後半は、『ラプラスの箱』とラプラス事件の発想の源や作品に対する思い入れを語っていただいた。
[取材・構成:細川洋平]
『機動戦士ガンダムUC』
公式サイト http://www.gundam-unicorn.net/
■ 『ラプラスの箱』とラプラス事件の発想の源
―『ラプラスの箱』とラプラス事件というのはどういうきっかけで発想されたのでしょうか。
福井晴敏(以下、福井)
『吉原御免状』という有名な小説があるんです。吉原を何かしらの経済特区にする的なことを江戸幕府が約束した密書みたいなものがずっと隠されていて、という話です。俺は舞台でたまたま見たんです。
そこで宇宙世紀の根幹の部分で、書いた人たちは10万年後ぐらいの話かなと思って書いたことだけど、それが実際には50年後に現れて混乱が始まってしまったというアイディアを思いつきました。これはおもしろいなというのが全部の発想のきっかけですね。
―『機動戦士ガンダム』も『Z』も『ZZ』も内包した物語になっているとのは、ファンとしては堪らない気持ちになります。
福井
究極の後出しじゃんけんですよね、間違いなく勝てる後出しじゃんけんです(笑)。材料は揃ってるから。
―『ラプラス・プログラム』の仕組みを思いつかれたときはどのような心境でしたか。
福井
思いついた時は「果たしてモノになるのか」とずっと悩んでいました。
■ フロンタルに実体を持たせることの意味
―小説をアニメ化するに当たってのハードルはありましたか。
福井
まず長さですね。2クールくらいでやれば何とかなると思ったけど、とんでもなかった。とにかく短くするように気を付けました。
もう一点、大きかったのは映像化されることで実体を持つということです。特にフロンタル役は池田秀一さんにお願いしていまする。初期の打ち合わせで監督の古橋(一浩)さんの方から「フロンタルにも、バナージを送り出す側の一人としてキチンと決着を着けたい」と言われたんです。その時点ではフロンタルは滅ぼすために作ったキャラクターだったので保留にさせていただきました。
最後までアニメで作れる目算が立ったところで、改めて考えました。フロンタル次第で作品の終わり方の「気分」も違って来るんですよ。フロンタルを完全に成仏させつつ、作り手の都合には見えず、そしてひと段落全体が着いたという気分にするには、どうしたらいいだろうっていうことを考え抜いて結論に至ったんです。
―『逆襲のシャア』で消息を絶った人が出てくるというシーンは非常に話題になりました。
福井
死んだから出てきた、とは限らない。生き霊かも知れない。
―そこは解釈の幅を残してあるということですね。
福井
そういうことですね。
■ 人間の、人間たるところ
―小説の中に込めた先生の“思い”や“願い”ともあったと思います。それはどういったものだったのでしょうか。アニメでも、その“思い”は伝わりましたか。
福井
俺が考えつく限りのことはやったつもりです。今までガンダムは、UCも含めて、いつか辿り着く完成されたニュータイプの地平を目指して諦めず生き続けよう、といった話だったわけです。今回、バナージは最後に神様みたいになってしまう。完成されたニュータイプになったのかも知れない。
「よかったね、おめでとう」となってもいいのに、全然そういう気分にならないのはなぜか。それを皆さんに考えてもらいたいんです。「なんで行っちゃうんだよ!」って誰もが思う。すごく矛盾しているんです。でも俺はその矛盾こそが人間の人間たるところ、愛すべきところだと思うんです。
―UCを終えた先生にとって「ガンダム」とはどのような存在ですか。
福井
でも、まだやっぱり過去にはなってないですよね。
―進行形ということですね。
福井
そうですね。劇中で散々言った「可能性」というものはあるなと思いました。邦画もアニメもマーケティングと効率主義を推し進めていくと商品にならざるを得なくなる。
そうした中でガンダムは、人間をキチンと描きながら物語っていける、その可能性をすごく感じます。
―上映時の舞台挨拶などでも福井先生は触れておられましたが、2010年に上演された朗読劇『赤の肖像~シャア、そしてフロンタルへ~』に対応する形で、朗読劇『白の肖像』も構想中とのことですが。
福井
うん、どうなんですかね。ははは(笑)。
こんなことをしようかなって、頭の中で考えてるところですね。
―この先、福井先生がまたガンダムに携わられる事を期待してもいいのでしょうか。
福井
楽しみにしていて下さい。「可能性」があるかぎり。
『機動戦士ガンダムUC』
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