北九州市で開催されているバレーボール男子・アジア選手権は予選ラウンドが終了し、日本はオマーン、バーレーン、オーストラリアに全勝。A組首位で決勝ラウンド進出を決め、準々決勝でインドと対戦することになった。

優勝=ロサンゼルス五輪出場権獲得に向け、日本は堅調に強さを見せていると言える。

 ここまでのMVPを選ぶとしたら、髙橋藍(25歳)しかいないだろう。

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「自分のサーブでリズムを作り出したい」

 髙橋はそう言って大会に挑んだが、圧巻の実行力を示している。彼がサーブでブレイクポイントをとったセットは、どの試合も楽勝ムード。逆に言えば、オマーン戦で失った第3セットや、バーレーン戦でもつれた第3セットは、サーブがはまらなかった。それだけ、彼のサーブの存在感は絶大になっているのだ。

 オーストラリア戦で、髙橋はなんと5本のエースを決めた。彼のサーブで相手を崩し、連続ブレイクを奪った。単純明快に、それがセットカウント3-0の勝因だった。

 もっとも、無双のサーブは彼の活躍のシンボルに過ぎない。

 髙橋は大会中、世界トップのオールラウンダーとして真骨頂を見せている。東京五輪MVPイアルバン・ヌガペトも真っ青の背面ショット、大鷲のように羽ばたいて急襲するバックアタック、世界屈指のリベロとも比肩するレシーブ、セッター顔負けのトス、そして敵に流れを与えないブロック......。

まさに八面六臂の活躍で、彼は歴史上、比類ない選手になろうとしているのかもしれない――。

 今年4月のインタビューで、髙橋に訊いたことがあった。

――サーブひとつとっても、今シーズンは"攻める姿勢"が出ていました。1年目はショートサーブを多用していましたが、2年目はスパイクサーブで相手を仕留めるエースも増えましたね。髙橋選手の成長の象徴で......。

 髙橋はよく通る声で答えた。

「今シーズンは、心に火がついたというか、自分が成長しないと日本代表は勝てないし、日本代表が勝つには自分の成長も必要。(昨シーズンまで在籍した)サントリー(サンバーズ大阪)は、勝つだけだったら、入れるだけでも、前衛はでかくて、ブロックで締められるし、ディフェンスもある。ブレイクを取るチャンスは十分にあるから、リスクを背負うべきではないとも思っていたんです。でも、それが個人の成長につながるか、というとそうではない。自分もサーブで攻められてこそ、ブレイクを取るのに、もっといい状況を作れるし、結果的に楽に取れるようになりました」

【冷静に相手の裏をかいて...】

 その点、バーレーン戦は独壇場だった。彼のサーブが走ると、チームの戦いが好転するだけではない。

彼自身のプレーもより輝くのだ。

 1セット目、3-2から連続エースを決めたあと、3本目はサーブがネットにかかったが、艶やかなほどのバックアタックで取り返した。2セット目には序盤で自らブロックアウトで得点すると、5-1まで連続ブレイクに成功。パワーサーブ、ショートサーブを織り交ぜて相手を崩し、中盤にも13-8から17-8まで突き放す連続得点を記録した。

「自分自身の目標として、"アグレッシブに攻めていく"というのがありました。それで決まると、チームとして余裕も出て、いいプレーも出てくるので」と髙橋は説明している。

「強度(の高い)サーブを多くするとミスも増えるんですが、極力、その数を減らして、1セット目、2セット目とエースも出たし、崩すこともできました。3セット目も、もう少し自分のサーブでいけたらと、思っていたんですけどね」

 特筆すべきは、その貪欲さだろう。活躍に少しも満足しない。プロのアスリートでも成功には満足を覚えるもので、それは生身の人間の回路なのだが、彼は常に飢えている。たとえばバーレーン戦では、審判の笛が鳴った直後、相手の準備が遅れているのを見極めると、すかさずクイックでサーブを打った。ブレイクに成功中の場面ではじっくり打つのが定石だが、集中力と大胆さは際立っていた。

「バーレーンがちょうどメンバーチェンジしたところは、"サーブに苦しめられている"という気持ちだったはずで、クイックサーブを狙いました。いい状況じゃないところでコンビを組ませることを意識して。代表ではやったことないですし、やるシチュエーションもなかったんですが、今日は相手に隙が見えたので」

 コートでは殺気立った表情も浮かべる一方、冷静に相手の裏をかける。そのメンタル構造はなかなか解析できない。たとえばブロックに阻まれ、体勢も悪いときに打つ、招き猫のように右手を空中でかいた後に左手で打つショットも、心理的に敵を"のみ込んで"いるのだろう。練習でできる選手は多いだろうが、試合で出すのは難しく、身体能力や技術だけでは説明がつかないのだ。

 髙橋が髙橋たる所以は、繰り返しになるが、その勝負哲学にある。敵の癖を見抜き、自分のプレーを最大化できる。そしてそこに驕りがない。リスクマネジメントが重要だというが、失敗までイメージした戦いは、他の選手がやると単に慎重になりすぎて受け身に立ってしまいがちだ。しかし、彼の場合は精強に戦えるのだ。

「アジア選手権は集中してやれていると思いますけど......どこかで崩れる、苦しむ展開も必ず来ると準備しています。

そこに備えて、どうスマートに戦っていくのか。いい時はいいですけど、相手が対策していた時に苦しい状況になることもあるし、そこを打開できるか」

 髙橋は言うが、勝負師の本性が出たのがオーストラリア戦後だった。ミドルブロッカーのクイックが外れたが、本来は決められるはずのボールで、「たたみかけないといけない場面だったので、もったいない」と、あえて指摘した。一気に相手の息の根を止めるチャンスだったが、その機会を失った。結局はオーストラリアの拙攻に助けられたが、流れを失うと一転、危機に瀕するのがバレーボールの掟なのだ。

「自分も含めてみんなが危機感を持つのが大事で、次は負けたら後がない。ロスへの切符の獲得もそうですが、オリンピックでメダルを取るところまで求めていかないと。組み立て方、たたみかけるポイント......全員でギアを入れられるように」

 11日の決勝トーナメント準々決勝のインド戦に向け、髙橋は容赦しない。緊張や重圧は覇気や野望に変換され、相手の心をへし折る。それはおとぎ話の英雄か、漫画のヒーローの肖像だ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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