過去に利用していた保護廃止者やDV・虐待から逃れている人たちへどう給付するかなど課題も浮き彫りになっている。
裁判を戦う原告と支援する弁護士らは6月24日、厚生労働省で上野賢一郎大臣宛てに「要求書」を提出。速やかで確実な給付を求めた。(ライター・榎園哲哉)
追加給付「受領済み」は5件のみ
大臣宛ての「要求書」を厚労省幹部に手渡した後、原告・支援者らでつくる「いのちのとりで裁判全国アクション」の弁護士らが都内で会見を開き、生活保護利用者らを対象に行ったホットライン(電話相談)の結果概要を報告した。ホットラインは5月14日、17都道府県18会場(全30回線)で実施し、385件の相談が寄せられた。その中で、追加給付を「受領済み」としたのは、わずか5件(約1.3%)にとどまった。
相談の内容は、「追加給付を本当にもらえるのか」「いつもらえるのか」といった追加給付の制度自体に関することが多数を占めた。
今回の「要求書」提出は、こうした声を受けたもの。要求書では4項目の実施・改善を求めた。
置き去りにされる人々、弁護団が4項目の改善を要求
要求書の主な内容について、会見で「いのちのとりで裁判全国アクション」事務局長の小久保哲郎弁護士が、以下のように説明した。①保護廃止された世帯への周知徹底
過去に保護を利用していたが、現在は受給していない「保護廃止」世帯は、自ら「申し出」をしないと追加給付が受けられない。しかし、現状では申し出の必要性が十分に周知されていないため、テレビ、ラジオ、新聞、SNSなどあらゆる媒体での徹底した広報を求めた。
②保護廃止世帯の申し出手続きの簡素化
保護廃止世帯の申し出には「顔写真付きの本人確認書類」などの提出を求められるが、所持していない人もいるとして、要件の緩和や、手続きの援助を要望した。
③「追加給付」と明確に分かる通知書の利用
現在は、通常の保護決定通知書(最初に保護を受ける際に受給者に送られる通知書)と同じ書式で追加給付の通知が送られるため、何の書類かわからず利用者が混乱するケースがあるという。
④DV・虐待からの出身世帯を離脱した者への個人給付
追加給付は世帯単位で行われるため、DVや虐待が原因で世帯を離れた人は、元の世帯主(加害者)に全額が給付されてしまい、自身は一銭も受け取れない。個人単位でも受け取れるよう、給付方法の改善を求めた。
厚労省は、計算の複雑さなどを理由に改善に難色を示しているというが、小久保弁護士は「実務上不可能なことではない」と指摘する。
「追加給付を楽しみにしていた」65歳の女性
さらに小久保弁護士らは、厚労省の対応の遅さにより「受けられるべき追加給付を受けられず、亡くなっている人たちがいる」と懸念する。生活保護基準引き下げの違法性を問う「いのちのとりで裁判」が全国で初めて提訴された2014年2月以来、同裁判には最大時1022人の原告が参加した。しかし会見日までに、その4分の1を超える278人が老齢や病気等で亡くなっているという。
会見に参加した東京・西多摩で原告支援に当たるAさん(男性)は、「青梅市では原告4人のうち、すでに3人が亡くなっている。65歳の女性は最高裁判決を喜び『給付を楽しみにしています』と話していたが、先日(6月20日)がんのために亡くなった」と報告。
「早くこの裁判(いのちのとりで裁判)を終わりにし、原告、対象者に平等、早急に追加給付を行っていただきたい」(Aさん)
最高裁判決による引き下げ分の遡及支給
そもそも、追加給付はなぜ行われることになったのか。2012年末の衆院選で自民党は、当時湧き起こっていた生活保護バッシングを受け保護費の「10%削減」を公約に掲げ政権に復帰。厚労省は2013~15年、3度にわたって食費等の「生活扶助費」を平均6.5%引き下げた。
生活保護利用者と支援する弁護士らは、引き下げが「生存権を定めた憲法25条、同条に基づく生活保護法8条等に反する」として、2014年2月の佐賀地裁での初提訴以来、全国で31の裁判を戦っている。
最高裁は2025年6月、先行する愛知と大阪の訴訟に対し、保護変更決定(引き下げ)処分を取り消すことを命じる判決を下した。
この判決により、引き下げられた差額分の全額が遡及して支給されるべきところ、厚労省は国の独自計算によってこれを半分に抑え、2025年度補正予算に約2000億円を計上。
対象者(利用者・廃止者、およそ300万人)に対し、1世帯平均約10万円(地域・世帯構成数等によって異なる)の追加給付を始めた。
なお、独自計算に基づき半分に「再減額」された給付額に対しては、原告らは再提訴も視野に入れ全国で「審査請求(不服申し立て)」も開始している。
「自治体の作業は本当に大変だと思う」
追加給付にかかる作業は、国ではなく自治体等が担う。給付額の世帯ごとの算定など、現場の負担は大きい。会見では原告らからも「自治体の作業は本当に大変だと思う」と、行政側の労をおもんぱかる声も聞かれた。要求書提出を行ったこの日、2024年6月に東京高裁へ控訴されていた「東京新生存権裁判」で、生活扶助費減額(引き下げ)処分の取消しを認める判決(1審判決維持)が出された。全国で提訴された31の裁判のうち、なお17の裁判がいまだ係争中だ。
【相談窓口】
追加給付の手続き等については、厚労省の相談窓口や特設サイトでも案内されている。
相談窓口:0120-179-445(フリーダイヤル/平日午前9時~午後5時)
特設サイト:https://tsuikakyufu-sodancenter.mhlw.go.jp/
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。

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