「バイク界の優等生」とも呼ばれるホンダですが、1990年代に前例のない「不良スクーター」を発売したことがありました。1996年発売のJOKERです。
ロゴの書体からしてヤンキーや当時のカラーギャングのファッションを想起させ、カタログなどのロゴはさらにフレアになっていたり、背景が真っ黒だったり。どっぷりと構えた幅広の車体にメッキの加装も相まって、「ホンダのバイク舐めんなよゴルァ」と噛み付かんばかりの攻め具合でした。
このバイク、果たしてどのような意図で造られたものだったのでしょうか。
ベスパのユーザーを取り込む緻密な計算が?JOKERの当時のリリースには「個性的で高級感あふれる原付メットインスクーター」とあります。その車体はアメリカンバイクの特徴であるロー&ロングをスクーターに反映させ、シートからリアにかけては伸びやかなティアドロップ(涙滴)型としました。
他方、1990年代はネオクラシックブームと並行して、旧式の鉄スクーター・ベスパのブームが巻き起こっていました。ホンダはこれを受け「ベスパっぽい」スクーター、ジョルノを1992年に発売しヒットさせます。ですが、ジョルノはあくまでもライトユーザー向けでした。
なんとかしてベスパユーザーを取り込みたい目論見があったのか、JOKERにはベスパのような「公式カスタムパーツ」を豊富に用意していたのも特徴でした。フェンダーパイプ、レッグシールドパイプ、ウインドシールド、ヘッドライトバイザー、バックレスト、キャリアなどは、ベスパのカスタムパーツからインスパイアされていることがよくわかります。
また、JOKERは初代発売の翌年に、50cc・90ccモデル双方を用意しました。90年代はこういった2タイプの排気量のラインナップが少なくなった時代です。
このことから推測するに、ホンダが「ベスパのユーザー(ミドルユーザー以上)」を取り込もうとしたのは実はジョルノではなく、欧州車のイメージをあえて排したアメリカンスタイルのスクーター・JOKERだったのかもしれません。
しかし販売台数は伸びず、わずか3年で生産終了へこの推測が正しければ、一見不良のように見えても実は緻密なマーケティングと、知的な開発によって誕生したのがJOKERだったと言って良いでしょう。発売初年の年間販売計画台数は1万2000台でした。かなり多い台数の販売計画だったことからも、自信のほどがうかがえます。
しかし、実際は同時期のバイクブームの沈静化もあってか相応のヒットには恵まれず、1998年施行の排出ガス規制に適合させずに1999年をもって生産終了へ。ヨーロッパ向けモデルも存在しましたが、これも2000年までに生産終了となりました。
今こそその「不良っぽさ」だけでない魅力に注目を!今日では一部マニアがJOKERをベースにカスタムを楽しむユーザーが一定数存在するようです。それでも、70~80年代のバイクのカスタムユーザーに比べれば少なめです。この影響からか、現状では中古車市場でもプレミアム度は低く、程度の良い個体でも30万円前後で購入することができるようです。
類車がないJOKERのようなスクーターは実に意義深く、もっと評価を受けても良いのではないかというのが筆者個人の思いです。興味を持たれた方は、今こそ改めて「不良っぽさ」だけでないJOKERの魅力に注目していただきたいです。

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