1999年以来、27年ぶりにフジロックへ出演したHi-STANDARD。日の丸が揺れ、「ニッポンコール」が響くなか、メンバーは反戦と団結を呼びかけた。
フジロックの会場で「オ~、ニッポン」の大合唱
7月24日から26日までの3日間、FUJI ROCK FESTIVAL ’26が新潟県の苗場スキー場で開催された。初日の24日19時、グリーンステージに登場したのが、1991年に結成、90年代にメロコアシーンを牽引したバンドHi-STANDARDだ。
いや、メロコアシーンというよりも、当時の感覚からすると、もはやその勢いは国内のメジャーな音楽シーンと並べても引けを取らないほどの一大ムーブメントだった。事実、1999年にリリースされたアルバム『MAKING THE ROAD』は、インディーズとしては異例の売り上げで、国内で累計65.5万枚、海外と合わせると100万枚を超えるセールスを記録している。
そんなHi-STANDARDが、一時期の活動休止も経て、1999年の出演以来、27年ぶりにフジロックに登場した。そのステージングで最も話題になったのは、メンバーによるMCでの発言だった。言うまでもなく、話題の現場は会場ではなく、X上で。
懐かしのセットリストでもなく、素晴らしい演奏や歌唱でもなく、ましてや、2023年に逝去したドラムの恒岡章に代わってメンバーとなった新ドラムのZAXでもなく、MCでの発言というのが、まさに2026年のSNSを象徴している。
今年のフジロックはPrime VideoやAmazon Music公式Twitchチャンネル、Amazon Musicアプリなどで無料生配信されていたため、筆者も自宅のテレビでHi-STANDARDのステージを見ていた。SNSで物議を醸した発言とあわせて、個人的に気になったのは、観客を巻き込んでのサッカー日本代表の応援コール「オ~、ニッポン、ニッポン」の大合唱。
恥ずかしながら、自分の意思よりも前に、SNSでの反応が内面化されてしまっている筆者は「これは炎上しそうだ……」と思ってしまった。
ステージで紹介されたThe Clashの『Tommy Gun』
そんな「オ~、ニッポン、ニッポン」の合唱を受けて、MCで以下のような発言があった。それぞれ、ベース&ボーカルの難波章浩と、ギター&ボーカルの横山健による発言から引用する。
難波「やばいね、ニッポン」
横山「フジロックでのニッポンコールはやばいね」
難波「今(の演奏)『Tommy Gun』じゃん。(ドラムの)ダダダダ、ダン! Clash」「おれもClashみたいになりたかったのよ」「ほんとは外国の人に生まれたかった。だけど日本に生まれちゃったから」「日本いいよね」「今、大人になって、おじさんになって、日本に生まれてよかったと思ってるの」「前はおれも、パンクは反体制でしょ、みたいな。そういうの影響されて、いろいろ学んできたけど、でも、体制とかそういうことじゃなくて。おれは日本が好き。この土地が好き。人種とか関係なく。自分のいるところ、好きになっていいよね」
まず、今回の一連のステージ上での発言に対して、Xではかなりの数の投稿がありながら、このThe Clashの『Tommy Gun』について言及された投稿が全然なかった。なぜ? ここは絶対に聞き流したらだめでしょう。
『Tommy Gun』の曲中で使われている、スネアを連打する演奏は、ドラミングによってトンプソン・サブマシンガン、通称「トミー・ガン」の銃撃音を表現している。1978年にリリースされたこの『Tommy Gun』という曲は、祖国や金のためなら殺すことも死ぬこともいとわないテロリズムと、そんなテロリストたちのニュースを消費するメディアや大衆を痛烈に批判したThe Clashの代表曲。
歌詞の中の“Standing there in Palestine lighting the fuse”(パレスチナに立つ、導火線に火をつけながら)という一節は、テロリストを英雄視することで、政治的な暴力がまるでエンターテインメントのように享受されていることを皮肉っている。
プロテストソングとして知られる曲を引き合いに出した直後に、政治的対立軸から距離を置く発言をしたため、メッセージの焦点が曖昧に感じられた。一体どうしてしまったのか。
このあともMCでの発言は続く。
「右だ左だとか、言ってる場合じゃないんだよね」
難波「思想とか自由だよ。何考えたっていいし。いろんな発想があっていいわけで」「でもさ、それでいがみ合っててもね。もうちょっとこう、上に行きたいね。横にぶつかってばかりじゃなくて」
横山「間違いないっす」
難波「うーん……よくわかんないよ、俺だって」「横にいない気がするんだよ、敵は」
横山「右だ左だとか、なんか言ってる場合じゃないんだよね」
難波「思想、もちろん、いろんな発想があって、いろんな考え方があって、そうじゃないって思ってもいいけどさ」「認め合うっていうか、いきなりぶつかり合うことないんじゃねえのかな、と思って」「そういうの中和するのが音楽じゃねえの、と思って」
