ワールドカップ各国のカタチ――現代戦術と代表チームの葛藤
VOL.3:ポルトガル
世界のサッカーは、ポジショナルプレーの普及によるビルドアップの進歩と、それに伴うハイプレスの普及で、全員守備が必須な時代に突入しようとしている。しかし、ワールドカップを戦う代表チームは、それぞれ特別な国民的スターを抱えているために、全員守備に舵を切れない事情がある。
ひとりのスターを残りのフィールドプレーヤーで支える「1+9」か、それともスターを入れない「10」か。強豪国それぞれの現状を探る。
【ヴィティーニャ・システム】
ポルトガルと言えばクリスティアーノ・ロナウドだが、現在のポルトガルがロナウドのチームかと言えばそうではない。
世間は依然としてロナウドのポルトガルだと思っているようで、「ロナウドが得点できずに批判されている」あるいは「得点して存在感を示した」という取り上げ方なのだが、その年齢や偉大なキャリアを取り外してひとりのプレーヤーとして見るなら、優れたフィニッシャーのひとりではあるが、それ以上でも以下でもない。
ロナウドありきのチームではない。ここはアルゼンチンにおけるリオネル・メッシとは違うところだ。もしロナウドより確実なゴールゲッターがいれば、おそらくロベルト・マルティネス監督は国民的英雄でもベンチに置くのではないだろうか。
ポルトガルはヴィティーニャのチームである。
パリ・サンジェルマン(PSG)をUEFAチャンピオンズリーグ(CL)連覇に導いた原動力。ヴィティーニャからボールを奪うことはほぼ不可能で、そのためにチームを別の次元へ押し上げている稀有な存在だ。
ヴィティーニャのいるチームにはプレッシングが効かない。ハイプレスを強行すれば、ひっくり返されるリスクのほうがメリットより大きい。CL決勝でもアーセナルはPSGに対して高い位置に守備ブロックを置いても、マンマークのハイプレスへ移行しなかった。
ところがグループステージを見る限り、それが本当にポルトガルのためになっているのかどうかわからなくなっている。
【黄金世代との共通点と相違点】
ポルトガルは1989年と1991年、ワールドユース(現・U-20ワールドカップ)を連覇したU-20代表が、現在のサッカーのスタート地点だった。ルイ・コスタ、ルイス・フィーゴ、パウロ・ソウザ、ジョアン・ピントなどの俊英たちは「黄金世代」と呼ばれた。
しかし、華麗なパスワークで魅了した黄金世代はそこまでの成功を収めていない。期待された2002年日韓W杯はグループステージ敗退。開催国だった2004年欧州選手権(ユーロ)は決勝まで進んだが、開幕戦で敗れていたギリシャに再び敗れた。
その後、2006年ドイツW杯は4位、2016年欧州選手権では初のビッグタイトルを獲得。UEFAネーションズリーグでも2回優勝しているが、これらは黄金世代が退いた後だ。スリリングなショートパスで密集をかいくぐっていくプレースタイルはすでに失われていた。
だが、現在のポルトガルは黄金時代を彷彿させる人材が揃っている。
ブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シウバ、ジョアン・ネベス、そしてヴィティーニャ。
黄金世代には常に技巧派MFを支えるアンカーがいた。守備職人のコスティーニャだ。その後も人材豊富なウイング、攻撃的MFを支える選手が起用されてきた。
ところが、現在そのポジションにいるのはヴィティーニャなのだ。
コロンビア戦では従来のアンカータイプに近いルベン・ネベスが先発していたが、中盤の底に位置するのはヴィティーニャ。DFのすぐ近くにポジションをとり、そこから組み立てを開始するので、スタートポジションが低い。だからこそ相手はヴィティーニャをマークしきれず、ボールを持たれたが最後、ハイプレスはほぼかからない。
相手は後退を余儀なくされる。ポルトガルは敵陣へボールを運んでいける。PSGと同じヴィティーニャ効果だ。ただ、ここから先はPSGとは事情が違っていて、それが解決されないかぎり果たしてこのままで大丈夫かという疑問があるのだ。
【魅力と長所を今度こそ強さに結びつけるか】
コロンビア戦では後半からルベン・ネベスに代わってジョアン・ネベスが登場し、保持力が増している。ジョアン・ネベスはPSGでのヴィティーニャの相棒。「もうひとりのヴィティーニャ」だ。正反対の個性の組み合わせによる補完効果は知られているが、このふたりは同じタイプで互いに影武者を演じてバランスをとる。
問題はその先。ヴィティーニャを軸とする後方と、前方の接続点だ。
本来ならトップ下のブルーノ・フェルナンデスがその役回りなのだが、ブルーノは守備でほぼMFのラインに入っていて、そのため攻撃では4-3-3のインサイドハーフ的な振る舞いになる。そのため、接続点は左ウイングのジョアン・フェリックスになっている。
最前線に居残るロナウドと、後方ビルドアップ隊をつなぐ。ジョアン・フェリックスは資質的には合っている。だが、PSGでこの役割を果たしているのはウスマン・デンベレなのだ。デンベレは守れるが、ジョアン・フェリックスは守れない。コロンビア戦ではジョアン・フェリックスが戻らないので、コロンビアは右サイドの数的優位から何度もチャンスを作っていた。
そもそもPSGではセンターフォワード(CF)のデンベレも守備時に相手をマークする完全マンツーマンだが、ロナウドにそれは無理。加えてジョアン・フェリックスと守れない選手がふたりいる時点で、ある程度は相手にボールを握られてしまう。
ブルーノ、ジョアン・ネベス、ヴィティーニャは献身的な守備ができるが、パワーがないので受け身の守備は強くない。接続点の選手とCFが守らないので守備が後退し、圧倒的な押し込みに至らない。圧倒的に保持してこそのヴィティーニャ・システムなのに、中途半端なものになっている。
黄金世代をしのぐパスワークの完成図がまだ見えていない。そもそも黄金世代は結果を出せていないから、目指すべきはさらにその上である。
コロンビア戦では70分にジョアン・フェリックスとヴィティーニャを引っ込め、ラファエル・レオンと守備型MFサムエル・コスタを投入。レオンの突破力に期待するカウンター型に変えた。
ヴィティーニャ・システムを諦めることはないと思うが、重要なピースが欠けている。カギを握るのはコロンビア戦でプレーしなかったベルナルド・シウバになりそうだが、ラウンド32で対戦するのは難敵クロアチアだ。
大いなる可能性は開花するのか、それとも黄金世代の二の舞に終わってしまうのか。魅力と長所を今度こそ強さに結びつけることはできるだろうか。

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