金融庁は7月13日、融資をめぐり多数の不正行為があったとして、コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の東日本銀行(本店:東京都中央区日本橋)に銀行法に基づく業務改善命令を出した。経営責任の明確化や内部管理体制の抜本的な強化を求めている。



 これを受け東日本銀行の酒井隆常務が記者会見した。「新規の取引の獲得に人員を強化したことで、内部管理体制の整備が十分でなかった。経営陣に責任がある」と、営業偏重の姿勢に不正の原因があったことを認め、謝罪した。

 東日本銀行の説明によると、全83店舗のうち69店舗で、根拠が不明な手数料を受け取っていた。顧客への説明がなかったり、種別が不明な手数料の徴収が計997件、4億6000万円に達した。地方自治体が手数料の徴収を禁じている公的な融資でも、中小企業から手数料を取っていた。
本部の監査は書類や手続きの外形的な点検にとどまり、支店の営業を監督する本店の融資・営業統括部門も機能しなかった。

 金融庁によると、複数の支店長や副支店長が、営業成績を上げるため、担当エリアに融資先企業の営業所を設立・登記させ、不動産購入資金などの融資を繰り返し実行した。営業所の実体はなかったが、営業所を通じて企業に融資したことにし、営業成績を上積みしていた。
企業実体のない営業所をつくって融資したのは約2年間で総額37億円。7億4500万円の損失(焦げ付き)を生じた。

 金融庁は命令で、東日本銀行を「法令遵守や顧客本位の意識が乏しい企業文化」と批判。
「経営陣が収益確保を優先し、内部管理体制を十分に整備してこなかった」とした。

 取引先に必要以上の額を融資したうえで、一部を同行に定期預金させる「歩積み両建て」と呼ばれる不適切な融資も50店であり、358件の計39億円が不必要な融資だった。50店というのは全支店の6割超だ。

 2016年4月、横浜銀行と経営統合した東日本銀行は、横浜銀行に企業規模で絶対的に劣る。そこで、「フェース・ツー・フェースの営業」を掲げ、攻勢をかけた。支店長、副支店長らによる不正融資は、統合前後の15年から17年にかけて発生しており、新規顧客開拓の高い目標達成へのプレッシャーが不正横行の原因と指摘されている。


●他行が避ける企業へ融資

 17年以降は融資先の経営破綻が相次いだ。事件になったケースを挙げてみよう。

 格安旅行会社の「てるみくらぶ」(東京・渋谷区)は17年3月27日、東京地裁に破産を申し立てた。負債額は151億円。そのうち約100億円は、一般旅行者約3万6000人が前払いした旅行代金だった。春休みの旅行シーズンに現地でホテルがキャンセルとなったり、帰国できなくなる可能性があったりと、社会問題となった。


 債権者集会の資料によると、てるみくらぶは東日本銀行渋谷支店に定期預金・普通預金が1億7000万円あった。これは貸付金と相殺された。社長の山田千賀子容疑者は、偽造した取引先への請求書などを使い銀行から融資金を詐取したとして逮捕されたが、東日本銀行は1億5000万円詐取されていた。

 他行が避ける企業への融資案件も目立つ。マルチ商法の草分けであるジャパンライフ(東京・千代田区)は2回不渡りを出し、17年12月26日銀行取引停止処分となり、18年3月1日、破産手続き開始決定を受けた。負債額は2405億円。
ジャパンライフは、目的を告げずに顧客を連鎖販売取引(マルチ商法)に勧誘していた点が特定商取引法違反に当たるとして、消費者庁から17年12月15日に1年間の業務停止命令を受けていた。ジャパンライフは安倍政権や官界との結びつきが強いことが国会でも取り上げられた、いわくつきの会社。商工中金の協調融資に相乗りするかたちで東日本銀行は多額の与信をしていた。

 超低金利の長期化で、預金を貸出に回して得られる利ざやは減り続けている。東日本銀行は本業の儲けを示す業務純益は12年3月期には153億円あったが、18年3月期には88億円と4割以上も減った。

 その一方で与信関係費用は急増した。
与信関係費用とは、債権回収が不可能になった際の償却額や、貸し倒れに備えて積み増す貸倒引当金繰入額のこと。東日本銀行は18年3月期に26億円を計上。地銀、第二地銀でワースト級といわれた。与信関係費用比率(与信関係費用の貸出金平残に占める割合)は0.15%。横浜銀行のそれは0.03%だから、横浜銀行の5倍。東日本銀行で不良債権が急増していたことがわかる。

 東日本銀行が足を引っ張り、持ち株会社コンコルディアFGの業績は悪化。18年3月期の最終利益は664億円と、その前の期に比べて47.5%の減益となった。

 東日本銀行の業務改善命令を受け、7月13日の東京株式市場でコンコルディアFG株が急落し、一時、500円。今年の安値を更新した。終値は前日比47円(8.5%安)の504円。下落率は日経平均株価採用銘柄で最大だった。