横山「わかったぜ。いろんな思想はあるけど、それは大事だよ。しかし、右だ左だ。ロックンロールの前では無力だぜ………こういうのって案外ウケないんだよね」
難波「本気で言ってるよ。もうちょっと仲良くいこう。今こそユナイトじゃん。いろんなもん超えてさ。共存」「戦争やだよね、もちろん。そんなん当たり前だよね」
横山「右だって左だってやなんだよね、戦争はね」
難波「めちゃくちゃだよね。せめて殺さないで。俺たち民衆はもっとつながっていこう。許容して。音楽で、パンクロックで中和していこう」
と、ここまでが、発言のほぼ全容である。こうして改めて文字にして読んでみると、明らかな差別や戦争を礼賛するようなことは一言も言っていない。
まずは、本題に入る前の「よくわかんないよ、俺だって」というエクスキューズ。戦争に反対するのであれば、誰が、誰を、なぜ、どんなふうに、攻撃しているのか、その攻撃によって、いま世界でどんな惨劇が起きているのか、わかったうえで発言することもできたはず。
そのあとの「右だ左だ言ってる場合じゃない」も同様に。世界を見ても、国内の政権を見ても、日本各地で起きている事象を見ても、右派勢力による排外主義、人種やジェンダー差別、マイノリティへの配慮のなさなど、さまざまな問題は容易に想像することができる。
これだけ世界中の情報が容易に手に入る現代において、「わかんない」はさすがに思慮が足りないと指摘されても仕方ないのではと感じた。
加えて、政治的無関心が、時の権力に都合よく機能してしまうことも我々は知っている。非道な政策や判断に対して、意義を唱えず、反対意見の世論が十分に可視化されなければ、問題のある政策や法案に対する政治的な抑止が弱まることがある。
対照的だったMassive Attackのステージング
また、時に中立の立場を表明することは、加害者への加担にもなりうる。一方的な暴力や不当な攻撃を前に、喧嘩両成敗は通用しない。
とはいえ、どんな事象においても、その原因は複雑でもあるので、「わかんない」と言いたくなる気持ちもわかる。でも、フジロックという限られた出演者だけが立てる大きなステージで、戦争反対という重要なメッセージを発するからには、知っておいてほしかった。
その点、対照的だったのが、最終日の26日にグリーンステージに登場したMassive Attack。彼らはステージのスクリーンに、トランプ大統領やプーチン大統領、実際の爆撃の様子、ガザ地区に住むパレスチナ人の数、2025年の世界の軍事費など、あらゆる具体的な事象を映し出し、米軍や情報機関などにデータ解析・AI関連システムを提供するアメリカ企業・パランティアも名指しで批判した。
Hi-STANDARDに限らず、すべてのミュージシャンにMassive Attackと同レベルの政治的メッセージの発信を期待しているのではない。そうではないが、ここまで具体的に発信してこそ伝わるものがある。実際、Massive Attackのステージングに賛辞を送る意見はXでも多く見受けられた。
「オ~、ニッポン、ニッポン」の合唱についても、根本は同じで、今この日本において、愛国的な言葉が、排外主義的な主張と結びつけられる例もあり、そうした政治勢力への警戒感が高まっている状況では、ナショナリズムそのものに危機感や嫌悪感を抱く人がいることも、知っておくべきだったと思う。
当たり前だが、国を愛する人がイコール差別主義者ではないし、サッカー会場だろうがフジロックの会場だろうが「オ~、ニッポン、ニッポン」と合唱すること自体が排外主義を容認していることの証左にはならない。
あの合唱に参加した観客たちも、良きものとして受け取った人たちも、きっと多くは差別なんかには反対で、強い排外思想も持っていないと思う。それでも今、愛国的な言葉が排外的な主張に利用される例があり、発する人の意図とは別の政治的意味を帯びて受け取られる状況がある。
海外で活動するバンドだからこその愛国心
補足として、Hi-STANDARDというバンドは、歌詞の大半を英語詞で歌ってきた。メンバーが英語に堪能だからとかではなく、自分たちが聴いて影響を受けてきた音楽の多くが英語詞であり、メロコアという音楽ジャンルとの親和性からも、英語で歌うことを選んだ。そのおかげか、アルバムは海外のレーベルからもリリースされ、海外のバンドたちとも多く共演してきた。
世界中のライブハウスで、そこではマイノリティである日本人バンドとして、数々のステージを経験してきたことが、日本という母国への愛情とアイデンティティへの向き合い方につながっている。
メンバーの横山健は、自身のソロプロジェクトである「Ken Yokoyama」や「KEN BAND」のステージでも、たびたび日の丸を背負って演奏している。そのことについて、過去にインタビューでこう応えている。
さかのぼって考えると、Hi-STANDARDで「FROM JAPAN」という肩書きで、世界に出て行った経験があるんですよね。海外に出ると、日本人って本当に舐められるんですよ。日本の女性は、可愛らしいし気が利くし、すごく尊敬されるんです。
