「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地

東証がグロース上場企業に対して、M&Aを含めた成長戦略や企業価値向上への取り組みを求めている。東証は、2025年に「高い成長を目指した経営」への対応を要請するとともに、上場維持基準を「上場5年経過後時価総額100億円以上」とする見直しを公表した。

その背景には、グロース上場企業の成長が不十分という問題意識がある。6月4日に行われた市場区分の見直しに関するフォローアップ会議では、グロース上場企業および上場検討企業を対象としたアンケート結果が報告された。このアンケートから、グロース上場企業の現在地について考察したい。

東証が「時価総額100億円以上」を求めた理由

まずはグロース市場における時価総額についての上場維持基準がどのように変遷してきたのか、その動向をまとめておこう。

2022年4月、東証は現在の市場区分であるプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに市場を再編した。このなかで、グロース市場は「高い成長可能性」が期待される企業向けの市場とされている。

この再編時に、グロース企業に対して高い成長可能性を求める観点から、時価総額に関して「上場10年経過後40億円以上」とする上場維持基準が設定された。ただし、2025年3月以降の基準日までは「上場10年経過後5億円以上」とする経過措置も適用されていた。

一方で、グロース企業に対しては、「グロース」なのに成長していない、という課題が指摘されていた。また、機関投資家の投資対象となるためには、最低でも時価総額100億円以上は必要だとの声もあった。こうした問題意識から、2025年9月にグロース市場における時価総額を「上場5年経過後100億円以上」とする上場維持基準の見直しが発表された。上場からの期間を10年から5年に短縮するとともに、求められる時価総額規模を大きく引き上げる内容であり、グロース企業に対してより高い成長を要請する変更だ。

なお、この基準は2030年3月以降に適用されることとなっている。

グロース市場アンケートの概要

6月4日のフォローアップ会議で公表されたグロース市場アンケートは、グロース企業および上場を検討する未上場企業が現在抱える課題や期待するサポートについて回答したものだ。

回答社数は145社(上場109社、未上場36社)で、時価総額は100億円未満から1000億円超、成長フェーズや業種も幅広い層からの回答が得られている。

「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地
出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P1
アンケート回答企業の属性 出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P1

成長戦略に課題を抱えるグロース企業

グロース企業の抱える課題についての回答結果から見ていくと、多かった順に「成長戦略」(34社、31%)、「リソース不足(人材・資金)」(32社、29%)、「投資家との接点不足・IR活動」(31社、28%)、「流動性の低さ・株価形成」(27社、25%)となった。

「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地
出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P3
グロース企業が抱える課題 出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P3

自由記述の内容は多岐にわたっているため、ここでは全体的な傾向について述べる。

成長戦略における課題から見えてくるのは、グロース企業の最大の関心事が「どう時価総額100億円を超えるか?」「企業価値を高めるためにどうすべきか?」に移っているということだ。東証は2024年にもスタートアップ経営者などに対するヒアリング調査を行っている。そこでは上場企業経営者のマインドとして、「上場企業の経営者」であること自体がステータスになっているという指摘がなされていたが、それと対比してみるとグロース企業の姿勢は大きく変わってきている。

一方で、100億円を超えるための道筋が描けず、もがいている姿も鮮明に読み取れる。既存事業だけによる成長に限界を感じている企業も多い。大胆な成長投資、M&Aによる成長も視野に入れているものの、戦略の方向性を定めること自体に苦労している様子がうかがえる。

そして、こうした成長戦略、海外展開、M&Aを実行するうえでの人材が不足している。また、投資家との関係構築において重要なIR人材やノウハウが不足しているという回答が多数見られた。こうした人材や時価総額規模の不足から、機関投資家にリーチするのが難しいとの声もあった。

これらの課題を背景に、グロース企業は株価が上がらないことに悩んでいる。

「売上や利益は成長しているのに、株価が上がらない」という状況の背景には、投資家に対して成長の加速を期待させるようなビジョンや戦略を十分伝えきれていないことに加え、株式の流動性や機関投資家との接点が不足しているといった課題もある。

未上場企業でも成長戦略が課題

未上場企業が抱える課題も、やはり「成長戦略・IPO戦略」(14社、39%)と「人材不足」(11社、31%)が大きい。

「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地
出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P16
未上場企業が抱える課題 出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P16

自由記述の内容から見えてくるのは、「本当に上場がベストな選択肢なのか?」という悩みだ。特に「IPOかM&Aか?」「赤字のまま上場するのか、黒字化してから上場するのか?」「上場後に時価総額100億円を本当に超えられるのか?」といったところが大きな論点となっている。また、成長戦略の実行や上場準備を担う人材の不足は、グロース企業と共通する深刻な課題となっている。

2024年のヒアリング調査では「IPOで小さく儲けよう」「なんとなく上場を選択する企業が多い」といった声が聞かれていた。今回のアンケートでは、上場後の時価総額100億円到達の可能性や成長戦略の方向性を模索する回答が目立ち、経営者のマインドはそこから大きく変化してきていることが読み取れる。

また、株式のセカンダリーマーケットが未発達のためIPO以外のイグジット(出口戦略)が乏しい、時価総額1000億円程度のレイターステージでの資金調達が難しいといった声もあった。

東証に期待される「伴走者」としての役割

グロース市場における時価総額についての上場維持基準を「上場5年経過後100億円以上」とした東証の意図は、上場企業数の拡大ではなく、グロース企業に対して高い成長と企業価値向上を求める「量より質」への転換にある。グロース企業や上場検討企業の問題意識を踏まえれば、こうした東証のメッセージは企業側にも相当程度浸透しつつあるように見える。

一方で、東証に求められているのは、成長や企業価値向上を支える「伴走者」としての役割ではないだろうか。

例えば、グロース企業の70社(回答社全体の64%)、未上場企業の9社(同25%)が期待するサポートとして「事例やナレッジの共有」を挙げている。

「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地
出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P9
グロース企業が期待するサポート 出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P9
「上場」がゴールではない――東証アンケートから見えるグロース企業の現在地
出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P22
未上場企業が期待するサポート 出典:東京証券取引所上場部「グロース市場アンケートの結果と今後の方針について」(2026年6月4日)P22

特にグロース企業からは、成長ストーリーの構築やIRへの取り組み、M&A戦略などに関して、開示の方法を含めたサポートを求める声が多く寄せられている。

また、他企業とのネットワーキングに対するニーズも高い。

こうした点を踏まえれば、グロース市場の改革は、上場維持基準の見直しから、企業価値向上や成長戦略の実現を支援する段階へと移りつつあるといえそうだ。

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