ストライクグループ<6196>は6月23日、共創型ショールーム「THE MUSEUM」(東京・港区)でスタートアップと事業会社の連携促進イベント「第58回 Conference of S venture Lab.」を開催した。今回は「リバースピッチ特集」として、スタートアップとの協業を志向する大手企業6社が登壇。
京王電鉄:CVCとオープンイベーションプログラムの双方向連携で、事業部門主体のオープンイノベーションを加速
京王電鉄<9008> 経営統括本部 長期戦略室 主任の大澤聖矢氏は、同社が東京西部を中心に鉄道事業を展開しつつ、不動産業、ホテル業、生活サービス業、建設設備業など多彩な事業を手がけていることを紹介した。大澤氏が所属する長期戦略室は、オープンイノベーション(OI)、出資、M&Aを担当する部署で、2022年度から本格的にOIプログラムを開始している。
同社のOIの最大の特徴は、事業部門の主体性の重視にある。事業部起点のOIプログラム「JISOU」は、課題をOI事務局が設定するのではなく、グループ約40社を含む各事業部門から課題を募集し、それにマッチするスタートアップが応募し、採択の判断は事業部門で行う形を採用している。「事業部門の方々が自ら主体となって動き、共創を推進していただくことを大切にしています」(大澤氏)というスタンスだ。
2026年2月には二人組合形式のCVCファンド「京王れーるファンド」を設立。JISOUプログラムとCVCの双方向の流れを高速で回転させ、財務リターンと戦略リターンの両立を目指す。OIプログラムに応募したスタートアップをCVC投資の検討対象とし、逆にCVC投資先をOIプログラムで活用するという好循環の構築を意識している。
これまでのOI活動の実績として、落とし物DXを手がけるfindとの取り組みが挙げられた。鉄道の落とし物対応業務という現場課題に対し、実証実験から本格導入、さらに出資まで進んだ事例で、外部からの表彰も多数受けている。
注力領域としては4つの重点投資領域(コンテンツ/観光、ライフスタイル、DX/AI、環境)を定めているものの、事業連携を作っていくことが目的であることから、「幅広い領域で、スタートアップの皆さんとご一緒したいと思っています」(大澤氏)と語った。
オークネット:40年の流通データと検査ノウハウを武器に、BtoBマッチング領域で共創を
オークネット<3964> 事業開発企画室 ゼネラルマネージャーの阿部貴志氏は、1985年創業の同社が「中古車のオンラインオークション」から出発した経緯を説明した。インターネット普及以前、中古車データの入ったレーザーディスクを配り電話回線を駆使してオンラインオークションを実現したというユニークな創業史を持ち、現在は中古車・中古バイク・中古スマートフォン・中古ブランド品へと商材を横展開。年間590万アイテム、約7400億円が流通するBtoBプラットフォームへと成長している。
コアコンピタンスは「最適なシステム」「情報の信頼性」「運営ノウハウ」「会員制ネットワーク」の4点。なかでも、売り手・買い手双方の情報非対称性を解消する第三者検査の仕組みは同社の根幹であり、会員数4万社・78カ国・地域に及ぶグローバルネットワークの信頼を支えている。
連携事例として、東京大学エコノミックコンサルティングとのオークション最適化の取り組みや、AI導入への挑戦も紹介された。「我々がやっていることの本質は、売りたい法人と買いたい法人をオンラインでマッチングすることです。オークション形式にこだわるわけではなく、BtoBマッチングという軸で新しいマーケットを一緒に作っていただける方をお待ちしています」(阿部氏)と、協業の間口の広さを強調した。資本業務提携や出資については、まずビジネスで共に実績を作ることを優先する方針だという。
関西電力:17の協業ニーズをサイトで公開、エネルギーと新領域の融合へ
関西電力<9503>イノベーション推進本部の丸井直子氏は、関西電力グループのCVCであるK4 Venturesの投資担当として登壇した。
関西電力グループは2025年度連結売上高4兆円超の国内大手エネルギー企業である一方、情報通信事業、生活・ビジネスソリューション事業など非エネルギー領域にも事業を広げている。K4 Venturesは「ベンチャーファースト」「目先の協業にこだわらない」姿勢を掲げている。
関西電力のオープンイノベーション活動は、KANDEN OPEN INNOVATION(KOI)を中心に展開されている。KOIでは協業テーマを公開し、スタートアップなど外部パートナーからの提案を広く受け付ける。
協業から出資へ発展するケースもあり、関西電力グループの顧客接点やアセットを活用したスタートアップとの事業共創に意欲を示した。
アジア航測:設立1年半のCVCで事業構造転換、センシング×データで新事業を創出