でも、日本の男って、世界で最下層ですよ(笑)。ツアー中に人種差別も受けましたし、そういった経験があるから、日本とか日の丸に対してちょっと変わったこだわりがあるのかもしれない。さらにそういうところに、震災(東日本大震災)で感じた郷土愛を重ねてるのかなって。(CINRA 2014.09.18 記事より)
たったひとつインタビューを読むだけでも、彼らが掲げる日の丸に込めた意味や、そこにはきっと排外主義的な意図がないであろうことが想像できないだろうか。
一方で、何度も言うが、日の丸や愛国的な言葉を、排外的な主張と結びつけて用いる団体や個人が存在することも事実だ。その危険性がないと言うつもりはない。危険性は十分ある。
また、この中で語られている「震災で感じた郷土愛」。これもHi-STANDARDの歴史にとっては非常に重要である。彼らは人気絶頂とも言える2000年に、いったん活動を休止した。活動休止に至った経緯については、メンバー自身が後年のインタビューなどで語っているが、ともかく11年の休止期間があった。
活動休止後、東日本大震災を機に11年ぶりに活動再開
その空白を埋め、活動を再開することになったきっかけが、2011年3月に起きた東日本大震災であり、復活ライブの場は、復興プロジェクトとして開催された「AIR JAM 2011」だった。「AIR JAM」とは、Hi-STANDARDが中心となり、1997年に「AIR JAM ’97」として始まった、主に日本のインディーズで活動するHi-STANDARDと親交のあるバンドが集結した野外ライブイベントである。
このイベントをリアルタイムで経験している世代は「AIR JAM世代」と呼ばれるほど、その影響は絶大で、日本の音楽シーンに間違いなく新風を吹き込んだ。
1998年には「AIR JAM ’98」が、2000年には「AIR JAM 2000」が開催され、この「AIR JAM 2000」のステージをもって、Hi-STANDARDは活動休止に入る。そして、Hi-STANDARDの復活であり、「AIR JAM」の復活が、震災からの復興支援を目的として2011年9月に横浜スタジアムで開催された「AIR JAM 2011」だった。
その後もHi-STANDARDのメンバーは、東北の被災地にライブハウスを建設する「東北ライブハウス大作戦」をはじめ、数々の復興プロジェクトに積極的に参加している。横山健がインタビューで語った「郷土愛」や、今回フジロックの会場で難波が発した「ユナイト(団結)」という言葉は、こういった2011年3月を契機に自ら実践し、行動してきた経験からくるものだろう。
パンクというジャンルを広めた功績
さらに、X上でも言及している人が多かった、パンクという音楽ジャンルにおける政治性、あるいは反権力・反体制の思想について。言うまでもなく、政治思想や反体制・反権力を前面に打ち出したパンクバンドは無数にいる。
今回ステージで名前の挙がったThe Clashもその代表格である。ただ一方で、政治性を切り離したパンクバンドも無数にいる。たとえば、パンクのレジェンドとも言えるRamonesは、The Clashなどと比べれば、政治的主張をバンドの中心に据えた曲は多くない。
Hi-STANDARDというバンドは、パンク、またはそのサブジャンルであるハードコアという音楽が内包する激しさ、速さ、重さはそのままに、聴き心地の良いメロディを加え、さらに政治的主張を前面に押し出さなかったことで、幅広い支持を獲得したバンドだ。
この政治性を前面に出さないスタイルは、Hi-STANDARDだけではなく、パンクが勃興した1970年代後半~1980年代を経て、90年代に入ってからは世界中のバンドで見られた現象でもある。なぜそうなったのか、ここでは詳細は省くが、パンクで歌われる政治性や思想性はその時々の時代背景と密接に関係しているので、ぜひ各々で調べてほしい。
では、Hi-STANDARDに演奏面以外でのパンク精神がないかといえば、ある。その象徴が、自らレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を運営し、独立した活動を続けていくDIY精神だ。
1995年のファーストアルバム『GROWING UP』と、1997年のセカンドアルバム『ANGRY FIST』は、メジャーレーベルのトイズファクトリーからリリースされているが、1999年にメジャーから独立。
冒頭で紹介した1999年のサードアルバム『MAKING THE ROAD』は、インディーズレーベルからのリリースで国内65万枚を売り上げたのだ。その功績はいまだ色褪せないし、パンクというジャンルを当時の若者たちに広めた功績は計り知れない。
ハイスタをきっかけにパンクの歴史を掘り下げる
メロディック・ハードコア(メロコア)の前にはハードコアがあり、ハードコアにもUSとUKがあり、USの中にはLAやDCやボストンもあり、その前にはSex PistolsをはじめとしたUKの77パンクがあり、またアメリカにはCBGBを中心としたパンクの歴史がある。Hi-STANDARDをきっかけに、パンクの歴史を掘り下げるようになったファンもきっと大勢いるだろう。
