「養育費の支払いが止まっている」。離婚した元パートナーからの養育費をめぐり、悲痛な声が司法書士に寄せられている。

こども家庭庁の調査では、養育費を「現在も受給している」母子世帯はわずか28.1%(父子世帯で8.7%)。ひとり親世帯の貧困率が44.7%に達する背景には、こうした養育費の不払い問題が横たわる。
この状況を改善するため、今年4月1日に改正民法が施行され、養育費の取り決めがなくても請求できる「法定養育費」などの新制度が導入された。しかし、制度は十分に知られておらず、当事者の不安は解消されていない。
全国青年司法書士協議会(全青司)は5日、電話による「子どものための養育費相談会」を全国で実施し、こうした悩みに応える。(ライター・榎園哲哉)

「子の利益」のための養育費、法改正で履行確保へ

離婚後も、父母双方が子どもの養育について責任を負うことは、子の健やかな成長にとって不可欠とされる。養育費は、子どもが経済的に安定した生活を送り、教育の機会を得るための重要な権利だ。
しかし、厚生労働省の「令和7年国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率(17歳以下)は11.0%で、子どもの9人に1人が貧困状態におかれている。特に、母子家庭などひとり親世帯の貧困率は、44.7%に上っている。
こうした現状を受け、今年4月に施行された改正民法では、養育費の履行を確保するための新たな仕組みが盛り込まれた。これまで泣き寝入りすることも多かった養育費の不払い問題に対し、国が法制度の面からメスを入れた形だ。

取り決めをしても支払われない…前回相談会で見えた深刻な実態

しかし、法制度が整えられても、現実は依然として厳しい。全青司が今年4月29日に行った相談会では、養育費をめぐる当事者の切実な状況が浮き彫りになった。
全国から寄せられた72件の相談のうち、「離婚時の養育費の取り決め」が「あり」と答えたのは29件(回答数39件中)。
しかし、その中で現在も支払いが「あり」と答えたのはわずか6件で、「なし」が12件、未払い等のある「一部履行」が3件だった。つまり、取り決めをしたにもかかわらず、6割近くが全額を受け取れていないことになる。
相手方との協議状況については、65.2%が「協議不能」と回答。その理由は、「感情的な理由」が12件、「連絡不可」と「DV」がそれぞれ8件で続き、当事者間での解決が極めて困難なケースが多いことを示している。
相談会には、「養育費の支払いが止まっており、強制執行を予定している」「子どもが私立大学進学となり、学費負担を求めたい」「相手方が一方的に決めた金額だけを振り込んでくる」など、具体的な悩みが多く寄せられたという。

新制度「先取特権」「法定養育費」とは?

今回の民法改正で導入された大きな柱が「法定養育費」と「先取特権」だ。
「法定養育費」は、これまでのように父母間での取り決めがなくても、離婚時から子ども1人あたり月額2万円を請求できる制度(民法766条の3)。2万円はあくまで双方の協議で正式な養育費が決まるまでの“暫定”の額であり、固定額ではない。
もう一つの「先取特権」は、養育費の支払いが滞った際に、より簡易に相手の財産を差し押さえることを可能にするものだ。
これまで差し押さえには公正証書や調停調書といった「債務名義」が必要だったが、この権利を使えば、債務名義がなくても子ども1人あたり月額8万円まで、他の債権者より優先して支払いを受けられる(民法308条の2)。
しかし、4月の相談会で民法改正について尋ねたところ「知っている」との回答は30件中22件だったものの、「具体的な内容はよく分からない」といった声も多く、新制度が当事者に十分に浸透していない実態が明らかになった。

法律が変わっても、当事者に届かなければ子どもは守られない

こうした状況を受け、全青司は9月5日に全国一斉の無料相談会を開催する。全青司の「養育費相談会」は2015年から始まり、12回目となる。

記者会見で、全青司人権擁護委員会の眞壁芳太郎委員長は、「法律や制度が変わっても、当事者に十分周知され、利用につながらなければ子どもたちは守られない」と語り、相談会を通じて新制度の周知と利用促進を図りたい考えを示した。
また、岩田豪全青司会長は、相談会では差し押さえなどの強制執行手続きに入る場合の支援も行っていくと述べた。
「養育費相談会」は9月5日(土)の午前10時から午後9時まで。子育て中の当事者が相談しやすいよう、夜間まで対応する。相談は共通フリーダイヤル(0120-567-301)のほか、LINE電話でも受け付ける(LINE公式アカウント)。いずれも相談は無料で、秘密は厳守される。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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