アメリカ空軍の大型爆撃機B-1B「ランサー」は長距離を飛行し、大量の爆弾やミサイルを搭載でき、見た目だけなら間違いなく「戦略爆撃機」だと言えるでしょう。しかし、実は現在のB-1Bは「戦略爆撃機」ではありません。
なぜなら、B-1Bは核兵器を運用できない通常攻撃専用機であるためです。これは米露間で締結された戦略兵器削減条約(START)に基づく措置です。条約では戦略爆撃機を「核弾頭巡航ミサイルを運搬可能な長距離爆撃機」と定義しており、核攻撃能力を持たないB-1Bは条約上の戦略爆撃機には数えられないことになっているのです。
そのため現在、核抑止を担うアメリカの戦略爆撃機はB-52HとB-2Aの2機種のみであり、ロシア側ではTu-95MSとTu-160がこれに相当します。
当初はB-1Bにも核攻撃能力はありましたが、巡航核ミサイルAGM-86 ALCMを搭載するためのパイロン取付部は溶接によって使用不能とされ、さらに核兵器発射に必要な信号を送るケーブルやコネクター類も完全に撤去することで条約の適用外となったのです。この改造はロシア側の査察によって確認できる形で実施され、短期間で核攻撃能力を復活させることはできない状態になっています。
その代わりB-1Bは、世界最高水準の通常爆撃機として進化を遂げました。JDAM精密誘導爆弾やJASSM巡航ミサイル、LRASM対艦ミサイルなど、多種多様な通常兵器を運用でき、長年にわたりアフガニスタンやイラク、中東各地で精密攻撃の中核を担ってきました。
特にイラクなどでの対テロ作戦においては、投下された全爆弾の実に約4割がB-1Bによるものでした。冷戦時代に核戦争を想定して設計された爆撃機が、21世紀には対テロ戦争の主役へと生まれ変わったのです。
B-1B「核能力回復」と核軍縮時代の終わりしかし、B-1Bを通常爆撃機としてきた前提条件が大きく揺らぎ始めています。米露の軍備管理における協力関係が、ロシアによるウクライナ侵攻などを契機として急速に悪化したからです。
また、B-1Bは2030年代初頭にも退役させる見込みでしたが、現在では少なくとも2037年まで運用することが計画されています。アメリカを取り巻く戦略環境の変化を受けて、下院軍事委員会では空軍にB-1Bへの核兵器搭載能力を再付与する可能性について調査するよう提案しています。
空軍は「B-1Bの核能力回復の実現可能性」に関する報告書を今年(2026年)12月までに提出することになっています。
報告書には、核兵器搭載可能なB-1Bの抑止力に関する分析や、「B-1Bが核兵器を運搬できるようにするために必要な、撤去された配線や電子機器の復元、ソフトウェア、および兵器統合の変更に関する説明」、そして「現在配備されている、または計画されている自由落下核爆弾や空中発射巡航ミサイルとの互換性の評価」といった要素が含まれる予定です。
実現には相応の時間と費用を要するでしょう。それでも、既存機を活用して短期間で核戦力を増強できる可能性がある以上、検討する価値は十分にあるという判断があったと考えられます。
B-1Bの核搭載能力復活論が浮上した事実は、新たな核軍拡競争の時代へと世界が移行しつつある事実を象徴していると言えるでしょう。

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