※
筆者は「PIZZA OF DEATH RECORDS」をきっかけにレーベルという概念を知り、SST RecordsやDischord Recordsを掘るようになったし、パンクは本来ローカルなものだからと東京のパンクシーンを知りたくてPOGO 77 RECORDSが主催するライブに通ったりした。
ちなみに、件の発言のあった翌日は、江ノ島のOPPA-LAで開催されていた、大貫憲章(1980年にThe Clashのイギリスツアーに同行取材するなど、日本にパンクを広めた第一人者)が主宰するDJイベント「LONDON NITE」に行っていて、その帰りの電車の中で、編集者からこの原稿のオファーを受けた。
90年代は、まだ残っている……。
付記:今回のことをきっかけに、政治的で反体制的なパンクを浴びたくなった方へ、入門編となりそうな5曲を紹介します。
The Clash 「Tommy Gun」
https://www.youtube.com/watch?v=bFHEuKkTa5k
せっかく本文で取り上げたので、ぜひ曲も聴いてほしい。1978年リリース。歌詞の概要は先述の通り。The Clashはプロテストソングの宝庫。曲と合わせて「Rock Against Racism」を扱ったドキュメンタリー映画『白い暴動』も必見。
NOFX 「The Decline」
https://www.youtube.com/watch?v=qnFVMkTWaBw
Hi-STANDARDの海外版をリリースするレーベル「Fat Wreck Chords」を主宰するFat Mikeのバンド・NOFXが1999年にリリースした18分に及ぶ大作。政治、法律、銃や薬物、大衆心理に至るまで、アメリカ社会の絶望的な状況を描く。一方で「政府を殺せ」と歌う46秒の曲「Murder The Government」も必聴。
Dead Kennedys「Holiday in Cambodia」
https://www.youtube.com/watch?v=v0Uc6ZWDF3c
バンド名からして皮肉しかないカリフォルニアのハードコアバンド・Dead Kennedysによる1980年リリースの曲。共産主義者で独裁者のポル・ポト政権下の苛烈なカンボジアを題材にしながら、恵まれた環境で暮らしつつ社会派を気取るアメリカの若者や知識層を痛烈に風刺した曲。Dead Kennedysは「Nazi Punks Fuck Off」も必聴。
Discharge「Never Again」
https://www.youtube.com/watch?v=oVTI_5P2040
UKのハードコアバンド・Dischargeの1981年リリースの名曲。「二度と戦争するな」のメッセージと激しいDビートは徹頭徹尾ハードコア。反ファシズム作品で知られるドイツのフォトモンタージュ作家、ジョン・ハートフィールドによるモンタージュを用いたジャケットも名作。Dischargeの初期は全曲必聴だが、1986年のアルバム「Grave New World」は演奏から歌唱まで思いっきりメタルになっているので注意が必要。
The Rebel Riot 「One Day」
https://www.youtube.com/watch?v=3ODKj6E-L5E
パンクスは世界中にいる。ローカルにいる。2007年にミャンマーで結成されたThe Rebel Riotはバンドであり共同体。ミュージックビデオから伝わってくるのは現在進行形の命懸けのパンク。軍事政権による圧政で緊迫の度合が増す状況の中、権力に屈さず、当局の目をかいくぐり制作されたアルバムは必携。
取材・文/おぐらりゅうじ

![【Amazon.co.jp限定】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 豪華版Blu-ray(描き下ろしアクリルジオラマスタンド&描き下ろしマイクロファイバーミニハンカチ&メーカー特典:谷田部透湖描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)付) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Y3-bul73L._SL500_.jpg)
![【Amazon.co.jp限定】ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~ *Blu-ray(特典:主要キャストL判ブロマイド10枚セット *Amazon限定絵柄) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Nen9ZSvML._SL500_.jpg)




![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)


