全席グリーン車の観光列車

 JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の停車駅となっている景勝地に、別の観光列車が2026年3月から長時間停車するようになりました。豪華寝台列車のVIP客へのおもてなしを追体験すべく乗車しました。

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 山陰地方で運行区間を広げ、八面六臂の活躍をしているのがJR西日本の観光列車「あめつち(天地)」です。2018年7月に山陰本線の鳥取~出雲市(島根県出雲市)間で運転が始まり、2024年4月からは城崎温泉(兵庫県豊岡市)~鳥取間と、木次線を通る米子(鳥取県米子市)~出雲横田(島根県奥出雲町)間が加わって3つのルートを用意しています。

 うち城崎温泉から鳥取へ向かう列車は2026年3~10月のダイヤで、「瑞風」が停車する景勝地にも止まるようになりました。しかも片道2時間16分の行程の中で、約30分間の長時間停車です。

「あめつち」は運賃の他に指定席グリーン券が必要ですが、城崎温泉から鳥取まで乗り通しても大人2340円。この料金で豪華寝台列車の停車駅に立ち寄れるのはお買い得感にひかれ、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は2026年7月に乗車しました。

 国鉄時代に製造されたディーゼル車両キハ47の2両編成を改造した「あめつち」は、53席全てがグリーン車指定席です。3種類ある座席には2人が向かい合わせになったテーブル席、4人のボックス席、窓際のカウンターに沿った座席があります。

 車体の紺碧(こんぺき)色は山陰の海と空をイメージし、車体下部の銀色の帯模様は山陰地方の美しい山並みなどを表現。先頭部の中央上部と貫通扉にエンブレムを取り付け、重厚感があります。

 車内は山陰地方の伝統工芸品で装飾し、天井照明は鳥取県の因州和紙の色彩に輝きます。机上には島根県の石州瓦を埋め込み、洗面台には岩井窯(鳥取県)の手洗い器をしつらえています。

新たな停車駅と「ジオパークガイド」

 筆者が城崎温泉からカウンター席に乗り込んだ「あめつち」は12時27分発、鳥取着が14時43分で、これらの時刻は前年の2025年4~9月も同じです。途中の餘部(兵庫県香美町)を短時間見学できるのも変わりません。

 一方で30分停車の駅が加わり、2025年4~9月はそれぞれ約12分止まっていた浜坂(兵庫県新温泉町)、岩見(鳥取県岩美町)は観光停車駅から外れました。

 列車にはアテンダントの女性たちに加え、山陰海岸ジオパークガイドの男性も乗り込んで沿線の見所を案内してくれます。山陰海岸ジオパークは京都府、兵庫県、鳥取県の東西約120kmにまたがる地域で、国際的に価値のある地形や地層を保護し、教育や地域おこしに生かすプログラム「国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界ジオパーク」に認定されています。日本では11地域が認定されており、山陰海岸は48か所ある日本ジオパークにも含まれます。

 ガイドの男性は「今年からこの下り列車におきましては2か所の観光停車を設け、皆様方に降りていただける場所が2か所ございます」と予告しました。1駅目が餘部で、もう1駅が新たな長時間停車駅です。

 城崎温泉の隣駅の竹野(豊岡市)からの車窓は、日本海とトンネルが交互に現れます。竹野駅の北約3kmの日本海沿いには「淀の洞門」があり、ガイドの男性は絶壁に開いた幅24m、奥行き約40m、高さ14mの穴は「日本海の波で削られた」と解説しました。

絶景の「空の駅」 ただし“禁止行為”も

 日本海が車窓に広がるタイミングで、予約していた弁当「あめつち御膳」が届きました。鳥取駅弁「元祖かに寿し」を販売しているアベ鳥取堂(鳥取市)の調製で、500mlペットボトル入り「とっとりのはとむぎ茶」付きの価格は2480円です。

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JR山陰本線の余部橋梁(右)と、保存された旧余部鉄橋の線路(大塚圭一郎撮影)