●生え抜き組による旧大蔵省出身者追い落しのクーデター

 コンコルディアFGは6月19日、横浜市西区みなとみらいの横浜ロイヤルパークホテル3階「鳳翔の間」で株主総会を開いた。FG社長が旧大蔵省出身の寺澤辰麿氏から横浜銀行生え抜きの川村健一氏に交代する人事が承認された。横浜銀行ではほぼ70年ぶりとなる「脱大蔵省」のトップ人事となった。

 この人事の舞台裏では、すさまじい暗闘が繰り広げられた。当初、FGの新社長に横浜銀行頭取の川村氏が就き、社長の寺澤氏はFG会長兼取締役会議長に昇格、東日本銀行頭取でFG副社長の石井道遠氏は続投という内容だった。

 寺澤氏は旧大蔵省出身のキャリアで、国税庁長官から横浜銀行に転じた。東日本銀行入りした石井氏も旧大蔵省、国税庁長官を歴任。2人は国税庁長官の先輩後輩の間柄である。銀行のトップは生え抜きにするが、大蔵省コンビが生え抜きをサンドイッチして支配する旧態依然とした人事の構造に、横浜銀行の生え抜き組は猛反発した。

 この人事案に待ったをかけたのが金融庁。森信親長官(当時)は「天下りした大蔵省OBがトップの座をたらい回しにすべきではない」と考えていた。もし、FGの人事案を認めたら「金融庁は大蔵OBと癒着している」との厳しい批判を受けることになる。金融庁の後ろ盾を得て横浜銀行の生え抜きは勢いづく。3月31日付日本経済新聞は、こう報じた。

「3月中旬、事態は急変する。(中略)横浜銀の生え抜き組が反旗を翻し、寺澤氏の会長兼取締役会議長の就任、石井氏の副社長続投に反対したのだ。石井氏が東日本銀会長に就く案まで反対した」

 生え抜き組によるクーデターは成功した。FG社長には横浜銀行の川村頭取、後任の横浜銀行頭取には大矢恭好取締役、東日本銀行の石井頭取の後任には大神田智男代表取締役専務が昇格した。石井氏は最後まで東日本銀行会長就任にこだわった。そこで妥協が図られ、東日本銀行は定款を変更し、会長職を再定義。石井氏の役職に「取締役会長(非業務執行)」と明記し、名目上の会長に棚上げした。旧大蔵省出身の寺澤氏と石井氏は共にFG役職から退いた。FG、傘下の2銀行のトップは全員、生え抜き行員が務めることになった。

 横浜銀行は1949年から、東日本銀行は93年から旧大蔵省出身者が頭取を務め、“大蔵省の天領”と呼ばれてきたが、ようやく芳しくないこの看板を下ろした。業務改善命令を受けた東日本銀行は、6月に頭取から代表権のない非執行の会長に退いた石井氏の経営責任が厳しく問われることになる。「辞任は不可避」(関係者)との見方が大勢で、東日本銀行は石井氏の8月末の退任を10日に正式に発表した。

●スルガ銀行の受け皿となるというウルトラC

 東日本銀行の単独での生き残りが困難と判断されれば、横浜銀行による東日本銀行の強制合併もあり得る。金融庁長官は7月17日付けで森氏から遠藤俊英氏に交代した。森氏の最後の仕事が東日本銀行の業務改善命令だったことになる。

 遠藤新長官の初仕事は、シェアハウス向けの巨額な不正融資が発覚したスルガ銀行(本店静岡県沼津市)に対する行政処分だ。第三者の報告書を踏まえてスルガ銀行に行政処分を下す。

「シェアハウスは氷山の一角。投資用不動産ローンはシェアハウス融資の数倍ある」(スルガ銀行の元幹部)

 遠藤長官は金融再編に本気で踏み込むだろうか。

「コンコルディアFGがスルガ銀を吸収する」

 スルガ銀の不祥事が明らかになって以降、横浜銀の内部から、こうした声が聞えてくる。というのも、もともとコンコルディアFGは横浜銀・東日本銀の2行ではなく、同じ旧大蔵省出身者が頭取を務める第二地銀、東和銀行(本店:群馬県前橋市)も含めた3行合併の予定だった。だが東日本銀が嫌がり、2行になったという経緯がある。

「横浜銀としては、今のままスルガ銀を吸収するのではなく、金融庁主導で身ぎれいにしてもらってきてほしい。スルガ銀は静岡県沼津市に本店があるが、静岡県の顧客は1割ほど。大部分は、首都圏、神奈川県。横浜にとって申し分のない花嫁だ」(地域銀行担当のアナリスト)

 今後、スルガ銀は貸倒引当金不足がハッキリしてくる。金融庁の検査により、大幅な引当を求められる。一部業務停止処分が出る可能性があるし、業績の下方修正は避けられない。赤字転落も視野に入ってくる。

 コンコルディアFGがスルガ銀行の受け皿になるというシナリオが現実味を帯びてきた。
(文=編集部)