高橋 優、1年続いた葛藤と上がった狼煙  アルバム『STARTING OVER』発売/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

高橋 優/10月24日にアルバム『STARTING OVER』をリリース


高橋 優が10月24日に6枚目となるアルバム『STARTING OVER』を発表した。これまでにシングルでリリースした6曲に、さらに書き下ろしの10曲を収めた全16曲入りのアルバムだ。
聴き応えある曲数はもちろんだが、各曲に詰め込まれた音楽的な質量も、高橋らしい視点も、すさまじく冴え渡る。インタビューのオファーも完成前からしていたのだが、取材が実現したのはまだアルバムの制作中の時期。全曲の歌録りが終わった段階で、曲も仮タイトル状態のまま、アルバムを聴かせていただいた。完成後ではなく、まだレコーディング過程のインタビューということで、音楽に向かう様々な思いや覚悟の話が飛び出してきた。
(取材・文/長谷川幸信)

“今でもいいじゃん”という考え方は、万死に値する

――この取材をしている8月中旬現在、まだ『STARTING OVER』を制作している途中です。アルバムとしては約2年ぶりになりますが、作るにあたって、前作を経たからこそ膨らむアイデアや構想もあったと思います。前作『来し方行く末』は、今の自分からはどう映っていますか?

高橋:ほんわかしたアルバムだったかな、うん(笑)。アルバムの最後の曲が「BEAUTIFUL」だったんですけど、その曲から始まったアルバムだったんですよね。自分の思いでアルバム・タイトルは付けたけど、「来し方行く末」という表題曲はなくて。収録曲には、初めて楽曲提供させてもらった「象」のセルフ・カバーが入っていたり、「明日はきっといい日になる」というそこからの自分を代表するような曲が入ったり。だから、あの時点での精一杯だったと思うんです。でも最近、聴き直してみると、すごくピースフルというか、ほんわかしてる。
温かい感じのアルバムで、“優しいな~、この人”みたいな(笑)。ちょうど今から書きたい曲を作り始めようとする時期、『来し方行く末』を聴いたんです。だからちょっとモードが切り替わったんでしょうね。

――昨年から今年に掛けての長い『全国LIVE TOUR 2017-2018「ROAD MOVIE」』が終わった頃に切り替わったんですか?

高橋:ツアーの前から、多分、少しずつ変化は始まっていて。ツアーが終わってからもそれはあって。最近、ようやく抜け出した感じです。
高橋 優、1年続いた葛藤と上がった狼煙  アルバム『STARTING OVER』発売/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

――モードが切り替わっていく過程で、次にやりたいものも具体的に見えていったんですか?

高橋:『STARTING OVER』でやりたいと思ったのは、自分の今あるものを出し尽くすこと。空っぽになるぐらい、開けられるだけの引き出しを開けて、全部を音にするみたいなことをやりたいなって。

――それは自信があるという力強さにも受け止められるんですが?

高橋:自信はないっすけどね、そんなに(笑)。というか、今それぐらいできなきゃ、次はないと思ってやってましたね。最初、シングルを出して、その後にアルバムをリリースするという提案をスタッフから聞いたとき、その想いがパンッと自分の中から出てきて。シングルが6曲入る2年間のベスト・アルバム的なニュアンスで、あと新曲4~5曲入れて、11曲ぐらいの作品でも、アルバムとしては成立するんじゃないかと。
そういう提案をされたんです。そこで“はい”と僕が言っていたら、高橋 優はそこで終了していたと思うんです、なんとなく。歌っているかもしれないけど、なんか、分かる人には分かるズレが生じていくと思うんですよね。そういう大事なところで安易に“はい”と言えちゃう感じになっちゃうと。それでスタッフと話をして、16曲ぐらい入ったアルバムにしたいと。その時点では曲は全然なかったんですけど、自分で16曲入りと言って、それが自分でできなければ、多分、“高橋 優=終了”みたいな。それぐらいのヤツだった、と俺も思うはずなんです。“まあまあ、いいじゃん。頑張ったんだからさ”とかって、自分の中でそれをやっちゃダメだと思う。自分の最終ジャッジだけは厳しくやっていかないと、クリエイターではなくなっていく気がする。だからシングル曲がオマケに見えるぐらいの……、言い方に語弊ありますけど(笑)。

高橋 優、1年続いた葛藤と上がった狼煙  アルバム『STARTING OVER』発売/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

――要するに、シングル曲がアルバムの代表曲になってはダメだと?

高橋:そうですね。
そうじゃない曲達が、なんだよこれは!みたいなね。“高橋 優って、なんだこれ!”って感じになりたいし、聴いてくれていた人達には“やっぱ高橋 優は、なんかウケるね”っていうか(笑)。そんな感じになりたいっていう。

――いつも以上に自分を追い込んでいったんですか?

高橋:結果的にそうなりましたね。メチャクチャ追い込まれましたもん、この1カ月ぐらい(苦笑)。曲がないのに16曲入りにしたいってアーティストが言い張ってたから、周りのスタッフ達は大変だったと思います(笑)。でも僕は全然焦ってなくて。追い込まれている実感はありましたけど、それぐらいのことはやっていかないと、“NEXT STAGE”とか“STARTING OVER”とか、名ばかりのものだよねって。カッコつけでしかない。カッコつけてそんなことやりたいわけじゃなくて、本当にその言葉のことを思って、次への一歩を踏み出していく。それをスタッフにも感じ取ってほしかったし。“今でもいいじゃん”という考え方は、万死に値する。
だから自分を追い込んで……、いや、追い込むというカッコいい感じでもなかった。博打?(笑) 賭けみたいな(笑)。

――自分に対して、オマエはできるのか?と。

高橋:できなきゃ、はい、それまでよ、みたいな。
高橋 優、1年続いた葛藤と上がった狼煙  アルバム『STARTING OVER』発売/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

――『STARTING OVER』というアルバム・タイトルはかなり早い段階から決めていたんですか?

高橋:その言葉は2ヵ月以上前からありました。

――とっくにスタートを切っている、という自分の心理ですか?

高橋:いや、このアルバムでそれをやりたかった。

――ああ、本当にモードが以前とは違って、フレッシュな感覚を抱きながら音楽と向き合っていたんですか?

高橋:フレッシュという感じでもないんですけど、ちょっと変わったんですよね、この1年ぐらいで。曲と曲の間でしゃべるMCの感じとか、お客さんと一緒にやろうとしていることの意志を、ちゃんと明確にしていきたいって思いもあったし。ツアーの後半ぐらいからその意識は高まっていって、でもその思いで書いた曲はそのときにはまだなかったし。だから今までの曲にその思いを込めて歌っていったんです。自分の中で変化してきているものを、しっかり次に形にして、もう後戻りできないようにしていかないと、単なる気のせいで終わっちゃうというか。多分、いいふうに変化していってるはずだから。
それをもっと前に押し出していきたいっていう。その結果、博打になっていったという(笑)。

――【高橋 優】インタビュー2へ
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