 かに寿司やアユの甘露煮、スルメイカを刻んで麹(こうじ)に漬け込んで熟成させた「するめの麹漬け」、大山豚の味噌漬けといった主に鳥取県の食材を生かした料理を詰めています。どの料理も優れた味わいでしたが、やはり看板商品のかに寿司が特に素晴らしかったため「かに寿司の量がもっと多ければ、さらに良かった」という感想を抱きました。

 竹野の2駅先の柴山(香美町)の近くからは、マツバガニ漁で有名な柴山港を見下ろせます。江戸時代に「北前船」の寄港地として栄えた地域で、ここを通る際にガイドの男性が「珍しい物を見ることができます」と切り出しました。

 それは柴山港の一角に置かれた「二重円筒ケーソン堤」と呼ばれる円柱型のコンクリートで、施主の国土交通省によると大きさは直径が29.4m、高さが26.5mあります。ガイドの男性は「柴山港に大きなうねりが入らないように沖合約2kmに15基を埋める計画で、今のところ8基が沈められており、置いてあるのは9基目として船で運ばれて沈められます」と教えてくれました。

 柴山の3駅先が高台から日本海を見渡せる餘部で、アテンダントの女性が車内放送で「餘部駅では扉が開きますので、ぜひ列車から降りてお楽しみください」と呼びかけました。2010年に架け替えられた余部橋梁を渡った先にある餘部には展望施設「空の駅」があり、1912年完成の旧余部鉄橋の一部が保存されています。

「空の駅」からエレベーターで約40m下ると広場があり、そこから「余部橋梁と旧余部鉄橋の構造がよく分かる」(兵庫県民)とか。筆者も訪れたかったものの、今回は断念しました。

 というのも、車内放送で「短時間の停車のため、エレベーターはご使用にならないでください」と固く禁じられたからです。13時14分発の「あめつち」に乗り遅れた場合、次の普通列車が来るのは1時間46分後です。

ついに来たぞ「瑞風」停車駅

 餘部を出発した約30分後、2026年に加わった30分間の停車駅に着きました。餘部の5駅先にあり、鳥取県東端駅でもある東浜(鳥取県岩美町)です。

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JR東浜駅近くにあるレストラン「AL MARE(アルマーレ)」(大塚圭一郎撮影)

 ガイドの男性は到着前に「東浜駅はJR西日本の豪華寝台列車『トワイライトエクスプレス瑞風』の停車駅となっています。『瑞風』が止まるほど景色がきれいです」と説明。「駅から浜まで大変近い距離にあり、50mも歩けば浜になります」としつつ、「きょうは大変暑いので、ご自分の体調に合わせて散策してください」と熱中症などに気をつけるように注意を促しました。

 駅舎は「瑞風」の停車に合わせて改築され、入口にあるステンレス鏡面の天井に停車中の列車が映るのがしゃれています。

 下車時に渡してくれたイラスト入りの駅周辺地図を片手に、東へ約8分歩いた展望休憩所へ。白い砂浜の前に紺碧色の大海原が眼前に広がり、これが「瑞風」のセレブな乗客が眺めている景色かと思うとぜいたくな気分に浸りました。

 ところが、「上には上がある」ことを思い知るまで時間がかかりませんでした。

 車内に戻ると、筆者が向かったのとは反対側の駅の西側に「『トワイライトエクスプレス瑞風』のお客さまが海を見ながら朝食を食べるレストラン『AL MARE(アルマーレ)』があります」とガイドの男性が説明したのです。

 アルマーレは、オレンジ色の屋根瓦が目を引く瀟洒な雰囲気です。「トワイライトエクスプレス瑞風」の乗客東浜海岸を見渡せる特等席に身を沈めながら、スペシャルメニューの朝食に舌鼓を打ちます。

 高嶺の花である豪華寝台列車に乗り込んだVIP客と同じ停車駅に立ち寄っても、比較的手ごろな料金で「あめつち(天地)」に乗り込んだ筆者とは天と地の差がある――沿線のガイドで教えてもらった貴重な知識に加え、そんな厳然たる事実も学習した2時間16分の旅路となりました。

【食事もいい!景色サイコー!】これが「あめつち」の旅です!!(写真14枚)

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