塚圭一郎撮影)

 高浜線の隣駅の大手町には、高浜線と市内電車の線路同士が直角に平面交差する「ダイヤモンドクロッシング」があります。一般的な鉄道と路面電車のダイヤモンドクロッシングは日本唯一とあって希少性では大手町に軍配が上がるものの、古町で市内電車が「カタンカタン……」と音を立てながら高浜線の線路をまたぐ様子も絵になります。

 モハ50形51号の吊り掛け駆動方式の走行音をとりわけ堪能できる区間は、古町と平和通一丁目を東西に結び環状線の一部を構成する城北線(2.7km)です。市内電車は軌道運転規則53条の最高速度40km/h以下、平均速度30km/h以下が適用されていますが、専用軌道の城北線では比較的スピーディーに駆けるため床下から「ゴオーッ」という重みのあるうなり音が響いてきます。

 また城北線は単線のため、一部の停留場では反対方向の電車との行き違いがあります。そんなのんびりした風情を味わえるのも、この区間の醍醐味です。

「廃止されるか心配」という区間を横目に

 古町の2つ先の本町6丁目は、環状線をショートカットするように国道196号の併用軌道を通って南堀端とつなぐ本町線(1.5km)の終点です。本町線には松山市駅と本町6丁目を結ぶ6番電車が走っていますが、運行は平日限り。平日も1日7往復走るだけで、終電は松山市駅発が12時38分、本町6丁目発が13時という早さです。

人口50万人弱の四国最大都市の中心部を走る路線とは信じられないダイヤで、他の路線を走る1~5番電車が日中も10~15分おきの多頻度運行なのとは対照的です。

 松山市民は「伊予鉄道は本町線を減便したのは運転士不足が理由だと説明しているが、列車本数があまりにも少ないので廃止されるのではないかと心配する声を聞く」と話します。

最古参でもまだまだ現役!だって…

 そんな本町線を横目に、電車は城北線の専用軌道をさらに進みます。ここからの区間は停留所名も面白く、木屋町、高砂町、清水町、鉄砲町と一番後ろに「町」が付く停留所が連続します。鉄砲町を通り過ぎ、赤十字病院前を通って平和通一丁目にたどり着きました。ここで専用軌道は終わりです。

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伊予鉄道市内電車のモハ5000形(大塚圭一郎撮影)

 吊り掛け駆動方式の独特な音色を響かせるモハ50形51号に揺られていると、古風なインテリアと相まって昭和時代にタイムスリップしたように錯覚します。それでも冷房改造し、無料で利用できる公衆Wi-Fi「Ehime Free Wi-Fi」を設けるなど、時代に合わせてアップデートしてきたのが製造から75年も生き残ってきた秘訣でしょう。

 いぶし銀の魅力で乗客をひきつけ、もはや松山市の風景の一部として溶け込んでいるモハ50形51号が1日も長く走り続けられることを願ってやみません。

【路線図】これが「吊り掛け音にグッとくる」区間です!(地図/写真)

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