「アニメ版がダメダメだったガンダムのコミカライズやノベライズは、むしろ傑作になる」というガンダムの法則が、一部のガンダムファンの間でまことしやかにささやかれているとかいないとか。

 そんな与太話はとりあえず横に置いておいて、11月末に子ども向け漫画雑誌「コロコロコミック」(小学館)で連載されていたアニメ『機動戦士ガンダムAGE』第3~4部コミカライズ版の単行本『機動戦士ガンダムAGE クライマックスヒーロー』(漫画:鷹岬諒)が発売されたので、さっそくレビューしてみよう。

 アニメ版『ガンダムAGE』は、あれこれと伏線を張った端から、それをほとんど生かすことなくただ消化していくばかり……というずいぶんとお粗末な内容となっていたが、コミカライズ版は子ども向け月刊誌での連載という縛りから、余分な伏線や登場人物はばっさりとカット。

 アニメ版ではぽっと出のボスキャラが大暴れして、取ってつけたような親子三世代の総力戦が描かれた最終決戦も、こちらはシンプルに第3~4部の主人公・キオと第2部から登場したライバルキャラ・ゼハートの戦いへと改変。第2部の主人公を務めたキオの父・アセムの手助けを得たキオが、これまで戦争に巻き込まれてきた人々の意志を継いで勝利。そして、復讐に燃える第1部の主人公にして祖父のフリットを説得し、戦争を終結させるというアニメ版では今一つ弾け切ることのできなかったキオの大活躍が描かれる。

 つまり、原作であるアニメ版の持っている「いい部分」を抽出し、余分な要素を排除して再構築しているのだ。いろんな意味でモヤッとした感が拭えなかったアニメ版にはない爽やかなラストを見ると、「むしろこちらが原作?」とでも言いたくなるほどだ。

 ところで、「コロコロコミック」連載の『ガンダムAGE』コミカライズといえば、アニメ放送スタートと同時に連載をスタートし、『クライマックスヒーロー』と入れ替わりで完結を迎えた『機動戦士ガンダムAGE トレジャースター』(漫画:吉田正紀)も忘れてはならない。

 宇宙に強い憧れを持つ少年・ダイキが宇宙キャラバン「トレジャースター号」に、父親の作ったモビルスーツ「ガンダムAGE-1」とともに乗り込み、伝説の宝物「大いなる翼」を探し求める。という王道の冒険ものといった趣の本作。子ども向け漫画雑誌らしい、ドタバタギャグと理屈抜きのアクション満載ながら、ダイナミックなSF要素を盛り込んだ壮大なストーリー展開。「なぜダイキの父親がガンダムAGE-1を作ることができたのか(『ガンダムAGE』の世界では、ガンダムは世界に1機のみである)」、「大いなる翼とはなんなのか」など、一見アニメ本編とリンクしてなさそうで丁寧に練られた設定は、読みごたえ十分だ。

 また、キャラクターやメカも個性豊かだ。

これでもかと弾薬を積み込んだ、大阪弁のパイロット・コテツの愛機・コテツジェノアスや、ひたすら高機動性を追求した、猫耳美少女パイロット・ルーガの愛機・ルーガエグゼスなど、キャラとぴったりマッチしたメカが大活躍。往年のスーパーロボットものの要素と、「ガンダム」ファンも納得のミリタリ設定が共存したオリジナルの量産型モビルスーツの数々は、ロボフェチ読者の胸を躍らせることだろう。さらにダイキの駆るガンダムAGE-1も、仲間のピンチを救うべくフェニックスウェアという『トレジャースター』オリジナルの進化を果たすといった具合に、外伝のコミカライズと一言で言ってしまうにはもったいないくらい、多くのアイデアが詰め込まれているのだ。

 そんな本作のクライマックスは、ガンダム史上類を見ない大スケールなストーリーが展開する。アニメ版では、時系列に沿ったストーリーテリングで世代間のドラマを描いた『ガンダムAGE』だが、本作はそれとは全く異なった切り口で描いてみせる。誰もが予想だにしなかった形で、人が積み重ねてきた歴史の重みを感じることとなったダイキが迎えるラストシーンは必見。
少年漫画らしい熱血要素もありつつ、骨太なSFドラマを描き切った最終話を読み終えると、「こういう内容なら、子ども向けのガンダムもありかも……」
と誰もが思うこと必至だ。

 そういえば『ガンダムAGE』は、ファン年齢が上がりすぎた『ガンダム』というコンテンツを、子どもでも楽しめるようにする――。というコンセプトの下に制作されたという話を聞いたことがあるが、本編のアニメ版では途中からすっかりその目的が忘れられていたように感じられる。そういう意味で初志を貫徹した『トレジャースター』こそが、本来作られるべき『ガンダムAGE』だったのではないだろうか。

 また、今回のレビューでは取り上げなかったものの、小太刀右京によるノベライズも忘れてはならないだろう。アニメではフォローされなかったキャラクター描写や、「それってどうなの?」と誰もがツッコミたくなるようなシーン、なかったことになった設定などを、丁寧に補完・改変し、アニメ版のダメ要素をことごとく良アレンジ。

「こっち(ノベライズ版)をアニメ化しろよ!」というガンダムファンの声もあるとかないとか。

 というわけで、今もなおプラモデルなどの商品展開は続くものの、関連書籍のリリースも一段落ついて、とりあえず終わりを迎えた感のある『ガンダムAGE』。

「正直言って、『ガンダムAGE』の盛り上がらなさは異常でした。放送終了と同時に、なんとなく業界全体に『ガンダム』オワコン化の雰囲気をもたらしてしまったほどです」

 とある出版関係者はこう語るが、アニメ版だけ見て『ガンダムAGE』は語っちゃいけない! 千に一つ、万に一つの確率でも『機動戦士ガンダムAGE オリジン』とかなんとか言ってリメイクの機会があれば、これら原作の持ち味を最大限に生かして再構築したコミカライズ&外伝作品の要素を取り込んだ、真の『ガンダムAGE』が見れるはず! そんなドリームを見るくらい許してくださいよ! カテジナさん!
(文=龍崎珠樹)

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