アジア航測<9233> 新規事業創造本部 ビジネス企画部 CVC室 室長の髙橋賢次氏は、社歴約80年・事業規模400億円台の同社がいま大きな変革期を迎えていることを説明した。航空機やセンサー搭載車両による計測(センシング)とそのデータを活用したコンサルティング(ハザードマップ作成、レジリエンス対策、防衛関連業務など)を主力としてきたが、国内中心の事業構造から脱却し、新規事業創出と海外展開を加速させようとしている。
自社運用の小型航空機7機、ドローン・ロボット等を保有し、国・地方自治体や大手インフラ企業を主要顧客とする。2024年12月にCVC室を設立。投資先には、自動運転スタートアップのマップフォー(名古屋)、三菱UFJ信託銀行からのスピンアウトの不動産ビッグデータ企業トラスタート、欧州の無人輸送機開発企業ドロナミクスなどが並ぶ。
センシング対象の拡大、コンサルティングの解決力向上、モデリングの高付加価値化という軸でスタートアップとの共創を描いており、「ディフェンス&レジリエンス、高精度予測技術、航空宇宙関連の新技術、リアルタイムとデジタルツインを組み合わせたような技術をお持ちのスタートアップとぜひご一緒させていただきたいと思っています」(髙橋氏)と語った。現状のマイノリティ出資だけでなく、先々はM&Aにつながる追加投資も検討していくという。
東京ガス:「第3の創業期」でソリューション利益3年5倍を目指し、スタートアップとの共創も加速
東京ガス<9531> DX推進部 オープンイノベーショングループ 課長の小原圭史朗氏は、1885年に渋沢栄一が創業した同社が今「第3の創業期」を迎えていると説明した。ガス事業(第1創業期)、LNG導入(第2創業期)に続く第3段階として、エネルギーの枠を超えたソリューション、新しい事業の立ち上げを推進中だ。2年前に立ち上げたソリューションブランド「IGNITURE(イグニチャー)」のもと、脱炭素、最適化、レジリエンスの領域で新たな価値提供を目指している。
東京ガスの強みは、顧客基盤(約1300万アカウント)、エネルギーアセット(LNG基地・発電所9カ所・ガス導管6万km超)、オペレーション能力(エネルギーサービス1000拠点以上)の3点。2025年10月に発表した中期経営計画では、ソリューション事業の利益を3年間で5.6倍にする目標を掲げており、前回中計比で投資額を倍増させている。
注力テーマは設備・インフラの保全、および100自治体との連携協定を活かしたカーボンニュートラルまちづくりの推進だ。協業事例として、英国の電力小売企業オクトパスエナジーへの出資と事業共創、ロボット企業への出資を通じた自社エネルギーセンターでの実証実験などが紹介された。「業務用顧客のDXに貢献できるサービスや、産業用・業務用・家庭用・自治体向けソリューションを持つスタートアップとのご縁をお待ちしています」(小原氏)。投資ステージはシリーズA・Bを中心としつつ、シードからレイターも可能だという。
キリンホールディングス:合計約50社の投資実績、ヘルスサイエンス領域で新技術・新接点を探す
キリンホールディングス<2503> ヘルスサイエンス経営企画部 CVC 主務の深谷功造氏は、CVC活動を「キリンベンチャーズ」として新たにブランディングする意向を明かしつつ、ヘルスサイエンス事業の拡大戦略を説明した。お酒・飲料の会社というイメージが強いキリングループだが、2019年のファンケルとの資本提携・グループ化、オーストラリア最大級のサプリメント会社ブラックモアズのグループ参画など、ヘルスケア・ウェルネス領域への展開を着実に進めている。研究所発の素材として、免疫機能向上が期待されるプラズマ乳酸菌や、電気刺激で塩味・旨味を増幅し減塩食を楽しくする「エレキソルト」なども事業化している。
CVCの投資スコープは「ニュートリション」「ヘルスマネジメント」「ライフスタイル」「DX」「サステナブル」の5分野。グローバルブレインと連携した国内ファンドで27社、米国ファンドで20社、合計約50社に出資してきた。特に探しているのは、(1)ヘルス・ウェルネスの根幹を変える新技術(例:タンパク質由来の甘味料)、(2)健康状態の可視化などをを実現するデジタルサービス・ウェアラブル、(3)自社ではリーチできない顧客接点(VTuberグループへの投資もその文脈)、(4)ヘルスに関するデータプラットフォームの4領域だ。
「投資に関してはヘルスケアを中心とした事業化・戦略リターン獲得の可能性を判断します。
「課題起点の共創」がオープンイノベーションを加速する
今回登壇した6社に共通するのは、単なる財務リターンにとどまらず、自社の事業課題と直結した協業を強く志向している点だ。
リバースピッチは、スタートアップが事業会社のリアルな課題感を直接把握し、協業の可能性を短時間で見極める場として機能する。今回紹介された各社の協業ニーズを起点に、一歩踏み込んだ連携を模索してみてはどうだろうか。
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